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第二十一話 “来訪者” その秘密

 あわわわわ……な、何でこんな状況に……。


 今僕はどう言うわけか、リシィとサクラと一緒に湯船に(・・・)浸かっている(・・・・・・)


 この状況に置かれている当の自分も、頭の上ではクエスチョンマークが乱舞しているので、理由は良くわかっていない。

 こうなった過程を順序立てて説明するなら……まず、僕の腹は打撲だけでなく肋骨にヒビまで入っていたらしい。そこで、サクラがいつもの治療をしてくれるわけだけど、万全のため“神脈”が真下に流れているお風呂で行うと言い出した。


 ここまでは、まあ納得も出来た。問題はその後……。


 リシィが『は、はしたないわ! ダメよ!』と、やけに慌てて反論してきた。

 まあそうなるな、当然だと思う。万全を尽くさなくても良いから、適度に治療してくれれば僕はそれで構わないんだ。


 だがしかし……。


 『私も一緒に入るわ!!』


 ……っ!?!!?



 それで、なし崩し的に今の状況だ。


 これでテュルケまで入っていたらまずかったけど、流石に公私はしっかりと分けられているらしく、風呂の隅でメイド服のまま佇んでいる。


 リシィはこちらに背を向けているから、どんな表情で湯に浸かっているのかはわからない。見てはダメだと良心が訴えかけるものの、彼女は何故か僕の斜め前に少し離れているので、どうしても視界に入ってしまっていた。


 その背はとても華奢で、纏め上げた髪から垂れる白金色の後れ毛が、まるで極上の刺繍のように浮き出た鎖骨の上を飾り、煩悩を忘れてしまうほどに綺麗だ。

 それでも、見ないようにと徐々に目を細めていくと、余計になだらかな背骨のラインの先を想像して、どうにも煩悩が刺激されてしまう。


 救いを求めてテュルケを見ると、テヘペロドヤ顔サムズアップをする謎の反応を返してくるので、本当に意味がわからない。何だそれ……。


 そして、リシィとは反対側にいるサクラの方へは、更に顔を向けることが出来ない。

 僕の腹に手を当てるため、間近でこちらを向いている上に、普段は和服だからわからないけど彼女はかなり肉感的なんだ。


 うーん……ハーレムと言うのは、本能のままにやりたい放題でもしないとしんどいだけだな……理性が限界を超えて稼働中だ。

 二人とも身体にバスタオルは巻いているけど、地球のものみたいに厚くないから余計蠱惑的で困ってしまう。


 そんなわけで僕はもう限界、早く治療が終わって欲しい……。


 あ、それはそうと……。




 ◇◇◇




 もう! もう! もう! カイトったらっ!

 顔を赤くして、デレデレして、だらしのないっ!

 そんなんだから! そんなんだからっ! 私はっ!


 ……

 …………

 ………………


 ……私は……何かしら?


 自分の行動が、自分で良くわかっていないわ。

 本来なら、こ、こんなはしたない真似はいけないし、ででっ出来ないわっ!

 湯に浸かって、ようやく冷静さを取り戻してきたけれど、ど、どうしたら良いの……既に動くことも、ここから逃げ出すことも出来ない……。


 本当に私、何をしているの……。


 今日は満月が良く見える。もう夜も遅いから、明かりはランタンと蝋燭の火だけで、湯殿の中はとても良い雰囲気ね。とても落ち着けて、夜空を眺めながらいつまでも浸かっていたいと思える……後ろを振り向かなければ、だけれど。



「前から気になっていたんだけど、質問しても良い?」



 それまで皆黙っていたのに、突然カイトが声を上げたせいで、私は思わず慌てて波を立ててしまった。とても……色々な意味で恥ずかしいわ……。



「はい、何でしょうか?」



 カイトの傍でサクラが返事をする。良くあそこまで近くにいられるわね……。

 治療しているのだから、仕方ないのはわかっているのだけれど……。



「この治療は、三度目……あれ、四度目だっけ。いつも何をしているんだ? 何か、温かいものが流れ込んでくるけど……」


「はい、そうですね……神力を供給しています。カイトさんの世界だと、“気”などと呼ばれるものだそうですね。出自は不明ですが、“第五元素エーテル”とも呼ばれます」


「うん? 効果は新陳代謝が活性化する、とかかな……何だろう?」



 肩越しに背後を見ると、カイトが自分の体を確かめるように撫でている。

 その様子に、私は恥ずかしくて仕方ないのに、目を逸らすことも出来ないの。

 ここしばらくの鍛錬で、彼の体は見る見ると逞しくなっていく……そう言えば、男性の裸はお父さま以外だと初めてね……。



「あの、無理はして欲しくなかったので、まだお話していなかったのですが……この世界の純血種にはなくて、地球人類種にだけある特徴に、体内に“神脈炉”を持つと言うものがあります」


「え? 地面の下に流れていると言う話の?」

「はい、理由は良くわかっていませんが、来訪者の方はこの世界の神脈から神力を汲み上げ、体内で増幅する“炉”を持っているそうなのです」


「この世界で生活するようになって、特に変わった感じはしないけど……」

「そうですね、自覚が出来るとしたら“病気にかからない”や“身体が軽い”などです。今のカイトさんの状態だと、“怪我が治り易い”や、“目に見えて鍛錬の効果が現れる”と言ったところでしょうか」

「た、確かに、最近は異常に筋肉がつき易くなったと思っていたけど……」



 はぁ、はぁ……ん、いつまで続くのかしら……上せそうだわ……。もう、湯に上せているのか……カイトを見たせいで上せているのかもわからないわ……。



「なるほどな……。それなら、僕が神脈の上にいるだけでも良いのでは?」


「はい、それでも効果はあるのですが、実はもうひとつ特徴がありまして……神脈炉は、あの、その……混血であったとしても、こ、子供に受け継がれます」



 こっ……こどっ!? こっ!?

 どっ、どうしたら良いの……顔がとても熱いの……。

 んっ……目が、ぐるぐる……世界が、回っている、わ……。



「あっ……えーと、ごめん。ここでする話じゃなかったかも……と言うことは、サクラにもその神脈炉が?」


「い、いえっ、大丈夫です! カイトさんの仰る通り、私と母はお爺ちゃんから受け継いでいます。そのため、神力の扱いに慣れている私が、お互いの神脈炉を循環させて傷の治癒を促進している、と言うのが治療の正体ですね。そろそろ、痛みも消えてはいませんか?」


「お、おお……? 本当だ、もう触っても平気だ。これは凄いな」



 ぐるぐる……ぐるぐるぐるぐる……んっ、もう、限界……。


 助け……テュルケ……カイ……ト……。




 ◆◆◆




 なるほど、ようやく合点がいった。


 これは、来訪者がここまで過剰に保護される理由のひとつだ。

 固有能力を持ち、身体能力も高いこの世界の人種に、更に“神脈炉”が備わるのなら、一財産を投げ売ってでも手に入れたいものだと言うのは、想像に難くない。


 ……それが初めて知れた時の惨状が目に浮かぶな。

 この世界の人たちと、ここまで友好的な関係を築けるまでに、どれだけの苦労があったのか……先人たちの労力には感謝の念が絶えない。


 今の友好性は、これから来るだろう来訪者にも残していかないと……。



「カイ……ト……」

「うん?」



 ……は!? い、いつの間にかリシィが酷いことになっている。

 纏め上げていた髪は乱れ、バスタオルもはだけて白い、いや赤い肌が露わになり、瞳も真っ赤でとろんと蕩けた表情は視線も定まっていない。


 上せたのか……!? どうしてそんなになるまで……!?



「テュルケ! リシィが!!」

「えっ? あっ!? お嬢さま!?」

「リシィさん!?」



 皆が慌てる中で、リシィはふらりとよろめきながら立ち上がった。

 既に一糸も纏わぬ姿は文字通り茹でダコのようで、彼女の裸身自体が緊急事態を知らせる警報のようだ。


 リシィは更に一歩をこちらに踏み出し、そして湯に倒れた。



「もう、ダメ……ブクブクブクブク……」



 テュルケが駆け寄るも間に合わない。



「リシィッ!?」

「姫さまーーーーっ!!」



 ああ、何てことだ……裸身に触れて良いのかと、無駄な倫理観がリシィを支えるのを躊躇させた。四の五の考える前に、抱き上げるべきだったんだ……。


 そんなことを思いながら、サクラとテュルケに支えられて風呂場から出て行く彼女を、僕は手持ち無沙汰に眺めていることしか出来なかった。


 咄嗟の状況判断……それすらも足りない……。

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