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幕間十二 “英雄” 後編

「おー、セオっちたち囲まれてるナ」

「イ……」

「くしし! また建物崩して支援ナ!」



 セオリムたちは墓守に前後を阻まれ、そんな彼らを建物伝いに屋上を移動して来たトゥーチャとダルガンが見下ろしていた。


 支援のため【凄い爆発反応装甲グレートリアクティブアーマー】が唸りを上げ、ダルガンが投擲の構えを取る。



 ――キィキイィィィィンッ!!



 地上では、一筋の緑光が幾重にもうねる神速の斬撃となり騎兵キャバルリの合間を駆ける。


 先の先の更に先を行く、姿も捉えられない斬撃は全てがセオリムのもの。それは如何な材質の長剣か、数多の騎兵を装甲ごと断ち斬ってもなお切れ味が鈍らず、彼の手の中で強い輝きを放っていた。


 既に周囲は二桁に及ぶ騎兵の残骸が転がり、人よりも遥かに大きい巨体で轢き潰そうとした墓守の群れは、その悉くを逆に破壊されてしまっている。



「見れば見るほどに凄まじい!! 冴え渡る妙技、感服いたした!!」


「ははは、騎兵は駆けさせなければ恐れるに足りない。左右を建物に阻まれたこのような絶好の地形で、突撃を躊躇するとは心もなき存在がそれこそ臆したか」


「カカッ! 否、ブレン殿の迎撃に機会を失ったと見られる!」

「ホッホッ、ワシらに数を揃えるならせめて重装でなければのう」



 彼らはまるで容易いことのように言うが、あくまで騎兵は墓守の中(・・・・)では軽装なだけで、その装甲の厚さはベルクの竜鎧の数倍はある重装に違いない。

 それをセオリムは斬り裂き、ブレンが突進を迎撃する、恐れようとも世界に名の知れ渡る英雄は伊達ではない。



 ――ドオオオオォォオオォォォォォォォォォォンッッ!!



「ぬおっ!? 何事か!?」

「これはトゥーチャだね。近くにいる……おっと、いけない。一時避難だ!」

「ホッホッ、やんちゃが過ぎるわい。後でお仕置きかのう」



 トゥーチャがセオリムたちの背後を塞ぐ騎兵の上にビルを倒した。


 だがそれは緻密に狙ったものではなかったため、倒壊するビルは道路に嵌まり込むように倒れ、騎兵どころかセオリムたちまで押し潰さんと迫る。



「ナッ!? まっず、後でお尻ペンペンは嫌ナーッ!!」



 ちびっ娘は倒壊するビルの側面を走りながら頭を抱え、その緊張感のない窮地を窮地とも思わない精神はある意味で何よりも頼もしい。


 高層ビル群を霞ませるほどに立ち上る土煙が再び視界を奪い、内部に存在する者は有象無象の区別なく大質量の下で押し潰される。


 そんな中で、セオリムたちは脇のビルに逃げ込み難を逃れていた。



「何とか下敷きにならずに済んだが、戻れそうにはないね」

「うむ、建物を横倒しにするとは、まるでカイト殿のようだ。カカッ!」

「それはどうだろうね、トゥーチャが計算するとは思えない。今頃は狼狽えているかも知れないよ」

「ホッホッ、頭を抱えておるわな」



 彼らが逃げ込んだ入口からは瓦礫が押し寄せ、それと同時に息が出来なくなるほどの粉塵が真白く立ち込めているものの、不思議と彼らの周囲にだけ清浄な空間が円状に形作られていた。


 ブレンの固有能力“見えざる樹界”が、ここでも遺憾なくその力を発揮する。



「さて、建物を裏手に抜ければ二人とは合流出来るだろう」

「うむ? この状況で互いの位置を把握していると?」

「ダルガンの位置は確認したからね。彼も私たちを見ていた、問題ないだろう」


「ぬぅ……英雄の力量とは確たるも強きもの。某、まだまだ未熟」

「ベルクくん、なればこそだよ。なればこそ真の英雄たるを見続けるんだ」


「それは……いや、相わかった」




 ―――




「おかしいナ! おかしいのナ!」


「はははっ! まさか重砲兵シージアーティラリーまで引き連れて戻るとは、トゥーチャは不思議と墓守に好かれる!」

「そんなの嫌ナーッ!!」



 ビルを裏手に抜けダルガンと合流したところで、トゥーチャが道路の先から更に新たな墓守の集団に追われ逃げて来た。

 騎兵だけでなく重砲兵まで引き連れ、遠近が揃ったところで足を止めることは確実な死を意味する。


 走る、降り注ぐ迫撃砲の砲火を避けるために彼らはひたすら走っている。



「どうやら陸上母艦パンジャンドラムも再び動き出したようだ。墓守を引きつけつつ追撃する、いつカイトくんたちが支援を必要とするかわからないからね」

「無茶ナーッ! この状況で陸上母艦の射程に入るとか死んじゃうナ!!」


「イ……カ?」

「ホッホッ、『今一度【神代遺物】を使うか?』と言うておるわい」

「今日はこれ以上神力を吸われたらしわくちゃになっちゃうナ!」


「セオリム殿、勝算はあるのか?」

「カイトくんは陸上母艦が“指揮統制機”だと考えていたようだが、ここに来てそれは違うと思うようになった」

「むっ!?」



 その時、路面に巨大な影を落とす何かが空を過ぎる。

 騎兵よりも大きく、それも天球儀のようなものを引いている“馬”。



「あれだ。目撃するのはこれで二度目だが、空を駆けることで討滅を困難とされていた墓守“天球馬アルスヴィズ”。空からの目であれば何かとやり易いだろうね」


「ぬぅ!? あの形状で飛ぶのか!? 否、阻塞気球スプリガンネストの例もある。ぬうぅぅ……!」

「ナーッ!? 勘弁して欲しいのナーッ!!」



 “天球馬アルスヴィズ”――空を駆け、天球儀を引く馬型の【鉄棺種】。

 馬体の頭頂高十三メートル、全長二十メートル、更には天球儀のような球体を備えつけられた荷車を引き、白と黄金の配色は神々しくもある。


 巨鷲フレースヴェルグに勝るとも劣らない速度で空を駆け、地上に下りて来るまではセオリムの絶技であっても必中を困難とするだろう。



「ふむ、陸上母艦が踏み荒らした大地に出てしまうね。トゥーチャ、ダルガン、ブレンは墓守の群れを引きつけ都市の中で迎撃。私とベルクくんは天球馬に挑む」


「開けたとこに出るよりマシナ!」

「タ……」

「ホッホッ、『容易い』と言うておるわい」


「相手にとって不足なし! お供いたす!」



 過ぎた十字路を陸上母艦から遠ざかる方向に曲がり、セオリムとベルクだけが墓守の群れから視線の途切れた一瞬の隙を突き身を潜めた。


 トゥーチャたちを追い地響きが通り過ぎ、戦力の分断は最善手でないと理解しながら、それでも彼らは容易いものと一騎当千の笑みを浮かべる。


 “英雄”――恐れを抱いたところでなお彼らは英雄たるに相応しい。




 ―――




 二人の男が、踏み均され荒野となった大地を陸上母艦に向かい走る。


 交差する火線は数知れず、砲弾が降り注ぐ廃墟は飛散する瓦礫の嵐で何者も無事でいられるはずがない。


 だが、その只中を吹く一陣の緑風は嵐をも斬り裂き追撃していた。



「瓦礫を盾とし我武者羅に走る! 勇猛な戦術に心打ち震える! ぬおっ!?」



 ――ガインッ! ドゴンッ!!



「ははは! 油断は命取りだよ!!」

「然り! だが決して退かん!!」



 陸上母艦を追撃する彼らを、幾重にもなる十字砲火は止められない。

 転がる瓦礫を盾とし、時に砲弾を斬り裂き、爆発の衝撃さえ紫電が弾き飛ばす。


 剣と盾、二身一体、二人の追撃を阻むことは何者にも出来ない。



「痺れを切らしたようだ」



 それまで上空を旋回していた天球馬が、彼らの進路上に舞い降りて来た。

 天球馬は速度を緩め、攻撃のためか天球儀が電荷を帯び始めたその時、だがそれはセオリムにとっても絶好の機会でしかなかった。



「ぬるい! 絶技【火守の戴嵐(イクシスグルーテ)】!!」



 駆けたまま、砲火を避けながら、セオリムは流れるような構えから間断なく絶技を放った。

 神速の突きが一筋の閃光となり、慌てたように首を振る天球馬はだが間に合わず、辛うじて身を翻し馬体は避けるも天球儀に緑光が直撃する。



「お見事!」

「だが避けられた。空へ逃げられる前……に……!?」



 ――キィンッ!!



  緑光と交差し、銀光が陸上母艦の艦体を貫き天球馬をも背後から貫いた。


 神器【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】、アシュリンを救うため、“白金の龍鱗”を穿つため、久坂 灰人が放った銀槍は彼が知ることもなくもうひとつの戦いまで終わらせる。



「はっ、はははっ! やはり君は最高だ! これからも私に、“真の英雄”たる素質を見せて欲しい! カイト クサカくん!!」



 一筋の銀色の福音が、赤い空をどこまでも翔けて行った。

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