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第百五十ニ話 心遣いに痛み入る

 ◆◆◆




 リシィとテュルケの帰りを待って僕たちは朝食を食べ始めた。


 今、前哨地のコンビニもどきにいるのはセオリムさんとトゥーチャとレッテ、ヤエロさんはログハウス内で横たわっている仲間の看病だ。

 ログハウスは数人なら横たわれる広さがあるけど、それが限界なので怪我人以外は龍の頭骨内にテントを張って寝泊まりをしている。それでも野宿はもう慣れたもので、驚異がない分はかなり楽だ。



「アウー! おいしぃーおにくうまーむぐむぐぐ、アウマー。うっうっうまーうぐぅ」

「アディーテ……お肉が美味しいのはわかるけど、泣かなくても……」



 アディーテは号泣しながら、多めに入れてもらった肉を頬張っている。


 調味料が最低限なので、今朝の献立は素材の味を活かした肉スープだ。

 勿論サクラが味付けをしたものだけど、こんな選択肢も少ない状況で美味しくしてしまう彼女の料理の腕は神懸かっている。塩と胡椒しかなくて、本人は『お醤油が欲しいですね……』と残念そうではあるけど。


 動物はベルク師匠が捌くし、魚はアディーテが、果物はいつの間にかテュルケが採って来ると、僕は殆ど何もしていない……。



「カ、カイト、今度は何を考えているの?」



 そんなことを考えていると、左隣に座るリシィが尋ねてきた。

 瞳の色は青から緑、緑から黄と不思議な混ざり具合だ。



「いや、僕も食材の確保に参加しよ……」


「カイトは休んでいて!」

「衣食住は私たちにお任せください!」

「主様はふんぞり返っているのが良いぞ!」

「ですです! 私たちだけで問題ないですですですっ!」

「然り! ここは食材が豊富故、手間はかけさせん!」

「アウー! もっとおさかな獲って来るー!」


「ほわいっ!?」



 何か凄い剣幕で止められた……始めて三回重複する『です』を聞いたよ……。

 慮ってくれるのはありがたいけど、ここまでだと流石にノウェムの忠告が痛いほど胸に刺さるな……。


 何にしても、“三位一体の偽神”は待ってくれないだろう。

 そう遠くないうちに迷宮を進む誘いが来るのは間違いないから、警戒だけは緩めないよう今は皆に甘えるしかないか。



「うん、もうやることも特にないけど、消耗品の管理だけはしておくよ」


「カイト、それなら少しつき合ってもらえないかしら?」

「うん、何か見つけた? 周辺は一通り地図にしたと思うけど」

「ええ、それが川の近くに大きな岩山があるわよね。今朝、近くを通った時に扉があることに気が付いて、中を覗いたら露天風呂があったの」


「え、ノウェム、あの岩山は上から見たよな?」

「無論だ。露天風呂があるような開口部はなかったぞ」


「もしかすると、ここに来る時と同じく空間の歪みが入口になっているのかも知れませんね。扉があるのならルコさんが使用していたはずですが……」

「それなら安全かな……。空間の歪みだと色々と気にはなるけど……」



 危険なことがあると思えば、ここのように安全地帯の出入口ともなる。

 深層を進むに連れてその数も不安定さも更に増すと聞くから、常に安全を確認して気を付けないと飲み込まれかねない。


 空間を歪めるほどの干渉力……この迷宮の奥にはいったい何が……。


 ……ん? 待て、露天風呂に行くのなら、僕は見張り番というわけだよな!

 水着なんて持って来ていないから、一緒に入るとかはないよな!



「話はわかった。僕に見張りは任せておいて」

「何を言っているの? 入るのはカイトよ!」

「僕!?」


「戦闘から日数が経っているのにまだ疲労が抜けていないし、肩の痛みも残っているわよね!? 黙っていたってわかるんだからっ!」

「な、何でそれを……」


「もう、カイトさんは変なところで鈍感なんですから。逆に私たちが気が付いていないとでも思っていたんですか?」

「サ、サクラまで……思って、はいなかった……」


「くふふ。のう? 愚鈍なのは主様だけよ」

「酷い!?」



 テュルケに助けを求めるように視線を向けると、彼女は彼女でドヤ顔サムズアップだ、どうしようもない。



「カカッ! カイト殿は最後に必ずおなごを立てる。騎士の矜持お見事なり!」

「アウー! おみごとなり!」


「えっ!? これは有無を言わさずと……はいっ! 入らせて頂きます!!」



 三人娘の無言の圧力が僕を無理矢理に頷かせる。


 別に嫌と言うつもりはなかったけど、まあ一緒に入るんじゃなければ、疲労が抜け切らない体を休めるには丁度良い機会だ。


 せめてベルク師匠くらいは誘って、男だけでのんびりと湯に浸かろう。




 ―――




 ……というような楽観視はダメだと僕は実感しました。



「何でみんな一緒に入っているの……?」


「みっ、水着があったのよ」

「ルコさんの家にありました」



 ルコオオオオオオオオォォォォッ!?


 くっ、そうか……地球から流れ着く乗り物があるのなら、当然一般的な積載物だってあるんだ……だからって一緒に入る必要は……。


 今、僕たちは岩山を刳り抜いて内部を空洞にしたような、岩盤に覆われた温泉に皆で浸かっている。

 露天風呂なんて立派なものじゃなく岩の上に出来た湯溜まりだけど、高い位置から湯が滝となって流れ落ちているしっかりとした天然の温泉だ。


 そして湯の中程には小島があり、差し込む陽光に照らされて幻想的でさえあった。



「やはり、弱った神脈炉がかえって負担になっているようですね……神力を循環させていますが、加減はどうですか?」


「うん、ほわーってする。丁度良い加減で気持ち良いよ」



 サクラは僕の胸に手を当て、神力による治療を行ってくれている。

 ここに来た後も継続してやってもらっていたから、普段ならもう肩の痛みくらいなら治っているはずなんだけど、あの青刃槍の力はやはり消耗が痛い……。


 それにしても、サクラはピンク色の花柄のビキニで彼女らしい色合いだけど、結構大胆な水着を選ぶよな……。



「カイトさんが使った、あの青炎の力の影響なのは間違いありませんが……」

「神力って要するに生命力みたいなものだよね……寿命を削って余命幾ばくもないとかは……」


「悲しいことを言わないでください! それはありません、強力な力を行使したために負担が許容量を越えただけです。他者による活性化が必要ですが、私がいるので大丈夫です」


「そ、そうか、ごめん……ありがとう、サクラ」

「はい」



 サクラは珍しく怒っている。


 僕はてっきり寿命を削った一撃なのかと思っていたけど、どうやらそんなことはないようだ。本音は、寿命なんて安易に引き換えにはしたくないし、何よりもリシィと一緒にいる時間が減るのはどうしようもなく嫌だ。良かった。



「テュルケは固有能力を発現したばかりで大丈夫なのか?」


「はいです! ぜっこうちょーですです! 見てください、浮きますです!」

「アウー! キラキラー! キラキラー! 美味しそー!」



 と言いながら、テュルケは船型に形成した“金光の柔壁(やわらかクッション)”を湯に浮かせ、アディーテと一緒に戯れている。形の応用力はリシィ以上かも知れないな……。


 そんなテュルケもビキニだけど、彼女の水着は胸元がフリルで覆われた淡い水色のものだから、お胸様の破壊力はギリギリセーフだ。

 アディーテは始めて出会った時のパーカーだけのスタイルで、そのまま湯に入っていて意味がわからなかった。何かこだわりが……?



「カカッ! 湯の玉とは愉快痛快、流石だノウェム殿!」

「うむ、主様と我の能力について話し合ってな、こうして飛ばせるのではないかと気が付いたのだ。見よ、水弾ぞ!」

「おおっ! お見事なり!」



 ノウェムは湯を“飛翔”させて水弾にする練習をしている。

 指向性の付与にコツがいるらしいけど、しばらく練習を繰り返してそれなりの速度を出せるようになったんだ。連携に組み込めるかも知れない。


 そんなことよりも、ノウェムはセーラー服デザインの水着を着ているけど、あれは多分コスプレ衣装なんじゃないかな……。


 そして肝心のリシィは、僕の背後でピタリと背中を合わせて視界に入らないよう縮こまっている。

 湯に入る前にチラリと見た姿は清楚な青色のワンピースだったけど、魂が昇天する前に彼女の肩を覆う救急バンを見て煩悩は鎮まった。


 銃創はもう塞がったと聞いたけど、やはり傷つけたくはない……。



「テュルケ! アディーテ! 上陸する時は岩で足を滑らせないようにな!」


「はいですですー!」

「アウー!」



 テュルケとアディーテが小島に上がろうとしていたので、気を付けるように告げた。


 二人は日向ぼっこでもするつもりだろうか、小島には一本の細い木が生えているだけで、陽光の下で寝転ぶには丁度良いかも知れない。



「はわわっ!? ゆっ揺れましたですっ!」

「アウー!? 動いてるー!」


「はっ? 何が……」



 その時、降り注ぐ陽光の中で島が立ち上がった(・・・・・・)

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