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第二百二十七話 竜騎兵完全武装体討滅戦

 竜騎兵ドラグーンは想定以上に厄介な相手かも知れない。


 対龍種、つまり神龍の対抗として作られたものなら、セレニウスが母体となって生み出された全てに対する反存在だ。

 それは例外なくリシィやサクラ、亜神種にとって死神となる存在でもある。


 アディーテは「硬い」と言ったけど、“金光の柔壁(やわらかクッション)”を打ち破った作用を見るに、“穿孔”も竜騎兵に達する前に打ち消されているのではないだろうか。


 だけど、それもどうやら完全ではない。



「水中でアディーテがどうにも出来ないなんて……」


「いや、竜騎兵を吹き飛ばした、どうにも出来ないなんてことはない。神力に対する何らかの対抗機能があることは確かだけど、突破口があることも確かだ。【イージスの盾】と同じく、防御を上回ることで損害を与えられる」


「けれど、それでも迂闊に力を使えないわ。どうすれば……」


「僕たちは竜騎兵と同じもの(・・・・)を持っているじゃないか」



 僕は気が付いた。


 竜騎兵を討滅することは容易でないけど、なら“対邪龍封滅兵器”として神龍から作られた“神器”もまた竜騎兵と同じものであることを。


 リシィは逡巡し、僕を、“銀灰の騎士”の姿を見て表情を変えた。



「神器……。神龍グランディータが仰っていたわ、『大戦末期に対邪龍のあらゆる情報や経験の蓄積を元に作られた』と……」


「重ねてこうも言っていた、『世界を変革するための力』と」



 “神器”とは、邪龍を滅するためにテレイーズの“創物”の力で六星龍より生み出され、それは即ち竜騎兵も敵性として想定されていると見るべきものだ。


 同じもの(・・・・)であり、更に上回る力(・・・・)、組み込まれて然るべきが“対竜騎兵”


 だからこそ邪龍は恐れ、【極光の世界樹(アインソフオウル)】に干渉し神器を顕現出来るリシィを執拗に狙い続けた。

 奴らの喉元に唯一届く、人と龍が生み出した最早疑いようのない“覆す力”、【神魔の禍つ器】……否、【極光の神器】だ。


 そう、いつだって神器は“肉”に対して特攻だったじゃないか!



「カカッ、ならば話は単純! 某らは決死をもって奴に挑み、神器を届かせるだけで良い! この身、道を貫き通すための矛と盾とならん!」


「ベルク師匠、頼みます! だけど、してなずです!」


「湖水に冷やされ多少は温度も下がったようです。引き続き炎熱を抑えます!」

「くふふ、そうか神力に対抗するか、それは残念だ。ならば我はペンキをぶち撒けることしか出来んなー。少し多めに持ち込んでしまったが、ついうっかり全部こぼしてもそれでは仕方あるまいー。くふふふふ」

「わっ、私も汚名返上です! ノウェムさん、一緒に連れてってくださいですです!」

「アウー? アウーーーーッ!!」



 皆が皆、指示を出されることもなく、自らで自身の役割を決めた。

 不足は何ひとつない、僕たちは既に巨兵ガルガンチュアをも上回る一個体の生物なんだ。


 皆の言葉を受け、リシィの瞳の色が赤から黄金に変わる。



「それなら、私は全力で神器を顕現するだけよ!」





 そして、竜騎兵も瓦礫を押し退けて再び動き始めた。


 一度目は湖底で、二度目は建物の瓦礫の下敷きとなり、まるで怒りから頭に血が昇ってしまったかのように、ヒートランスを赤熱させ周囲を燃やしている。


 僕たちが二度も不意を突かれたのは偶発的なものではない、相手の力も環境をも利用して自らを優位にするのは自発的なものだ。

 油断していたわけではないけど、思考の及ぶ範囲を視野まで更に広げて対峙しなければ、また予想だにしなかった死角を狙われるだろう。


 墓守とは確かに違う、竜騎兵とはそういう相手だと肝に銘じる。



「良し、竜騎兵を討滅する!」



 ノウェムがテュルケを連れてまだ薄闇の空に舞い上がり、アディーテは再び水中に、サクラとベルク師匠は竜騎兵の進路を塞いで僕とリシィの前に立つ。


 竜騎兵は瓦礫を乗り越え、のそりと港に戻ってこちらへと視線を向ける。

 あれだけの錐揉み状態でも、装甲に目立った損傷はないようだ。


 英雄的な騎士の似姿、皮肉にもそれが人の前に立ち塞がるとは。



「いざ参る!」



 そして、ベルク師匠が先んじて突進を始めた。


 脇に控えて追従するのはサクラ。両手に持つ【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】が赤熱し、それと共にヒートランスが熱した周囲の気温も下がっていく。


 リシィは掲げた黒杖を竜騎兵に向け、黄金色に輝く強い眼差しで睨んだ。



「カイト、今度は大丈夫よね。昏倒したら許さないんだから」

「ああ、恐ろしくはあるけど、無機有機を問わず滅するならひとつしかない」

「ええ、耐えなさい。次の一撃で誰も傷つけることなく終わらせるわよ」



 リシィから立ち上る金光が青光に変わる。


 いや、その色は青光よりも更に濃く深い、深淵を映し出す蒼色。

 その色が示すものはただひとつ、全てを飲み込み殺し尽くす、“死の虚”。


 かつて僕が飲み込まれ、危うく死にかけたあの恐ろしい神器だ。



「溟海を統べし者 四海天下に死する者 幽冥に潜む者 白金龍の血の砌 打ちて 焼きて また打たん――」



 その者を言い表す形容による反復は、思い浮かべる心象を確固たるものとし、やはり略唱よりも強い力を持った神器の顕現をなす。

 “言葉”と“心象”、そして“龍血”による【極光の世界樹(アインソフオウル)】を開くための鍵、どれが欠けても最大顕現は出来ない。


 ただ心象のみの挑戦は、結果としてリシィの想像力を高めた。



「万界に仇する祖神 蒼衣を以て失せ 葬神三衣 【蒼淵の虚皇(クロウマセリオン)】!!」



 そうして創り出されたのがこれだ。



「ぐっ……重いっ……!?」

「カイト!? お願い、飲み込まれないで!」



 僕の右腕の肩甲冑から、ヴェールのような薄衣の姿で顕現する蒼衣は、かつてのものよりも遥かに底の深い虚無を内包していた。

 顕現に際して意識を保てたのは気構えが出来ていたから、“死の虚”から流れ出るあらゆる負の想念が僕の心を陰気へと誘う。


 重い、重過ぎるけど……こんなものは、どうということはない……!



「大丈夫だ……僕の傍には、何よりも明るい光がある……!」



 それは言うまでもない、どんな闇の中でも輝く明星となるリシィだ。

 彼女は蒼衣の顕現と共に、あろうことかもうひとつの神器を形作っていた。


 “金光の槍”、僕が独自に形成した【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】と瓜二つの【極光の神器】。



「やはり、リシィは凄い……。君に対する想いが心に強くある限り、【蒼淵の虚皇(クロウマセリオン)】が内包する“死の虚”なんて大したことはないな……」


「んっ!? こんな時に茶化さないで! 行くわよ!」

「ああ、行こう!」



 リシィが光槍を構え、僕もまた銀槍を構える。


 蒼衣が翻り、サクラによって冷やされた大気は、更に“死の虚”から漏れ出る陰気が物理現象にまで至り、石畳を凍結させてしまうほどの冷気となった。


 僕とリシィの視線の先には、全身が真っ赤(・・・)な血で濡れたかのような竜騎兵。

 ノウェムにペンキをぶち撒けられ、ヒートランスが水分を蒸発させた結果、装甲にこびり付く塗料となり視界を遮ってしまっているんだ。


 先程のノウェムの言い草から、明らかにわかってやっているから末恐ろしい。



「おおっ! ぬるい! ぬるいぞ、竜騎兵!!」



 ベルク師匠が、表面で塗料を焦がすヒートランスに臆すこともなくその脇を抜け、竜騎兵の喉元を突進の勢いのままに突いた。


 紫電稲光、効かないとわかっていてもこじ開けるための礎とするつもりだ。



「はああああああっ! これ以上は、ルテリアを燃やさせはしません!!」



 ベルク師匠に追従したサクラは彼の背を跳び越え、竜騎兵の脳天から灼熱に燃える鉄鎚を叩きつけた。

 衝撃が石畳を円状に砕き、【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】による爆炎が周囲の火事を逆に消し止めてしまう。


 竜騎兵は全身を黒く焦げた塗料に塗れ視界の大半を奪われているものの、長大なヒートランスを振るって近接する者を尚も攻撃しようとする。



「やああああああっ! さっきのお返しですですっ!!」



 続いて、徐々に白む空から降って来たのはテュルケ。


 手には身長よりも長い日本刀を握り、その小さな体をしならせ翻した一閃は、もう一差しの月光となって竜騎兵の右肩を通り抜けた。



「手応えありですです! あれあれっ、斬れてないですぅっ!?」



 そんなはずはない、テュルケの刀は装甲の隙間を確実に抜けていた。


 奴の内は“肉”、尋常でない再生力を持つ生体組織が繋ぎ止めているだけで、今のは間違いなく芯にあるフレームまで達していたんだ。



「リシィ!」

「ええっ!」



 僕とリシィは駆ける。


 皆が繋ぐこの道を、ただの一突きを届かせるために。

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