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第百六十三話 戦の終わりに咲く花

「リシィ、攻撃を腕の付け根に集中! サクラ、合わせて一気に腕を落とす!」

「そんな必要はないわ! 私が腕を落としてしまっても構わないのよね?」

「あ、ああ、妙なフラグにも聞こえるけど、やってくれるのなら助かる。それでも僕たちは行く、サクラ!」

「はい、お支えします!」



 巨兵が仰け反る体勢から、上体を振る反動で一歩を踏み出した。


 僕は握り締めた騎士剣を軸に、再び青槍を形成して対峙する。

 隣にはサクラ、【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】が溶け落ちてしまいそうなほどに灼炎を燃やす。



「金光よ! 槍と刃をなし、我が敵を穿ち斬り裂け!」



 リシィの周囲に一際目映い金光が収束して形をなす。


 それぞれが六つずつもある光の槍と刃。どこにこんな余力を残していたのかと思うほどに、計十二もの金光の奔流が彼女の周りで渦巻いている。


 そして彼女の黒杖の振りに合わせ、その全てが一斉に放たれた。



「サクラ!」

「はい!」



 僕たちはその後を追う。

 彼我の距離は五十メートルもなく、時間にするとわずか数秒。


 巨兵はリシィの攻撃ごと薙ぎ払うつもりなのか、防御態勢を取ることもなく剛腕を後ろに引いて殴る構えだ。


 “攻撃は最大の防御”が巨兵の戦術特性か、シンプルが故に侮れない。



「曲がりなさい!」



 強襲する光槍と光刃の群れに剛腕が振るわれた。


 巨兵の大気をも押す剛拳により、弧を描いた光槍と光刃は半数が拳に阻まれたものの残りが肩を目掛けて殺到し、僕とサクラも伸び切った剛腕の上に跳び乗って後を追う。


 そうして、巨兵の迎撃を避けた残り半数の光槍と光刃は全てが肩に直撃し、火花を散らして肩装甲を吹き飛ばした。


 金光の粒子が舞う合間に見えるのは、基部関節。



「サクラ、あそこだ!」

「はい!」



 僕とサクラは直前で同時に跳躍し、お互いの青槍と槍鎚を合わせた。

 最後の追撃を確実なものとするため、この一撃に“願い”の力を込める。



「行っけええええええええええええっ!!」

「はあああああああああああっ!!」



 ――ギィキイイィィィィゴッゴオオオオォォォォォォォォッ!!



 青槍と槍鎚は基部関節に突き刺さり、螺旋を描く青と赤の炎が燃え上がった。


 結果、巨兵の右腕は内部から焼かれて吹き飛んだ。


 僕たちは爆発に巻き込まれないよう飛び退って地上にまで下り、火の粉となって降る残骸の雨を避けながら後退する。



「良し、後は……!」

「まだよ!!」



 僕が空を見上げた瞬間、声を荒げたリシィが光矢を射ち出した。

 その様はまるでガトリング砲、無数の光矢が巨兵の両膝を撃ち抜く。


 彼女は、僕以上の想定をもって最善をなそうとしているんだ……!



「カイトさん、来ました!」



 間もなく膝から崩れ落ちる巨兵の真上に開いたのは、翠光の円陣。

 ノウェムの“転移陣”、そして陣から勢い良く溢れ出したのは“水”だ。


 これが、巨兵討滅に至るための最後の手段。


 僕は戦闘に入る直前に、ノウェムとアディーテを塔の外に行かせた。

 その目的、その手段とは、つまりアディーテに渓流まで移動してもらい、高空から見下ろすノウェムに水場・・塔内・・繋いでもらう(・・・・・・)という連携水流爆撃。


 大量の水による“穿孔”、今の状態で耐えられるか、巨兵ガルガンチュア



「アウーーーーーーッ!!」



 そうして、止めどもなく溢れた渓流の水によって巨兵は全身を濡らし、水流とともに陣を抜けたアディーテがその上に下り立った。


 核の位置がわからないのなら、全身を掻き回してしまえば良い。



「アディーテ!! 存分にやれ!!」

「アウーーーーーーーーーーーーッ!!」



 巨兵の全身から、油と混じり合い濁った泥水が噴き出した。




 ―――




「あうじしゃまああああっ!」

「おっと……ノウェム、お帰り」



 ノウェムが半ば落ちるような勢いで空から降って来たけど、僕は抱き止めるも疲労と怪我から支えきれずに尻餅をついてしまった。


 彼女は僕の腕の中で顔を上げ、泣きそうなものの笑っている。



「ごめん、無理をさせた。具合はどうだ?」

「ら、らいりょぶ。われはがんばっらぞ」



 ノウェムは既に呂律も回らず、鼻血だけでなく口からも血が滲んでいた。


 やはり……彼女がいくら役に立つことを望んでも、こればかりは何度となく頼るわけにはいかないな……。

 いくら心が救われようと、体が傷ついては元も子もないんだ……。



「サクラ、直ぐに神脈の調整をしてあげて。ノウェム、良く頑張ったな」

「えへぇ~……すこし、つかえた、ねう。おきたら……あたま、なれておくぇ……」


「ノウェム、本当にありがとう……」



 ノウェムは苦しげに、それでも安心したように僕の腕の中で寝息を立て始めた。

 サクラが彼女の胸に手をかざし、淀んだ神脈の調整を始める。



「ノウェムには悪いことをしたわ」



 リシィも傍で膝をつき、ノウェムの汗ばんだ額から髪を脇に避けている。


 この作戦を立案したのは僕だけど、リシィとしてはノウェムに力を使わせる前に神器で片を付けたかったんだろう。



「リシィ、ありがとう。ノウェムのことを心配してくれて」

「当たり前よ。い、一応、ゆゆっ友人だもの。かっ、家族でもあるわっ」



 リシィの口から直接、『友人』、『家族』と出て来て僕は驚いてしまった。


 ノウェムに対するリシィの憤り、“三位一体の偽神”の存在を伝えたことで引き摺るものでもなかったけど、それでも鬱憤が残るものだと思っていたから。



「カイトも、貴方のほうが余程心配な状態なんだから……本当に大丈夫なの?」

「ああ、切り傷だらけだけど、致命傷は恐らく神器の力で治癒されたんだと思う」

「神器……の……?」


「ああ、この右腕には恐らく神器の全ての力が含まれている。当然、リヴィルザルの“創生”も。心配をかけたけど、本当に大丈夫だよ」



 そう言って僕は右腕を掲げる。

 今はもうくすんだ灰色ではなく、青銀色にまでなった神器の腕だ。


 “覆す力”……確かに僕の力となり、また僕を無理矢理に生かし続けている。



「カイトさん、ノウェムさんの治療が終わったら直ぐにカイトさんに移りますから、出来るだけ動かないでこのまま休んでいてくださいね」


「ああ……サクラ、いつもありがとう」



 サクラは僕を見てそれ以上は何も言わないけど、どうも怒っているようだ。

 毎回無理をする僕に対してと、僕を守れなかった自分に対してかな……それが仕方のないものだとしても、納得はしてくれないんだろう。


 もっと準備段階から圧倒が出来るほどの予測と策を練らないと、彼女を、いや彼女たちを悲しませるばかりだ。



「カイト殿、すまん。戦場で意識を失うとは、武人としてあるまじき失態……!」



 ベルク師匠もテュルケを抱え、アディーテに支えられやって来た。



「ベルク師匠、厄介な防護フィールドと引き換えとしてはこの上ない結果です、謝らないでください。ベルク師匠が与えてくれた余力のおかげで、巨兵をこれ以上ない状態に追い込めたんですから」


「かたじけない。しかし、凄まじい様だ。アディーテ殿、見事なり」

「アウー、みんなぼろぼろだから、アウーッてがんばった!」



 凄まじいなんてもんじゃない。巨兵は内側から破裂させられた(・・・・・・・)ため、見ようによっては巨大な鋼鉄の花のような姿になってしまっている。


 あれじゃ例え核が残っていても、動かせる部位はひとつもないだろう。



「テュルケは大丈夫?」

「はいですぅ、私は神力が枯渇しただけですから、休めば大丈夫ですです」

「良かった……テュルケ、良く頑張ったわね」



 リシィが下ろされたテュルケに駆け寄り、体を支えて抱き締める。



「えへへ、姫さまの匂い安心しますですぅ」

「テュ、テュルケ、くすぐったいわっ!」



 テュルケはリシィの胸に顔を埋めて羨ましいけど、あれは彼女の特権だ。

 もしも僕がやったら、間違いなく“変態紳士”にクラスチェンジしてしまう。



 そうして僕は、少し困ってそれでも慈しむ表情を浮かべるリシィの横顔を眺める。


 今回は奇跡的に掠り傷で済んだ彼女、驚くのは始めて出会った頃とは比べ物にならないほどの持久力を手にしていることだ。

 “龍血の姫”という生まれ持った才能を持ち、王族としての教育もされて来たはず、にも関わらず彼女は努力することも決して厭わない。


 これはまずいな……高嶺の花なのはわかっているけど、僕は彼女にベタ惚れだ。


 しっかり覚悟をしないと、“彼女を守るために命を懸ける”ではなく、“どんな死地だろうと生きて乗り越え彼女を生涯に渡って守り続ける”、そんな覚悟を。



「カッ、カイトッ……そんなに見詰められると、はっ、恥ずかしいわ……」

「あっ、ご、ごめん……。どこか、安全な場所で休憩にしようか」


「ええ、カイトもしっかり休んで。でないと、私だってごにょごにょごにょ……」



 何だか聞こえなかったけど、リシィの頬を赤く染めて俯く姿は最高のご褒美だ……!

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