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第二百四十七話 “アメノハバキリ”

「クサカ、操縦桿を引き過ぎるな、スラスター配置の関係で全力機動中は失神しかねん。アシュリーンの補助は入るだろうが、それだって限界はある。こいつが継ぎ接ぎなのを忘れるな」


「はい、無茶はしません。やるべきことだけをやるようにします」



 親方から諸注意を受け、僕とリシィは有人正騎士に乗り込んだ。


 稼働試験はしたものの、操縦自体はマニュアルを読んだのと模擬訓練を仮想現実上で二時間ほど行っただけ。一応スコアは“優良”、これまで多くのスペースシミュレーターをプレイしてきた経験が多少は役に立つようだ。


 ゲーマーの意地と経験は、今ここでこそ本領を発揮させてもらう。



「クサカくん、武器は要望通り“槍”を整備しておいた。ライフルとかバズーカとか飛び道具もあるが、本当に良いのか?」

「助かります。使い慣れたものが一番ですから」


『カイト様、光学観測でアマテラスを確認。後十二分で有効射程に到達します』



 サトウさんとの話の最中、アシュリーンから通信が入った。


 操縦席のサイドディスプレイに、アマテラスの艦影が小さく映し出される。

 まだ肉眼で見える距離ではなく、あくまでもアルテリアの観測によるものだ。


 双方の周囲には、崩壊したオービタルリング【天の境界】の一部が、今も大量のデブリとして宇宙空間を漂っている。

 余程大きな残骸でない限りは、アルテリアの【イージスの盾】を貫通することもなく艦体に損害はない。だけど一度戦闘が始まってしまえば、この残骸の遮蔽すらも有効的に活用出来た側が勝利するのは自明の理だ。


 既にこの時から、戦闘航路の選定から勝負は始まっている。



「リシィ、出撃の前に何かないか?」

「ん、なにを……そうね、終わったら二人だけの時間が欲しいわ」

「うん? そんなことは別に約束せずともいつでも作るよ?」

「良いのっ! カイトは誓ってくれるだけで良いのっ!」


「あ、ああ、龍血の姫にかしずく“銀灰の騎士”の名に誓うよ」


「絶対に忘れないでよねっ! 絶対に絶対なんだからっ!」



 んー? まだリシィは緊張しているのかな、やけにツンツンとしている。

 いや、この状況で冷静でいられることが難しいのはわかっているけど、だからこそ何ひとつ取りこぼさないよう、彼女に代わって僕が冷静でいよう。



「クサカ、最終チェックだ。閉めるぞ」

「はい、お願いします」



 親方がタブレット端末を操作すると、搭乗口が上から閉まり始めた。

 扉はそのまま胸部装甲となり、備えつけられた正面ディスプレイや各種計器類も操縦席まで下りてきてロックがかかる。

 そして、既に稼働状態にあったオペレーティングシステムが、僕の操作を待たずに各種チェックも始めていた。



「えーと……アシュリーンか……?」

『お気付きでしたか、こちらからも支援します』



 正面ディスプレイは上中下と分割して並んでいて、その中央の端に黒メイドのちびキャラが律儀にお辞儀しているんだ、気が付かないわけがない。


 ディスプレイ上のちびアシュリーンは、何やら虫眼鏡で観察するコミカルな動きをしているけど、これは完全にお遊びだよな……リシィは和めるかな?



「かわいい……」



 和んでた。



『各部異常なし、システムオールグリーン、動けます』


「リシィ、いつも通りで良い。大きい鎧を纏っていると思って」

「ええ、大丈夫よ。出力の調整と防御に全力を尽くすわ」



 僕は問いかけながら後部席のリシィを見た。

 彼女の瞳の色は緑にほんの少しの青、緊張はしているようだけど、数時間の慣熟訓練で狭い操縦席に多少は慣れることが出来たようだ。


 機体の外では、整備用のキャットウォークが親方を乗せたまま離れていく。

 少し離れた場所ではサクラやノウェムたちが見守り、隣接する格納庫からはルコと、強化外骨格パワードエクソスケルトンを装備したアサギも出撃準備を整え出て来ていた。


 味方機はどれも白色の中、彼女が装備している強化外骨格は青色に塗り替えられている。パイロットスーツも青と黒だからバーソナルカラーなのか、そういえば浅葱・・は青系の……それも青光に良く似た色だな……。


 強化外骨格は宇宙空間での活動も可能な完全密閉型で、やはり騎士型のデザインは神代の流行りだったのか直線的で流麗な形状をしている。

 武装は右手にライフル、左手にガトリング砲、更に背面武装ラックにはSFチックな長砲身砲が一基と、諸元を確認すると小型霊子力砲(エーテルカノン)の一種らしい。


 僕は外部スピーカーを起動してアサギに話しかけた。



「アサギ、まだ怪我が治っていないだろう? 無茶はダメだよ」

『……わかっている』



 アサギはバイザーを上げ、何でか拗ねたような表情で頷いた。



「それなら良いんだ……。親方、動きます!」

『実際の動作検証はまだだ。アシュリーンのお墨付きだが気をつけろ』



 僕は親方の「GO」という手の振りに合わせ、フットペダルを踏みこんだ。


 三次元フットペダル、これはモーションキャプチャーによってあらゆる傾きや捻りまで拡張入力され、慣れると非常に滑らかに機体の脚を動かせるようになる。


 ……と言う話だったけど、ただの一歩で操縦席は縦に大きく揺れてしまった。



「うっ……けほっ……」

「あ、ごめん、リシィ……」

「だ、大丈夫よ……」


『上下動を自動修正します、随時フィードバックしますのでご存分に』

「ありがとう、アシュリーン」



 二歩目、揺れが小さくなった……本当にアシュリーン様様だ。



『良し、クサカ、一時待機。三番から槍を取れ、先に護衛機を出す』



 親方の指示に従って一時停止し、格納庫の脇に設置された武装ラックから、機体の頭頂高と同じくらいの長さの槍を取り出して装備する。

 その間も格納庫内では他の隔壁が開き、三層に折り重なって格納される航宙戦闘機が順次重力カタパルトの上に誘導されてきた。


 戦闘機もアシュリーンが動かしているようで、パイロットは乗っていない。

 形状はロシアの概念実証機Suー47に似ていて、主翼が逆V字になっている機体だけど、残念ながら人型には変形しないらしい。

 航宙戦力としては、騎士型の“対亜神種用装甲機兵ヴァンガード”ではなく戦闘機が主力となり、後は強化外骨格を装備した忌人“対亜種汎用機兵アマルガル”の三種で全てとなる。


 重力カタパルト上に青光が灯り、戦闘機が次々と射出されて行く。



『カイト様、直掩につきます』



 足元にはブリュンヒルデ。武装は竜騎兵ドラグーンと同じものらしくヒートランスと砲盾で、それ以外は平時と変わらず人のように見えて呼吸は必要ないらしい。



「ふぅ……流石にまた緊張してきたな……」

「大丈夫よ、私も皆もついているから。カイトだけに背負わせないんだから」

「うん、僕もリシィの傍からは離れないから、必ず一緒に帰ろう」

「ええ……まだやることはあるもの、カイトと、テュルケと、皆と必ず帰るの」


『クサカ、良いぞ。発艦は自動だ、あまり力まずにな』

『カイト様、リシィ様、ともに心拍が上がっています。ご安心ください、機体の安全は私が保証し、必ずや帰還にまで導きます』



 親方は重力カタパルトを指し示し、ディスプレイ上のちびアシュリーンは胸の前で両手を握り締めたやる気のポーズで、僕たちの不安を取り除こうとしてくれた。


 そうして背中を押された僕はフットペダルを踏み込み、青光が発艦方向に流れて灯る重力カタパルトの上まで機体を進ませる。



『カイトさん、リシィさん、ご武運を!』

『主様、リシィ、くれぐれも無茶をするでないぞ!』

『姫さま、おにぃちゃん、絶対の絶対にっ、一緒に帰りますですです!』

『何と優美な様か……カイト殿、姫君、武勲をお祈りいたす!』

『アウー! カトー、リシー、くさいおにくやっつけるー!』


『カイくん、リシィちゃん、怪我しないでね! ちゃんと帰って来てね!』

『クサカ、進路は空いてる。いつでも好きな時に行け』



 皆の見送りに、強張った肩の力が和らぐのを感じる……ありがたい。



「サトウさん、そういえばこの機体に名前はあるんですか?」

『試験機だけど一応、自分の中では決めてある』

「なんですか?」


『“アメノハバキリ”、龍退治といったらこれだろう』


「なるほど……。だけどそれだと尻尾を斬ると欠けますよね」

『えっ、そうなのか!? それは知らなかった、何かもっと……』

「いえ、験を担ぐには充分です。また八岐大蛇が出て来るかも知れませんし」


『それなら良いんだが……。クサカくん、機体を傷つけるなとは言わない。機体を傷つけてでもお姫さまと帰って来てくれ』


「当然です、行ってきます」



 僕は操縦桿を握り締め、重力カタパルトの先の暗い宇宙を見据える。



「カイト、リシィ機、“銀灰の騎士(アメノハバキリ)”、出る!」

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