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第二百三十三話 日常は謀略の中に

 ◇◇◇



「ふぅ、気持ち良いわ……。宿処の露天風呂が一番くつろげるわね」

「ですですぅ~。お外は少し寒いですけど、一番安心出来ますですぅ~」

「はわぁ~、天の宮と比べたらどこも天国のようだぁ~」



 私たちはシュティーラの執務室を後にし、宿処に戻って来ていた。


 今後の話し合いをするにも、【天上の揺籃(アルスガル)】は遥か空の彼方にあるというから、私たちだけで決められることもそう多くはないわ。

 議会を通さなければ動けるものも動けないし、カイトの説明では空の上には空気がなく、密閉して漏らさないようにするための“気密”?の周知も必要とのこと。


 正直、話の内容は上手く理解が出来なかったわ、それはサクラもシュティーラも同じ。唯一ノウェムだけは空気がないことを知っていたようだけれど……“宇宙”、人が生身では生存出来ない世界……想像しただけでも恐ろしいわね。



「ふむ、テュルケはまた大きくなったのではないか? 見事に浮いておる」

「ふわぁぁっ!? 持ち上げないでくださいですですっ! んっ!」

「ノウェム! テュルケをからかわないで!」



 今は私とテュルケとノウェムの三人だけが露天風呂にいて、今日ばかりは大人しくしていると思っていたのに、ノウェムは突然テュルケの背後から抱き着き、あろうことかボールのように弾ませて弄び始めたの。


 はっ、はしたないわっ!


 ……け、けれど、確かにまた大きくなっているわね。



「良いではないか、良いではないか。我は生涯このような抑揚のある体つきにはなれぬのでな。それにどうも、主様は大きいほうに視線が行くようで、せめて我が自ら体験し詳細に語ろうかと……」


「やめなさい! 慎ましくとも、カイトならありのままを見てくれるわよ!」

「くふふ、我を励ましてくれるのか? リシィお姉ちゃんは優しいなあ」

「んぐっ……」


「ふあぁ……あのあのぉ、そろそろ離して、んっ……くらさいぃ……」



 人と肌の接触ははしたないけれど、胸を良いように弄ばれるテュルケの表情は次第に惚けてきていて、私は仕方がなくノウェムを背後から羽交い締めにする。


 口で言っても行動を改めないのなら、主である私がこの場を何とかするの!



「んっ!? なっ……ひ、卑怯よ! 固有能力を使うなんて!」

「くふふ、我らは身体的には脆弱なのでな。能力を含めての我が個よ」



 けれど、ノウェムは“移動”に特化した固有能力を持つセーラム高等光翼種。一時拘束することは出来たものの、私が瞬きをした一瞬で背後に回り込まれてしまった。

 ノウェムは私の背に体を寄せ、彼女が自分で言うほどに脆弱でもなく、今度は私の胸に触れていくら振り払おうとしても決して離れない。


 この小さな体で……どうなって……いるの……!



「ほうほう、リシィお姉ちゃんは成長限界か? 決して小振りではないが、主様を満足させるにこれでは些か……どれ我が揉んでやろう」


「んっ……んっ……なっ、何故揉むの……!」


「以前サトウに『胸は揉むと大きくなる』と聞いたのでな、主様のためと思うておとなしく我に従うが良い! くふふふふ!」


「んっ……貴女、自分が楽しみたいだけね!? うんっ、あっ……やめてっ!」



 こ、こんな……今は戯れていて良い状況ではないのに、こんな大変な時なのに……ノ、ノウェムは本当に何を考えているの……!

 そ、そもそも、いつもはカイトにべったりで何かと一緒に湯殿にまで入ろうと画策しているのに、何故今日だけは私たちと一緒に……はっ、まさか!?



「ふぐーっ!? むぐぅっ!? むぐむぐむぐぐぐーっ!!」

「連れて来たのよ~! 皆さん仲良しで、アシュリン少し妬けちゃうのよ~」



 私たちがノウェムに気を取られていると、いつの間にか露天風呂には裸のアシュリンまで入って来ていた。


 脇に抱えられているのは、猿ぐつわを噛まされ鎖で縛られているカイト。


 何てこと……恐らくノウェムはアシュリンと共謀していたんだわ……!


 帰って来た時、アシュリンがカイトに「体を洗って欲しいのよ」なんて言っていたけれど、彼は先日の鼻血を出して倒れた一件を理由に断固として拒否したの。

 だから、利害が一致したノウェムとアシュリンは共謀した……。迂闊だったわ……そうまでして一緒に入りたいだなんて……。



「あ、貴女たち、何てことを……! カイトを離しなさ……んっ、いつまでくっついているの! アシュリン、サクラはどうしたの!?」


「サクラさんはぐっすりお休みなのよ。こう見えても、今のアシュリンは竜騎兵ドラグーンと同じく“対亜種汎用機兵アマルガル”の上位機種。舐めたらダメなのよ~」


「そ、そんな……こうなったら実力行使で制圧するわ! テュルケ!」

「ふえぇ……何だか気持ち良くてぇ、動けませんですぅ~。ふうぅ……んっ……」


「くふふ、魔獣アラウガレアから抽出した媚薬、良く効く」

「抽出と言うよりは原液なのよ~、しばらくそのまま良い夢見ろよなのよ~」

「くふふふふ、おぬしも悪よのう」


「あっ、貴女たち……そうまでして……」

「ふぐーっ! もぐぐーっ! んぐぅ、むぐぐむぐーっ!」



 カイトがアシュリンの拘束を抜け出そうともがいている。


 私を一瞬だけ見たのは何かの合図……? 直ぐに顔を横に反らしてしまったけれど、視線の先に金光を放てと言うことかしら? ただの壁よ……?


 わからないわ……もう一度だけ合図を送って、カイト……!



「のう、リシィお姉ちゃん。真っ裸で立ち上がっては、主様も刺激が強過ぎて先日の二の舞になってしまうぞ?」

「お姫さまも大胆なのよ~、アシュリンもそのくらいの度量が欲しいのよ~」


「……っ!?!!? きゃああああああああああああああっ!!」



 見られた!? 見られたの!? カイトに裸身を見られてしまったのっ!?

 不可抗力っ! 私もカイトも不可抗力だけれどっ! はっ……何か以前も見られてしまったような記憶が……まさか……そんな……。



「うぅ……ううぅぅー……うーーーーっ! カイトのバカァッ!!」


「んぐぐーっ!?」




 ◆◆◆




 結局、僕はアシュリンに隙を突かれ拘束され、リシィたちが入っているお風呂に連れて来られ、最終的に目隠しをされて一緒に入ることとなってしまった。



「アシュリン、ちゃんと解毒剤だろうな? 一緒に入ることが条件なんだから、しっかりテュルケを解毒しないとまた口に剣を突っ込むよ?」

「大丈夫なのよ。もうお姫さまたちに干渉する理由はないのよ」


「そもそもが何でリシィたちまで一緒なんだ? 体を洗って欲しいだけなら、僕一人でも良いよな? いや、それよりも前に、僕に頼らず自分で洗えるよな?」


「それはノウェムさんのお願いなのよ」

「主様、家族水入らずは我の憧れだったの。既に夢は叶っていたけど……だからこそ、宇宙に上がる前に何度となく堪能したかったのっ!」

「ぐっ、それを言われると……。そ、それで、アシュリンは自分で洗えるだろう?」


「アシュリンはそもそも“対亜種汎用機兵アマルガル”なのよ、自分で自分を洗うなんてプログラム自体がないのよ。生体組織は新陳代謝もあるけど、それだって専用の調整槽で汚れも一緒に落とされるから、本来はお風呂に入る必要もないのよ」


「それなら余計に意味がないよな、これ!?」



 ぼ、僕は目隠しをされたまま、手探りでアシュリンを洗っている。

 リシィとノウェムとテュルケは多分湯船の中、不可抗力で裸身を見てしまったことで今は湯から上がれずに沈んでいるんだ。


 くっ……アシュリンが洗ってと言い出した時から、サクラまで制圧する実力行使に訴えることを想定しておくべきだった……。



「折角、今は生身の感覚がある特位素体に入れてるのよ。人と触れ合いたいと思うのは自然の摂理なのよ?」


「自然から外れた科学技術の塊にそれを言われても……」



 アシュリンの黒髪を丁寧に洗い流した後、僕は彼女の背も同様に洗っている。

 手拭いを石鹸で泡立て、女性体のなだらかな曲線を上から下へ、腋の下を通って腕へ……頭の中で思い描くのは出来るだけ忌人の、機械人形の彼女だ。


 決して、怜悧で冷たい美貌の、あの黒メイド姿を想像してはならない。



「カイトしゃん、後ろだけでなく前も洗って欲しいのよ。見えないのは不便なのよ?」



 と言いながら、アシュリンは僕の目隠しを外した。



「きゃーっ!? 良いから前を向いて! 前は流石に無理だよ!」

「人間の倫理観は面倒なのよ……。仕方ないからノウェムさんにお願いするのよ~」

「ふむ、我か? 一度主様を洗ったこともあるからな、任せるが良い!」



 何と言うか、何と言うかだ……もう、何と言えば良いのかもわからない。


 ノウェムは湯船から上がり、恥ずかしげもなく僕の横を通ってアシュリンの前で座った。絶賛迷子中の羞恥心は本当にどこへ行った……。


 と、とりあえずはあれだ……気を逸らすためにも、場所は微妙だけどここで聞けることを聞いてしまおう……。


 本当にどうしてこうなったんだろうな……。

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