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第七十五話 ついに姫さまにバレたようです

 その日の夜、僕はサクラの部屋に訪れて頭を下げた。



「サクラ、ごめん。僕が余計なことをして、ミラーが宿処に来る切っ掛けを作った」



 ニコラス ミラーはひとまず拘束されて行政府に連れて行かれたけど、ルテリアに目立った損害は与えてなく、話を聞かれるだけで直ぐに解放されるそうだ。

 そしてあの様子だと、サクラ目当てでまた宿処に来る。


 友好を結んで将来の憂いを封じる目的もあったけど、あれではサクラを一方的に利用したようなもんだ。男として人としてはダメな行為だった。


 ピンク色が姿をくらましたことで焦ってしまったか……。



「私は大丈夫ですよ。カイトさんの行動はいつだって皆さんを守るためです。それに、あの方の前向きな姿勢は、カイトさんでも予想外だったんですよね」


「う……気が付いていたのか」

「『あっ』と言う顔をしていましたから、ふふっ」

「うん、サクラには頭が上がらないな……」



 サクラの部屋には始めて入ったけど、驚いたことに部屋の三分のニが座敷になっていた。家具類も、飾り気のない日本古来の調度品を模したものばかり。

 謝罪に来たにも関わらずい草の香りで気持ちは落ち着き、僕と彼女は畳の縁に腰かけて緑茶を啜りながら話をしている。


 この部屋は、サクラの存在とともに懐かしさを感じるんだ。



「あの……カイトさんは、私のことをどうお思いなのでしょうか?」


「え……と、突然どうしたんだ……!?」



 唐突な質問に、僕はあたふたと挙動不審になってしまった。

 サクラは居住まいを正し、どこか憂いを帯びた真剣な眼差しで僕を見ている。

 だけどそうか……ミラーの包み隠さない率直な思いには当てられるよな。


 サクラのことは最も頼りにしている。この世界で生活する上で、かけがえのない存在になっているから、彼女なくして今の僕の平穏はない。


 この世界で、来訪者は一夫多妻、一妻多夫が認められている。

 “神脈炉”を残すため……それでも僕には一途に思い続けたい女性ひとがいて、サクラにも勿論好意はあるけど、それはノウェムと同じく家族の親愛なんだ。


 本当に僕は、この手のことが苦手で最悪に不器用だな。



「うん、サクラのことは好きだよ。家族としての親愛、大切に思っている」



 だから、正直に答えた。

 これ以上に飾ることも、誤魔化すこともなく、バカ正直に。


 リシィに『カイトのバカ!』と言われるわけだ……。



「あっ……ありがとうございます! 嬉しいです!」



 あれ、予想外にサクラからはとても嬉しそうな反応が返って来た。

 ひょっとして、彼女は自分のことを僕が思う以上に低く見ているのでは……。


 サクラは本当に嬉しそうに笑い、尻尾を大きく振る様はどう見ても犬だ。


 だからと言って、当然ペットであるはずもない。



「サクラ」

「はい?」


「サクラは召使いじゃないんだ。何を目指しているのかはわからないけど、僕にとってはかけがえのない家族なんだから、僕とサクラは対等だよ。王族のリシィだって、きっと友人だと思って接しているはずだ」


「え……は、はい、そうですか……そうですよね。私は、どうも思い違いをしていたようです……。反省しないといけませんね。ふふっ」



 と言って、少し考え込んだ割にはまだ嬉しそうだ。

 やはり、メイド魂かおもてなしの心が変な方向に振り切っていたのか、今はどこか肩の力が抜けたような笑顔になっている。


 出来れば、サクラにはもっとわがままを言って欲しいと願う。



「ふふふっ、カイトさん、本当にありがとうございます」



 サクラは僕に柔らかく微笑んだ。




 ◇◇◇




 あれから、カイトの前から逃げた私は自室に籠もっていた。

 枕に顔を埋め、ベッドの周りはテュルケとルコに取り囲まれている。



「うふふ~、姫さまは本当にカイトさんのことが大切ですですぅ~♪」


「やめてーっ! 言わないでーっ!」



 ルコがあんなことを言うから、思わずカイトを見てしまって……うぅーっ!

 朝から夜になってもまだこの状態だなんて、カイトにどう向き合えば良いのっ!


 あ、あ、あい、『愛の告白』だなんてっ……うぅぅーーーーっ!



「あは、リシィちゃんは本当にカイくんのこと好きだよね~」

「本当にやめてーっ! 違うのっ、違わないけどっ!」

「うふふ~、認めましたですぅ~」

「あは~、認めたね~」


「そっ、それよりも何故ここにルコがいるの!」

「今日は泊まってくよ~!」



 ど、どうしてこうなったの……これでは一晩中からかわれてしまうわ……。


 そもそもルコは何故、私がカイトのことをす、す、す……大切に思っていると気が付いているのっ!? まだ彼女とは会って間もないのにっ!



「だって見てればわかるもん」

「読心能力!?」


「違うよ~、リシィちゃんわかり易いもん。目の色も直ぐ変わるし」


「あっ!?」

「え?」



 目の色……ルコは何を言っているの……?

 テュルケの態度もおかしいわ、動揺して私とルコを交互に見ている。


 確か、カイトもいる時に同じようなことがあったわね……。



「ルコ、目の色が変わるとは、どう言うことかしら?」」



 私はベッドから体を起こしてルコに質問した。


 彼女はテュルケを見て、テュルケは慌てて首を振っているけれど、私と目が合うと渋々と頷いたわ。



「んとね、リシィちゃんの瞳の色は多分感情で色が変わるんだ~」


「あぅ……姫さま、ごめんなさいです。ルコさんの言う通り、姫さまは感情で瞳の色が変わりますです……。今まで黙ってるように言われてましたぁ……」


「……え?」



 そう言うと、テュルケは鏡を見せてくれる。


 これは、何……瞳の色が橙と黄で、急速に青色に変化していく……。

 ルコを見ると困ったような表情で頷いて、テュルケは申し訳なさそう……。


 瞳の色……感情……既に真っ青になっている私の瞳……。

 これは、私の知る自分の瞳の色ではない……。



「え……私は、感情が瞳の色に表れているの……?」



 私は改めて、彼女たちの言ったことを確認するように問い直した。



「です……姫さまの龍血が、感情で色を変えて光るみたいですぅ……」

「そ、そんな……それなら、私は今まで……」

「あは、感情はダダ漏れだね~」



 嘘、いつから……?

 龍血と言うことなら最初……から……?


 あっ、カイトがいつも私の目を真っ直ぐに見詰めるのは……。



「カ、カカカイトも……?」

「です、知ってますです……」



 私はベッドに突っ伏した。



「姫さまーっ!?」

「だ、大丈夫よ。少し力が抜けただけだわ」



 ううぅ……だとしたら、色々とカイトに筒抜けだったことになるわ。

 私はこの行き場のない気持ちを、枕を抱き締めることでどうにか抑え込む。


 自分のことなのに、気が付かなかった私が間抜けなのかしら……そう言えば、鏡もテュルケが持って来るだけで、自室は勿論のこと館内にもなかったわね……。


 これから、カイトにどんな顔をして会えば良いの……。



「あのあの、姫さま、本当にごめんなさいです……。嫌いにならないでください……」


「え? テュルケ、大丈夫よ。嫌いになんかならないわ。誰に口止めされていたのかはわかるもの、貴女のせいではないわ」


「ううぅ、姫さまぁ……」



 私は体を起こし、泣き始めてしまったテュルケを抱き寄せる。

 彼女はテレイーズの意向には逆らえないもの、断じて悪くはないわ。



「そっかあ、リシィちゃん今まで知らなかったんだ。突然ごめんね」


「良いのよ、むしろルコには感謝するわ。教えてくれてありがとう」


「あは、じゃあカイくんに思いを伝えに行こー!」

「何故そうなるのっ!?」



 それとこれとは話が別よ。よ、余計に顔を合わせ難いものっ!

 感情が瞳の色に表れてしまうのなら、も、もう目を瞑っているくらいしか……。


 うぅ……カイトは変なところだけ察しが良いから、テュルケと顔を見合わせていたのはこれが理由なのね。こっそり教えてくれても……カイトのバカァッ!!


 ……


 …………


 ………………


 ……あ、これ知っているわ、日本の言葉で『知らぬがほとけ』よね。



「……『ほとけ』と言うのは何かしら?」

「んー? ほと……ホットケーキ? 甘くて美味しいよ」


「そう……甘い物を知らないのは、確かに余計な悩みを抱えなくて済むわね……」



 そう言う意味なら、本当に『知らぬがホットケーキ』ね……。


 今日は眠れそうにないわ。

 どんなに足掻こうと、明日にはまたカイトと顔を合わせることになるんだから、覚悟を決めていつも以上に気をつけないと……。


 それとも……もう一層のこと、素直になるべきかしら……。

*当作はバトルを主体とした物語です。ドロドロの恋愛三角雨模様や、胸キュンハートフルラブストーリーには間違ってもなりません。

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