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第百五十四話 男だから仕方がないんだ

 ◆◆◆




「ぐっ……ここは……」


「カイト、しばらくは動かないで。神経毒は後に残るものではないそうだから、今はおとなしく横になっていて。アラウガレアは討滅したから大丈夫よ」


「そうか……あんな魔物がいるなんて……油断していた……」

「良いの。カイトは必要な知識から学んでいたんだもの、仕方がないわ」


「リシィ……ありがとう……」



 どうなったのか……刺激が強過ぎて一時的に意識を失っていたようだけど、リシィが何とかしてくれたのか……流石は姫さまだ……。


 それにしても凄かったな……何が凄かったって……うん、色々と……。


 しばらくすると歪んでいた視界の焦点が定まり、今の状態が見えてきた。

 リシィが心配そうに真上から見下ろしていて、彼女の鼓動に合わせて揺れる豊かな双丘に、僕の視線は有無を言わさず釘づけにされてしまう。



「あわっ!?」

「動かないでっ!」



 デジャヴュ、じゃない! 前よりも状況が悪化している!


 僕は起き上がろうとしたけど、リシィに頭を押さえつけられてしまった。

 この状況は非常にまずい……水着姿のリシィに膝枕をされていて、あまつさえ先程まで快楽毒に侵されていたんだ……。


 こ、これは、修行僧のような精神状態でも乗り切るのは無理……!



「リシィ、少し苦しいから体を横に向けても良いか……?」

「ええ、楽な体勢になって。毒は直ぐに抜けるみたいだから、少しの辛抱よ」



 何とか誤魔化し、僕は体を横にして丸まるような姿勢を取る。


 だって男なんだから仕方がないんだ、快楽毒のせいかも知れないし!


 と言うか、この状態もまずい。横を向いたことで、リシィのふとももと頬が直に接触して爆発してしまいます!

 この世界にあんな魔物が存在するなんて……墓守をどうにかしたところで油断も隙もあったもんじゃない……。



「カイト、辛いの? 大丈夫?」

「大丈夫ですです!」



 咄嗟に反応したらテュルケみたいになってしまった……。



「そ、それよりもみんなは?」

「そこにいるわ。川縁まで退避して体を洗い流したの。ノウェムがいなかったら運べなかったから、後で彼女を褒めてあげて」


「ああ……何よりもリシィが無事で良かった……」

「んっ……カッ、カイトがたくさん能力の使い方を考えてくれたおかげで、アラウガレアから皆を救うことが出来たの。お礼を言うのは私よ、あ、ありがとう……」


「その上でリシィを守るべきなんだけど、役に立てて良かった」

「ええ、無理はしないで良いから、今はこのまま休んでね……」



 リシィが僕の髪を優しく撫でる。


 彼女はただ撫でているつもりなんだろうけど、触れられているところからまだビリビリと快感が伝わって来るので、な、なるほどこれは中毒にもなる。


 視線を川に向けると、最も快楽毒に触れていたサクラとテュルケを川に浸したままノウェムが水をかけていた。二人はまだ身悶えているようなので、僕よりも毒が全身に回っているんだ。



「ぐうう、ぬかったわ……アディーテ殿、無事か?」

「アウウゥ~、らいじょぶぅ~きもちよかっららけぇ~」



 ダメっぽい……。


 この惨憺たる状況……直ぐにでも救助を求めたいところだけど……。



「ベルク師匠、この毒について詳しいことはわかりますか?」



 ベルク師匠は毒耐性もあって最も早く回復しているようで、既に体を起こしてアウアウ言っているアディーテの様子を見ていた。



「この神経毒は弱い。触れ続ける、注入され続けることで人は夢を見るが、抜けるのも早く毒そのもので中毒の心配もない。注入されたサクラ殿とテュルケ殿も、いずれ排出されれば調子を取り戻すだろう」


「良かった、後遺症はないんですね?」

「然り。カイト殿、すまなかった。某が早く気付いていれば……」

「いえ、あれは予期すら出来なかった。この世界は、墓守以外にも危険な生物が存在しているんですね」


「魔物も神代の産物だと聞く。由来は墓守と同じものかも知れん」

「そうでしたか……」



 何にしても良かった。

 中毒は快楽に身を委ねてしまう人の心がもたらすものか。

 毒自体でなかったのは、不幸中の幸いと言わざるを得ない。


 そっ、それにしてもモチモチだ……。リシィのふとももはまだ濡れていて肌に張りつくようで、直に触れたそれは驚くほどの柔らかさだ。

 いつまでもこのままでいたい、直ぐにでも自分のものにしたい、そんな黒い衝動が僕の内で膨らんでいく。


 快楽の誘い……人にとって最も恐ろしい“毒”なのは間違いないな……。


 助けを呼びに行こう……。




 ―――




 あれから更にリシィと密着する羽目になったけど、彼女の肩を借りて救助を呼びに戻り、セオリムさんたちの力を借りて自力では動けないサクラとテュルケをログハウスまで運び込んだ。


 そして岩山の扉を良く調べてみたところ、崩れた看板に日本語で“あぶない”と書かれていたので、あの扉の本来の目的は“封鎖”だったんだ。


 ルコのことだから、刺激しないように入浴していた可能性もあるけど……。



「災難だったね。まさかアラウガレアの生き残りがこんなところにいるとは」


「今まで魔物を見る機会は一度しかなかったので、認識を改めました。命に関わる凶悪な魔物でなかったことは不幸中の幸いです」


「そうだね、アラウガレアの毒は抜け易いとはいえニ、三日の休息を必要とする。見張りは私たちがするから、君たちは体を休めるように。良いね?」


「セオリムさん、ご迷惑をおかけします。流石に今の状態では頷くよりないです」

「ははは、探索者は持ちつ持たれつだよ、カイトくん」


「その間は我も見張りを務めよう。然と褒めるが良いぞ、主様よ」

「ああ、練習の成果が出たようだし、ノウェムがいてくれて良かったよ」

「くふふふふ、もっと撫でるが良い」



 隣に座るノウェムの頭を一撫ですると、彼女はコロコロと笑った。

 転移能力に限界があっても、何気にサクラと同等に頼れる気がする。



「二人とも落ち着いたわ。眠ったままだれど、もう大丈夫みたい」

「そうか、良かった。ありがとうリシィ、トゥーチャも感謝する」

「くしし! カイっち、今回は災難だったナ!」



 リシィとトゥーチャはサクラとテュルケに付き添い、ようやく二人が落ち着いたんだろう、ログハウスから出て来て椅子に座った。


 今この場にいるのはこれで全員。テントの中では大事を取って寝かせているアディーテにベルク師匠が付き添い、残りの皆は前哨地とヤエロさんが重傷者の様子を見ているから、この場には僕たち五人しかいないことになる。



「魔物についてもいずれは学ばないと……。あんなものが存在していては、墓守を相手にするよりも苦戦を強いられるかも知れない……」


「ははは、本来は墓守こそが強敵となるはずなんだが、流石はカイトくんだ」

「生物は専門外なので、僕は想定外の動きをされるとどうも弱いです」

「くしし! 頭の体操でやわやわになるのが良いナ!」



 そろそろ第四拠点に向かって移動を開始したかったところだけど、サクラとテュルケの毒が抜けるまではここで休ませるしかない。


 それにしても魔物か……神代の産物とのことだけど、生体実験で生み出された生物が進化の果てに独自の生態系を築いた世界……とでも受け取れば良いだろうか。

 迷宮内で生息数が少ないのは墓守に駆逐されるんだろうな、どっちが強敵かと判断するなら、まあセオリムさんの言う通り墓守なんだろう。


 リシィと一緒に故郷へ旅立つ前に、魔物についても学んでおかないと。

 今のところ知識がある魔物は直接目にした“デュープリオ”と“アラウガレア”、それとリシィが遭遇した“グリュンゲル”だけ。たった三種だけで僕の良く知る幻想世界からはかけ離れていて、外の世界へ旅に出るのは不安しかない。


 基本のスライムやゴブリン、オークなんかがいても魔改造されていそうだ。



「……」

「リ、リシィ、な、何? 僕の顔に何かついてる?」


「いいえ。今回はこんなことになってしまったけれど、皆が回復したらピクニックに行きたいの。迷宮に戻る前に少しくらいは良いわよね?」

「え、ああ、当分は動けないだろうし」


「くふふ、リシィお姉ちゃんは主様のことを常に慮っておるのだ。優しいなあ」

「ちっ、違うわっ! 川縁が気持ち良かったのっ! テュルケとの約束なのっ!」

「おやおや、その割にはやけに慌てるでないか、図星をつかれて……」

「ノウェムーっ! それ以上にからかうのなら容赦しないわよっ!」


「喧嘩はやめて!?」



 僕にはこのくらいの平穏が丁度良いな……。

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