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第五十四話 海賊掃討 鋼鉄の無双艦隊

 ノウェムの警告に、咄嗟に手すりから身を乗り出したと同時にそいつ(・・・)は浮上した。



 ――ガリィイィィッ!! ギゴオオォォオオオオォォォォォォォォォォッ!!



 鋼鉄と鋼鉄とが擦れ合う衝撃は甲板を大きく揺らし、僕はリシィを抱えながら海に投げ出されないよう手すりを掴んで耐える。


 そうして右舷側から浮上したのは、目の前で斜めに突き上げられた潜水艦・・・


 そうりゅう型潜水艦というわけではないようだけど、ひと目で黒塗りの艦体はサビだらけで外郭がツギハギだとわかり、とても潜水に耐えられるようには見えない。

 それでも相手を威圧するには充分な全長百メートル弱の艦体に、形状だけなら僕の知る軍用に類するものがある、確実に攻撃型潜水艦の【神代遺物】だ。


 やがて潜水艦は水飛沫を上げて着水し、衝撃で起きた波とじかに接触したことでカルヴァディオとの距離が少し離れる。



「キュイーッ! 鮫牙四天王が紅一点、“麗しの白髭”マリーリッジ様参上!!」


「イルカじゃないか! 髭もないよね!?」

「キューッ!? マリーリッジ様を前にしてその態度は気に入らないキューッ!」



 このやり取り、つい先ほどもあったな……。


 今度はピンク色のイルカが名乗りを上げ、彼女?は潜水艦の浮上時からすでにセイル上にいたようで、海中でも呼吸ができる水棲種ならではの乗り方だ。

 彼女?に続き、他の海賊たちもハッチから潜水艦の甲板に這い出してくる。


 というか、潜水艦が敵艦の目の前に浮上したらダメじゃないか……?

 隠密性なら水棲種が単独のほうが効果的だし、そもそも潜水艦そのものが【神代遺物】だとしても、対艦戦闘なら魚雷やミサイルを……まさか、用途もわからずに……。



「キュッ!? キュイーッ!! あなた、よく見ると可愛い顔してるキュー。なんなら、このマリーリッジ様のペットにしてあげるから、おとなしくキュイーーーーーーッ!?」



 ――ドンッ! ゴッゴガアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!



「あ……」

「「「あ……」」」



 あまりにも無慈悲……。カルヴァディオの主砲は相手が喋る間も照準を続け、二隻の距離が十分に離れた段階で発砲、潜水艦のセイルごと……名前なんだっけ、確か“キュイー”を吹き飛ばしてしまったんだ。


 やはり、他の海賊は主砲の旋回に気がつきながらも見ていただけだったので、もうなんか相手に同情を禁じえない。


 とはいえ、実際に同情するわけにもいかない。



「サクラ、テュルケ、何もやらせるな!」


「はい!」

「ですです!」



 僕の指示で、二人とポムが甲板上から海に身を投げだした。


 だけど泳ぐわけではなく、すぐ海上に金光の柔壁(やわらかクッション)の足場が形成される。

 すでに彼我の距離はカルヴァディオ四隻分ほど開いていたけど、難なく海上を跳ねるように疾走した二人と一匹は潜水艦の海賊を薙ぎ払い始めた。


 それにしても……サクラもテュルケも水着のままだから、戦闘中にもかかわらず彼女たちの魅惑的ないろいろに思わず視線を奪われてしまう……。

 しかも、このことはこちらの優位にも働いているようで、双丘が揺れるたびに海賊たちの視線まで釘づけにし、中には抱きつこうとして返り討ちにあっている者もいた。


 本能と欲に忠実なあまり、たぶん相手が高等種だと気がついていない……。



「カイトさん! これより本艦と駆逐艦ハシュターは敵艦隊の中央を横切って一網打尽にするそうっス! 流れ弾に気をつけてくださいっス!」



 テッチがそう告げると、カルヴァディオは敵艦隊に向けて舵を切った。



「リシィ!」

「ええ、防御膜をはるわ。ふたりとも離れないで!」

「テッチ、リシィが防御する。傍を離れるな!」

「さすが姫さまっス! マジパネェッス!」


「カイト、んっ!」

「……うん?」

「だっ、だからっ、離れないでと……!」

「えっ?」

「んーーーーーーっ!」

「あっはい」



 僕は両手を広げて抱っこをせがむリシィを抱き上げた。

 こんな状況で忘れているのかもしれないけど、彼女も今は水着姿だ。

 僕は服を着ているけど、吸い付くような柔肌は掌越しでも充分に刺激的すぎる。



 ――ドドドンッガンッ! ドシャアアアアァァァァァァァァッ!



 カルヴァディオは海賊艦隊に囲まれ砲撃を受けるも、炸裂しないただの鉄球弾では装甲を抜くことができず、周囲で小さな水柱が上がるだけに留まっている。

 そんな砲戦の中で聞こえる、カンコンと軽く叩く音は海賊が撃つマスケット銃の弾丸だろう。それもリシィによる防御膜に阻まれ、僕たちには届かない。



「リシィ、持ちそうか?」

「ごめんなさい、さきほどの攻撃で消耗しすぎたわ……。あと五分もてば……」


「やはり、あまり大規模な能力の使い方は負担になるな……。艦は守らなくてもいいから、今は僕たちの周りだけを頼む」


「ええ、それならまだもつわ」



 艦列を入れ替え、カルヴァディオを先頭にハシュターがあとに続く単縦陣で海賊艦隊の合間を進んでいく。


 両艦隊の砲戦は続くも、海賊船のカノン砲ではこちらの装甲をろくに傷つけられず、狙われたら一撃で轟沈の状況に逃げ出す海賊も出始めていた。

 だけど、運よく砲撃から逃れても通り過ぎたあとで船上に火の手が上がる。

 海賊たちは皆がこちらを注視しているため、海上を疾走するサクラとテュルケとポムの姿には気がつかず、不意を突かれ強襲されているんだ。


 テュルケの海上移動も可能にする“金光の柔壁(やわらかクッション)”と、サクラの【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】により、ルテリア艦隊は隠密性の高いもう一隻が存在するに等しかった。



 ――キュアアァァァァッ、キュバッ!!



 そして、こちらにはさらに艦砲よりも長射程の攻撃手段がある。


 アサギの霊子力収束砲ブラスターによる狙撃が、離れた戦列艦の船底を貫いたんだ。


 この時代はいくら【神代遺物】があろうと、来訪者の恩恵を受けていなければまだまだ旧時代的な知識と技術しかない。

 つまり満足なダメージコントロールもできず、どんな攻撃を受けたのかすらわからずに、戦列艦は真っ二つにへし折れて海中に沈んでいく。



「戦列艦はアサギに任せればよいな。主様、小魚・・がうるさいゆえ、あれらは我がやってしまっても構わぬか?」



 状況がこちらの一方的になったことで、ノウェムも空から下りてきた。



「体の負担は大丈夫か? 体内の神脈が正常に戻ってきているとはいえ、まだ完全じゃないんだ。少しでも異変を感じたら戻ってくるんだよ?」


「あい、心配されるのは嬉しいな。この戦が終わりしだい主様と共にくつろごう」



 ノウェムはそう言うと、カルヴァディオの前方に飛んでいって翠光を放った。


 さすがに間抜けな海賊たちも、ようやくセーラム高等光翼種の存在に気がついたらしく、遠目に見てもわかるほどに慌てている。

 だけどこうなってはもう遅い、海面を満たした翠光は大量の海水を巻き上げ、多くの海賊船が下から突き上げられたことで引っ繰り返されてしまったんだ。


 さらにノウェムの攻撃はそれだけに終わらず、彼女がひょいひょいと手を動かすと、それによって浮かされた(・・・・・)海賊船同士が衝突し空中分解している。


 セーラム高等光翼種が“神族”と崇められるわけだ……。



「これならそう時間もかからずに終わりそうね」

「ああ、艦の世代差だけでも、覆すにはよほどの神代遺物が必要だ」


「楽勝っスね! なんせ、自分らは対墓守の精鋭っスからね! 旧時代の帆船じゃ、どれだけ海賊連中が集まろうと一網打尽っスよ! マジパネーッス!」



 装甲巡洋艦カルヴァディオから、駆逐艦ハシュターから、数多の砲火が吐き出され続け海賊船の掃討が続く。


 海上には無数の木片と、船を捨て泳いで逃げようとする数えきれない海賊たち。

 二隻だけでは全員を捕縛することもできず、こいつらを取り逃がしたらまたどこかで人を襲うのかもしれない。歯痒くは思うけど、だからこそ圧倒的な力の前ではどうすることもできないのだと、“恐れ”を抱く者の気持ちをわかって欲しいものだ。


 僕は木片に掴まって海上を漂う幾人かの海賊に視線を向けた。



「おい、おまえら! 海賊行為なんてしないで“探索者”になれ! そのほうが、今よりもきっと、何ものにも代え難い生き甲斐を感じるぞ!」



 これがどれほどの綺麗事なのかはわかっている。

 彼らがすでに犯した罪が赦されるわけでないことも。


 だから……。



 ――ドッ……ゴオオォォオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!



「カイト……!?」


「ひぇええええっ!!」

「おたすけええええええっ!!」

「もうしません! もうしませんっ!!」

「真っ当に働きます見逃してけれぇひぃーっ!!」



 海上で、海賊たちを取り囲む光炎・・が燃える。

 今ならできると信じ、僕が右腕を振るったんだ。


 リシィから与えられたこの黄金の右腕(騎士の剣)を。



「僕がいることを忘れるな! ひとたび悪意を振り撒くのなら、地平の果てまで追いかけ処断する、この世界(・・・・)に“銀灰の騎士”がいることを絶対に忘れるな!!」



 どんな拙いはったりだろうと思い知らせる。


 人は、ただの一人だけでは世界の大きな流れは変わらない。


 だけど僕は、だからこそひとつずつ、世界の不条理を覆して進む。

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