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第七十四話 三角竜迎撃戦

 煙が晴れると、トリケラトプス型大型墓守はこちらに向きを変えていた。



「奴を“三角竜トライホーン”と命名、迎撃する!」



 ――キュアアァァァァッ、キュバッ!!



 その背の三連装霊子力砲(エーテルカノン)が青光を放ち始めたのと同時に、すでにライフルを構えていたアサギが霊子力収束砲(エーテルブラスター)を先に撃った。

 青光の霊子力線は尾を引きながら砲口内に入り込み、ただの一射も発砲を許すことなく内部機構を破壊する。


 ここに存在する墓守は、もはや人が作り出した兵器ではない。


 生体組織が鋼鉄のフレームを纏い、進化の果てに自らを退化させてしまった新たな生命体、プログラムが本能に変わってしまえば恐れるにあたわず。


 立ち込める白煙の中、追撃しなかったのが機械的に見えていない(・・・・・・)いい証拠だ。



「きんこうよたてとなりまもれっ!」

「えいやーっ! やわらかクッションですです!」



 三角竜はさらに、迎撃態勢を整えたこちらに対し、生身の目玉(・・・・・)で睨みつけ鼻息も荒く(・・・・・)、野生動物が当たり前にそうするように鋼柱の大地を強く踏み蹴った。

 その様は、まるで鋼鉄の装甲列車が勢いよく突っ込んでくるように、鼻先の一本、頭部の二本の角を押し出し、人が触れてしまえば微塵にされてしまうだろう。


 だけど、リシィとテュルケによる防御結界は展開済み、金光の柔壁(やわらかクッション)を支えるのはベルク師匠以上の巨体と剛腕を誇るポム。



「にゃにゃあぁぁ……にゃーーーーーーっ!」



 数十メートルの距離から鋼鉄の塊が迫る。


 そして、激突の衝撃が足場の鋼柱を歪ませるも、それでもポムは一歩も退かずに押さえつけ、三角竜の巨体を浮かせてしまうほどに反射させた。


 とはいえ、三角竜はニ脚とは違う安定感のある四脚。二歩、三歩と後退ったもののすぐに体勢を整えロケットランチャーを発射しようとするも、これもまたすでに狙いを定め待ち構えていたアサギが撃ち抜く。



 ――ドンッ! ゴガアアアアァァアアァァァァァァァァァァァァッ!!



 爆炎が三角竜の全身を包み込み、燃え盛る炎が僕たちを赤々と照らした。



「自らの力をすべて返されるとはたわいない」

「ノウェム、まだ油断はできないよ。出番も近づいている」

「くふふ、我がセーラムの力を見せてくれるわ!」



 僕たちは炎が燃え広がっている隙に、三角竜の右方、崖を背にする位置まで自ら移動し、わざと追い詰められた状態を作り出す。


 そして、一瞬拡大した炎が鎮火して燻るほどになると、右側面のロケットランチャーを破壊され、胴体にも黒い焼け跡を残した三角竜が憎らしげにこちらを向いた。


 まだ予測演算が可能なのか、それとも本能によるものか、三角竜は僕たちの背後に崖があることを認識しているのだろう、突進することを諦め今度は左右側面の装甲裏からガトリング砲を展開する。


 まずはすべての攻撃手段を破壊し、選択のない状況を作り出さなければならない。



 ――ブォオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!



 銃身が勢いよく回転を始め、背に踏む大地のない僕たちに弾雨が迫る。

 だけど、銃弾は防御結界に阻まれることなく(・・・・・・・・)、すべてが三角竜に返された(・・・・・・・・)



「ノウェム!?」



 段取りとは違う、ノウェムが銃弾を転移陣で返したんだ。



「くふふ、夫が無理をするのであれば、妻である我とて無理も承知ぞ。皆ばかりに負担をかけさせぬ。子細ない、やらせておくれ」


「平気……なのか……!?」

「今はまだ、な。くふふ」



 巨鷲フレースヴェルグの時は銃弾の一斉射を返したことで血を噴き出したけど、今は確かに一筋の血も垂れることもなく、ノウェムは悠然と四枚の光翼を広げている。


 彼女の異常だった体内神脈はここまで回復しているのか……。



 ――ゴガンッ!! シュカッ!!



 僕が驚いている間にも、炎に紛れ散開していたサクラとルシェが、それぞれ【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】と騎士剣で左右のガトリング砲を破壊した。


 ノウェムの体調が心配ではあるけど、この好機を逃すわけにはいかない。



「ポム! 僕と攻撃を重ねてくれ!」

「にゃにゃんにゃーっ!」



 僕とポムは、わずか数メートルの距離を一息に駆け抜け三角竜に接敵する。


 そうして、まずはポムが駆ける勢いのままに筋肉の盛り上がる剛腕で鼻先の角を殴りつけ、あとを追った僕は間髪入れずに同じ箇所を【星宿の炉皇(ゼフィラテレシウス)】で突いた。



 ――ギィオオオオォォオオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!



「ポム、下がれ! 元の位置に!」

「にゃっ!」



 結果、光槍は鼻先の一本を根本まで貫き粉砕し、三角竜は痛みを感じるのか断末魔のような叫びを上げて巨体をうねらせた。

 その生身にもかかわらず青光を帯びた瞳は赤色に変わり、怨敵を見るような眼差しは確実に僕たちに対する怒りを覚えているのだろう。


 そうであるなら、我を忘れた野生動物が取る行動はもう目に見えている。


 だから追撃の手を緩めない。僕とポムの後退に合わせたリシィの光矢が背後から入れ違いに通り過ぎ、直撃した三角竜をさらに傷つけて注意を引く。


 そして三角竜は僕たちの誘いに乗り、崖に向かって無謀な突進を始めた。



「来た! みんな跳べ!!」



 僕は後退しながら、リシィを抱き上げて崖から身を投げる。

 皆も合図で追従し、落ちたら終わる切り立った崖へと飛び出す。


 三角竜が到達したのは一瞬あと、制動も間に合わずに片脚を崖から落とした。



「王手だ」



 ――ゴォンッ!! ザキュッガガガッ!!



 後方に残っていたサクラとルシェが追撃を入れ、自重を支えられるはずもない巨体の三角竜は崖下へと転落し、遥か底に輝く青光の中に消えていった。


 もう戻ることはないだろう。





「ノウェム、ありがとう。君がいてくれてよかった」


「くふふふふ、主様、ならば口で言うよりも行動で示して欲しいの」


「え、あ、ああ……」



 僕たちは、ノウェムの飛翔能力で空中に浮いたまま支えられていた。


 飛べる優位は、やはり神器にも代え難い最高の能力のひとつだ。

 僕は嬉しそうにすり寄るノウェムの頭を撫で、精一杯の感謝で応える。



「くふふ、よきよき。お役に立てたのなら嬉しいの」

「うん、思った以上にやってくれた。体調に変化はないか?」

「平気なの。今ならあの三角竜を直接放り投げることもできそうなの」



 久しぶりに甘えたノウェムが出てきたけど、まだ地面が遠いな……。



「それはもっと力を取り戻してからね。それはそうと、下ろしてくれないか?」

「もう少し、もう少しだけ。なんなら口付けで報いに応えて欲しいの、ほれほれ」


「んっ、んんっ! ノウェム、わたしもいるのを忘れていないわよね!」

「おや、リシィ、いたのか? あまりに小さくまったく気づかなんだ」

「うっ、うーーーーっ! わざとよねっ、わざとなのよねっ!?」

「どうした小娘、手脚まで短くなっておるから届かぬぞ? くふふ」

「んぅううぅぅぅぅーーーーっ! ノウェムーーーーーーッ!!」


「ふ、二人とも、こんなところで喧嘩はやめて……。落ちたくないよ?」

「そうよっ! たわむれている場合ではないのっ! はやく下ろしなさいっ!」


「しかたあるまい、少しばかり興が乗ってしまったわ。主様、我はこの通り以前よりかは力を取り戻しておる。頼ってもらっても構わぬのだからな」


「ああ、これからも頼りにするよ」

「あいっ!」



 だけど僕は、ノウェムの額に脂汗が滲んでいるのを見逃さなかった。


 以前よりも、本来のセーラム高等光翼種の力が戻っているのは確かなんだろう。

 それでも完全ではないようで、僕たちに気づかれないように我慢もあるんだ。


 だから、僕はノウェムのその心意気を信頼する。

 落ち着いたら、僕にできる限り甘やかしてあげないとな。


 そうして、僕たちはノウェムの誘導で崖上に戻ることができた。



「カイトさん!」

「リシィさま!」


「サクラ、ルシェ、二人とも怪我はないか?」


「私は大丈夫です」

「私も問題ありません!」



 二人も特に怪我はなく、消耗もないようだ。



「カイトさま、あのような恐るべき異形に対しお見事です。私……いえ、龍騎士隊が全員で対したところで、一方的に被害もなく討滅することなどできません」



 ルシェは姿勢を正し、極めて真面目な表情でそんなことを言った。



「毎回こうならいいけど、今のは上手いこと転んだだけだよ」


「いえ、ご謙遜を。心ではどこか頷けないものがありますが……それでも私はカイトさまのことを、リシィさま自らが選んだ近衛騎士と認めたいと思います」


「それは、ありがとう……。騎士に大切なのは誰がために何をするかだと、僕は思う。優劣なく、お互いにリシィのために力を尽くしていこう」


「はっ! ルーシス アルドヴァリ、リシィさまとお国がために!」



 僕はただ皆の力を束ねただけなんだけど、それでもルシェは認めてくれたようだ。


 ふと視線を横に向けると、まだ抱き上げたままのリシィが頬を赤く染めていた。

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