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第二百ニ話 道を切り開く戦士たちの矜持

「守山、本当のところ捜索は終わっていないだろう?」

「上からの命令だ。これ以上の自衛隊員の損失は認められない、先に封鎖を実行せよとのことだ。九坂、勘の良い奴は長生き出来ないぞ?」

「秘匿情報をあっさりと一般人に漏らす自衛隊員もな」


「個人としては認めるわけにいかない……!」

「犠牲を少なくするための犠牲だ……ままならないな……」


「それでも、九坂はやるのか?」

「やる、躊躇しては救える命も救えなくなる。僕は進む」



 そう、ビルの立ち並ぶ銀座一帯を戦場にしながら、わずか一晩で捜索しきるのは無理なんだ。路上を彷徨っていた人々の救助は出来たとしても、建物内の捜索には何日も何週間もかかるのは間違いない。


 より多くを生かそうとする政府の判断としては、何も間違っていないんだ。


 それに、墓守の侵攻を止めることもまた、精神干渉に抵抗して隠れる人々を救う可能性もあるのかも知れないのだから、躊躇はしていられない。



「カイトさん、直前まで神力の供給を行いました。ですが……長時間に渡り、これほどの神力が体内を通り過ぎることは本来ありえません。どうか無理をなさらないで、何か異常を感じたら直ぐに伝えてください」


「ああ、右腕と右脚の神器が熱を帯びているくらいだ。サクラ、ありがとう」


「カイト、貴方のやろうとしていることは、最悪干からびてしまうほど神力を消耗することになるわ。それでもやるのね?」

「当然だ、“青光の柱”を封鎖するにはこれしかない。僕はやるよ」

「もう、本当に困った人ね……。良いわ、私も覚悟を決めるから」


「リシィと龍血の神器が頼りだ。僕の故郷を救うために力を貸して欲しい」

「それこそ当然よ。私の騎士の故郷だもの、カイトと一緒に救うわ」



 そうして、僕たちは守山の先導で道路上にまで出る。


 散発的になったとはいえまだ遠くからは砲音が聞こえ、上空を飛んでいるのは空自のF-15Jだろうか、白い尾を伸ばして飛ぶ姿は少なくとも巨鷲フレースヴェルグではない。


 道路上には10式戦車(ひとまる)が一台止まっていて、“青光の柱”の方を見ると途中の横路は全てが自衛隊により封鎖されていた。

 大きな通りは戦車や装甲車が左右の道路を塞ぎ、建物沿いに自衛隊員が先行して進路を確保している。


 僕たちに用意された“花道”というやつだろう。



「ヒトマルが先導し、俺たちが周囲を防御する。九坂とリシィさんとサクラさんは真ん中だ、あの柱の封鎖にだけ注力してくれ」



 守山の言葉と共に、周囲に並んでいる自衛隊員が一斉に敬礼した。



「守山、ありがたいが……」


「野暮なことは言うなよ。俺たちにも矜持がある、自衛隊員として、そして日本男児としてのな。九坂にならわかるだろ?」


「……そうか。なら僕はこう言おう、人々の盾となり、生きて帰って欲しい」


「おうよ! なあみんな!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」



 守山の問い掛けに自衛隊員たちが沸き立つ、どこかで見た光景だ。

 世界が異なっても変わることのない戦場に立つ戦士の矜持、そんなところか。



「九坂、行けるか?」

「ああ、いつでも良い。これで終わりにしよう」



 僕が返答すると、守山は右腕を掲げてグルングルンと振り回した。

 続いて、隊長と思わしき厳しい面立ちの隊員が指を“青光の柱”に向ける。



「小隊前進! ゲストには掠り傷とて被弾を許すな!!」



 更には、10式戦車の戦車長も前方を指差しながら前進指示を出す。


 僕たちを守る、10式戦車を中心とした自衛隊が形作る壁、何が何でも作戦遂行のためには時に自らを本当に盾とするつもりなんだろう。


 彼らの恩義に報いる、なら僕も何が何でも完遂してみせる。





 そうして、道路一杯に広がった二重の鶴翼の陣で部隊が進み始めた。

 僕たちもその後ろで、10式戦車を盾に“青光の柱”までの直線を先導される。


 侍たちの、戦士たちの行進が、誰もいなくなった街に靴音で戦律を刻む。

 横路に視線を送ると、未だに針蜘蛛スプリガンと戦闘する自衛隊が視界に入り、墓守も、自衛隊の走行車も、至るところで残骸を残すばかりとなってしまっていた。


 戦いの傷跡が、沁み入るような感傷と共に幾度となく僕に覚悟をさせる。



「カイトの国の戦士は、どこの国の戦士、騎士とも違うのね」

「そうか? 探索者ともどこか似た気概を持っているように思えるけど」


「違うわよ、だってカイトが沢山いるみたいだもの。戦士とも騎士ともまるで違う、探索者でもなければ英雄でもない、そうね……時代劇で見た“サムライ”だわ」


「そうですね、“侍”です。カイトさんがどうしてカイトさんなのか、今この日本にいながらその原点を垣間見た気がします」


「て、哲学だな……」



 ――ドッパンッ!!



 突然、10式戦車が少し速度を上げて発砲した。


 脇から覗き見ると、“青光の柱”の前にいつの間にか砲狼カノンレイジが現出している。


 まさかここで砲狼とは……。しかも背負っているのはどう見ても榴弾砲ではなく、対戦車砲……それも10式戦車の滑腔砲より更に大口径長砲身……!



 ――ヒュオンッ……ギキイィィィィンッ!!



 10式戦車の砲弾は初撃で命中だったものの、その強固で歪な顎に弾かれ青光の中に消えてしまった。


 砲狼は直ぐ様こちらの攻撃に対し、四肢を踏ん張り主砲の発射体勢を取る。



「リシィ、守られるだけではダメだ、砲弾を弾いてくれ! サクラ、僕のことはもう良い、全力で砲狼を討滅する!」


「ええ、彼らが守ってくれるのなら、私も守るわ!」

「はい、やらせません! 【焔獣昇華】!」



 僕たちの周りに目映い金光と赤光が瞬いた。

 それと同時に砲狼が発砲し、大気を切り裂く音が一瞬で距離を詰める。



 ――ヒュオッ! ギイィィイイィィィィィィィィンッドゴォッ!!



 自衛隊を守るように展開された大きな光盾は傾斜をつけられ、直撃するはずだった砲狼の砲弾はその表面を滑って道路脇の建物を破壊した。


 そして、僕たちは守山が止める間もなく10式戦車の砲塔上に跳び乗り、間髪入れずに銀槍を形成して対する。



「リシィ、頼む! 【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】!!」



 追撃は許さない、僕はリシィの金光をブースターに銀槍を投擲した。


 銀槍は砲狼に向かい、どんな長砲身砲の高い砲口初速にも劣らない速度で通りを駆け抜け、驚くことにサクラが炎の砲弾となって追従する。


 まだ一キロほどある距離は、彼女にとっても銀槍にとっても刹那の距離だ。

 その距離をサクラと銀槍は本当に瞬きの一瞬で駆け抜け、赤と銀の閃光となってわずかの差もなく同時に砲狼を強襲した。



 ――キンッドッゴオオォォオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!



「九坂、お前は大人しくしてろと!」

「ああ、やれることはやって大人しくしている! アレは頼んだ!」

「えっ?」


「目標重砲兵、徹甲、行進射、撃てっ!!」



 10式戦車が、自衛隊員たちが一斉に発砲する。

 燃え盛り崩れ去る砲狼の炎の中から、続いて重砲兵シージアーティラリーが姿を現したからだ。


 数えることも出来ないほどの火線が伸び、横路を封鎖している戦車も装甲車も、ただ僕たちの進路を確保するためだけにありったけの砲撃を加える。


 空からはコブラが、F-15J戦闘機が弾丸やミサイルを撃ち込み、戦術も何もない我武者羅な飽和攻撃は、それでも“青光の柱”への道を切り開いた。



「リシィ! 今だ!」

「ええ!」



 そして、僕とともに走り出したリシィが黒杖を勢い良く空に掲げた。

 金光が翠光に代わり、今“青光の柱”を封鎖するための神器が顕現する。


 あまりにも神々しい光景だけど、誰も敵からは決して目を逸らさない。



「紫翠を統べし者 花天月地を馳せる者 翠翼を冠する者 白金龍の血の砌 打ちて 焼きて また打たん――」



 ゲームをやっていると、多くの創作に触れていると、夢に思い描く光景に天を突くほどの巨大な樹木の存在がある。



 “世界樹ユグドラシル”――そう、僕はこの東京のど真ん中にそれを創生しようとしている。



 “青光の柱”をまるごと覆い隠し、何人も立ち入ることの出来ない太い幹を持つ神木の創生は、はっきり言うとどう考えても無茶で無謀で実現不可能な夢だ。


 だけどそんなことは関係ない、神は神、人は人、ならば僕は人のまま神だろうとぶん殴ってみせる。


 如何な不条理も、人の意志ただひとつをもって覆す。



「万界に仇する祖神 翠杖を以て果て 葬神四杖――【翠翊の杖皇グルニギスリヴォーツェ】!!」



 神龍リヴィルザル……いや、リヴィ……! 


 人と共に歩んだ君の神器、今ここに借り受ける!!

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