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第二百十三話 地上降下準備

 僕たちは持って来た荷物のうち要らないものを残し、降下用舟艇ドロップシップのある発着ポートにまで来ていた。



「ローウェさんの荷物はそれだけですか?」


「ええ、元々私のような下位神族は、持つべきものもそう多くはありませぬ。大切なものと言えば、娘のノウェムだけ。他には何も要りませぬ」


「主様、セーラム高等光翼種は大なり小なり“空間収納”を持っておる。我はこの身ほどの量しか仕舞えぬが、ローウェは箪笥くらいなら持ち運んでおるぞ」


「あら、折角の良いお話にしようと思いましたのに、ノウェムも意地が悪い」

「ローウェ、主様は生真面目で実直なのだ! こんな時にからかわないでおくれ!」


「うふふ、カイト様、申し訳ありませぬ。このように嬉しそうにするノウェムは初めて目にしたので、少し興が乗ってしまいました」


「い、いえ、ノウェムの事情は察していますから、わかる気もします」



 そういえば、はっきりと聞いたことはなかったけど、以前ノウェムがそれらしいことを言っていた。

 ペンキ缶やちょっとした小物をどこかから取り出すんだ、彼女にとってはそれも負荷になるからと実用は考えなかったっけ。


 それはそうと、これから戦場のルテリアに向かうため荷物の整理をしていたけど、リシィとサクラの背負う背嚢はまだ少し量があるようだった。

 


「リシィ、サクラ、食料分は背嚢に空きが出来たから、その荷物も持とうか」


「これは自分で持つわ。カイトが向こうで買ってくれたものだもの、ここに置いてはいけないの」

「はい、お祖父様から頂いた桜の苗木やお祖母様の着物も入っていますから、決して手放すわけにはいきません」



 ああ、そういうことか……特別な思い出は捨てられるもんじゃないよな。



「それなら仕方ないか。だけど気を付けて、燃えでもしたら大変だ」


「でしたら、私の空間収納で一時的にお預かりいたしましょう。皆様にはご存分にお役目を果たせるよう、最大限の支援をいたします」


「それは、ありがとうございます。リシィ、サクラ、お願いしよう」

「そう言うことなら……。ローウェ様、お願いするわ」

「はい、ローウェ様、お願いいたします」


「リシィティアレルナ様、サクラ様、私のことは呼び捨てで構いませぬ。セーラムと言えども、光輝ある身分ではありませんので」

「それならら、私もせめてリシィで良いわ。呼び辛くて噛んだ人がいるくらいだもの」

「ぐぬっ、今なら言えるよ!? リシィティアリェリナ、ほら!」

「言えていないわよ……」



 何故、今ここでその話を持ち出されたのかはわからないけど、咄嗟だったので僕はまたしても微妙に噛んでしまった。


 そして流れる妙に生ぬるいこの空気感……。リシィは笑ってはいないものの僕を見て目を細め、サクラとローウェさんは慈母の微笑み、ノウェムに至っては何故か凄く嬉しそうだ。

 とりあえず、僕だけが居た堪れずに降下用舟艇の準備が整うのを待ちながら、纏めた荷物をローウェさんに預けた。


 なるほど、ティチリカが持っていた【神代遺物】の能力を、セーラム高等光翼種は固有能力で再現出来るわけか……どこに格納されているのかは気になるけど。



「皆さん、準備が整いましたよ。こちらにおいでくださいな」



 そんなことをしているうちに、降下用舟艇の準備を指示していたセントゥムさんが戻って来た。


 元々この場所は宇宙港だったのだろうか、僕たちがいた待合室は港湾としての機能を兼ね備え、和的な装飾もなく今はもうあまり使われてもいないようだ。

 白灰色の壁は清潔感があるものの無味乾燥で、到るところにあるディスプレイは表示が消えて役割を果たさなくなっている。


 いくつかの厳重なエアロックを通過して辿り着いた場所は、思っていたものと違って広めの廊下と言うべきか、片側の壁面に等間隔で三つの扉が並んでそのうちのひとつに緑色のライトが点灯している。


 もっと大掛かりな宇宙港を想像していたけど、外縁部ほど小規模なモジュール構造となっているようで……いや、神代では巡洋艦でさえも三百メートルを超えていたんだ、別に大規模なものもあるのかも知れない。


 ローウェさんが緑色のライト、スタンバイ状態の扉を開けて内部に入る。



「この降下用舟艇は、元々が強襲揚陸艇だったそうですね。強度は申し分ないと思いますが、長年使われていなかったものなのでくれぐれもお気をつけください。操縦はローウェが、いざという時は……良いですね、ノウェム」


「ババ様、主様は我が何としてでも地上に連れ帰る! 血を流すことにはもう恐れはせぬぞ!」


「かなりの強行になるんですね……。ノウェム、空では僕たちに出来ることはない。一方的に頼ることになるけど、辛さを強いることを押してでも頼りにするよ」

「勿論だ、主様は大船に乗ったつもりでおるが良い!」


「今はローウェもおりますから、例え空中に投げ出されたとしても、必ずや皆様を地上に送り届けますよ」

「セントゥムさん、何から何までありがとうございます」


「いいえ、私はこれでも、長年苦楽を共にしたルテリアをあのようにされ怒っているのですよ。クサカ様に皆様、こちらこそよろしくお願いしますね」


「はい、必ず人々の力を束ね、邪龍に抗ってみせます」



 リシィとサクラ、ノウェムも力強く頷いた。


 そうして、僕たちはセントゥムさんに見送られて降下用舟艇に乗り込む。


 内部は自衛隊の装甲車に乗り込んだ時と同じ雰囲気で、明らかに客用ではなく軍仕様の強襲揚陸艇なのは間違いない。乗員は二十名ほどが搭乗可能だ。

 左右の壁面に中央を向いて備えられた椅子には、衝撃から投げ出されないための金属と保護材で作られた固定器具が装備されている。


 操縦席は奥の扉の向こう側で、壁に備えられたディスプレイにローウェさんが映し出され、これで後部座席とのやり取りが出来るようだ。



「リシィ、サクラ、説明は受けたけど体の固定は大丈夫か?」

「ええ、これを下ろして、座席に固定すれば良いのよね。問題ないわ」

「私も大丈夫です。は、袴を持ち上げないとダメですが……」



 リシィとサクラが、天井からぶら下がる機械式の器具で体を固定した。


 ロックが座席の脚の合間にもあるので、サクラは袴をたくし上げて健康的なお御足がふとももまで露わになってしまっている。

 対面に座る僕から見ると、体全体を器具で覆われているところから生足だけが出ているんだ。どうにも目のやりどころに困ってしまう。


 ま、まあ元々が強化外骨格パワードエクソスケルトン用のものらしく、体と器具の合間がかなり空いてしまい、そこはそれぞれの固有能力で埋めてくれとのことで、仕方がない。



「問題はノウェムだけど、この器具じゃ体が抜けるよな……」

「何を言っておるのだ、我は主様の膝の上で抱えてもらえればそれで良い」

「あっ、ノウェム、貴女はまたカイトを椅子にするつもりね! そうはいかないわ!」


「残念だ、リシィお姉ちゃん。その椅子から立てれば良いがの。くふふ」

「あっ!? これはどうやって外せば良いの!?」

「は、外し方は教わりませんでしたね……」


「くふふ! してやったり!」



 と、ノウェムはドヤ顔をしながら僕の脚の合間に座って来た。

 この娘ったら、しおらしくしていると思っていたら油断も隙もない……。



「仕方がない……。出発の前に外し方は教えてな」

「あいわかった、主様。くふふふふ」



 固定器具を下ろすと、ノウェムが挟まって丁度良いくらいだ。


 ここまで計算に入れていたのか、「むふー!」と鼻息を荒くする彼女は、やはり幼女の皮を被った計算高い恐ろしい娘だった。



『皆様、降下準備が整いました。合図を待ち出発いたします』


「はい、こちらは……」

「私は行けるわ。ルテリアにはテュルケがいるの、ぐずぐずはしていられない」

「私も問題はありません。ほ、本音を言うのなら、少し恥ずかしいくらいです……」



 いつもサクラは袴だからね、露出が恥ずかしいのは良くわかる。


 出発したら余計なことは考えていられないけど、今は彼女の頬を赤くして照れた表情が余計に扇情的で、それを見る僕も心臓が跳ねてしまう。


 戦場を前にして扇情的とは……洒落を言っている場合でもない。



「ノウェム、しっかりと掴まって」

「あい、投げ出されないようにぎゅっとしておくれ」



 一瞬リシィが膨れた気がしたけど、後でフォローしよう……。



「ローウェさん、僕たちも準備が整いました。お願いします!」



 そして、降下用舟艇のジェネレーターがヒュオオォォと唸りを上げ始めた。



 正真正銘、今度こそ僕たちは帰る。


 今はもう懐かしささえ感じる、迷宮探索拠点都市ルテリアに。

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