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第二百六十三話 敵中滅刃 紅に燃える剛剣

 高層建造物の崩壊に巻き込まれかけてからわずか、僕たちは再び墓守との戦闘のただ中に踏み入った。

 都市街の谷間を進み黒塔を正面に捉えた段階で、横路のありとあらゆる場所から墓守が襲いかかって来たんだ。


 中型以下はリシィとサクラがそれぞれ光矢と鉄鎚で行動不能に追い込み、テュルケとベルク師匠は貨車を防御する。ノウェムとアサギとブリュンヒルデは空から、強固な【イージスの盾】を持つ大型の注意を引いて抜ける隙を作る。

 討滅する必要はない、邪龍の封じられる封牢結界に辿り着くことだけを考え、今はただひたすらに突き進む。



「アウー、カトーはリシーのあれ出来ない?」

「あれ? 光矢か……。試したことはあるけど、出来たとしても射出が出来ないから、結局は近接して刺す必要があるんだ」

「アゥウー」



 僕とアディーテは大人しくしている。振り落とされないよう、皆の邪魔とならないよう、万が一の時に備え貨車にへばりついていた。



 ――ドンッドゴォッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!



「なっ、何だ!?」

「わからないわ! 周囲では何も……!」



 戦闘の最中に突然の崩壊音。今も空を飛ぶノウェムたちが大型の相手をしているけど、だからと先程の大崩壊に迫るほどの立ち回りはしていない。



「右手です! 建物の向こうから粉塵が!」

「ぬうっ、大きい! これはまさか、彼奴めか!」



 進路上の高層ビル群が、巨大な瓦礫を撒き散らしまたしても雪崩を起こした。


 現れたのはベルク師匠の言う“彼奴”、特大墓守の巨兵(ガルガンチュア)だ。

 いくつものビルを薙ぎ倒し、背側から倒れ込んでよりにもよって軌道を押し潰してしまった。粉塵が空高く舞い上がり、赤茶けた煙がもうもうと視界を奪っていく。


 この状況はまずい。視界を奪われたら音に頼るしかない僕たちとは違い、墓守は熱源や動体検知での行動が可能、直ぐ払い除けるためには……



「くどい!!」



 ズバンッと大気を何か平たいもので勢い良く叩く音と、大きな気球さえも破裂させてしまうような熱を帯びた一声が、鋼鉄の墓標の谷間で木霊した。

 驚くことに、それとともに粉塵は斬り裂かれ、あれだけ視界を閉ざしていた土煙はいとも容易く消し飛ばされてしまったんだ。


 声の主は、真紅の皇女――シュティーラ サークロウス。



「はっ!? まずい、飛び降りろ!!」



 僕たちは皆一斉に貨車の上から路面へと身を投げ出す。

 転がって勢いを殺し、それでも決して立ち止まらずに走り続ける。


 ここまで僕たちが乗って来た軌道車両トラムは、避けることも出来ずに軌道を塞いだ巨兵に突っ込み破砕され、ついには役割を果たさなくなってしまった。


 全員で並走し、この状況でありながらも冷静に周囲を確認する。


 巨兵はそのままビルの瓦礫に埋もれ、まだ路面に倒れたまま。そしてその頭部の上では、全身を紅色に燃やすシュティーラが威風堂々と立ち上がり、これまたそびえ立つかのような真紅の大剣を巨兵に突き立てていた。

 凄まじいことに、巨兵の顔面は幾重にも斬り裂かれ、その分厚いはずの装甲は赤熱し今にも溶け落ちてしまいそうだ。


 彼女の固有能力の詳細は知らないけど、サクラを上回る火系能力の最上位でありながら、リシィとも同じ血系能力でもあると聞く。

 その鬼神の様は陽炎の如く真紅に揺らめき、戦場のただ中で文字通り烈火となってあらゆる物質を溶断してしまっていた。



「シュティーラ!」

「おお、カイト クサカ! リシィに、皆も無事か!」



 シュティーラは駆け寄る僕たちに気が付き喜色を見せるも、その一瞬を突いて上体を起こした巨兵に振るい落とされ……たわけではなさそうで、空中で器用に身を翻しながら僕たちの傍にまで跳んで来た。


 しかも行きがけの駄賃とばかりに、彼女を狙って振るわれた巨兵の右腕を、肘からあっさりと溶断してしまったんだ。



「再会の喜びは後だ! 巨兵の討滅を先に!」

「問題ない。最初こそ面倒だとは思ったが、従えればなるほど優秀だ」


「ん? なんの話……」



 ――ゴォッギイイィィィィィィンッ!! ドゴオオォォォォォォォォォォッ!!



 僕たちの眼前で、不敵に笑うシュティーラの背後で、大怪獣……いや、巨大ロボット大決戦が始まってしまった。


 巨兵が倒壊させた、今も崩れるビルの合間から姿を現したのは阻塞気球スプリガンネスト


 阻塞気球は既に装甲のいたるところが拉げ、脚の何本かも破壊され酷い有様とはなっているものの、その巨体を使って突っ込んで来たんだ。迎撃する巨兵は図体の割に機敏に立ち上がったものの、その直撃をもろに受けて再び仰け反った。


 本来なら阻塞気球は近接戦闘用でないにも関わらず、打ち合う装甲と装甲は甲高い金属音を立て、完全に近接型の巨兵と白兵戦を行ってしまっている。



「どうだ? あの娘アリーは、こいつの扱いにかけては既に相当なものだ。付随する針蜘蛛スプリガンまでこちらの手の内とするからな、おかげでやりやすい。あっはっはっ!」


「シュティーラ! そんな悠長なことを言っている場合ではないわ! ここにいては踏み潰されるわよ!」


「退く必要はない。戦場のただ中にあり、如何ような剣槍も貫けぬのが真の強者たる者。このシュティーラ サークロウス、踏み潰せるものなら踏み潰してみせよ!」


「「「……っ!?」」」



 今この場にいる皆が同じような反応をした。


 シュティーラが持つクレイモアに似た紅色の大剣が霞んだと思ったら、僕たちの背後から迫る墓守の大群まで、巨兵の肘と同様に溶断されてしまったからだ。


 離れた場所への斬撃……ただの火系能力では到底そんなことは出来ない。辛うじて似たようなことが出来るとしたら、封印している僕の“刃槍”……彼女もまた、空間そのものに直接干渉が出来る能力者なのかも知れない。


 そうして、今のたった一撃で追撃する墓守は全てが破壊された。だけど、次から次と建物の合間から増援が現れ、墓守は途絶えることがないようにも思える。



「カイト、リシィ、サクラ、ガーモッド卿、それと名はなんだったか……」

「ふぇっ!? 姫さまのメイド、テュルケ ライェントリトですです!」

「アウー? アディーテー!」


「ふむ、覚えたぞ。テュルケ、アディーテー、今この時より神滅を成さんがため、雪崩と襲い来る墓守の大群に突入する! 臆すことなく私に続け!」


「ああ、元よりそのつもりだ!」

「ええ、私たちはそのために来たの! シュティーラこそ続きなさい!」


「我を忘れられては困る。主様、進路の大型墓守は粗方遠ざけたぞ」



 先行していたノウェムとアサギ、ブリュンヒルデも空から戻って来た。



「ノウェム、ありがとう。後は僕たちについてきて」

「あいわかった」


「ですが、阻塞気球と巨兵よりも更に特大の動体反応が接近しています。到達まで十二分、この場所は更なる猛攻に晒されることとなります」

「更に特大……? 陸上母艦パンジャンドラムか、まだ未知の墓守が存在するのか……何にしても僕たちのやることはひとつだ……。誰かの犠牲を踏み越えてでも進む」


「ふむ、それでこそ英雄の風格。カイト クサカ、以前に誓いを立てたな。私も貴様の剣となり、共に並び立とうぞ」



 墓守の大群が押し寄せる中で皆が頷く。


 それでも、これだけの力が集まろうとも、突破することが出来るかもわからない墓守の大群は、四方八方から僕たちを包囲して襲い来る。


 これよりは敵中突破、如何なる死中にも活を見い出し、見上げるほどに迫った黒塔の基部にまで辿り着かなければならない。



「カカッ! これほどに多いとは。数百……否、数千にも迫る勢い!!」

「私が獣化して迎え撃ちます。ベルクさんも竜化をお願い出来ますか? この程度、二人なら或いは何とかなるかも知れません」


「その必要はないワッ!! ここにはアリーがいるのヨッ!!」



 意気を表したサクラとベルク師匠の傍に、どこからともなくアリーが降って来た。

 彼女はまさかの針蜘蛛スプリガンに跨がり、その腰には振り落とされまいとしがみつく大男、ミラーまでいる。



「アアアリー、今のは肝を冷やしたでゴザル! これは乗り物じゃないでゴザル!」

「ミラー、シャラップ! 元デルタフォースが高所落下を怖がるんじゃないワ!」



 二人とも相変わらずのようで、全身ピンク色の装いと、やはりどうにも情けなく感じるゴザル口調の大男が、今はもうとても頼もしく感じられる。


 そして声が、勝利を招き寄せる英雄たちの歌が、廃都市の空に高らかに響く。

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