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第九十一話 フザン防衛戦

 騎士たちの歓声はリシィの放つ黄金色が収まるまで続いた。

 落ち着いたわけではない、誰もが再び振り返って来たる脅威に備える。


 こちらの動きに呼応するように、【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】まで動き出したから。



「カイトさん!」

「サクラ、状況は?」


「リシィさんの攻撃で一時の余裕はできましたが、上陸を試みる墓守の数は増える一方です。どうにかして大本を叩かなければ、いずれは……」


「【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】をか……」



 対岸まではおよそ四十キロ。今のところは水中機動力の高い小型中型の墓守のみが到達しているけど、大型まで到達してしまえば形勢は逆転するだろう。


 そして、そのあとからさらに【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】だ。


 奴は遠ざかるでなくこちらに向かい、鈍重そうな一歩を湖に踏み出した。



「ノウェム、今の調子だと【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】をどのくらいから引き戻せる(・・・・・)?」

「ふむ? 干渉可能なのは二キロといったところか、まず対岸までは届かぬぞ」


「二キロか……。サクラ、あれ(・・)はできる?」

「水蒸気爆発ですね、可能です。懸念は“焔核”の格納容器が損壊してしまうことですが、これだけの水量があればそのまま封印になると判断します」

「鉄鎚の損壊覚悟の策は本当にごめん、だけどここで頼らせてもらう」


「謝らないでください。たとえ【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】を失おうと、私はカイトさんのサクラのままでいますから」


「サクラ……本当にありがとうな」



 サクラの“炎熱”の力を利用し、水蒸気爆発を起こす策は常に考えていた。

 ただ、爆発の衝撃が鉄鎚やサクラ自身を傷つけてしまうことを考え、原理を教えるだけでこれまでは実際に使うことはなかったんだ。


 だから今はノウェムと連携させる。鉄鎚を投擲することで最初から衝撃の範囲を遠ざけ、さらに“飛翔”で引き戻すことで継続して水中の墓守を攻撃する。


 これは、墓守との直接戦闘をできるだけ少なくするための苦肉の策。



「よし、ノウェムは【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】に“飛翔”干渉。サクラはノウェムの干渉限界内で水中の墓守を目掛けて爆雷攻撃……」



 ――ドゴォッ! ドオオォォオオオオォォォォォォォォォォォォォォッ!!



「なんだ!?」



 まだサクラは投擲していない。


 爆発は対岸の【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】の足元で起こり、周囲の巨木を薙ぎ倒し封牢結界の残骸まで吹き飛ばしてしまうほどの爆風を伴っている。


 こんな大規模爆風爆弾《MOAB》並の規模の爆発……心当たりがあるとしたら……。



「カイト、これはトゥーチャの……!?」

「まさか、そこにいるのか……? セオリムさん……!」



 だからと、【黒泥の龍皇(ウシュムガル)】が侵攻を緩めるようなことはなかった。


 それでも彼ら、“樹塔の英雄”が存在するかもしれない可能性が、この状況で臆すことこそを恐れる僕の心に確かな頼りとなって支柱を築き上げる。



「僕たちも応える。サクラ、水中をかき乱してやれ!!」


「はい!!」



 サクラは小気味好い返答から、槍投げの要領で鉄鎚を投擲した。

 傍ではノウェムが“飛翔”能力で干渉し、赤と翠の二重螺旋が弧を描く。


 そして、鉄鎚は湖面に落着し――。



 ――ドッバアアァァァァアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!



 水が熱せられ水蒸気になる瞬間、その体積は千倍以上にも膨れ上がることから、間近にいればひしゃげるだけでは済まない衝撃を受けることとなる。


 実際に目の前では、大量の湖水が巨大なひと塊の水柱を噴き上げ、水上にまで吹き飛ばされた墓守の残骸を確認できることから攻撃は成功、威力は絶大だ。


 衝撃が吹き荒び、岸に達する突風と共に鉄鎚も戻ってくる。



「まだ【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】の損壊はなし、連投可能です!」

「よし、サクラとノウェムは水中の墓守をできるだけ減らしてくれ!」

「はい!」

「あい!」


「リシィ、防御態勢に移行、今は神力の消耗を抑えて守りの要に!」

「ええ、砲撃に備えればいいのよね! 皆は私が守るわ!」



 リシィは答えると光翼を二枚まで減らし、代わりに無数の光盾を形成する。

 その間にもサクラはニ投目を放ち、轟音とともに湖上に再び水柱が上がった。



「これが、カイトさまの戦い方……」

「ルシェ、感心している暇はない。新手だ!」

「はっ!? 全隊、墓守の上陸を決して許すな!」



 大規模な水蒸気爆発に驚いているのは、何もルシェだけではない。

 騎士たちもあまり目にすることのない物理現象に驚いていたけど、指示を待つまでもなく水際に墓守が姿を現すと率先して迎撃を始めていた。


 一度はリシィにより掃討され、サクラにより後続を減らされてもなお、湖岸には上陸を試みる墓守が文字通り波のように押し寄せてくる。



「おにぃちゃんっ! あれあれっ、おっきな首が出てきましたですっ!」


「今度はなんだ!?」



 テュルケが慌てながら指差す先、波間に恐竜の頭部だけが浮かび上がっている。



「あれは……スーパーサウルス型……!?」



 スーパーサウルスは恐竜の中でも特に巨大な種で、頭部から尾の先まで三十メートル以上にもなる巨体を誇る四足の首長竜だ。

 ただこれはあくまでも実在した恐竜の話だから、今湖底を歩いている墓守がそれ以上の大きさでないとも断定できない。


 そしてそれだけの巨体……僕だったら小型墓守を搭載する母艦か、背に艦船クラスの主砲を搭載する陸上戦艦として運用する。


 あれは上陸を許したらダメだ……!



「アサギ、特殊弾頭の残弾は!?」

「……残り二十四発」

霊子力砲ブラスターモードでは何発!?」

「……五発」


「わかった。ポムは湖上に露出した頭部に“にゃ”を、アサギはあれに破孔ができた場合だけ追撃を。リシィ、サクラ、頭部下の水中に集中攻撃!」


「ええ!」

「はい!」

「……了解」

「にゃんっ!」



 そうして、まずはリシィとサクラがそれぞれ光線と鉄鎚の投擲で、まだ水中で全貌を確認できないスーパーサウルス型墓守に攻撃を仕掛ける。



「ポム!」

「にゃっ!!」



 ――キュバッ!!



 ポムは頬をぷくりと膨らまし、口を開くと同時に青色の光線が放たれた。


 “にゃ”の原理は霊子力砲エーテルブラスターと似たような粒子砲なんだろう。極太の光線は、リシィとサクラの攻撃を受けてもなお波間に漂うスーパーサウルス型墓守の頭部に直撃し、せめぎ合う【イージスの盾】による防御を辛うじて打ち消す。


 だけどその瞬間、スーパーサウルス型墓守もポムと同様に口を開け、内部に青光の粒子が充填され始めた。



「まずい! アサギ!!」



 ――キュウゥゥ……シュガッ!



 アサギはすでに狙いを定め、ライフルの青白く放電する銃口から間髪入れずに特殊弾頭が撃ち出された

 弾丸は“重質量弾”。青白い雷光の尾を引きながら、今にも放たれそうなスーパーサウルス型墓守の口腔に吸い込まれるように弾着する。



 ――ボキュッ! ドンッドガガッ! ゴガアアァァアアアアァァァァァァァァッ!!



 弾着の効果は想定外に大きい。おそらくは、収束した霊子力が頭部機構を破壊されたことによって逆流し、放電現象を引き起こしてしまったんだ。


 そうしてスーパーサウルス型墓守は内部から破壊され、水中のところどころで起こった爆発の最後に、周りを巻き込む大爆発まで起こして粉微塵となった。


 そうか、むしろ霊子力の収束は狙いどころともなるか……。



「おお、なんという偉業……これが“ルテリアの軍神”、カイト クサカ……」

「姫神子様が御自らご指名なされた神殺しの器……“銀灰の騎士”……」

「異世界の知識を携え、世界崩壊の危機を退けた“神滅の英雄”……」


「ん……?」



 いまだに水際防衛が続く最中、周辺の騎士たちがざわめき始めた。



「いいぞ……これなら異形に怯えることもない……!」

「ああ、そうだ……俺たちにも“軍師”がついてる……!」


「姫殿下のため、国のため、守るべき民のため、クサカ殿の下で力を振るえ!!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


「なっ……!?」



 突如として騎士たちから歓声が上がり、誰も彼もが興奮した面持ちで、途切れることなく現出する墓守にそのまま勇み挑んでいく。



「人々を鼓舞することができるのは、何も私だけではないわ。すでにあなただって世界を救った“英雄”の一人なのよ、カイト」



 傍らのリシィは僕を見詰め、どこか誇らしげにそう言った。


 “英雄”と呼ばれるほどの柄ではないけど、なら僕は最善を導き出そう。

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