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第二百四十九話 強襲 対アマテラス撃滅戦

 アルテリアが右舷側斉射、主砲六基十二門の艦砲射撃を開始する。


 十二本もの青光は尾を引き、機動部隊を追い越し大きく曲がりながらも、ただの一発も逸れることなくアマテラスに吸いこまれて行く。



 ――キュバッ! ドドドオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!



 暗い宇宙に青光の花が次々と炸裂する。


 操縦席にまで響く爆発音は合成されたもので、実際の音は聞こえない。音が伝わらない宇宙空間だからこそ、頼れない聴覚にあえて機械的に入力しているんだ。

 音の聞こえる方向は、戦のただ中にいて何よりも大切な情報のひとつだから。


 続いてアルテリアの十二門斉射が、間断なく二射、三射と放たれる。それも全て見事に全弾命中、人ではあり得ない絶技はアシュリーンだからこそ成し得る技だ。


 しかし、直ぐに一斉射で二倍に近い砲撃がアマテラスからも放たれる。



『全弾命中、アマテラス発砲、両舷最大戦速、本艦は大型デブリに退避します』



 接敵から加速と減速を繰り返していたアルテリアは、ここに来て速度を上げ大型デブリの陰にその艦体の全てを隠した。


 アマテラスの砲撃は容赦ない。尾を引く青光は二十本を越え、全弾が直撃すれば防御区画全損からのニ斉射で主艦体まで破壊されると予測されている。

 こちらは戦艦級の根源霊子炉シクスジェネレーターが一基に対し相手は要塞級が二基、その出力差はどう足掻こうとも真正面からの砲撃戦ではこちらが不利だった。



 ――ゴオォォッ! ドドドドドドドドッゴォンッドオオオオオオオオォォォォッ!!



 アマテラスの砲撃は、今度こそアルテリアを正確に捉えていたけど、かつてのオービタルリングの大型デブリが遮蔽となりまずは防ぐことに成功した。

 その破壊は巨艦を隠すほどの残骸に亀裂を発生させ、デブリの構造物が燃え広がっているのか、橙色の小規模な爆発が内部で炸裂している。



「アシュリーン、損害は!?」


『艦体損害なし、デブリ崩壊までニ分四十四秒。カイト様、今のうちに』


「ああ、目的を果たす、全機突撃! リシィ、頼む!」

「ええ、やるわよ! アシュリーンが私たちを守ってくれるように、私たちもアシュリーンを、アルテリアを守り抜くの!」



 アルテリアを囮に、僕たち機動部隊は更に加速を始めた。


 アマテラスの砲撃は止まらず大型デブリに雨のように降り注ぎ、それごとアルテリアを破壊し尽くす勢いで次々と弾着している。

 抉られる残骸が砕けてしまうのは時間の問題だ。僕たちはそれまでに何としてでもアマテラスを破壊し、【天上の揺籃(アルスガル)】への道を切り開かなければならない。



「月輪を統べし者 天愁孤月を掲げる者 銀灰を抱く者 白銀龍の血の砌 打ちて 焼きて また打たん 万界に仇する祖神 銀槍を以て穿て 葬神五槍――」



 神唱――アメノハバキリの操縦席に、機体の周囲にも銀光が瞬いた。

 銀光は収束し、右手に持つ霊子力槍エーテルランスの表面を覆い、そのものを銀槍に変える。


 霊子力槍はそのために作られたものではないけど、霊子エーテル……即ち“神力”を介するものなら、システムを伝っての顕現も可能。


 そう、僕たちはいつもと同じ、槍を掲げて死中であろうとも貫徹するのみ。



「禍神を滅する龍血の神器――【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】!!」



 リシィの一声で、霊子力槍を芯にしたかつてない長大な銀槍が顕現する。


 霊子力槍の正確な諸元は全長十七メートル。つまりその全長の全てに“侵蝕”の特性を持つ神槍が、アメノハバキリの武器となったんだ。


 目前に迫ったアマテラスの生体組織からは、竜騎兵ドラグーンがまるで生まれ出るように次々と放出され、ディスプレイ上の数値によるとその数は三桁にまで及んでいた。



『“対亜神種用装甲機兵ヴァンガード”突撃、対龍種生体用妨害電波照射“有効”、アマテラス対宙防御砲火圏、迎撃来ます!』



 アルテリアよりも更に圧倒されるほどの巨艦が目の前にある。


 ちびアシュリーンは槍と盾を構え、その場で突進するコミカルな動きをしているものの、その声音は珍しく言葉尻だけを跳ね上げた。


 そして、先行する味方“対亜神種用装甲機兵ヴァンガード”の編隊に、目も眩むほどの防御砲火の火線が伸び到るところで橙色の閃光が炸裂する。

 竜騎兵の数は更にカウントを伸ばし九百機と表示されているけど、こちらが放った妨害電波により高速機動中の衝突を起こしているようだ。


 妨害電波を発しているのは、編隊の最後尾を飛ぶ六機の電子戦機。

 見た目はF-117 ナイトホークのような、直線で構成された独特な三角形の機体だけど、別にステルス性があるわけでも攻撃機となるわけでもないらしい。



「アシュリーン、細かい制御は任せる!」


『アマテラス、【イージスの盾】出力九十二パーセントまで低下。【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】貫徹域まで追撃します。カイト様、リシィ様、ご存分に』


「カイト!」

「ああ、行こう!」



 “対亜神種用装甲機兵ヴァンガード”に続き、戦闘機編隊も防御砲火の中に飛び込む。


 味方の数は相手に比べて少なく、“対亜神種用装甲機兵ヴァンガード”が十六機、戦闘機が三十六機に攻撃機が十二機、プラス電子戦機だ。

 炸裂する防御砲火の中で、大型の盾を構えた“対亜神種用装甲機兵ヴァンガード”が囮となって前線を構築し、その隙を突いて突入した攻撃機がマイクロミサイルを発射、満足に機動出来ない竜騎兵を撃破していく。


 初動こそこちらが優勢に見えるけど、数の上では向こうが圧倒的な優位でまず確実にミサイルが足りない。更にはこの後で【天上の揺籃(アルスガル)】が控えているとなると、少しの綻びが作戦全体の瓦解に繋がることは避けられないだろう。


 だから、わずかな時間で一気にアマテラスを沈める。



『カイト様、ブリュンヒルデが盾となります。進路そのまま』

『……進路上の竜騎兵は私がやる』



 戦闘機編隊と別れ操縦桿を引いた僕たちは、アマテラスの生体組織の合間を縫うように上昇を始めた。

 アメノハバキリの前ではブリュンヒルデが盾を構え、アサギの強化外骨格パワードエクソスケルトンは更に先行して進路上の竜騎兵を破壊する。


 巨艦となればなるほどに死角が多く、また小型機に取りつかれた時の砲旋回も間に合わない。直掩さえどうにかすれば、支援艦隊のない艦にやりようはある。



 ――ドオオオオオオォォォォォォォォォォォォンッ!!



 アマテラスの艦首直上、その光景を目にしただけで脂汗が滲んでしまうほど、多数の長砲身大口径主砲が次々と轟音を発している。

 伸びる青光の砲火は宇宙に落ちる大滝の如く、見ているだけでありもしない大気が震えているようで、遠方のアルテリアが隠れる大型デブリを狙い続けていた。


 いや、アルテリアは姿を晒している……!?

 【イージスの盾】を削るために追撃しているのか……!



「くっ、これ以上はさせるか!」

「出力最大、光結界も全力よ! カイト!!」


「ああ! アメノハバキリ、戦線に風穴を開ける!!」



 銀槍を構えフルスロットル、艦首は一瞬で遥か後方に流れ、アマテラスの艦上で一列に並んだ主砲が眼前に迫る。

 機体を包みこむのはリシィの光結界と【イージスの盾】。何よりも鋭く、宇宙空間を翔け行く銀光となったアメノハバキリは、アマテラスを強襲する。



 ――ギッキイイイイィィィィィィィィィィッ!!



 だけど、後わずかで主砲塔に矛先が届く位置で、銀槍はアマテラスの【イージスの盾】に阻まれてしまった。


 青光の波紋が広がり、アメノハバキリのメインスラスターもまた青光を噴く。



「ああああああっ!! 貫けええええええええええええええっ!!」



 僕は銀槍を引き、機体耐久を無視した全力の突きを放つ。


 それは偶然だったのだろう、アマテラスがこちらに対して主砲を旋回させたことで、【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】は砲の可動部に突き刺さった。


 そのひと突きが何をもたらしたのか、青光の波紋はひび割れに変わり、ひび割れは青光の粒子を撒き散らしながら巨艦の全てを覆っていく。





 ……後はもう無我夢中だった。


 砲撃を止めるべく、フルスロットルで主砲も艦体も区別なく突き抜けたんだ。

 六、七……八基ほど主砲を貫いたところまでは覚えていて、最終的に宇宙空間でアシュリーンによる自動操縦が機体を反転させると、アマテラスの青光を噴き出すエンジンノズルを見下ろす位置にいた。



 ――ドンッ! ドドンッキュバッ! ドオオオオォォオオォォォォォォォォッ!!



 そして、アマテラスの艦上が艦首から艦尾まで一直線に大爆発を起こした。


 青色と橙色の混じった爆発は、真空の中では長続きせず直ぐ萎むように鎮火するも、次々と起こる爆発はそれ以上に艦上構造物を無残にも破壊していく。


 これなら……。



『アルテリア最大戦速。カイト様、本機を一時退避させます』


「……えっ?」


『カイト、退けえぇっ!!』

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