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EX11 モリヤマ と ニティカ 後編

 迷宮正門を破壊し、気味悪い墓守……?が姿を現した。



「お、おいイシバシ、なんだあれ!」

「モリヤマ! いいからまず下りろ、防衛設備が稼働する!」



 一目散にこちらに来たイシバシに肩を引かれ、俺も階段を駆け下り始めた。


 階段脇ではすでに六基の三十五式針体拡散発射機が稼働し、三十連装の砲口から漏れる青い光が発射状態にあることを教えてくれている。



 ――パパパンッ! パパパンッ!



 背後からは89式5.56mm小銃の発砲音が聞こえ、だが墓守を相手に豆鉄砲なのはわかっているため、あくまで皆を逃がすための牽制なんだろう。



「病み上がりには堪える……!」

「しっかりしろ! 轢かれたくないだろ!」

「ああ、どうせ轢かれるならトラックだが、ニティカさんと離れるのはごめんだ……!」

「なんだそれ!?」



 退院してからは毎日のようにリハビリを続けてきたが、自衛隊の訓練とは雲泥の差があるのはどうしようもない。

 この場を離れるために体は動くものの、限界を超えて脈打つ心臓と肺と筋肉はすでに悲鳴を上げ、下りきる前に階段を踏み外してしまいそうだ。


 なんでこんな時に俺は……!



 ――キュアアァァァァ……ドパンッ!!



 そんな状態でもある程度の階段を下りたところで、針体発射機が鉄針を放った。



「やったか!?」



 足を止め振り返り、ようやく俺はその融合墓守・・・・の全身を確認する。



「ダメだ……! 奴はこの程度(・・・・)じゃどうにもならない……!」

「あれが墓守だって!? どう見ても魔物だろ、イシバシ!?」



 “融合墓守”、最近よく現出するようになった墓守と魔物の融合体だ。


 実際には、墓守の生体組織がエウロヴェの支配を失い暴走した結果、周囲の生体を取り込んでなってしまったものらしい。

 詳しくはわからないが、今階段上にいる個体はどう見ても墓守ではなく、記憶の中にあるとしたら“スライム”でしかない。それも“キング”なんかを冠する。


 ぶよぶよとした灰褐色の体は透明なゲル状で、全高十メートルを超える迷宮正門を覆い隠してしまう巨体に墓守と認識できる箇所は……いや、内部に四足歩行動物を模した機械のフレームだけが見えている。まじか……。

 そうか、ゲル状が肥大化して装甲を押し上げ、言わば“アーマードスライム”とでも言うべきものになってしまっているんだ……! 意味がわからん……!



「効果なし! モリヤマ、下りるぞ!」

「わ、わかった……!」



 そして、鉄針は装甲にいくつかが突き刺さったもののほとんどはゲル状体で止められ、内部フレームにまで到達するものは一本もなかった。



「おい、虎の子の01式軽対戦車誘導弾(マルヒト)はどうした!?」

「もう撃った! 結果は見ての通り!」

「効果なし!? 嘘だろ!?」


「あんな姿でも【イージスの盾】が機能している! 抜けたとしても装甲とゲル状体に阻まれどうにもならん! 奴は柔硬が揃って洒落にならんぞ!」


「なんでそんな奴が……!?」



 現状の装備ではどうにもならないと認識した瞬間、背を熱風が叩いた。


 今一度振り返ると、ニティカさんが身長の倍ほどもある焔剣を振りかぶり、融合墓守を袈裟斬りにするところだった。

 それだけでなく、多くの探索者が街への侵攻を阻まんと立ち塞がっている。


 だが分が悪い。ゲル状体は触手状にも変化し、その柔軟さで多くの探索者による攻撃を凌ぎきっているんだ。

 陸戦大蟹カルキノスをぶった斬ったニティカさんの焔剣も、斬れはしても内部フレームにはわずかに届かず、スライムの討滅にまで至らない。



「イシバシ、なんでもいいから武器を貸せ」

「おまっ!? 病み上がりが何を言いやがる! それにきそ……」


「規則だとか規律だとか言ってる場合か、ここは日本じゃないんだ。護国の衛士が踏ん張らず街に敵を招いてどうするよ!」


「ああ、くそ……。綺麗事で誤魔化したようだがな、本当はニティカさんにいいところを見せたいだけだろ!」

「あったりめえよ! クサカだってそれで世界まで救っただろうが!」

「モリヤマにしても、クサカさんにしても、揃いも揃って大バカだ! 行くぞ!」

「お、おい、武器……」

「武器は貸せん! そうまで言うなら体を張れ!」


「せめてプラスチック爆弾(C-4)を頼む!」

「しかたねえなあ!」



 俺たちは迅速かどうかはともかく、やり取りを終えて階段を駆け戻った。


 無謀かもしれないが、自衛隊員としてルテリアには一歩たりとて侵入を許さず、何よりも惚れちまった女性ひとのために体を張る。


 元は一般人だったクサカにできて、俺にできないわけがないだろうが!



「シラキ!」

「モリヤマ!? なんで戻った!?」



 探索者に紛れ、戦闘支援をしていた残りの分隊員七人が一斉にこちらを見た。



「カジさん! いえ、分隊長! 俺が突っ込んで穴を開けます(・・・・・・)!」

「モリヤマ、病み上がりが出しゃばるな、ここは俺たちが……」


「支援をよろしくお願いします!!」


「本気か……?」


「覚悟はこの世界に飛び込む前からできている!」


「……全員、モリヤマを支援。何がなんでも通すぞ」


「「「了解!」」」



 さすがに自ら覚悟を決めてこの世界に来ただけのことはある。

 カジ分隊長も皆も、俺の無謀な本気にもすんなりと支援を決めてくれた。


 だが、探索者たちに阻まれながらも、ジリジリと前進を続けるスライムが街に辿り着くのは時間の問題だ。

 この下が迎撃区画とはいえ、元通りになるまではまだまだ時間がかかるからな、なら『別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?』だ!


 そうして、俺たちは探索者たちの合間を縫って前に出る。



「モリヤマ、C-4の起爆装置は短遅延、退避を忘れるな」

「ああ、逃げ足には自信がある」

「背骨をやられたのにか!」

「うるせえ!」


「モリヤマを中央、一切の攻撃を許すな!」


「「「了解!!」」」



 突然前に出てきた俺たちに探索者たちは呆気にとられるも、何かをしようとしているのが伝わったのか、さらに分隊の周りを取り囲むように行動を起こした。



「全隊進め!! 突貫!!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」



 荒々しい雄叫びを上げ、俺たちは一丸となって階段を駆け上がる。


 スライムは迎撃しようと触手を伸ばすも、まずは探索者たちが武器と能力を使って阻み、抜けたとしても仲間が小銃で撃ち落とし俺までは届かない。


 全員で駆ける、スライムに向かい、ただひとつの穴を開けるがために。



「セット、三十秒! モリヤマ、行け!!」



 イシバシが短遅延起爆装置を起動させたC-4を俺に渡した。

 スライムまでの距離はほんの数メートルしかないが、やけに遠く見える。


 だから俺は、仲間たちの護衛の輪を抜け全力で走り、度重なる攻撃で砕けた青い粒子の合間に、スライムのゲル状体に腕ごとC-4を突き入れた。


 これで腕を絡め取られたら終わりとも考えたが、それでもやっちまったんだ。

 だが、そんな心配をよそに腕だけを引き抜くことに成功し、俺は急いで体を反転させると再び階段を戻り始めた。



「マコトはん……!」


「ニティカさん……!」



 そして、階段を駆け下りる俺、駆け上るニティカさん。


 彼女とすれ違った瞬間にスライムの体内でC-4は起爆した。




 だけどまあ……俺はいつも締まらねえよな……。




 衝撃で背を押され、階段を転げ落ちた……。




 ―――




 ……そんなわけで俺は病室に出戻りだ。


 途中で止められ下まで落ちなかったのはよかったが、受身を取り損ねて全身三箇所の骨折、打ち身捻挫に擦り傷切り傷が多数と情けないったらありゃしない。


 スライムは、腹に大穴が空いたあとでニティカさんがぶった斬ったから討滅には成功したが……おかげで彼女の機嫌を損ねて今はおかんむりだ。



「バカ、アホ、また無茶しよって、うちが何を思って保護監督官にまでなったか、マコトはんはよう知らんであんなこと……」


「ニ、ニティカさん、すみません……。力及ばずとわかっていても、護国のためと覚悟を決めてこの世界に来た俺は、何かせずにはいられなかったんです……」


「バカ、アホンダラ」

「ご、ごめんなさい……」



 皮肉なことに病室まで前の時と一緒の部屋で、俺は全身を包帯で雁字搦めにされてベッドの上、付き添ってきてくれたニティカさんに延々と罵られている。


 だが、ここまで心配してくれるなんて、満更でもないと思ってもいいのか……。



「許さへん」

「あ、あの……俺……」


「許さへんから、うちも自衛隊に入る」

「はあっ!? なんでそんな結論に……!?」


「あんな、どうも自衛隊のお人らは、マコトはん含めて体を張る気概があるようなん。悪いことやないけど、墓守や魔物を相手にそれでは体がいくつあっても足らへん」


「特攻精神はあると思います……。帰れないとわかってこの世界に来た時から、俺たちの世界での大戦から受け継がれてしまったものがあるのだと……」


「そやな。だから、うちが全員の性根を叩き直してやるん」

「はあっ!?」

「まずは自分を大事にせなあかん。それを教えたる」

「ええと……本気ですか……?」



 そう問うたものの、初めからニティカさんの表情は真剣そのものだ。

 決めたら頑なに曲げない、どこかかつての大和撫子のような気概まで感じる。



「本気や。もう二度と危険な真似はさせへん、うちはサクランと違って厳しいんやから、ほんま覚悟しいや」


「わかりました……。覚悟を決めます……」



 ニティカさんは、俺の肯定にとりあえず納得したようで頷いた。



「そやな、まずはその堅苦しい敬語をやめてや。ずっと気になってたん」

「え、わかりまし……わかった」


「よき。マコトはん、ほんま無事で良かったわ……」



 そうして、一瞬前まで怒っていたニティカさんはころりと表情を変え、心からの安堵を見せてくれるように不意の微笑を浮かべた。


 クサカも言っていたが、本当に女心とはわからんものだな……。

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