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第二百四十三話 最終決戦兵器

「第一格納庫は……こっちか?」

「ちがうちがう、そっちはエアロックだからこっちだよ」



 格納庫に入ったことで経路案内は消え、危うくエアロックに行きそうになった。

 まあ宇宙ではないから吸い出されることはないとしても、ルコの案内で後をついて行くと奥まったところにもうひとつ扉があったんだ。


 強化外骨格パワードエクソスケルトンの格納庫は、数十機が並んでいるからかとにかく横に長い。

 左右の壁際には武装ラックが配され、庫内の配色も真っ白な人用の艦内とは違って灰色で、この場の雰囲気を武骨でとても重々しいものにしていた。


 これが第一格納庫を挟むよう左右にあるらしいので、艦の中央方向へと向かえば良かったんだけど、どうやら僕は逆へ行ってしまったようだ。



「親方~! カイくん来たよ~!」



 強化外骨格のままでも通れる厳重な扉を抜けると、そこもまた灰色で装飾のない機能美のみを追求したような広い格納庫だった。


 天井までの高さは二十メートルほどあるだろうか、外へと繋がる甲板は当然入口とは逆側で滑走路として長く伸び、散乱するコンテナ以外には何もない。

 左右の壁際には下りたままの隔壁がいくつか存在し、その内部には艦載航宙戦闘機が折り重なるように格納されているとのこと。


 SF創作物の中で良く見た格納庫の光景……。まさにそれが遥か未来の人の手によって実現され、また既に過去の出来事ともなっているんだ……。


 その隔壁のうちのひとつ、僕たちにもっとも近い側が開いていて、内部から親方がこちらに向かって手招きをしている。



「カッ、カイトッ……正騎士ロードナイトが……!」

「えっ、おわっ!? まさかこれが……」



 一瞬だけ気を取られた親方の背後を見上げると、そこにはリシィが言った通り、既に幾度となく目にした“正騎士”が僕たちを見下ろしていた。


 ただ白色ではない、銀の配色となった正騎士に似た別の墓守だ。



「クサカ、慌てて呼び出してすまん。緊急出航と聞いてな、今の衝撃は何だ?」

「【天上の揺籃(アルスガル)】からの攻撃です。被害は最小限に抑えたので問題はありませんが……それよりもこれは、コンテナの中身ですよね?」


「ああ、クサカたちが余りある墓守の残骸を寄越しただろう。以前からサトウが計画していてな、この機会に実現しようと独自に動き始めてたんだ」

「そうか、ルテリアの防衛に墓守の修復が出来れば頼りになりますからね……。これは再稼働に成功したと思っても?」


「いや、それも計画の一部としてはあるが……こいつは有人・・だ」


「……えっ!?」



 僕は改め、“正騎士”と言っても良いのかわからない墓守を見上げた。


 いや、既に墓守でもないということか……。良く見ると胸部装甲が迫り上がっていて、そこから内部に入れるようになっているらしい。

 同じ高さにキャットウォークも架かり、かつてロボットアニメで良く見た格納庫内の光景を思い出す。まさにあれだ。


 要するにこれは、僕たちが持ち込んだ墓守の部品を使い、親方とサトウさんによって作られた“騎士型有人機”。


 かつて子供心に憧れた、人が搭乗して操縦する巨大ロボットなんだ。



「完成したわけではなかったんだが、アシュリンから設計の見直しと部品の供与を受けてな、ギリギリだが一両日中には何とかなるところまで漕ぎ着けた」


「いや、驚きました……。言ってくれたら何か出来たかも知れません」

「何分完成するかもわからなかったからな。それにサトウが、秘密裏に事を進めるのはこの手の常識だと言っていた。そうなのか?」

「現実的にはどうかと思いますが……まあ、そういうこともあるかも知れません」


「カイト、これに人が乗るの?」

「そうみたいだね。親方、それでパイロットは?」

「クサカと嬢ちゃんの二人だが」


「ん? えっ!?」



 親方が極真面目な表情で腕を組んだまま、僕とリシィを見て告げた。



「百歩譲って僕は良いとします、何でリシィまで?」


根源霊子炉シクスジェネレーターだったか、こいつにはロックがかかっていてな、アシュリーンでも解除が出来ないから燃料庫のボ……ボイ……何だったか?」


「【虚空薬室ヴォイドチャンバー】のことですか?」

「それだ、そいつに繋げることが出来ん。だから別に神力の供給が必要でな……見たほうが早い、着いて来い」

「あ、はい」


「カイくん、私はアサギちゃんのところに戻るね。また後で~」

「ああ、案内をありがとう、ルコ」



 そうしてルコは強化外骨格格納庫に戻り、僕とリシィは親方の後をついて有人正騎士脇のメンテナンス用階段を上り始めた。


 上りながら良く見ると、基礎が“正騎士”で他にも様々な墓守の部品が組み合わされ、若干SF寄りにリデザインされていることがわかる。

 全長は十六メートルほどだろう、銀灰色の機体は英雄的で創作の中に出て来る主役機の様だ。かつてはそれが何で敵に回っているのかと疑問に思ったけど、今度は味方としてそれも自分が搭乗することになるとは夢にも思わなかった。

 角ばった騎士甲冑のデザインはサトウさんによるものか、本来の正騎士よりも直線で構成されどこか無骨さを感じられる機体となっている。


 恐らく、サトウさんはこの時代で墓守の存在を知った時からこれを願い、そして危険があるとわかってルコと共に迷宮を駆け実現に導いたんだ。

 僕とは違う道程を歩みながら、何の因果か交わることになったこの道、戦うばかりがやり方ではないと彼が証明してくれた。



「アシュリーン、そういえば気になることがあったんだけど……【対亜神種用装甲機兵ヴァンガード】の人型は、戦時に際し正面被弾面積の都合で不利ではないのか? その辺りは、現実でどんな経緯があって人型に?」



 僕の問いかけに、アシュリーンの疑似映像が目の前に現れる。

 今度はリシィや親方にも見えているようで、しっかりと僕たちに追従して階段を上る様は芸が細かい。



『その理由は“亜神種”の固有能力に寄るところが大きいです』

「やはりそうか……近接戦闘せざるを得ない理由があったんだな」


『代表的なところで言えば、今も実在する“転移”能力がそれに該当します。ノウェム様が砲弾を返し、戦車クアドリガを破壊したのと同じ状況が当時はいくつもありました』

「ああ……あれは間一髪の状況だった……」


『他にも、砲弾を弾く体高数十メートルを超える亜神種に対し、戦車では砲撃戦をすることも出来ずに横転させられ、結果としていくつか試みられた対策のひとつが、強化外骨格の大型化による格闘戦となります』


「ルテリアではそんなに大きい亜神種を見かけなかったけど……」

『現在では“神代起源種”と呼ばれる種が該当し、その殆どは既に小型化して見る陰もありません。カイト様の身近ですと、サクラ様が直径の子孫となります』

「“焔獣アグニール”か……。なるほど、長い時の流れが猿から人への進化を再び行ったのか……」



 いつだって議論される人型兵器の存在価値……。それは極まった非対称戦となる、この世界の歴史だからこそ現実的に起こり得たことなんだ……。



「ふむ、サトウも同じような推測を立てていたな。ロマンとも言っていたが、ぽむぽむうさぎを見て人型が奴らと組み合うためのものと想定したようだ」


「……えっ!? ぽむぽむうさぎはそんなに大きいんですか!?」

「カイトは見たことがないのね……ぽむぽむうさぎは巨兵ガルガンチュアくらいあるわよ」


「嘘だと言ってよバニー!!」



 ああ……そういえば、以前サクラが中隊がどうのこうのと呟いていたのは、そんな理由があったからか……。文字通りの怪獣じゃないか……やばい。


 ま、まあ今は良い……流石に空までは飛ばないだろうし……ないよな?



「アシュリーン、ありがとう。思いがけず衝撃的な話も聞けたよ」

『はい、カイト様。それではいつでもお呼びください』



 アシュリーンは丁寧なお辞儀をし、スッと滲むように掻き消えた。


 そんな僕の動揺とは裏腹に螺旋を描いた階段は終わり、有人正騎士の胸部の高さにあるキャットウォークまで辿り着く。

 階段を上る足音が聞こえていたのだろう、操縦席と思われる場所からはサトウさんが首だけを出し、こちらに向かって楽しげに手を振っている。



「待ってたよ、クサカくん、お姫さま! 見てくれこの美しい機体を、ついに念願が成就しそうなんだ! さあ二人とも内部も見てくれ、テュルケちゃんのおかげだ!」


「テュルケの? どういうことかしら……」

「とりあえず行ってみようか」



 僕たちはサトウさんに従い、操縦席の内部を覗いてみることにした。

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