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第百六十ニ話 単独でのレイドバトル

 周囲に舞っている土埃の動きを観察していてわかったことがある。


 巨兵ガルガンチュアの防護フィールドは自身の攻撃にも作用しているようだけど、“金光の柔壁(やわらかクッション)”に跳ね返され不意に叩きつけられた場合は、外因に対しても損傷となっているんだ。


 正騎士ロードナイトの時も、ベルク師匠のカウンターに対応するまで時間がかかった。

 とすると今の迎撃に対応されるのも時間の問題、何とか隙を突いて神器を顕現するか、ノウェムたちの準備が整うまでに何とか防護フィールドを減衰させたい。



「サクラ、僕たちも合わせる。跳ね返された右腕に取りつき、武器を壁との合間に挟み込むよう振るうんだ」


「はい! お任せください!」



 後は頭を破壊されながらも、僕たちの位置を把握しているセンサー類を破壊したいところだけど……場所がわからない以上は手の出しようもない。


 巨兵が大きく脚を上げ、今度はベルク師匠を踏み潰そうとして来た。



「ぬぅりゃああぁぁぁぁっ!!」



 ズンッと床に伝わる衝撃とともに、ベルク師匠の真上に形成された“金光の柔壁(やわらかクッション)”と光盾が巨兵の踏み下ろしを阻む。これは流石に僕やサクラでは押し潰されかねないけど、黒鋼の竜と化したベルク師匠は全身を使って支えた。


 反射し勢い良く脚が跳ね上がる瞬間を逃さず、僕とサクラは巨兵の剛腕に取りついて駆け上る。

 そして背後に倒れる巨兵の隙を突き、サクラは大黒門と巨兵の肩の合間に【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】を捩じ込み、僕は青槍を肩装甲の隙間に突き入れた。



「良し、サクラ!」

「はい!」



 巨兵は追撃の爆炎で燃え上がりながら大黒門に背を擦って転倒し、押された大気が凄まじい突風を生む。

 だけど、これは一度離れるには都合の良い追い風だ。僕たちはきっちりと右腕に追撃を加えながらも迅速に距離を取った。


 それでもやはり、こちらの直接攻撃は何かに阻まれた感覚がある。



「直接攻撃は効果が薄い。サクラ、どうだ?」


「装甲の一部が陥没したことを確認しました。炎は阻まれましたが、狙うのは壁に打ちつける瞬間と既に破壊されている部分で間違いありません」


「良し、そのまま肩関節部を狙おう。リシィ、余力は?」

「大丈夫よ、攻撃にも参加出来るわ!」

「それなら首と左腕の破断部を臨機応変に狙って欲しい」

「ええ、ノウェムを待たずに討滅するくらいのつもりでやるわ!」


「テュルケはまだ大丈夫か?」

「はっ、はいです! へいちゃらですですっ!」



 大丈夫……でもないか、彼女の額には玉の汗が浮かんでいる。


 巨兵の剛腕を受け止めるために、かなり大きな“金光の柔壁(やわらかクッション)”を形成しているから持っても後数回……三回、いや後二回で右腕を破壊する!



「カイト殿、次が来る!」

「ベルク師匠、頼みます!」

「おおっ! おっ……!?」


「なっ!? テュルケ、枯渇しても良い最大形成!!」



 起き上がった巨兵が、勢いをつけてこちらに倒れて来た。


 大質量によるボディプレス。想定はしていた攻撃手段だけど、実際のそれは僕の推測を遥かに上回っている。


 青白い防護フィールドが目に見えるほど(・・・・・・・)、巨体の前面に展開しているんだ。



「やああああああああああああっ!!」

「ぬうぅぅぅぅんっ!! 秘奥義【雷號紫電衝】!!」


「金光よ……!!」



 ――ドオオオオオオオオォォォォオオォォォォォォォォッッ!!



 どんな砲爆撃よりも激しい突風が巻き起こった。


 僕は咄嗟にリシィとテュルケの盾となるも、耐え切れずに彼女たちを抱えて吹き飛ばされ、塔の内壁に激突してしまう。


 背に強い衝撃を受け尋常じゃない量の血を吐き出し、だけど心に過ぎったのは「この程度ではまだ死なない」と異常な衝動。


 じわりと、致命傷を負った背に神器が侵蝕する。



「ひっ!? カイト、しっかりしてっ!?」

「ごぼっ……大丈夫……。神器が修復を始めたから……二人は……?」

「わっ、私はっ、カイトが守ってくれたからっ……!」



 リシィは真っ青な瞳で顔をしかめ、今にも泣いてしまいそうだ。



「はぁー、はぁー、わ、私、だ、だいじょぶ……です。はぁー、ふぅー」



 テュルケは……神力の枯渇……。

 これ以上の固有能力使用は命に関わる、彼女はここまで。


 視線を上げ、土煙が舞う中にサクラとベルク師匠を探す。

 最初に見えたのは、大黒門に寄りかかるように倒れた帯電する巨兵だ。


 そして、その手前に立ち並ぶのは無数の“金光の柱”、リシィはあの一瞬で僕が考えもしなかった能力の使い方をやってのけたんだ。

 おかげで、サクラと元の姿に戻ったベルク師匠がその合間で無事だった。


 師匠は秘奥義【雷號紫電衝】を使っていた、奥義【紫電招雷】と違うのは固有形成器官“雷袋”が生成する紫電を前借り(・・・)するものだということ。

 竜化も解け、過剰生成した雷袋の負荷でベルク師匠もここまで。


 ボディプレス、防護フィールドが目に見えるほどの高出力エネルギーの攻撃転用、これが巨兵の特性で間違いはないだろう。



「迂闊……こんな原始的な攻撃に……先端技術を乗せるなんて……」


「カイト、喋らないで! 後は私が時間を稼ぐから!」

「いや、大丈夫だ……ここで歯を食いしばらずに何が男か……」

「だっ、ダメよ! 背中を強く打って、血がたくさん……」


「この心も体もリシィのために使う。大切な君が戦うのなら、僕もともに」

「んっ……!?」


「はぁー、はぁー、私、も……」

「テュルケはまず息を整えるんだ。また力を借りるかも知れない、今は少しでも神力を回復させることに集中し、ここで休んでいて欲しい」

「で、でもでも……はぁ、ふぅ、はい、です」



 テュルケの肌は青ざめ、唇は紫に変色してチアノーゼが出てしまっている。

 力を借りるとは言ったものの、失った神力の回復には数日かかるんだ。

 彼女はそれをわかっているのか、それでも今は頷いてくれた。



「ぐっ……」

「カイト!?」

「大丈夫……だ……」



 リシィに支えられ、僕はよろめきながらも何とか立ち上がった。


 少し前まで違和感のあった背中は既に何ともなくなり、体の内側が引っ繰り返されたかのようだった嘔吐感も嫌悪感も急速に薄れていく。


 サクラの治療なしでの異常な回復は、リヴィルザルの“創生”によるものか。

 恐らくはグランディータが、右腕の神器を介して無理やり肉体を修復しているんだ。


 僕は血を吐いて汚れた口元を拭い、視線は帯電し全身から黒煙を吐き出しながらも立ち上がろうとしている巨兵。


 異常な頑丈さも奴の特性か、だけどそれももう直終わりだ。



「ベルク師匠も退かせる、後は僕とリシィとサクラだけで持ち堪える。頼んだ」

「わっ、私だってカイトを支えるものっ。貴方にだけ背負わせないんだからっ!」

「リシィ、ありがとう……流石は僕の姫さまだ……」

「ん……」



 そうして、サクラがベルク師匠を担いで戻って来た。


 彼女だってダメージがあるはずなのに、それでも瞳は「まだやれます」と僕を力強い眼差しで見ている。

 巨兵に向かう僕たちと広場の中程で擦れ違い、ベルク師匠を下ろした後で再び戻って隣に並んだ。



「カイトさん、ベルクさんの秘奥義で巨兵の防護フィールドが機能しなくなったことを確認しました。今なら右腕を破壊することが可能です」

「流石はベルク師匠だ。武人の生き様に敬意を表したい」


「カイト、本当にもう神器を使わなくても良いの……?」

「ああ、特別な力ではない、誰もが持つ固有能力で工夫しての討滅法確立。これは今後、探索者全員に必要となることだ」

「カイトさんは探索者の……いえ、世界を変えようとしているんですね」


「ああ、ただでさえ僕たちはノウェムの“転移”、テュルケの“反射”、ベルク師匠の“竜化”とズルをしている。これ以上は“特別な力”に頼らない」

「それを言うなら、私たちは最初に神器を使ってしまっているわ」

「はは……本来は単独パーティで挑む相手じゃないんだ。少しだけはな……」



 巨兵と言い、ボスフィールド染みたこの場所と言い、この状況はゲームだったらレイドバトルだよな……最低でも六人四パーティ二十四名は欲しいところだ。


 本当にシュティーラさんも無茶をさせる……。



 ――ゴンッゴオオオオォォォォォォォォォン



 巨兵がギシギシと歪に身を震わせ、よろめきながらも立ち上がった。

 紫電が破壊箇所から入り込んだのか、全身を燻らせる様は満身創痍。


 それは僕たちも同じ……だけど、そろそろ時間だ。


 この一手を確実なものとするためにその剛腕、次の一合で破壊する。

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