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第百九十九話 共同戦線 侵攻鉄棺種掃滅戦 前編

 自衛隊陸上部隊の頭上を越え、二機の攻撃ヘリコプターが急速に接近する。


 その細く洗練された形状から、恐らくは“AH-1コブラ”。僕たちを越えて対空し、阻塞気球(スプリガンネスト)に対戦車ミサイルが、針蜘蛛スプリガンの群れにはガトリング砲が撃ち込まれる。


 阻塞気球に対しては有効かどうかわからないけど、通常兵器が充分に通用する針蜘蛛を相手にするなら圧倒的な火力だ。攻撃ヘリ二機による銃撃は、針蜘蛛の一群をある程度まで掃討してまたどこかへと飛び去って行った。



 ――ドギィンッ!! ドゴンッ!!



 地上では、砲を振った自律砲塔ランドホッパーにまたしても自衛隊による攻撃が直撃した。


 狙い撃ったのは、銀座の道路をこちらに向かう自衛隊の最新鋭戦車、“10式戦車(ひとまる)”の百二十ミリ滑腔砲だ。

 そのスラローム射撃を可能とする先進の姿勢制御システムの砲安定は、ニキロ先からの初弾を三体目にも難なく命中させている。


 そうして僕たちを取り囲んだ三体の自律砲塔は、二台の10式戦車の砲撃により結局は何もすることなく残骸に姿を変えられてしまった。



「驚いたわ、防護結界の展開中で良かった……。自衛隊は本当に味方よね?」


「あ、ああ、光膜は直撃しなければ爆風程度なら通さないと伝えておいたから、僕たちの窮地と見なして攻撃したのかも知れない。大丈夫だよ」


「そう、それなら良いの。けれど、阻塞気球には効果が薄いようね」



 リシィの言う通り、阻塞気球は対戦車ミサイルが外装に直撃したものの、特に損害を受けた様子もなくゆっくりと十本の手脚を動かして進んで来る。


 まだ針蜘蛛の数も多く、迂闊に防護結界を出ると狙撃されかねない状況だ。



「これ以上の侵攻を許せば、建物ごと人々が下敷きになってしまう。僕たちは優先攻撃目標を阻塞気球とし打って出る」


「ええ、電磁加速砲レールガンでなければ、私の防御はそう簡単に抜かせはしないわ」

「既に装甲のない箇所も把握しています、潜り込んでしまえば敵ではありません」



 リシィとサクラの言う通りだ。


 阻塞気球は数多くの銃座を持つものの、特に優れた威力を持つものはない。

 直掩の数の多さが驚異なだけで、本来は艦載機母艦として戦域の後方から部隊を展開するための存在。その内側が脆弱なのはとっくに把握していた。


 僕たちはやり過ぎたけど、アリーが丸々一体を鹵獲しているから、今となってはどんな墓守よりも調査研究が進んでいる。


 故にあの巨体を恐れさえしなければ、既に敵となる相手ではない。





 そして、銃声と砲音が銀座の街の到るところから響き始めた。


 自衛隊と墓守との実質的な初戦となるこの戦いは、今後墓守を相手にすることが出来るかどうかの分水嶺ともなる起点だ。


 根本的な事態の沈静化のため、僕たちはいつまでも自衛隊に協力は出来ない。

 だから、この戦闘での情報や経験だけではなく、墓守に使われる神代技術をひとつでも多く収集し転用してもらう必要があるんだ。


 そんなことを考えているうちに自衛隊員が戦車と共に駆け足でやって来て、針蜘蛛を牽制しながら僕たちを取り囲んだ。



「君が九坂 灰人くんだな、増援に来た! 要救助者はどこか!」


「増援に感謝します! 要救助者は周囲の建物内に一時避難させています。昏倒させているため運ぶのに人数が必要ですが、頼めますか?」


「そのための我々だ! 君たちはどうするか!?」


「あのデカブツ、阻塞気球を破壊します。これ以上の侵攻を許すと救助も困難になるので、何よりも優先して討滅します! リシィ、サクラ!」


「お、おい、待つんだ! 君たちだけでは!」

「大丈夫、任せてください!」



 丁度その時、阻塞気球は僕たちのいる通りを跨って巨体の全てを晒した。


 僕たちは自衛隊の射線を邪魔しないよう、隊員に一瞥した後で屋根の上に跳び移って接近を試みる。

 その間も10式戦車の主砲は阻塞気球を狙い、だけど弾着が強固な外装部では目立った損傷は確認出来ない。


 阻塞気球を討滅するには、迎撃をかい潜った内側からの攻撃のみが有効なんだ。



「リシィ、砲弾は光矢で迎撃、銃弾は光膜で防御! 区別は大丈夫か!?」

「ええ、問題ないわ! カイトこそ、私から離れないでよね!」

「ああ、騎士として主の剣となり盾となるのは当然だ!」


「カイトさん、私は先行します!」

「くれぐれも流れ弾には気をつけて!」

「はいっ!!」



 決して平坦な道ではなく、路地も跳び越えなくてはならない建物の屋上で、サクラは砲旋回が追従出来ないほどの速度で加速した。


 リシィも光矢で降り注ぐ砲弾を迎撃し、銃弾を光盾と光膜を器用に使って防ぎながらサクラの後を追う。


 そして僕はと言うと、ただリシィの傍で頼るばかりで何もしていない。

 今も【黄倫の鏡皇(イェイカヤウェイグ)】は僕の神力を吸い続け、酷くもどかしくはあるけど二人を信頼するのなら、仕上げのその時まで自身を温存し続けるだけだ。


 とはいえ、そんな僕のもどかしさは迫り来る針蜘蛛の群れと共に蹴散らされ、進路上に存在する全ての障害はその悉くを駆逐されてしまっていた。



「流石に銃砲の数が多いわ……」

「リシィ、一旦路地に下りてサクラが撹乱するのを……」


「いえ、数を減らして(・・・・・・)しまえば良いのよ!」



 リシィがそう言って力強く黒杖を振るうと、光膜の一部が渦を巻くように収束して一際目映い黄金色の輝きを放った。



「金光よ驟雨となり爆光の矢で穿ち爆ぜよ!!」



 これは、光矢の雨と一度使う機会を間違えた爆光の矢の合わせ技……!?


 リシィの光膜から、どこぞのロマン砲の如く撃ち上げられた光の重砲弾は、迎撃にも全く微動だにせず阻塞気球の頭上で炸裂した。


 降り注ぐ光矢は篠突く雨の如し、流石に突き刺さりはしないものの弾着と同時に更に弾け、装甲の表面は高温の爆風で覆われていく。



 ――ドンッドドンッドオオォォォォンッ!! ドガアアアアァァァァァッ!!



 撃ち出された砲弾の炸薬が熱に煽られて爆発したのか、それとも高熱が直接砲内に侵入したのかは原因がわからないけど、そうして装甲表面にある無数の砲座は一斉に爆発し、阻塞気球はわずか一撃で火達磨となってしまった。


 “防護フィールド”もあったはずだけど……今のにそこまでの威力が……。



「こんな力……いつの間に……」


「私だってやる時はやるんだから。べ、別にサクラやノウェムを大事にするなとは言わないけれど、私だってたまには褒めてくれないとごにょごにょ……」


「え、何? 最後もう一度……」

「行くわよっ!」

「はいっ!?」



 結果として、全てではないけど迎撃が減った。


 阻塞気球は装甲の至るところから黒煙を上げ、本体にも損害があったのか、何かのたうち回るように十本の手脚を忙しなく動かしている。



「ううぅー、またサクラに良いところを持って行かれそうだわ……」

「え、サクラ……!?」



 いつの間にか、サクラは阻塞気球の脚の内側に潜り込んでいた。

 リシィの光爆までかい潜り、逆に目眩ましと使い接近してしまったんだ。


 そうして、装甲がない針蜘蛛の懸架設備で占められる内側で爆音が轟いた。

 阻塞気球の脚の一本が上部関節から破断し、周囲の建物を倒壊させながら崩れ落ちるけど、人々を避難させた建物は十字路寄りで今のところ影響はない。



「カイト、私では足が遅いわ! 抱えて跳んで!」

「わ、わかった! 姫さま、失礼する!」



 僕はリシィをお姫さま抱っこする形で抱え、全力で建物の合間を跳んだ。

 これでは僕が両手を使えないけど、黄鏡がリシィを覆うようになって丁度良い。



「サクラ! 光膜の内側に!」



 僕たちも阻塞気球の真下に潜り込むと同時にリシィが叫んだ。


 サクラは二本目の脚を破壊し、基部を蹴って数十メートルの高さを戻る。

 【焔獣昇華】をしないでもこの運動能力、本当に彼女はここに来て調子が良い。



「金光よ光弾となり全てを討ち滅ぼせ!!」



 サクラが退避したのを見届けてから、リシィが大きく黒杖を振るった。


 発した言葉はざっくりとしたものだけど、要は心象として思い描くものが確かなら、言葉はそれを誘引するものに過ぎない。


 僕たちを包んだ光膜が彼女の言葉と共に弾け、阻塞気球の巨体の内側で炸裂する金光の散弾に変わる。



 この時、人々の救助さえ終わればこの戦いは終わると僕は確信した。

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