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第二百二十五話 この選択が無謀だとしても

 ――深夜を回り、夜明けが近づく頃。



「カイトくん、彼らのことは心して引き受けたが、本当に単独で挑むつもりかい?」


「はい、そのつもりです。ただ単独ではありません、皆がいます」


「くしし! セオっちは心配性ナ! カイっちの目は、熱血で冷血で自信があるのに驕りもない不思議ナ。これは今日明日でどうにかなる男の目じゃないナ!」

「そうだね、私はどうも気に入ったものには過保護になるきらいがある。エリッセに良くたしなめられるよ、ははは」


「アタシも万全ならついて行きたかったんだが……。ちゃんと帰れよ?」

「オ……ニ」

「ホッホッ、ダルガンが『男なら旅をするものだ。そこが例え死地であろうとも、ただ帰るために』と言うておるわい。ホッホッホッ」



 何が正解なのか、答えはいつだってわからない。


 皆はいつものことだと言うけど、今回の選択はやはり無謀だと思う。

 ルコや親方、それにアサギを、遅れて辿り着いたセオリムさんたちに任せ、僕たちは単独のパーティで竜騎兵ドラグーンに立ち向かおうとしているんだ。

 このまま防衛部隊の到着まで立て籠もっていれば、そんな選択をせずに済んだのかも知れない。


 だけどここで最も最悪となるのは、竜騎兵ドラグーンの矛先がルテリアの一般の人々にまで及ぶこと。

 セオリムさんたちと協力するべきかも知れない、シュティーラさんに最高戦力とまで言わしめたアサギでも敵わなかったこともわかっている。


 だからこそ、セオリムさんたちをどうにもならなかった時のために残し。


 なればこそ、その凶刃がどこかへと届く前にここで完全に打ち砕く。



「クサカくん、お願いがあるんだ! 自分は君たちが負ける心配をしてない。だからせめて、その竜騎兵ドラグーンを原型を留めた状態で討滅してくれないか!」


「え……善処はしますが、安全が優先なので場合によっては躊躇しません」

「ぐうぅ……仕方ない、人の命が何より大切だ。出来たらで構わない」



 流石と言うか、サトウさんは竜騎兵ドラグーンの研究もしたいようだ。


 親方とサトウさんの目的である秘密兵器・・・・とやらは耐爆コンテナに梱包され、この【神代遺構】にある倉庫の奥で厳重に保管された。

 中身が何かは後で聞くとして、作戦通りなら区画奪還はまだだとしても、そろそろ陽動に引きつけられた墓守の数が減少傾向にあるはず。


 そして、その中でも最も脅威となる竜騎兵ドラグーンは、アサギの決死の反撃で今は湖底で瓦礫の下敷きになっているとのこと。 

 それでも明確な損傷は与えていないようで、親方たちは再来を警戒していたようだけど、今はまだ少なくともここには来ていない。


 解せないのは、竜騎兵ドラグーンが昨日の戦闘で親方たちには目もくれず、アサギだけを狙っていたと言う話だ。

 単体での戦闘力から優先攻撃目標にされたと考えられるけど、彼女に会って話しを聞き、他に何かあるのではとの疑問も生まれている。



「流石に沈んだそのままで停止してくれるとは限らないよな……」


「うん、私もカイくんと同じ意見かな。アサギちゃんを狙うのに何か執念みたいなのを感じたから、絶対にまた来るよ、ドラくん!」

竜騎兵ドラグーンね……。そんなどこかの猫型ロボットみたいに可愛くはない」


「クサカ、充分に気を付けろ。俺たちを助けに来て、お前たちが犠牲にでもなった日には夜も眠れなくなる。いっそ竜騎兵ドラグーンを引き連れてでも構わん、生きて帰れ」

「はは、親方にしては優しいですね。迷宮の深層からも、世界の彼方からでさえ僕たちは戻りました。必ず帰ります」

「当たり前だ、若い奴に先立たれるのは老骨に堪える」



 そうだよな……数少ない地球人、そして日本人……。


 この時代では、ただの知り合い以上にお互いが家族のような認識なんだ、送ることになるほうはいつだって失うことに怯えてしまう。


 悲劇が明確な殺意をもって迷宮の形で隣接する街――ルテリア。


 真の平穏を願うのなら、僕たち自身もまた生き延びなければならない。



「カイト、私たちは帰って来た。貴方が共にいてくれるなら、決して負けないわ」

「はい、これからもやることは山積みです。ルテリアの再建だってしなければなりません。お祖父様から頂いた桜の苗も、必ず根付かせてみせますから」

「うん、アシュリーンも探さないといけないし、油断なくいつも通りに対処しよう」


「くふふ、小型なら我の陣も通るだろう。次元の狭間にちゃっちゃと追いやったほうが早くはないか、主様よ」

「それもありだけど、恐らく竜騎兵ドラグーンは【天上の揺籃(アルスガル)】に数が存在するから、出来るだけ単体の時に対処法を構築したい」


「カカッ! 今日の行動も全ては明日を見越してのこと、流石はカイト殿! ならば、某も肩を並べるに値する武人となるべく、戦の中でも研鑽し続けようぞ!」

「ベルク師匠は既に武人じゃないですか、これ以上は僕が置いて行かれます」

「カカッ! ならば共に精進しようぞ、カイト殿!」


「はいはいっ、私も一緒に鍛錬しますです! この親方さんからもらった白大蛇を、もっと上手に使えるようになりたいですです!」

「はは、テュルケにもどんどん敵わなくなっている気がするな。剣術は僕もまだまだだから、一緒に素振りから始めようか」

「わーいっ、おにぃちゃんと一緒ですっ! がんばりますですっ!」


「アディーテ、戦闘は水場になる。ぐりぐり捻って良いからな」

「アウーッ! まっかせろー! くさいおにくはいやー!」



 セオリムさんたちがいなくとも、僕には仲間がいる。


 リシィも、サクラも、ノウェムも、テュルケも、ベルク師匠も、アディーテも、ここまで一人も失わずに多くの困難を乗り越えて来た大切な仲間たちがいるんだ。


 単独ではない、不足なんてあるわけがない、墓守も、竜騎兵ドラグーンも、邪龍にだって、頼もしい仲間たちと共になら必ずやどうにか出来るはずだ。


 今度こそ心から願う、一人だけで背負おうとせずに皆と共にあることを。



「親方、防衛部隊の到着までこの場所は頼みます」

「ああ、用件は済んだ。お前らが帰るまで大人しくしてるさ」


「ルコ、アサギを頼む」

「あはっ、未来の医者にお任せあれだよ!」


「アサギ、今は休んで傷を治したらお父様を探しに行こう」



 アサギはやはり無表情に、それでも何かを想い、長い睫毛を伏せて逡巡しながらも、最後には僕を見て言葉もなく頷いた。


 彼女が僕を「お父様」と呼び、胸に飛び込んで来た時の表情を思い出す。



 やはり僕には、満面に笑ったリシィとどこか重なって見えた。




 ―――




 ――ルテリア湖、港。



「アウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」



 ……傍目から見ると妙な光景だ。


 僕たちは親方の工房から湖岸に出て、今はアディーテが頭だけを湖の中に突っ込んでボコボコと泡を立てている。

 反響定位エコーロケーションで湖底を探査してもらっているのだけど、高さ一メートルほどの岸壁でベルク師匠に両脚を持たれ吊るされている様は、どう見ても拷問だ。



「カイト殿……某、武人にあるまじき行為をしている気がするのだが……」

「気のせいです……。同意があるので、名誉に傷がつくことはありません」



 た、多分……。


 今回の作戦で竜騎兵《厄介事》の排除は計画されていなかった。

 とはいえ行政府を出る際、シュティーラさんに「障害は排除しろ、どんな厄介事でもだ。良いな」と念を押されたので、彼女にとっては確実に盛り込み済みだ。



「それにしても長いな……。溺れて、は流石にないか……」

「カイト、もう脱出していて工房を目指しているなんてことはないかしら」

「最短の路を通ったのに遭遇しなかった、まだ湖底で瓦礫の下敷きになっている可能性が高い。それにセオリムさんたちがいる、大丈夫だ」


八岐大蛇ヤマタノオロチのように、驚異的な再生力があるとも考えないといけませんね」

「ああ、それでいて神代の武装と、何よりの高機動型、考えただけでも厄介な相手になることは確実だな……。出来る限りの短期討滅を目指そう」

「はい、この鉄鎚に懸けて」



 その時、アディーテが腕をバタバタと動かし始めた。



「ベルク師匠!」

「おおっ!」



 アディーテを引っ張り上げると同時に、眼前の湖上から水柱が噴出する。


 噴出というよりは水蒸気爆発でも起きたのか、宵闇の中で辺り一面は靄に閉ざされ、突如として視界を遮られる戦場となってしまったんだ。



 ――ガキッガシャッ



 そして、真白く霞む景観の中で何者かが港の石畳に足音を立てた。

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