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第二百五十八話 戦場のただ中で

 僕たちが乗り込んだ軌道車両トラムは、軌道の左右に配されている青光の溝によって浮上走行が可能と、磁気浮上式リニアモーターカーと似た構造となっていた。


 それにしても神力、かつては霊子力とも呼ばれた力が万能すぎる。空間どころか次元そのものに干渉し、それに付随するあらゆる現象を引き起こしてしまうんだ。

 この力は当然【惑星地球化用龍型始原体テラフォーマー】がもたらしたものだろうけど、そもそもがどこから(・・・・)発生しているのか疑問の余地は多い。



「出発します。一応は戦闘車両ですが、【イージスの盾】は搭載していないのでご了承ください。リシィ様、光結界による防御をお願い申し上げます」


「ええ、まかせて。攻撃はブリュンヒルデに任せても良いのね?」

「私ではなく、軌道車両トラムに備えられた砲が迎撃を行います。中型墓守までならこれで問題ありません」

「そ、そう、何にしてもお願いね。頼りにしているわ」

「お任せください」



 軌道車両トラムは三両、まず戦闘車両となる一両目はパッと見は装甲車のような外見で、上部に五十四口径百二十七ミリ単装速射砲が搭載されている。

 僕たちの乗る二両目は左右の壁際に座席が配された兵員輸送車両で、自動化された機関砲が二基二門、最後尾の三両目は屋根もないただの貨車だ。


 体の大きいベルク師匠とベンガード、ローだけが貨車に乗り、他の皆は二両目でとりあえず座席に腰を下ろしている。

 アサギは何やら強化外骨格パワードエクソスケルトンから繋がる端子を車両のパネルに接続していて、聞くと一言だけ「……使う」だ。強化外骨格を介して機関砲を使用するつもりなのだろう、事前にブリュンヒルデから権限を移譲されていたことからも間違いはないはず。


 そして、起動直後に一瞬だけ浮遊感を感じた後、軌道車両トラムは音も振動もなく滑るように動き始めた。

 窓もないことから、小さな覗き窓から外を見ないと動いていることがわからないほど静かに進んでいる。中枢まではおよそ二十分とのこと。



「ティ、ティチリカ……あまりニヤニヤと眺められても……」


「そんなこといっても、目の前だから仕方ないノン~。カイトさんは始めて会った時からず~っと女の子をはべらして、貴族のお坊ちゃまみたいだノン~」


「違うよ!? 精神的に負担をかけたから休んでもらっているだけなんだ!」


「口では何とでも言えるノン~」

「ぐっ……!?」



 ティチリカにつっこまれる今の僕の状態は、左隣にリシィ、右隣にサクラ、膝の上ではノウェムが脚をぶらぶらとさせ、テュルケとアディーテも傍にいることから、他人からは間違いなくハーレムとしか見えないだろう。


 ブレイフマンの件で特にリシィとサクラには大きな負担をかけたから、今のうちに腰を下ろして休んでと言ったらこの状態なんだ。

 ティチリカとのやり取りでサクラは頭を上げてしまったけど、それまでは目をつむり僕の肩に頭を乗せていたから、余計に言い逃れは出来なかった。



「あ、あの、ごめんなさい。カイトさんのご迷惑だったでしょうか……」

「いやっ!? サクラにはとても助けられたから、今だけと言わずいくらでも思うようにして構わないよ!」

「あ……ありがとうございます。ここではあまり休息も出来ませんから、今はこれで充分な報いを頂きました」


「サクラはともかく、ノウェムは何故いつもカイトの膝の上なの!? うら……カイトこそ誰よりも負担を感じていたはずなんだから、貴女は下りて労りなさい!」

「何を言うておるのだ。我は自らの体をもって主様に体温を伝え、こうして安らげるように温めておるではないか。充分に労っておると思うが?」



 あ、あれ……ここは敵地のど真ん中だったよな……!?

 本格的な戦いが目の前だという緊張感を……もう少し……。



「ふぇっ!? それでしたら、私もカイトおにぃちゃんを温めますです!」

「ふぉっ!? テュルケさん、それはまずいでむぎゅぅっ!?」

「テュルケ!? どさくさに紛れて何をしているのっ!?」

「それでしたら私も……」

「サクラッ!?」



 あばぶ……テュルケはリシィの隣で大人しくしていると思っていたら、一瞬で目の前に来て僕の頭を抱え込んだ。

 そう、お胸様の化身である彼女の抱擁は、極上の天国に誘われる夢見心地を敵地のただ中にありながらもたらしてしまったんだ。


 こっ、これはあれか、きっと逆なんだ! 冷め止まない緊張の中にいるからこそ、少しでも落ち着こうと人肌を求める。そうに違いない……。あれ……だけど何か、テュルケは更に大きく……。違う、そうじゃない。



「ふぐぐ……ふはぁっ! テュルケ、落ち着いて! みんなも!」


「ふえぇっ、ごめんなさいですです! 姫さまたちが帰って来てから、あんまりゆっくり出来てなかったので……思わずですですっ!」

「そ、そうよね……カイトの世界で一緒にいた私とサクラと違って、ゆっくりと休める時間があまりなかったのよね……。わかったわ……墓守に遭遇するまでなら、主である私が、主である私が、許すわ」



 リシィは大事なことだと言いたげに繰り返した……。


 ティチリカとヨルカは対面の座席に座り、そんな僕たちのやり取りをものすんごい生ぬるい眼差しで眺めている。



「なあティチリカ、軍師のパーティはいつもああなのか?」

「始めて会った時からあんななノン。ベンガードと違って、カイトさんは誰彼構わず来るもの拒まずなノン~」

「アウー、私にもいっぱいお肉くれる! カトー、いいやつ!」


「それだと僕がただの節操なしですが!?」



 宇宙に上がる緊張、戦闘の中にある緊張、そして邪龍に対する緊張、その全てを一身に受けながら心も体も強張り、時として解されまた強張る。その繰り返しでここまでやって来たけど、やはり未だこの状況には慣れないな……。


 一匹狼を気取るつもりはないけど、僕は青春時代の大半を一人で過ごしたせいで、回りに必ず誰かがいる状況はどうにも馴染めないんだ。

 嫌ではなくむしろ心地は好いけど、人との、それも女性との触れ合いは戦い以上に緊張してしまう。


 今更なことだけど、隅で気配を殺し静かにしているラッテンを見て、あそこなら落ち着けそうだ……と思ってしまう。

 それに、強化外骨格の下で表情がわからないにも関わらず、どうも遠巻きにしているアサギの視線がチクチクと刺さっている気もするんだ。



 ――ドバンッ!!



 そんな、ほんの少しの平穏なやり取りの最中、突如として発砲音が響いた。

 続いてトンネルの内部を空気が切り裂かれる音が聞こえ、断続して鈍い金属の弾着音、爆発音が木霊し、軌道車両トラムの装甲を叩く衝撃まで座席越しに伝わる。



「ブリュンヒルデ!?」


「接敵、撃破。六分の観測誤差、トンネル内の監視網に穴があるようです。防衛システムに敵性干渉、三パーセントを奪還されました」


「くっ、もう休憩は終わりか……! 残敵は!?」

「計測不可、衝撃に備えてください」



 ――バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!


 ――ドバンッ! ヒュオオォォォォッ……ゴンッドゴォオオォォォォッ!!



 僕は立ち上がり、ブリュンヒルデが見ているディスプレイに駆け寄る。

 正面カメラの映像には、トンネルの天井に備えられた機関砲がこちらに発砲し、また軌道車両トラムの主砲により直ぐ破壊されている様子が映し出されている。


 断続する発砲音は乗っ取られたものだけでなく、アサギが操作する機関砲も迎撃に加わりトンネル壁に張りつく針蜘蛛スプリガンを攻撃していた。



「リシィ、防御を!」

「もうやっているわ!」



 振り返って見ると、リシィは既に黒杖を抜き金光を車外へと放出していた。

 軌道車両トラムは予定通り光結界に包まれ、敵中を突破する弾丸列車となったんだ。



「カイト様、守護騎士ガーディアンを先頭とした無数の墓守にトンネル内は埋め尽くされ、脱線の可能性が急上昇中。対処をお願い申し上げます」

「なっ!? 止むを得ない、銀槍で無理やり貫き通す……!」


「良いねえ、たぎってきたさねっ! アタイに任せなっ!」


「ヨルカ!?」



 振り落とされる危険を承知で車外に出ようとしたところ、ヨルカが止める間もなく上部ハッチから滑り出て行ってしまった。


 軌道車両トラムは加速し、弾幕が光結界を叩く。トンネル内を流れる大気すらも暴風となる中、陸に上がった水棲種に果たして何が出来るのだろうか。


 【天上の揺籃(アルスガル)】の中枢を間近に控え、僕たちは墓守の群れに遭遇した。

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