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第三十六話 DRPGと言ったら六人だよね

 ◆◆◆




「カイト兄ちゃん。兄ちゃんまで帰って来なかったら、俺、嫌だからな!」

「ああ、ちゃんと帰ってくるから、将棋以外も勉強するんだぞ?」

「ああ!」



 ヨエルには話していないけど、未だ帰ってこない兄妹の父親の安否も、迷宮内で探ってみようかと思う。


 目の前の少年に、かつての自分を重ねて見ていることは間違いない。

 『希望はあるのか』と誰かに尋ねられたら、『ある』とは答えられないだろう。だから何も言えない、それでも自分の内で気にする分には負担にもならない。


 噴水広場の復旧は殆ど終わっていて、僕が始めてこの街に来た時の活気を既に取り戻していた。

 襲撃があったことが嘘のように、鋭気に満ちて行き交う探索者たちの姿は、最盛期のオンラインゲームの大都市の喧騒を思わせ、少し懐かしく思える。


 まだ手がつけられていないのは、ふたつの【神代遺物】が使われたところだ。

 【神代遺物】……かつての文明の遺産。この世界で過去に何があったのか、あれは個人が振るって良い力とは思えない。

 そして、それと同等かそれ以上の“神器”が、今僕の右腕と右脚にはある。


 この先の困難を考えると身体が震えるけど、今は進むしかないかな。



「みんな、行こう」

「ええ、行きましょう」


「兄ちゃん、姉ちゃんたち! 気を付けろよー!」

「ね~ちゃ~ばば~い」

「あらあら、そんなに慌てなくても。ほらぼたもちも作って来たの、これも持って行きなさい」

「皆さま、無事のお帰りをお待ちしておりますわ」



 見送りの兄妹とユキコさん、エリッセさんに一時の別れを告げ、僕たちは探索者ギルドを抜けて長い階段を登り始めた。


 僕は荷物持ちで、大きい革の背嚢に物資をギッシリと詰め込んでいる。

 体を隠すほどの重量物を背負えるのは、どうやら神器の恩恵のようで、自分自身でも驚いてしまった。とは言え流石に量が多いので、持てない分はテュルケとベルク教官が持ってくれている。



「ベルク教官」

「『ベルク』で構わん。カイト殿」


「じゃあ、ベルク。砲狼カノンレイジを相手にしていた大盾じゃないんですね?」



 重装盾騎士の容貌のベルクは、前に見た大盾よりも一回りは小さいヒーターシールドを装備していた。背に同じものをもうひとつ。

 武器は、中世の騎兵が使った馬上槍を担いでいる。槍の長さは二メートル以上、労働者ワーカーくらいなら突進からの一突きで粉砕しそうな代物だ。



「迷宮内では、自身で修理鍛冶をしなければならないからな、受けるよりも流す手段を重んじてのこと」


「なるほど、頼りになります」

「カカッ! 一度引退した身と言えど、現役探索者に引けは取らん」



 それは砲狼戦で間近に見てわかっていた。

 彼が纏う歴戦の武人の気概は、擦れ違う探索者にはないものだ。



「そう言えば、何で引退したんですか? 引けを取らないどころか、多くに圧倒していると思いました」


「うむ……まだ某が探索者だった頃にな、膝に――」



 来たーーーーっ!? まさか、ここでその台詞が聞け……。



「――“にゃ”を受けてしまってな」



 ……


 …………


 ………………


 この、異世界にいながらにして、唐突に差し込まれる“異物感”。

 間違いない、これは“ぽむぽむうさぎ”関連だ。


 これ以上は置いておこう……。




 ―――




 階段の上までは、休まずに上がって三十分くらいだろうか、流石に高い。

 神脈炉と神器の恩恵のお陰で充分な体力があるとは言え、ルテリアの肌寒い気温の中で汗の一滴が垂れた。



「クサカ、待っていたぞ」

「あれ、親方? 忙しいと聞いていましたけど」


「ああ、正門の修理ついでに防衛設備の増強をな。大型は無理だが、今度は小型は通さん」

「おお、それは期待が出来ます」



 大型墓守は大断崖にある亀裂から出て来るとのことだけど、小型の“針蜘蛛スプリガン”はここを通って来たそうだ。その光景は、想像して気持ち良いものでもない。



「クサカ、ついでに頼まれてたもんを持ってきた。今生の別れにするつもりはないからな、見送りはしないぞ」



 そう言う親方から渡されたものは、掌に収まる懐中時計。

 サクラのものじゃなく、改めて地球の時刻表示の時計を頼んでおいたんだ。


 この街に時計は、それなりに大規模なものから、宿処にも普通にあったので気が付かなかったけど、それなりに希少品で高級品ではあるらしい。

 と言うのも、まず時計職人が少なく量産が出来ない。だけど、探索者が実は高給取りでそれなりの需要があるため、店に並ぶと直ぐになくなるそうなんだ。


 どうやら回収費用を差し引いても、労働者一体でパーティが一月は安泰な収入になるらしく、危険を押してでもこの迷宮に入る理由が何となくわかった。

 生身の生物と違って、現実的な装甲物質や各駆動部品、あれだけのものを動かしている制御回路と、その利用価値は計り知れない。だからこそ、オーバーテクノロジー過ぎて、その正体も解析も遅々として進んでいないと親方がぼやいていた。


 本当に何なんだろうな、墓守――【鉄棺種】とは。


 そんなわけで、僕は来訪者としての支給金の他に、リシィたちが倒した労働者と砲兵、それと先日の砲狼の報奨金とその現物等々のお陰で、聞いた時は何度も聞き返してしまうほどの小金持ちになっていた。

 自分一人で稼げたかどうかはともかく、一応分け前としてもらったお金で購入したのが、この懐中時計だ。内部には、注文通りのアラビア数字が刻まれている。



「親方、ありがとうございます。迷宮から戻ったら改めてお礼に伺います」

「ああ、無事に顔を見せるのがお前さんの責任だ。戻ったら、その腕と脚も調べさせてもらう」


「はい、また工房で」



 そして、僕たちは迷宮探索拠点都市ルテリアを後にした。




 ―――




 ……後にして、迷宮に入ったのは良いんだけど……どうなっているんだろうな?


 今僕たちは外周路を進んでいる。隊列はベルクを先頭に、真ん中にリシィ、その左右をサクラとテュルケ、荷物持ちの僕は最後尾だ。


 横を向く。


 少女がもう一人、長い柄のつるはしのようなものを持って隣りにいる。

 ザンバラな水色の髪と、薄い褐色の肌、紫色のパーカーには見覚えがある。

 僕がじーっと見ていると、彼女はきゅるんっとした目で僕を見上げてきた。


 可愛い風を装ってもダメ!



「何でいるの、アディーテ」


「えっ? アディーテさん!?」

「何? どうしたの?」


「アウー? ご飯美味しかったからー」



 全く答えにはなっていないけど、どうやら僕たちはアディーテの餌付けに成功していたようだ。



「アディーテ、僕たちはご飯を食べに行くわけじゃないんだよ?」

「アウー? 知ってる、あの肉も美味しい!」



 どの“肉”だろう……そこはかとなく、食べたらダメなアレの予感がする。


 それ以前に、この娘は探索者なのだろうか。何か、つるはしの刃が薄っすらと発光しているけど、『イン何とかピック』と言う名前の武器じゃないだろうな……。



「カイトさん、アディーテさんは言い出したら聞きませんから。仕方ありません、一緒に連れて行きましょう」

「そうか……アディーテは探索証を持っている?」

「アウー? これ?」



 黒の地に金の縁取り……これ、“深層探索許可証”だ!?



「アディーテさんは水のある場所に限って言えば、相応な実力のある探索者です。一度食事を取ってしまえば、当分は無補給で活動可能な特殊な水精種でもありますから、物資的にも負担になることはありません」



 ああ……だから、いつ食事をしたのか覚えていなかったのか。



「アディーテ、固有能力は?」

「アウー! 穴掘れるー!」

「……っ!?」



 水を操るとかじゃないんだ……!? 少し驚いたけど、考えようによってはノウェムなしで落とし穴が作れるのか、使い方次第だな……。


 うん、まあ仕方ない……。



「リシィ、このパーティは君の目的に従っている。僕は主の意向に従うよ」

「ん……そうね、私は構わないわ。アディーテなら知らない仲でもないし、今は……あっ、こんな時よね? 『猫の手も借りたい』と言うのは」

「おお、そうだよ。迷宮を進むなら、やはり六人は必要だよね」



 ダンジョンロールプレイングゲーム的な意味で。



「六人? 多い分には助かるわ」

「アディーテ、じゃあ一緒に行こうか」

「アウー!」



 アディーテが なかまに くわわった!

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