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第五十一話 対正騎士討滅戦

 正騎士ロードナイトが白銀の大剣を生存者に振り下ろす。

 証言通りその大剣は十メートルを優に超え、斬られずとも軌道に重なれば、人如きでは粉微塵とされてしまうだろう。



「させん!」



 まずは先陣を切ったベルク師匠が、横薙ぎに振るわれた大剣の下に体を滑り込ませ、紫電を纏った盾で受け流す。



 ――ゴオオォォォォォォォォンッ!!



 あれは逸らすどころじゃない……大剣は盾の表面で加速して勢いを増し、その結果大振りになってビルに突き刺さってしまった。

 “カウンターカタパルト”――ベルク師匠は、自分でも何をしているのか良くわかっていないようだけど、天性の武人の才がなせる技だ。


 そしてテュルケが、行動を封じられた正騎士の腕を伝って頭部まで駆ける。

 出来れば目を破壊、出来なくとも肩の上に居座って視界を遮り、仲間の攻撃の隙を作るようにと伝えた。


 無理はしなくて良い、僕たちの作戦はいつだって『いのちをだいじに』なんだ。



「はああああああっ!!」



 サクラがその隙を突いて、鉄鎚で正騎士の右膝を打つ。

 強烈な打撃音とともに爆炎が火の粉を散らし、衝撃が砂を巻き上げる。


 最後はアディーテ、炎と砂塵に紛れて同じ右膝をつるはしで狙う。

 廃ビルの谷間に木霊する硬質な音、彼女の“穿孔”は果たして有効か――。


 僕たちの襲撃に虚を突かれた聖騎士は、大剣を力任せにビルから引き抜き、足元に群がった仲間たちを狙う。

 だけど、初手の攻防はまずこちらの優勢だ。大剣が薙ぎ払われた瞬間には、もう誰もその場にいない。



 ――やはり、証言は間違っていなかった。


 【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】の攻撃も、“穿孔”も有効打にはなっていない。

 装甲の表面を少し焦がしただけで、穴が空くこともなく、よろめくことすらなく、正騎士は僕たちを見下ろしている。


 厄介だな……生体組織の装甲侵蝕部位も見当たらない。サクラとアディーテでダメなら、やはりリシィにどうにか神器を使ってもらうしか……。



「助けに来てくれたノン! 貴方たちだけなノン?」



 どう見ても、人間大のうさぎにしか見えない生存者が声をかけてきた。


 今はまだ、いくつかの手段を用いて正騎士の耐久性を調べているところだ。

 リシィも攻撃を開始し、光矢で頭部と右膝を狙い撃ち、正騎士の挙動が変わったら攻撃を止める。

 今のところは、眼前のベルク師匠に攻撃が集中しているようだけど、果たしてどうなるか。


 あの大剣を凌ぐにも限度はある、焦らずに見極めなければ。



「僕たちは先行して救援に来ました。本隊もこちらに向かって移動中、“樹塔の英雄”のパーティも来ているので、安心してください」


「樹塔の英雄!? ティたち、助かったノン!?」


「まだです。他に生存者は?」

「建物の中に二十三人いるノン。ずっとここに足止めされてて、食べ物もなくなって、限界だったノン!」



 生存者は、ふわふわした茶色の毛が何とも愛らしい兎獣種の女性だ。

 白目の殆どない目から涙を滲ませ、身振り手振りで限界だったと訴えている。



「建物の中は安全なんですか?」

「あいつ、建物は攻撃しないノン! ここまで建物伝いに逃げて来たけど、怪我人だらけでもう動けなかったノン!」



 どう言うことだ……“神代の記録”であることと何か関係が……?

 何にしても、いざと言う時の退避壕として使えるか……。



「わかりました。まずは僕たちに協力してください。怪我人を逃がす隙を作るためにも、正騎士の機動力を削ぎます」

「わ、わかったノン! 何をすれば良いノン!」


「仲間が右膝を狙っています。【神代遺物】か、それに比類する固有能力を持っている人は参加して、後は撹乱に全力を尽くしてください」

「わかったノン! 仲間にも伝えるノン!」


「僕の名前はカイト。貴女は?」

「ティ チリカ。『ティ』でも『ティチリカ』でも良いノン!」



 うさぎの女性ティチリカは、正騎士の頭上を越えるほどの跳躍で、一時後ろに退避していた他の生存者のところに戻っていった。

 数は彼女も含めて四人、怪我人も含めれば生存者は全部で二十七人。


 全員を助けたい。



 ティチリカが戻ると同時に、四度目の右膝を狙った炎が爆ぜた。

 彼女とやり取りをしている間にも戦闘は続いているんだ。


 サクラは振るわれた大剣の上を駆け、隙あれば砂上を舞って鉄鎚を打つ。

 テュルケはただ撹乱に全力を尽くし、振り落とそうとする正騎士の攻撃を、肩の上に陣取ったまま器用に避けている。

 アディーテは普段の言動とは裏腹に、のらりくらりと蹴りを交わしては右膝をつるはしで打ち続けている。

 起点となるのはベルク師匠だ。紫電を纏った槍と盾が、正騎士がいくら大剣を振るおうともカウンターで返してしまう。



「リシィ、大丈夫か?」

「ええ、色々と試しているけれど、どれも有効打にはならないわ。砲狼の硬い顎を思い出すわね」



 砲狼の顎……正騎士の装甲がそれに近いことはわかった。


 だけど、だとするとおかしい……全身を装甲に包まれて何故あそこまで動けるのか。何故、アスファルトは陥没しないのか。

 神代の技術だとかは理由にならない、何故ならベルク師匠が突進した際に踏み砕いたんだ。


 阻塞気球スプリガンネストを思い出す、奴は浮いていた(・・・・・)

 だとしたら、“重力制御”に類するものがあると考えるべきだ。自重を支える何らかの機能、激しく動いても膝が圧壊しない最高の緩衝装置が。

 そして、何らかの力場を操っているのだとしたら、装甲が硬い(・・・・・)わけじゃない。最悪は、こちらの攻撃エネルギーまでも散らされてしまっている。


 以前、墓守には何らかのバリアがあるのではと考えた。

 確証はない。だけど確実に、目には映らない何らかの力場がある。



「ぬぅっ!?」



 ベルク師匠がはじめて、正騎士の攻撃を逸らせずに大剣が盾を削いだ。

 紫電が不自然に散っていて、大剣の表面にまで届いていない。


 やはり……!


 だとすると、学習してベルク師匠のカウンターに対応を始めたか。

 サクラたちの攻撃と、ベルク師匠の対抗技に対応するまでの時間差から、恐らくはアクティブ能力。


 だけど、それがわかったところでどうする。

 落ち着け……焦るな……考えろ……。


 砲兵と正騎士の差は何だ?


 阻塞気球と正騎士の差は?


 搭載可能な装備の大きさ?


 それとも、発電量?


 砲兵は遠距離攻撃を弾いてしまい、近接攻撃なら容易い、この差は何だ?


 避弾経始以外で働いている力場があるとしたら、何をもってそれを抜いた?


 正騎士よりも大きい阻塞気球は、岩山の大質量で圧潰出来ている。


 ……


 …………


 ………………


 ……そうか、“質量”か!



 周囲を見回す。条件の選定、今ここで取れる手段、手加減のない最善手。

 あるものを全て使い、正騎士の力場を抜くだけの手数と大質量攻撃。



「サクラ、アディーテ、ティチリカ、来てくれ! ベルク師匠、一分凌いで欲しい!」


「おおっ! 心得た!」



 ベルク師匠には負担を強いるけど、ティチリカの仲間も加勢に入っている。

 万全にはほど遠い、だけど最善を尽くして終わらせる。一分だ!



「みんな、聞いてくれ、恐らく正騎士には何らかの力場がある」

「なななな何なノン!?」


「今からそれを抜く、力を貸して欲しい」

「ええ、任せて!」

「はい、全力を尽くします!」

「アウー! やるー!」

「な、なな……ノン!」



 ティチリカは『イエス』なのか『ノー』なのか良くわからないけど、頷いているので問題ないだろう。


 作戦を伝える。全員の協力を得て、正騎士を討滅するための道筋を。

 簡潔に、余計なことは混じえず、相手を信頼し、必ずやり遂げると約束する。


 皆、力強く頷いてくれた。

 全力を尽くす。それは僕も同じだ。


 後は……。



「リシィ、構わないな?」

「……ふぅ、貴方は本当に仕方ないんだから。良いわ、その策に今だけは乗ってあげる」

「ありがとう」


「ただし! 失敗したり、カイトに何かあったりしたら、永遠に恨むんだからねっ! 最大限に覚悟をして挑みなさいっ!」



 最近リシィは、“笑う”以外の感情を出してくれるようになっているんだけど、今は頬を膨らませて本気で怒っているようだ。

 僕がやろうとしていることは懸けに近い、特攻だと言われても否定出来ないほど。だけど、だからこそ失敗するつもりも、何かあるつもりもない。


 『骨を断って肉を斬る』――違う。


 『骨を断って中身諸共装甲を穿つ』――だ。



「ああ、僕はリシィの騎士だ。これからも君とともに、君の傍で歩み続けるために、何が何でもやり遂げる」

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