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第六十七話 情報共有 ニンジャナンデ!?

 リシィと街に出かけた日から一週間が経過した。


 この間に“信奉者”の情報を皆と共有し、行政府とギルドにも報告を上げ、後は“下層探索許可証”が発行されるのを待っている。

 僕は専らベルク師匠から槍の扱いを学ぶのと、後は図書館通いで警戒しながらも安定した日々だ。


 “忌人”の情報に関して、正体の推測が出来るものは何もない。

 【重積層迷宮都市ラトレイア】の起源から存在するらしいことと、迷宮の下層にも同様のものが廃棄されているとのことが、唯一のそれらしい情報だろうか。


 忌人の存在が偽神の正体を推測する足がかりになればと思ったけど、それがわかっていたらこの迷宮も詳細不明ばかりじゃないな……。


 結局は迷宮を進むしかないけど、それだって容易くはないんだ……。



「また難しい顔をして、図書館での収穫はそんなに思わしくないの?」



 リシィが横を歩きながら首を傾げた。

 今は皆と大通りを並んで歩いているんだ。



「ああ、忌人の情報は全くだね。ほぼ完全にないと言って良い」

「私も行政府の記録保管庫を当たってみましたが、こちらもダメですね」



 サクラも僕の斜め後ろから反応を返した。


 行政府か……下手をすると機密文書の場合もあるから、権限を持つ人でないと開示されない可能性もある。今のところは手詰まりだ。



「まあ仕方ない。僕でわかる謎があるなら、既に解き明かされているよ。ここで悩んでいても答えは出ないから、今は行動あるのみだ」


「ええ、そうね」



 “三位一体の偽神”の手がかりくらいは欲しいところだけど……。



「ところで、ノウェムは光翼を出していて負担はないのか?」


「この程度ならば問題ない。空間干渉の規模が大きくなければ、手脚を動かすのと同じことだからな。我を案じてくれて嬉しいぞ、主様。くふふふふ」



 案じていると言うよりも、目立ち過ぎて大丈夫か……だ。


 僕たちは今、下層探索許可証を受け取るため探索者ギルドに向かっているところで、ノウェムは光翼を展開して僕の背にぶら下がっているんだ。

 だから道行く人の顔は皆一様に驚愕を形作り、それも“龍血の姫”以上に畏れ敬われているようで、中には地にひれ伏している人までいる始末。



「ノウェム、歩こう?」



 光翼を出さない分には普通の女の子に見えるし。



「むぅ、腰に纏わりつくと歩き難いと言うではないか!」

「ほら、信奉者のこともあるし、あまり目立ちたくはないんだ」

「うむむぅ……わかった。その代わりに手を繋いでもらうぞ」

「ま、まあそれなら……」

「カイト……」



 僕とノウェムのやり取りを見て、リシィがジト目になっていた。



「ほわっ!? リッ、リシィも繋ぐ!?」

「知らないっ! ふんっ!」



 あわわ……こんな時はどうすれば良いんだ……。




 ―――




 探索者ギルドに到着した後、僕たちは応接室に案内された。

 下層探索許可証の受け取りの他に、僕に会いたい人がいるとのことで、今日は午前中からここまで来たんだ。


 ソファに座ってしばらく手持ち無沙汰に待っていると、部屋の扉が静かに開いて生真面目そうな印象の男性が入って来た。

 歳は三十代ほどで黒眼に眼鏡、黒髪は短い。どこか鋭利な刃物を思わせる雰囲気を漂わせ、皺もなく着こなした黒のスーツは地球のものと変わらない。


 ……彼が纏う馴染んだ雰囲気は、間違いなく日本人だ。



「私の名前はソウヤ ツルギと申します。お目にかかれて光栄に存じます、エルトゥナンとテレイーズの両姫君。そして、久坂 灰人くん」



 部屋に入って来た男が、まずリシィとノウェムに恭しく頭を下げ、次に僕を見た。

 そうか、対外的な序列はあくまでセーラム高等光翼種が一番なのか……。


 この人が行政府に勤めている日本人……。



「私の名はリシィティアレルナ ルン テレイーズ。畏まらなくても良いわ」


「主様と同じ国の者か。我は最早エルトゥナンではない、ただのノウェムだ。主様の妻と言うことだけ覚えておけば良い」


「く、久坂 灰人です。よろしくお願いします」



 皆は思い思いに挨拶するけど、しっかりと主張する辺りはノウェムらしい。

 立場上は従者のテュルケと、知り合いだろうサクラは会釈だけだ。



「やっほい、ひっさしぶり~!」

「あっ、アケノさん……」

「なによ~、嫌そうな顔ね~」

「い、いえ、いつも通りですね。はは」



 そうか、アケノさんも一緒か……。後から入って来た彼女は、あらゆる緊張感をぶち壊してくれた。流石としか言いようがない。



「皆さま、ご機嫌よう。私も同席させていただきますわ」



 そして、最後にエリッセさんが入って来て扉は閉められた。





「まずは、ルテリア行政府としてお礼を申し上げます。砲狼カノンレイジ阻塞気球スプリガンネスト、そして正騎士ロードナイトの討滅について、私だけでなく、行政府全ての職員はあなた方に感謝を表しています。誠にありがとうございました」



 対面に座ったツルギさんが頭を下げたと同時に、背後に立つエリッセさんとアケノさんも頭を下げた。

 対するこちらは、僕を真ん中に両隣はお姫さま二人、背後にはメイドさん二人、一介の騎士が真ん中なのはおかしくないだろうか……。



「うむ、もっと主様を褒め讃えるが良い。妻として鼻が高いわ、くふふ」



 夫になった覚えはないんだけど、ノウェムは外堀から埋めようとしているのか、しっかりと主張してくる。リシィは呆れて少し青みがかった瞳色だ。



「それで、今日は何かご用かしら?」


「第一の理由は同胞に一度会いに伺ったことですが、機会を急いだのは、あなた方とは連携を取るようにとサークラウス卿からの指示もありました」


「えーと、サークラウス卿と言う方は?」


「エスクラディエ騎士皇国代表ルテリア総議官、シュティーラ サークロウス卿です。クサカくん、君は彼女に目をつけられているため、敵対だけは避けるようにとここで忠告しておきます」



 な、なんだって……!?


 総議官と言うと、この迷宮探索拠点都市ルテリアの行政を司る者の中でも一番上の存在だ……。

 色々やらかしているから目立っていた自覚はあるけど……ひょっとして、偽神の信奉者の同類と思われている可能性もあるのか……。



「勿論、敵対の意思はありません、驚いて逆に萎縮してしまいます」


「君はそれだけのことをしているのです。『軍師』、クサカくん」



 勘弁して欲しい……行政府公認にされたら堪ったもんじゃない。

 両隣りではリシィがどこか得意気で、ノウェムがドヤ顔で頷いている。



「わかりました。僕としても、行政府と繋がりが出来るのは何かの時にありがたいです。具体的に、連携を取るとはどうすれば良いですか?」



 ツルギさんが右手で眼鏡を持ち上げ、視線を鋭くした。



「今のところ、具体案などはありません。クサカくんの言う“三位一体の偽神”の存在に対策を講じられないまでも、我々行政府も警戒を始めたと伝えに来ました」


「それは助かります。今の懸念は偽神よりも“信奉者”……僕と似た存在(・・・・)のことですが、現実的な脅威になるのは彼らだと思っています。そちらだけでも、行政府でどうにか出来ませんか?」



 個人でどうにも出来ないのなら大きな力を借りるまで。

 まずはこの狂信者をどうにかしないことには、明らかな障害となるだろう。

 せめて、軟禁くらいはしてもらえないかと願望に近い申し出だ。



「その件については把握していますが、力尽くでどうにかしようとした場合、彼ら……いえ、彼女の固有能力から殲滅戦になることは確か、行政府も今はまだ様子見しか出来ないのが実情です」


「そこまでですか……彼らの動向なり、能力の詳細はわかりますか?」

「アケノ、例の資料をクサカくんに」


「はいは~い! カイトくんに、お姉さんからのプレゼント~!」



 アケノさんは、クルクルバサーと身を躍らせて書類の束を渡してきた。

 普通に出来ないんだろうか、ツルギさんは慣れているようで全く気にしていない。



「クサカくんが商業区でアレクシア チェインバースと遭遇してから、間を置かずに彼らは消息を断ちました。少なくとも、一人が迷宮に入ったのは確認されています」


「それは、何と言うか……最悪ですね……」



 要するに、行政府の目から逃れる行為はデメリットにしかならないから、それはこれから(・・・・)何かします(・・・・・)と宣言しているに等しい。


 あのピンク色なら街中でテロでも起こしそうだけど、恐らくはそう遠くない内に僕の前に姿を現すだろう。捕まえるならその時が最後の機会か。



「完全ではないですが、調査と証言で確認されている能力の詳細はその中に」

「ありがとうございます。助かります」


「それと、しばらくはアケノを護衛に配置します。何かあれば、名前を呼べば直ぐに姿を現すでしょう。連絡も彼女に」


「えっ、何ですかそれ。忍者じゃないんですから」


「……なるほど、その察しの良さが君の偉業の核となっているのですね」

「……はっ!?」



 アケノさんを見る。



「てへぺろっ☆」



 ……え、忍者? 何で? まさかそんなことが……あるのか?



「では、今だ休暇も取れない状況のため、私はこれで失礼いたします」


「はっ、はい、ありがとうございました!」


「両姫君に拝謁賜われたこと、心よりお礼申し上げます」


「ええ、こちらこそ礼を言うわ、ありがとう」

「うむ、情報を感謝するぞ」


「それでは」



 ツルギさんは堂に入った様で皆に会釈をし、応接室のドアノブに手をかけたところで、不意に何かを思い出したように日本語で告げた。



「そうだ、クサカくん。同胞を悪くは言いたくないですが、“五十蔵 瑠子”には警戒するように、私は彼女こそがイレギュラーだと思っています」


「え……?」

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