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第九十三話 世界を繋ぐ可能性

 竜騎士隊は突然の増援到来に驚きながらも、ベルク師匠を先頭に次々と上陸する墓守の群れを押し止め始めた。



「ハッ、くダラん雑魚どもバカりだ。小僧、この戦いを終ワラせろ、でナけれバ寝覚めガ悪い。いつマでも俺に悪夢を見サせるナ」


「あれ~? ベンガードは妙に素直なノン。カイトさんに久しぶりにアッ、尻尾は引っ張っちゃダメなノンーーーーーーッ!!」


「軍師、あたいらも混ぜてもらうよ! 最高の晴れ舞台を見せてやんよ!」

「クサカ殿、お久しぶり。ヨルカ、あまり羽目を外すな」

「キヒッ……バラし甲斐……ありそう……」



 続いて落下傘パラシュートで下りてきたのはベンガードとティチリカ、それにヨルカ、ロー、ラッテン、相変わらずのようで何よりだ。



 ――キュババババッ!! ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!



 さらに湖上を縦横無尽に翔け、金から青に変わるグラデーションの髪からホーミングレーザーを放つのはブリュンヒルデ。

 対地攻撃機のように飛翔しながら水中を攻撃し、彼女の通ったあとには壁のように噴き上がった水柱と、残骸となった墓守が漂うのみ。


 そして、最後に下り立ったのは、一見すると古式奥ゆかしい瀟洒な佇まいのフォーマルメイド。濡羽色の髪は顎の高さで切り揃えられ、見る者に怜悧な印象を与える切れ長の目には人造の光を湛えた金色の瞳。


 リシィとも遜色のない美しさ、といえば確かにそうだけど……。



「カイトしゃんっ、アシュリンが最高のタイミングで来てあげたのよっ! ふふりん!」



 中身は印象とは真逆のお茶目さんだ。



「みんな……アシュリン……。本当に狙ってやっただろう?」

「異常な反応を検知して途中から急いだのよ。感謝して欲しいのよ」


「アシュリン、私からもお礼を言うわ。ありがとう、久しぶりね」

「お姫さまも元に戻って何よりなのよ。カイトしゃんの腕と脚を見て大体を察したアシュリンは有能なのよ~」


「アウゥ~、お腹すいた~」

「アディーテさん、一気に神力を使いすぎですよ!」

「主様、こやつすでにふらふらだぞ。どこぞで補給が必要だ」



 降下からの湖に大渦を生み出すほどの“穿孔”で、アディーテはすでに神力を使い果たしたらしく、サクラとノウェムに肩を支えられ仮設指揮所に戻ってきた。



「はいはいっ、アディーテさん大打撃ご苦労さまなのよ~。エネルギー(神力)をしっかり補給して次に備えるのよ~」


「それは、なんだ……?」


「“エネボウ アシュリーンスペシャル”なのよ。一日に必要な神力の三倍をこれ一本で補給! アディーテさん、もう一回ぶっ飛ばしてくるのよ~!」


「アウーッ! うまうまうーっ!!」



 アシュリーンは“エネボウ”をどこからか取り出し、アディーテはその棒状の携帯食を貪り食い、また湖に向かって駆け出した。

 まあ、元は神代技術の賜物だとは思うけど、“アシュリーンスペシャル”と付加された胡散臭い代物は他にもいろいろと持ち込んでいそうだ……。



「サクラ、ノウェム、水蒸気爆発はもういい。サクラはポムが対応している北側の上陸阻止、ノウェムはベルク師匠とアディーテを支援してくれ」


「はい! お任せください!」

「あい! 久しぶりの共闘は湧き立つな!」



 布陣は、ルシェの指揮する竜騎士隊と探索者たちが湖岸全域で戦闘を行い、仮設指揮所の正面にベルク師匠とアディーテが、ポムが少し北側、ベンガードたちは指示を出すまでもなく一度は瓦解しかけた南側へと向かった。


 アサギは町なかに落ちた荷物パッケージの回収に向かい、今も湖の中ほどでブリュンヒルデが水中を掃討しているにもかかわらず、墓守は途絶えることなく押し寄せている。



「カカッ! そのような巨砲は撃たせぬぞ! 竜化奥義【天猛雷霆】!!」



 ベルク師匠は竜化した巨体に見合った大盾で墓守の猛攻を凌ぎ、ティラノサウルス型が長砲身大口径砲を振った瞬間に奥義を放った。

 万雷稲光、紫光がひときわ目映く辺り一帯を染め、周囲の中型までを巻き込んで幾度となく迫る墓守の群れを制圧する。


 ティラノサウルス型大型墓守もその一撃で黒ずんだ鉄塊と化し、挙句の果てに横倒しになったことで侵攻を多少は阻む防波堤となってしまった。


 だけど、これでもまだ足りないだろう。


 まだ遠く、増援を気にするでもなく、【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】は悠然と湖を進んでいる。



「アシュリン、奴は神龍テレイーズが生み出した【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】。エウロヴェの干渉があったものと推測し、奴を止めながらもテレイーズの救出を目的とする」


「ま~た、カイトしゃんは無茶ばかりするのよ。簡易計測からもそれが難しいことなのは一瞬でわかるのよ。カイトしゃんは自覚してるのよ?」


「ああ、もちろんだ」

「カイトだけではないわ、私もよ」


「カイトしゃんもお姫さまも本当にしかたないのよ~」



 アシュリーンは呆れを全身で現しながら、それでも「なんとかするのよ」と言った風だ。



「アシュリン、頼みがある」

「わかってるのよ。カイトしゃんのことだから、方策はもう検討ついてるのよ?」


「ああ、あれ(・・)だ」



 僕が指差した方角は、アサノヒメ大龍穴とは真逆。夜だから見えないけど、昼間ならこの方角に薄っすらと霞んで見える“白樹城カンナラギ”がそびえ立つ。



「重霊子力衛星軌道掃討射砲……アメノムラクモノツルギなのよ!?」


「あれを一撃でも放てれば、【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】を少しの間だけでも行動不能に追い込めるんじゃないか? あとは直接テレイーズを救い上げる……!」



 アシュリーンは顎に手を当て考え込むも、金色の瞳の中では文字列が行き交っているので、あらゆる計算が瞬時に行われているのだろう。



「カイトしゃん、今のまま(・・・・)では無理なのよ?」

「ああ、多少の面倒は理解しているさ」


「お姫さまもいいのよ?」

「ええ、カイトが望むのなら私は支えるだけ」


「あふ~、この二人は本当にどうしようもないのよ~」

「アシュリン」


「わかったのよ、なんとかするのよ。ただ実際に使えるかどうかは、管制室まで行って直接オペレーティングシステムに接続してみないことには保証もできないのよ」


「それでも、頼む」

「あふっ、アシュリンはその目に弱いのよ~。やるのよ~」


「アシュリン、ありがとう」



 これはかなり危険な懸けだ。


 長い年月を経て【重霊子力アメノム衛星軌道掃討射砲ラクモノツルギ】が動く可能性はまずない。

 それでも懸けなければ、黒泥にすべてが飲み込まれ再び世界が終わってしまう。


 一度は滅びた未来の地球、だけど僕は今のこの世界が好きだから。

 何よりもこの世界に住まう人々が好きだから、誰一人として失いたくない。

 たとえ無謀だろうと、ならばこの意志は最後の最後まで貫き通させてもらう。


 根源物質の泥だろうと、少女を救うために飛び込んでみせるさ。



「ルシェ、ここを頼めるか?」

「話は聞いていました。アメノ……それが何かは存じませんが、リシィさまが心より信頼するカイトさまならこの状況を打開できると、私も信じます」


「ルシェ、人さえ残れば町も国も文明でさえも再興はできるわ。フザンは放棄しても構わないから、一人でも多くの命を守って侵攻を遅らせて。お願い」

「リシィさまの仰せとあらば、我らテレイーズの竜騎士は自らの命を賭して……いえ、自らの命まで守り抜き、国のため人のため役割をまっとういたします……!」


「嬉しいわ。私をまだ主と認めてくれて……」

「当然です。代が替わろうと、私にとっての主はリシィさまだけです」

「本当に、ありがとう……。ルシェ……」


「お話中のところ申し訳ないのよ! 異常なエネルギー源を検知なのよ!」



 アシュリンが告げるまでもなく、【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】の口腔が赤熱するのは見えた。


 そして、【ダモクレスの剣】に比類するほどの火線が再び放たれる。



 ――キュアアァァァァ……ゴバッ!!



「くふふ、バカめ!! ここに我がいると抜かりおったな!! セーラムが偉業、その節穴の目でしかと見るがよい!!」



 火線の放射の瞬間、明らかに待ち構えていた(・・・・・・・)と、ノウェムがリシィと同じ十二枚もの翠光の翼を広げて防衛陣地の上空に舞い上がった。


 翠光の粒子が巨大な円陣を描き、極太の火線を余すことなく飲み込む。



 ――ズズンッ!! ジュアアアアァァアアァァァァァァァァァァァァッ!!



 転移陣の出口は【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】の直上。


 自らの火線を返され、奴の周囲では膨大な熱量が渦を巻き湖水を蒸発させる。


 衝撃で大波が襲いくるも、それもまたアディーテがいればなんてことはない。



「主様よ行くがよい、ここは我らがどうとでもしようぞ! くふふ!」

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