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第百四十話 されど救いはならず少女は心に光を灯す

 僕たちは打ち合わせ通り、サクラを先頭に格納庫から通路に侵入した。

 内部は電灯がつき、緑一色の通路はまるで新品のように傷ひとつない。



「サクラ、鉄鎚を振れるか?」

「はい、大振りは無理ですが、槍で突くことは可能です」

「良し、まずは階段まで抜けよう」

「はい!」



 会話の流れから忌人=変異墓守ヴァンガードとなってしまったけど、変異墓守の定義は“神器を狙う生体組織と共生する墓守”というだけでまだ詳細が定まっていない。


 最悪は陸上母艦パンジャンドラム自体が巨大な変異墓守と想定していたけど、通路は至って普通のSF染みた鋼鉄製だ。もし内部が“肉壁”だった場合は“プランB”で行くつもりだったけど、今のところその必要はないようだ。



「アシュリン、扉に干渉出来たように防衛設備の停止は出来ないのか?」


「それは無理なのよ。外部砲塔は突入の際に一瞬だけ停止させたけど、もう復帰して自閉モードに入ったのよ。そもそも規格外のコードが組み込まれていて、明らかに命令系統が複数あるのよ」


「なるほど……」



 どのみち信頼はしないと言った手前、自分たちで突破口を開くのが筋だろう。

 アシュリンを都合良く物のように扱うのを躊躇うのは、皆の安全を考えたら良くない傾向だ。優先順位を履き違えたくはない。



「カ、カイト、アシュリンが何を言っているかわからなかったわ」

「え、ああ、要するに“三位一体の偽神”の干渉があると考えたほうが良い」

「ふぇぇ、やっぱりあの気持ち悪いのがいるんですぅ?」

「どうだろうか……」



 断言は出来ない、今は障害を排除して核の破壊を考えるだけだ。

 万が一こんなものが地上に到達したら、それこそルテリアが壊滅してしまう。



「サクラ、速度を上げよう」

「はい!」



 僕たちは狭い通路を駆け出した。


 通路はアシュリンがダウンロードした内面図の通り、幅は成人男性一人半ほどで高さは三メートルもない。内部は十五階層に分かれていて、管制室に続く通路はその十階部分だ。

 車輪部の中央に昇降機があるようだけど、最悪の場合は鉄の棺桶になることから隣接する階段を駆け上る。



 ――キュインッ



「金光よ!」



 防衛設備の位置も内面図通り、だからこそ起動後に直ぐリシィが光矢で破壊して攻撃する隙を与えない。



「リシィ、ひとつ抜けた! テュルケ、警戒!」

「うぜえ! おらあっ!!」



 うわ……防衛設備のひとつが展開せずに頭上を通り過ぎた後で、最後尾のレッテが格納扉を素手で引き剥がしてパイルバンカーを突っ込んだ。

 この壁は鋼鉄製なんだけど、どんな腕力をしているんだ……確かに軽装から見える褐色の肉体は、美しいほどに筋肉が引き締まっているけど……。



「はああっ!」



 ――ゴドンッ!



「良し、階段だ。目的階は十階、階段内に防衛設備はなし、一気に抜けよう」



 サクラが破壊した扉の中には階段があり、車輪部は直線通路で構成されているため迷わずにここまで来ることが出来た。


 如何に巨大といえども、車輪部の最下段は当然横方向の距離が短くなり、防衛設備の数もそれほど多くはない。本番は中央区画に辿り着いてから、防衛設備の集中配置と小型の墓守なら入れる空間もある。


 そして変異墓守、待ち構えるならこの上だ。




 ―――




 僕たちは十階分を上りきり、中央区画に続く扉の前まで来ていた。



「この向こうは中央区画の広間で、針蜘蛛スプリガン猟犬ハウンドなら戦闘も可能な空間がある。敵が迎撃を仕掛けて来るならここ、突入後はサクラとレッテを中央に横隊を組む。リシィは後衛で、まず防衛設備を優先的に破壊して欲しい」


「ええ、ここからが本番ね」

「はい、外も心配です。迅速に終わらせましょう」

「ですです! 腕が鳴りますです!」

「それな、腕が鳴るぜ!」


「アシュリン、皆の安全を考えると信頼するわけにはいかないけど……君は僕が守る、傍を離れないで」

「カイトしゃん……」


「それで、アディーテは大丈夫か?」



 アディーテの様子がおかしい、鼻を鳴らして眉間に皺を寄せている。

 この状態の時の彼女はやけに鼻が利くから、つまり扉の向こうには……。



「アウー、何かくさい(・・・)


「サクラ、遠慮は要らない、扉の向こうを吹き飛ばせ!」

「はい!」



 サクラが持つ【烙く深焔の鉄鎚(アグニール)】の内が紅蓮に揺らめき始める。

 それ以上の高熱は融解してしまうのではと思うほどに赤く燃え、事実振り上げた鉄鎚に近い天井が赤熱している。



「みんな、離れて」



 そして、サクラは皆が離れるのを見計らってから鉄鎚を扉に叩きつけた。


 通路に熱風が吹き荒び、スライド式の大扉は破砕音とともに融けた鋼鉄の塊となって広間へ吹き飛んで消える。


 質量のある残像を残すかのような鉄鎚の動き……これはセオリムさんが教えてくれた能力の使い方だ……!



「突入! 制圧する!」



 まずはサクラが、そして続いてレッテ、テュルケ、アディーテ、リシィの順で赤熱した扉枠を越えて広間に躍り出て行った。


 最後に僕とアシュリンが突入し、だけど直ぐに内部の光景に驚愕する。



「なっ!? 変異墓守!? こんな数は冗談じゃない!!」



 内部は、一般的な四車線道路以上もある空間が奥へ続いている。

 そこには夥しい数の“肉”に侵蝕された忌人、“変異墓守”が存在していた。


 サクラの鉄扉をも融解する一撃で吹き飛ばされ、扉の周囲には充分な空間が確保されていたけど、これじゃ全てを討滅し尽くさなければ奥には進めない。


 既に戦闘は始まっていて、サクラは鉄鎚で変異墓守数体を吹き飛ばし、レッテはパイルバンカーで核のある頭部を貫いている。その左右でも、テュルケとアディーテが変異墓守を押さえていた。



「金光よ!」



 リシィは光矢と光盾を同時に展開し、銃撃する天井の防衛設備を狙っている。


 一斉に襲い来る大量の変異墓守とその頭上を飛び交う銃撃の火線、まさかの艦内で物量によるゴリ押し……簡潔で頭が悪いけど、だからこそ効果的だ!



「アシュリン! 忌人同士なら制御を奪えないのか!?」

「あわわ……」

「どうした!?」


「こいつらは“対亜種汎用機兵アマルガル”のアシュリンたちとは違うのよ! こいつらは、人のエゴが生み出した大敗の原因、“対龍種殲滅用人造人間ドラグーン”なのよ!!」


「ドラ……えっ!?」



 今、何と言った……『ドラグーン』、確かに『ドラグーン』と言った。


 “竜騎兵ドラグーン”、史実では火器を持った騎兵であり、ゲームや創作の中でも良く取り上げられる竜を駆る騎士の名称だ。


 来訪者による命名……? いつ名付けられたものだ……!?



「きゃうっ!」

「テュルケ!? 考えるのは後回しだ……!!」



 物量に押され、皆の手も足りず、攻撃力どころか長所の機動力を奪われたテュルケ側が今まさに崩壊しようとしていた。

 尻餅をついたテュルケを助けようと、リシィが光矢で応戦するも一撃で倒せるほど相手は容易くない。



「おお! フラグは阻止すると言った!!」



 “肉”特攻、ならば青炎はこの状況でこそ真価を発揮する。


 僕は“青炎の槍”を形作り、倒れたテュルケに迫る変異墓守に対して全力で青槍と噴き上がる青炎を振るい、崩壊しかけた左翼を押し返す。


 やらせはしない! 慕ってくれる女の子を守れずして何が“お兄ちゃん”か!!



「テュルケ! 立て!」

「おにぃちゃんっ!」



 僕は左腕を伸ばし、変異墓守の凶刃が迫るテュルケを引っ張り上げた。

 そのまま彼女を抱え、青槍を横薙ぎにして青炎による不可侵域を形成する。



「テュルケ、無事か!?」

「だ、大丈夫ですっ! ちょっと切られたけど、へいちゃらですっ!」



 テュルケは平気だと言うけど、彼女が左腕に持っていたおたまは根本から断たれ、左肩も深く斬られたようで出血してしまっている。


 本来なら恋よ花よと青春を謳歌するべき少女が、何でこんなところで血に塗れている……僕のせいか? 偽神の仕業か? 何故この世界はこんなにも捻れている……!


 その時、押し返してもなお迫る変異墓守の群れに金光の雨が降り注いだ。



「カイト、防衛設備は破壊したわ! 私が凌いでいる間にテュルケの手当てを!」


「ああ! テュルケ、自分で止血は出来るか?」

「だ、大丈夫ですです!」

「良し、頑張ったな。後は僕たちに任せろ」

「え、でもでも……」

「ここは持久戦になる。血を失わないように、今はしっかりと手当てだ」

「は、はいです……」



 テュルケはシュンと俯いてしまうけど、こればかりは仕方がない。

 変異墓守を相手にするには、固有能力を持たない彼女では荷が重いんだ。


 今は何が何でもこの場を制圧する。この青槍に込められた願いに誓って許しはしない……大切な人たちを傷つける報い、その身に刻め……!!

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