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第二百四十四話 浪漫の行き着く先

「複座……?」



 リシィと共に覗き込んだ操縦席には、前にひとつ後ろの少し高い位置にもうひとつ、二つの席が備えられていた。


 サトウさんはその脇でタブレット端末を操作している。



「どうだい、大したもんだろう? テュルケちゃんが鹵獲した有人労働者(ワーカー)のシステムがあったからこそ、正騎士ロードナイトを有人機に組み上げることに成功したんだ!」


「テュルケが……?」

「ああ、テュルケが盗賊を捕らえた時の!」

「あっ……そういえば、そんなこともあったわね……」



 あれは確か、僕とリシィが街に出掛けてアリーと遭遇した時だ。


 テュルケは一人で包丁を研ぎに出て、親方からのおつかいを受けて向かった先で盗賊に遭遇、その相手が使っていた【神代遺物】が“有人労働者”だったそうだ。


 あの後から、親方とサトウさんは技術者を引き連れ工房の奥に籠もっていたから、その頃からこつこつと墓守を有人機に改造していたんだろう。



「いや、執念ですね……」


「そりゃそうさ! 男の浪漫がこの世界にはある! それはそうと、早速神力の循環試験をしたい。お姫さま、後ろの席に座ってもらえるかい?」


「え、ええ、座るだけで良いのかしら?」

「肘かけに球体があるだろう? 手を置いて神力を流してもらいたい」

「これね、わかったわ」


「サトウさん、僕は?」

「クサカくんにはマニュアルを渡すから、それを読んでもらえば良い」

「そんな簡単に操縦が出来るもんですか?」

「実際は機体のOSにアシュリーンが接続して補助を受ける形になる、車の運転が出来れば何とかなるはずだ。とりあえず前の席に」

「アシュリーン様様だ……」



 リシィが後ろの席に座った後、僕も前の席に座った。


 椅子の座り心地は固く、脇は人一人が通れるほどの空間はあるものの、狭さ故に操縦桿以外の計器類が開いたままのハッチ側に設置されていて、今のところは本当に座っているしかやることがない。


 ただ、この操縦席に座る感覚はワクワクせざるを得ず、つい緩みそうになる頬を我慢しながら首を回して背後のリシィを見た。



「おっ……!? ごっ、ごめんなさい!」

「ん……カイト、突然どうしたの?」

「何でもないです大丈夫です!」

「変なカイト?」



 うわビックリした……。何故かって、ヘッドレストの脇から覗き込んだ時の高さが、丁度後部席に座るリシィの腰の高さだったからだ。


 流石にお姫さまだけあって膝は閉じられていたものの、広がったスカートの隙間からは白いふとももが深くまで露わになってしまっていた。

 紳士的には、これ見よがしにまじまじと視線を送るわけにはいかない。だから僕は咄嗟に顔を逸らしてつい謝ってしまったんだ。


 うーん……リシィを見る時はヘッドレストを上手く使うこととしよう……。



「なるほど、問題はなさそうだ。後は調整だけで動かせる」


「えーと、それはつまり、リシィを【虚空薬室ヴォイドチャンバー】の代わりにするつもりですか? 動かせたら戦力になりますが、彼女を燃料の代わりにするのは了承しかねます」



 【虚空薬室ヴォイドチャンバー】とは言わば神力を貯め込む“万能燃料庫”。そのものが持つ力で亜空間に存在し、またあらゆる兵器の燃料ともなる、神代の最たる核心技術だ。

 距離も関係ない。一種の座標を端末が認識していれば、枯渇するまではほぼ無限に近いエネルギー供給を受けることとなる、別名“霊子力庫”。


 これこそがまさしく、星の命を削ってまで実現する今の世界の“チート”だ。



「そっ、それは確かにそうなんだが……。お姫さまの神力を呼び水に、根源霊子炉シクスジェネレーターのロックを外せるかも知れないんだ! クサカくん、頼む! 少しだけ!」


「カイト、私はやれることの全てをこなして邪龍に対したいの。私に出来るのなら、このくらいはなんてことないから、やるわ」

「うっ、リシィがそう言うのなら……。ただし、彼女の神力を吸い上げるようなことは絶対に許さない。サトウさん、必ず【虚空薬室ヴォイドチャンバー】に繋げてください」


「わかった。技術者の矜持に懸け、クサカくんとお姫さまに約束する」



 サトウさんの表情から浪漫に浮かれるばかりだった笑みが消え、後に残った信念を貫こうとする男の目だけが僕を見た。


 一度、僕自身がリシィの神力を吸い上げてしまった。あの時の彼女の辛そうな表情は忘れられず、だからこそもう二度とやらせるつもりはないんだ。


 だけど、彼の熱い炎を宿した瞳、これは同じ男として信頼せざるを得ない。

 何よりも僕には惚れた弱みもある、リシィの意向には逆らえなかった。



「クサカ、マニュアルだ。調整の間はこれでも読んでろ」

「親方、ありがとうございます」



 外から顔を覗かせた親方に分厚いマニュアルを渡され、自分も中に入って手伝うと言う彼と交代で僕は機体から表に出た。


 心配だからリシィに手の届く範囲にはいるつもりだったけど……最近の僕は彼女に対しかなり過保護になっているのかも知れないな……。


 ストーカーはダメだ、あくまで騎士として傍にいることを忘れず行動しよう……。



「どうかされましたか?」

「おわっ!? え、誰……ブリュンヒルデ?」

「はい、その通りですカイト様。アシュリーンと思っていただいて構いません」



 またビックリした……機体から出たら直ぐ隣に女騎士・・・がいたからだ。


 アシュリーンが動かす戦乙女型特位素体の一人、話には聞いていた“ブリュンヒルデで間違いない。

 他の特位素体と同じく金眼を持つ美女で、腰までの長い金髪はリシィのものよりも色が濃く、ツリ目がちな双眸は凛々しくも雄々しく僕を見ていた。


 アシュリンやヘルムヴィーゲと違うのは、勇壮な騎士鎧を装備していること。

 それも戦乙女のテンプレートかと思うような青色の鎧で、僕の時代でも“ヴァルキリー”といったらまず最初に想像するだろう似姿を体現している。

 武器は腰に長剣を下げているだけだけど、彼女たちにも竜騎兵ドラグーンのヒートランスのような武装が他にもあるのかも知れない。



「それで、艦の修理はどうなっている?」


「融解した六番主砲塔は基部以外を投棄、現在は予備材と七番主砲を分割し連装から単装に改造中です。同時に被弾した防御区画外郭も投棄、修復作業に入りました。全修復行程に六時間、完遂は夜となります」


「六時間で済むのか……凄いな……」

「宇宙に上がれば短縮は可能ですが、本艦はアマテラスに捕捉されています」

弩級戦艦ドレッドノートに!? 大丈夫なのか……?」

「アマテラスには大気圏降下装備がなく、本艦が宇宙に進出しない間は八十ニパーセントの確率で攻撃はないとの予測演算結果が出ています」


「残りの十八パーセントは……?」

「我が身を顧みない“特攻”が六パーセント。本艦を阻止すれば邪龍は目的を達成するも同然の現状で、少なくはない確率です。残りも聞きますか?」

「大体想像は出来る……。アマテラスの動きはこちらもわかっているんだよな?」

「把握しています。如何がなさいますか?」


例の策(・・・)に巻き込む。連絡を密とし、絶好の機会となるよう特に時間と位置取りを念入りに算出して欲しい」

「かしこまりました」



 あまり猶予はなさそうだ、宇宙に上がれば直ぐ迎撃されるのは間違いない。


 神代由来の“旗艦級航宙機動要塞艦アマテラス”のコアブロック……アシュリーンでさえ、寄せ集めのこの艦では真正面からの砲撃戦は厳しいと言う……。


 ならこちらも、最強・・最高・・の使い方でぶつけるまでだ。


 そしてその先で待ち構える相手は、星をひとつ丸ごと創り上げてしまうほどの強大な力を持つ星龍……【惑星地球化用龍型始原体テラフォーマー】。

 矮小な人では抗うことすらも愚かだけど、僕たちはそれほどの弱者だからこそ強者では及びもつかない思考が出来る。


 人の武器は、“巡洋戦艦”でもましてや“神器”でもない。この元から持ち得る“知恵”と、何者にだろうと恐れずに挑む“勇猛果敢”さ。

 圧倒的強者に挑むんだ、慢心はない。勇敢と無謀を履き違えていることは流石にあるかも知れないけど、だからこそ覚悟をもって無謀を勇敢に変える。


 タイムリミットはもう直ぐそこ、やり残したことがないか皆に問うくらいはしないとダメだろう……一応、僕はお飾りでもこのアルテリアの艦長なのだから。



「ブリュンヒルデ、全艦に放送を」

「音声はいつでも拾える状態です」



 僕は息を深く吸い、そして強く吐き出す。



『え、えーと……一応は艦長の? 龍血の姫の騎士、カ、カイト クサカです?』



 ……


 …………


 ………………


 ……しまった、緊張して初っ端から躓いた。

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