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第百四十二話 辿り着く管制室

 アシュリンがいくら人らしい言動をしようとも、その辺りはやはり人の心の機微をわからない機械人形か……自ら“神龍の敵”だと証言するなんて……。



「それは、どう言うことなの……? 神龍の敵で、裏切ったのなら、今は神龍の味方なのよね……私たちが攻撃されたのは……」


「リシィ、まだ情報が足りない。神代は遥か過去で、当時の敵対関係が今も続いているとは限らない、断定は出来ないよ」

「え、ええ……そうね。今の話だけでは、アシュリンが敵かどうかも判断は出来ないわね……」


「ああ、それに仕掛けるなら乱戦の時こそ好機だったはずだ」

「けれどそれはしなかった……。良いわ、今はまだ様子を見るわ」



 とは言っても、リシィの瞳の色は赤と黄で警戒を緩めていない。


 賢明なリシィは果たしてどこまで気が付いているのか……。いつかは話さなければならない……“三位一体の偽神”が神龍かも知れないと言うことを。


 神龍テレイーズの立ち位置がどこにあるのかわかれば……。



「何だかわからないけど、助かったのよ?」

「アシュリン、完全にデータが復旧するまでは発言に注意しないと、次は粗大ゴミになってしまうよ?」

「ぴえっ!? もっ、ももももう少しなのよ!」


「カイトさん、私たちには難しい話でしたが……“三位一体の偽神”が関わっていることには変わりないのですか?」

変異墓守ヴァンガードの正式名称が“対龍種殲滅用人造人間ドラグーン”だったと言うだけで、二つは同じものだろう。恐らくは背後に偽神がいる……」



 そして、その中でも特に警戒すべきは“白金の龍鱗”が埋め込まれた個体だ。

 やはり今回は、陸上母艦パンジャンドラム自体に埋め込まれていると想定しておくべきか。



「話は済んだか? 早く進まないと増援が来てるぜ?」

「……っ!?」



 レッテが示した先では、針蜘蛛スプリガンが大型昇降機から降りるところだった。

 彼女の言う通り、いつまでも敵中で話し合っているわけにもいかない。



「やって良いか?」

「ああ、進もう。詳しい話は後だ」

「そう来なくっちゃなっ!」



 レッテは返答を聞くなり嬉々として飛びかかって行った。

 彼女も戦闘狂だろうか、針蜘蛛の細い脚を素手で引き千切り、パイルバンカーを突き込んでは放り投げている。


 実際目で見るまでは固有能力の詳細がわからなかったけど、彼女は筋肉自体が特殊形成器官と聞く。“身体強化系”という認識で良いのか。


 五体の針蜘蛛はあっと言う間に鉄屑となり、僕たちの出番はなかった。



「ふぇぇ……凄いですぅ……」

「アウー、おにくもったいない」

「食べたらダメだよ?」

「アウゥゥ……」



 管制室に続く階段は大型昇降機の正面にあり、ここからは数多く設置された対人用銃座との戦いになる。


 変異墓守が待ち受ける以上、一人に負担をかけたくないけど……。



「リシィ、先頭で防衛設備を全て任せる。余力は大丈夫か?」

「ええ、問題ないわ。皆は休んでいて」



 今度は、跳弾による不意の傷を避けるため進行方向を光盾で完全に埋め、同時に光矢でも攻撃を行う。

 リシィの消耗が増えるけど、被弾してしまうこととを天秤にかけた上で選択が間違っていたとしても、僕が彼女の後ろで直ぐ支援に入れるようにする。



「行こう」




 ―――




 再び階段を下った先は通路の幅こそ広くなったけど、そのぶん防衛設備の数も増し十字砲火が絶えず飛び交って行く手を阻まれた。

 それでもリシィの意思は揺るぎなく前に進むことを選択し、隊列の入れ替えを提案しても『大丈夫よ』と、結局は全ての防衛設備を一人で破壊してしまったんだ。


 そして、リシィ以外は消耗することもなく辿り着いた管制室前……僕たちの目の前に、両開きのメカニカルな扉が行く手を遮っている。



「リシィ、本当に大丈夫か?」

「ですです! 姫さま、ずっと先頭で……」


「もう、二人とも何を言っているの! 外ではガーモッド卿もセオリムも陽動中なのよ! こんなところでは休めない、まだ神器を顕現する余力だってあるんだから!」


「カイトさん、リシィさんは最小の力で最大をなす神力の使い方をしていました。ご心配なのはわかりますが、リシィさんはそれ以上の成果を見せています。大丈夫です」

「そうか、わかった。つい過保護になってしまうけど、僕はリシィを信じるよ」

「ええ、ありがとう。テュルケもわかってくれる?」

「うぅ……わかりましたですぅ……」



 確かにリシィの表情には疲労が見られず、瞳の輝きにも陰りはない。


 初めて出会った時の砲兵アーティラリィとの戦いからまだ一年と経っていないのに、彼女は日々の努力の果てに高潔な精神に見合うだけの身体となっていたんだ。


 心技体が等しく揃った、龍血の姫リシィティアレルナ ルン テレイーズ。

 なら僕は彼女の騎士として、訪れる全ての苦難に臆せず共に立ち向かおう。



「良し、終わらせよう。これ以上の侵攻は許さず、ここで討滅する!」


「ええ、頼りにしているわ。カイト」

「はい、カイトさん、どこまでもお支えします!」

「はいですです! 汚名を返上しますです!」

「アウー、この中すっごいくさい」


「セオリムが欲しくなるのもわかるな。ほんと力尽くで奪いたいくらいだ」

「カイトしゃん……アシュリン、ホの字なのよ……」



 とりあえず約二名は横に置いて、アディーテが『すっごいくさい』と言った管制室、本命がいるのは間違いなくここだ。



「リシィ、【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】最大顕現! 扉ごと穿ち貫いてやれ!」



 卑怯、それがどうした。持てる力は最大限、地形の有利も最大活用だ!


 もう聞き慣れた、黒杖を抜く鈴が鳴るような音が管制室前の広間に響いた。

 立ち上った金光はいつにも増して周囲を目映く染め、リシィの言葉通り余力どころか力を持て余しているようでもある。


 そして彼女は歌い始める、美しく響く、世界を覆す神唱を。



「月輪を統べし――」



――ゴォンッゴガァァッ!!



「リシィ!!」



 ここまで反応が早いなんて……!


 多少の防壁になると思っていた頑丈で分厚い扉を一撃で破壊し、太く赤黒い“肉”の龍がリシィを噛み殺そうと管制室から飛び出した。


 僕はその質量を見て迎撃は不可能と判断し、咄嗟に彼女を抱えて飛び退く。



「オラァッ!!」

「はああああっ!!」



 同時に動いたサクラとレッテが左右から龍の進行を阻もうとするけど、鉄鎚とパイルバンカーの攻撃はわずかに肉を削いだだけで速度を緩めることも出来ない。



「まだ伸びる……!?」

「金光よ盾となり護れ!!」



 僕は青槍をリシィは光盾を展開し、“肉”の龍を迎撃する。


 その龍頭は八岐大蛇ヤマタノオロチと同じもの。確実にいる、管制室の中に“白金の龍鱗”を埋め込まれた変異墓守がいるんだ!


 一点集中した光盾で牙を受け、僕は光盾の脇から龍の上顎を狙う。

 そして、巨大な質量が衝突する衝撃と青槍が突き刺さる感触、吹き飛ばされながらも何とか噛み殺されることだけは防いだ。


 幸いこの広間は縦横に二十メートル以上もの空間があり、咄嗟に僕は青槍を床に突き刺して壁に激突する前に勢いを殺した。



「痛っ……リシィ、大丈夫か!?」

「ええ、カイトが庇ってくれたもの。それよりも血が……」

「大丈夫、衝撃で皮膚が裂けただけ。問題はない」



 僕の右肩は服に血が滲んでいる、どうしても脆くなる神器の接合部だ。

 人の身には余る神器の力……こればかりはどうにもならない。



「姫さま! カイトさん! 大丈夫ですです!?」

「あわわ、カイトしゃん血が出ているのよ……」

「僕は大丈夫だ。みんな、追撃を阻止! 管制室に突入する!」



 龍の首はズルズルと管制室の中に戻って行き、青槍に貫かれて上顎が消失しているものの、ドラグーンの群れと違って既に再生を始めている。


 奴が本命の変異墓守ヴァンガード、この陸上母艦を止めるために討滅するべき敵だ。



「僕たちも行こう」

「ええ」


「テュルケ、一緒にリシィを全力で護るんだ」

「はいですです! この身に代えても姫さまは私が……!」



 僕は直ぐに悲壮な覚悟をしたテュルケの表情に気が付いた。

 大丈夫だ、問題ない。どんなフラグだろうと、これまで通りへし折ってやる!

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