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第百九十ニ話 心の芯を貫く力

 詳しい状況は定かでないけど、明らかに良くはない。


 予期せずに現れた“青光の柱”は東京の中央に陣取り、あらゆる対応が後手に回る中で、恐らくは既に多くの人々が連れ去られてしまったはずだ。

 あまり猶予はない、だけど退ける策もない、人の限界を超えて思考しようとしてもやはり人は人のまま、人知を超えた存在に対してはこうも無力なのか。


 それでも諦めることの出来ない僕は、リシィとやれることを確かめた。


 能力の詳細を知り、能力の規模を測る、神器にしたって龍血を宿す彼女自身も僕もわからないことだらけなんだ。


 だけどやれると思うのなら、後は全力でやるしかない。



「カイトさん、目を覚まされました」



 この地球の全ての人々には人知れず“神脈炉”がある。


 それは地球では“気”とも呼ばれるようなもので、サクラが体内の神脈に干渉すれば代謝は活性し、意識くらいなら直ぐに取り戻してしまうんだ。


 その自衛隊員は頭を振りながらも、周囲の状況を直ぐに認識したようだった。



「君……たちは……?」


「僕は九坂 灰人、貴方はここで意識を失っていたんです」


「自分は、陸上自衛隊の守山もりやま まこと3等陸曹……痛っ、いったい何が……」


「守山さん、ここで何があったのか覚えていますか?」

「ここで……? 自分は練馬から偵察任務で出動して……光の柱に……そうだ、 仲間は!? 自分の隊の仲間はどこに!?」

「ここに他の人はいません。守山さんは誰かに殴られ昏倒していた。そこに通りかかったのが僕たちです」



 守山3等陸曹は自衛隊の迷彩服を着て頭にはヘルメット、まだ二十代と見られる若い顔立ちは責任感が強く実直で精悍な印象を見る者に与える。


 傍らには89式5.56ミリ小銃が転がっていて、周囲にも主が不在の同じものがいくつか見られることから、ここで何があったかのは想像に難くない。



「殴られ……」


「これまでと周囲の情報から推測するに、恐らく守山さんの隊の人は突然装備を放棄してあの光の柱に向かい始めた。止めようとでもしましたか?」


「あ、ああ……皆が突然おかしくなって、自分は止めようとしたが……正気を失くした本間隊長に殴られて……いったい何がどうなってるんだ……」


「カイトさん、今の話からすると、ここも影響圏のはずですが……」

「ここは最も干渉力の弱い最外縁部になるんだ。僕たちには胸の内の妙なざわめきでしか判断が出来ないけど、知るからこそ免疫ともなる。そんなところか」



 後は信仰然り、催眠術然り、詐欺にしてもそうだ、影響を受け難い心性というものが確かに存在し、守山さんもそのうちの一人なんだろう。


 目に見えない驚異、ヤラウェスの“精神干渉”は最も厄介な能力だ。





 彼は小銃を手に取り、軽装甲機動車を支えに立ち上がった。



「仲間を探さないと。ここは危険だ、君たちは……君たちは何だ……?」



 守山さんに合わせて僕たちも立ち上がったところで、彼はようやく話している相手のおかしな格好に気が付いたようだ。

 僕から始まり、傍にいるサクラ、続いてリシィと全身を見て、どう反応すれば良いのか困惑している。


 別に僕たちが前面に出なくても良い。要所だけを押さえるようにして、何とか彼を仲介に自衛隊との協力が出来ないだろうか。



「信じてもらえるかわかりませんが、僕たちはあの“青光の柱”、それとそこから現れたロボット【鉄棺種】の情報を持つ者です」


「自分にはただのコスプレイヤーにしか見えないが……」



 僕は守山さんの眼前に右腕を持ち上げ、わざとらしく銀炎を燃え上がらせた。



「この右腕はただの甲冑ではありません、これ自体が僕の腕です。彼女の耳も尻尾も、彼女の角も本物。僕は元々が日本人ですが、不意に異世界に迷い込んであのロボットと戦う羽目になったんです」


「異世界転移もののアニメなら見たことがあるが……」

「それです」



 守山さんが僕の右腕を見てゴクリと生唾を飲み込む。


 一歩近づいたサクラは獣耳を動かし、背を向けて未だに周辺を警戒しているリシィは尻尾を揺らめかせる。演技にしては迫真、小道具にしては出来すぎている。


 この創作染みた現物を見た人は何を思うのか、そもそも非現実的な“青光の柱”がそびえ立つ状況で、縋れるだけの現実は果たしてあるのだろうか。



「君の言ってることが本当だとして、それを自分に明かした理由は何だ?」


「自衛隊と協力して事態を沈静化させたい。あの青光の柱の周囲には、人の意識に作用する精神干渉領域があります。迂闊に近づけば、守山さんの隊と同じ轍を踏むことになるのは、実際に体験してわかっているはずです」


「君たちならどうにかなると言うのか……?」

「僕たちだけでは無理です。現状を打破するための助力が欲しい」


「一兵卒の自分では判断出来ない……」

「カイト、何か来るわ!」

「……っ!?」



 警戒していたリシィの視線の先で、片側三車線ある国道十四号線の道路幅いっぱいに青光の陣が展開された。


 陣の中から迫り上がるように姿を現すのは……正騎士ロードナイト



「僕たちの存在をどこで捕捉された!?」

「カイトさん、上空です!」

巨鷲フレースヴェルグ……!」


「な、何だこいつ……。今、どこから……どうなってる!?」



 守山さんは小銃を構え、専守防衛である以上は撃つことも出来ずに、青光の陣から現出する始めて見るだろう正騎士を驚愕の表情で見上げている。


 大剣を担ぐ正騎士と上空を旋回する巨鷲、二体を同時に相手するのはまずい。


 だけど、明らかな首都領空侵犯に戦闘機が緊急発進スクランブルしているはずだ。

 自衛隊の対機甲兵器が展開していることを祈りつつ、まずは……。



「リシィ、巨鷲が降下し始めたら優先で対空攻撃を、防御も任せる。サクラ、僕たちは正騎士を相手にする。出し惜しみはなしだ!」


「ええ、今度こそ良いようにはされないわ!」

「はい、ここにはいない皆さんの役割は私が!」


「ま、待て、あれは“敵”なのか!?」

「少なくとも話の出来る相手ではないです。守山さんは……あの大剣の間合いにだけは入らないようにしてください!」

「くそっ、何が何だか……!」



 正騎士は膝をつき、大剣を地に刺した騎士の拝礼の状態で国道十四号線を塞ぐように現出した。

 未だに優先攻撃目標はこの地球でもリシィと神器なのか、ゆっくりと立ち上がりその巨体で僕たちを睥睨する。


 そして対するため、僕は青炎と同じ要領で抜いた剣に銀炎を纏わせた。



「カ、カイト!? それは……!?」

「……え?」



 リシィの驚いた視線の先、僕の右手に【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】が形成されていた。


 見間違えるはずもない、大きさこそリシィが顕現するものに劣るけど、それでも三メートルはある長大な槍が、目映く銀色に輝いて右手に収まっていたんだ。


 青炎から銀炎に変わったからと、これは簡単に成せるものでもないはず。

 以前も一度、正騎士戦で僕自身の手で形成したことはあるけど、あの時はリシィから無理やり力を吸い上げ形にしていた。


 だというのに、今はそれすらもなく、青槍を形作るのと同じ感覚でいとも容易くこの神槍を僕は手にしている。



「カイトさんが神器を……!?」


「何だかわからないけど、これなら対するに不足はない。厄介な防護フィールドも、正騎士諸共穿ち貫く! これ以上の侵攻は許さず、討滅するぞ!」


「え、ええ、わかったわ!

「はっ、はいっ!」


「何もないところから槍が……これは、現実か……?」

「守山さん、僕の言ったことはこれを証明とします」



 正騎士が大気を真空に変えるほどの勢いで大剣を振るった。


 サクラが縮地とも言える身のこなしで迫る大剣の脇を抜け、剣身を鉄鎚で打つ。

 軌道を逸らされ、次に僕が大剣に沿うよう突き入れた銀槍を薙ぐと、更に正騎士は大きく逸らされた大剣を握ったまま身を捻じり倒れてしまった。



 ――ドオオオオォォォォォォォォンッ!!



 轟音が地面と大気を打ち震わす。



「す、凄い……あんなデカブツを一方的に……」



 守山さんが驚いている、僕自身も驚いている。


 正騎士と大剣の自重も含めた力の大半を“流す”方向に変えたとはいえ、その負担を受けたところで僕の体が何ともないからだ。


 そうして、相手の力を利用して相手の内に負荷をかけた。

 大剣を逸らされ、上体を無理やりに捻られた正騎士の腰部は、内部にまでダメージを与えたのかギシギシと軋み、隙間からは放電してしまっている。


 これなら、どれだけ強固な防護フィールドも一切関係ないだろう。

 関節を狙わずとも関節に攻撃を仕掛ける、かつては未討滅だった正騎士も巨兵ガルガンチュアだろうとも有効な戦術、最早どんな大型も恐れることはない。


 それをルテリアに、探索者たちに伝える。僕たちは必ず帰るんだ。

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