表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
233/440

第百九十八話 銀の御座迎撃戦

 従騎士エスクワィアを討滅し、道路の先の砲兵アーティラリーもまたロケット砲弾と交差するよう放たれた光矢に貫かれていた。

 途絶える墓守の侵攻。だけど途絶えたと思えるのは一瞬で、直ぐに砲兵の残骸を乗り越えて重砲兵シージアーティラリーが姿を現す。


 武装は二百四十ミリ重迫撃砲一基一門。間違いなくこんな街中で、それも近射で撃たせて良い代物ではなく、そもそもが近接する運用自体がおかしい。

 万が一にでもここで発砲を許せば、建物内に避難させた人々にまで危害が及んでしまうだろう。



「リシィ、迫撃砲を狙うんだ! 僕は突撃する!」



 リシィに指示を出すと同時に、僕は光膜を出て路面を蹴った。


 直ぐに三本の光矢が僕を追い抜き、八本の脚を曲げて発射体勢に入った重砲兵の円盤部に二本、迫撃砲の基部に一本が命中する。

 重砲兵の追加装甲は数こそ少ないけど、近接戦闘型墓守に使われるものと同じ複合装甲だ。形成速度を重視した光矢ではやはり傾斜装甲に弾かれる。


 だから僕が突撃し、銀槍をもって……。



 ――キュオンッ……ゴシャッ!!



 もって……更に僕を追い抜いた光槍・・が重砲兵を貫いた。


 僕は道半ばで出鼻を挫かれ、急制動をかけてリシィの元に戻る。

 何が起こったのかと、そんなことは彼女の仕業でしかあり得ないのだけど、わずか数瞬で形作られた光槍は苦労することもなく重砲兵まで討滅してしまった。



「もう、カイトは継続して神力を消耗中なんだから、少しは私たちを頼りなさい!」

「え、あっはい……。だけど凄いな、いつの間に光槍を一瞬で形成出来るようになったんだ?」


「サクラが言っていたでしょう、この世界は神力が濃いの。深い場所にあるだけで、一度繋がってしまえば無尽蔵にも思えるわ。これなら【黄倫の鏡皇(イェイカヤウェイグ)】の長時間維持にも耐えられるし、中型墓守くらいなら私たちだけでも充分に凌げるわ」


「な、なるほど……神力の濃さは目に見えるほどに影響するもんなんだな……」

「ええ、この地でなら防護結界を張り続けながら、更には複数の攻撃形成を同時にこなすことまで出来るのよ。カイトが心象に思い描くことの大切さをより深めるよう、教えてくれたおかげでもあるわ」



 リシィの言う通り、光膜の形成変化で光矢と光槍が連続で撃ち出されていた。


 留まることのない墓守の侵攻は、その悉くが金光に貫かれて残骸となり、やがては障害物とまでなって僕たちに有利となる防護壁を形成する。



「向こうの世界にも濃い神力の流れはあっただろう? 何が違うんだ?」


「単純な量よ。迷宮内で流れる神力は確かに濃かったけれど、吸い上げたら直ぐになくなってしまうもの。だから私たちは自身の内にある神力しか使えなかったの」


「そうだったのか。それなら、今回の核となる作戦もやり易くなる」

「ええ、その通りよ。だからカイトは今だけでも大人しくしていて!」



 地球の神力がここまでプラスに影響するとは、流石に想定が出来なかった。

 いや、常に最悪の想定をするばかりが僕だ、可能性が見えたところで楽観的には思考しなかっただろう。


 だけどこれなら尚更、彼女たちに任せて見ているだけなのは性に合わない。



 ――ドンッ! ゴオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!



 サクラが突撃した右折方向で、二度目の紅蓮の炎が空を焼いた。


 炎の中ではサクラが地面も壁も関係なく縦横無尽に跳び回り、彼女が鉄鎚を振るう度に溶けた鋼鉄の塊がアスファルトまで溶かす。

 だというのに、それ以外の道路脇の建物には焦げ目すらなく、炎の中でゴミ袋やプラスチックの容器でさえも原型を止めている。


 詳細不明の特級神代遺物【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】……その力とそれを巧みに操るサクラ……彼女ほどこの孤立した状況で頼りになる存在はいない。


 リシィもだけど、僕は彼女たちの献身に報いたい、支えたいと思う。





 そうして、サクラは近隣の複数の通りまで薙ぎ払い戻って来た。


 鉄鎚の能力とは、焼き払いたい対象を指定・・出来るのかも知れない。

 火事も起きず、人でさえもあの炎の中では無傷なのではないだろうか。


 凄まじ過ぎて若干気後れしてしまうけど、まずは労いたいところだ。



「サクラ、大丈夫か?」


「はぁ、はぁ、はぁぁぁぁ……大丈夫、です。大地からの持て余す神力の供給に、思わず振り回されてしまいました……。それにしても、この地は凄いですね……無尽蔵の神力に下手をすると溺れてしまいそうです」



 サクラは息を強く吐いて肩も大きく上下させ、可変していた鉄鎚も既に元の形に戻っていた。

 それに、彼女の赤く火照る肌は汗に濡れて滴る雫まで美しく、むしろ僕は嫌うよりも只々魅力を感じてしまうばかりだ。



「サクラ、少し休んで。逆側も瓦礫の山が墓守の侵攻を阻んでいる。僕とリシィで制圧するから、次に攻勢があった時まで体力を温存していて欲しい」


「はい、ありがとうございます。ですが、カイトさんから嬉しいお言葉を頂けましたから、今日はいくらでも鉄鎚を振るうことが出来そうです。ふふっ」

「あれは、つい本音が……。そ、それでも少し休んでいて欲しい」

「はい♪」



 ここでもまた、サクラの極上の笑みが僕に向けられる。


 サクラは肌が火照っていることから余計に艶かしくなり、僕はあの日……“発情期”の彼女を思い出して思わず心臓が大きく跳ねてしまった。


 邪龍が世界を超えてまで僕たちを観察しているかどうかはわからないけど、最前線でのこの余裕は最悪の前触れなのではないかと思う。


 だから僕は油断なく周囲に意識を巡らせ、最悪の中での最悪を想定し続ける。

 一歩踏み出せば死、そんな常人では精神が摩耗してしまうような、常に死と隣り合わせの思考を途絶えずに回し続けるんだ。


 ここが正念場、これすらも乗り越えられなければ邪龍の相手なんか出来ない。



「もう来ないわ。こちらに集まって来てくれたおかげで、周辺の墓守は掃討出来たみたいね。これなら救助活動も楽に出来そうよ」



 細い腰に手を当て、一息吐いたリシィの言葉に僕は内心頭を抱えた。

 彼女の言う通り迷信はどうしようとも迷信なんだけど、フラグだよな……。



「はは、二人の殲滅力が僕の想定を遥かに上回ったから、驚いたよ。これで終わりなら悩まなくても良いんだけど、果たしてどうなるか……」


「何なら、今のうちに他の場所も掃討してしまうのはどうかしら? 自衛隊の被害もなくなるのなら、そのほうが良いわよね?」


「ああ、だけど人気店にはお客さんが継続して行列を作るもんだ」

「それはどう言う意味……」



 リシィが言い切る前に、サクラの犬耳も反応を示した。


 ガシュッと屋根を蹴る音が複数聞こえ、三体の新手が十字路の左右と退路を塞ぐように下り立つ。


 ここに来ての新手、“自律砲塔ランドホッパー”。全高が三メートルもない小型だけど、遭遇例も少なくこの大きさで未討滅となっている墓守だ。

 未討滅の理由は、正騎士ロードナイト巨兵ガルガンチュアのように防御が強固なわけではなく、戦法が一撃離脱の超高速機動型のため。それをなし得る形状は、まるで小型拳銃のデリンジャーに逆関節二脚を無理やり備えつけたかのような小柄な姿をしている。


 縦に連なった二連装砲は他の墓守に比べたら非力にも思えるけど、これが三次元立体機動で強襲して来るから、油断した探索者はヘッドショットで一撃と聞く。


 そして、更に建物伝いに現れる新手はもうお馴染みの針蜘蛛スプリガン

 ここでも数が多く、こいつが存在するということは……。



「こんな狭い場所で特大の墓守なんて……!」

「はは、“フラグ”も捨てたもんじゃないだろう? 結構あるもんだ」

「そんなものに縋りたくはないけれど、これでは言い逃れも出来ないわ」



 銀座の街を破壊しながら、更にどこからか阻塞気球スプリガンネストが現れた。


 阻塞気球は既に“大蜘蛛”に展開していて、大きさから道路に下りられず、建物の屋根を足掛かりにして一歩一歩とこちらに近づいて来ている。



「カイトさん、もう一度全力で殲滅します!」

「いや、僕たちにも増援が来た……!」



 ――ドンッ! ドゴォッ!! ゴンッゴゴンッ!! タタタンッタタタタタタッ!



 砲口を僕たちに突きつけ、今まさに発砲しようとした自律砲塔が、道路の先から飛来した砲弾の直撃を受けて吹き飛んだ。

 更に攻撃はそれだけでなく、僕たちの頭上をあらゆる弾種の銃砲弾が飛び越えて針蜘蛛の群れまで吹き飛ばす。


 僕たちが来た道路の先に見えたのは、10式戦車(ひとまる)を先頭に進出する自衛隊。


 ようやく、待ちに待った侍たちのお出ましだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ