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第百三十九話 陸上母艦突入

 陸上母艦パンジャンドラム、大きい……!


 近づくほどに威圧されるその巨体は、十階建ての廃ビルと比較して高さが五十メートル以上。車輪の外殻を回し地響きを立てながら走行し、廃墟の瓦礫を物ともせずに踏み潰して移動している。


 そして、時折停止しては車輪部の装甲が展開し騎兵キャバルリが降ろされていた。

 騎兵の大きさは頭頂高九メートル、比較しても大量に搭載されているわけがないので、内部には確実に転移装置が存在しているに違いない。



「みんな、もう一度隊列と役割を確認する。先頭はサクラ、今回はあくまでも“盾”の役割だ。負担をかけるけど、守ることを優先して欲しい」

「はい! 私、まだまだ調子が良いんです。どんな弾丸も弾いてみせます!」


「次にリシィ、矛の役割を頼む。攻撃される前に防衛設備を破壊して欲しい」

「ええ、これまでカイトと能力の使い方を考えてきたんだもの。今こそ役立てる時よ!」


「中央は僕とアディーテとアシュリン。陸上母艦の通路はつるはしを振るえない、管制室までは力を温存して欲しい」

「アウー! まっかせろー!」

「なのよー!」


「後衛はテュルケ。そこは前に進む僕たちの死角だ。“通り過ぎてから作動する防衛設備”があると想定し注意を払う補助盾、目と耳の良さに期待している」

「お任せくださいですです! どんな音も聞き逃しませんです!」


「最後尾はレッテさん。万が一の追撃に対する迎撃も全てお任せします」

「呼び捨てで良いぜ。殿とは腕が鳴るねえ」



 役割をはっきりさせた僕たちは、廃墟に隠れて陸上母艦と並走を始めた。

 セオリムさんたちは既に回り込み、今頃停止する機会を見計らっているはずだ。


 陸上母艦は巨大ゆえにゆっくりと動いているように見えるけど、僕は全力で走っても遅れがちになってしまう。一番小さなテュルケでさえ先を行くのに、神器の恩恵がなかったら確実について行けなかっただろう。


 まあ、僕は足が遅いアシュリンを背負っているんだ、大目に見て欲しい。



「走るのよのろまー! 置いてかれてるのよのろまー!」

「はぁっ、はぁっ……陸上母艦の前に放り込まれるのと、建物の倒壊に巻き込まれるのはどっちが良い?」

「どっちも嫌なのよ!?」



 ズズズ……と陸上母艦に制動がかかり始めた。停止する前兆だ。



「作戦開始の合図はトゥーチャの【凄い爆発反応装甲グレートリアクティブアーマー】だ。みんな、頼む!」



 ――ドオオォォンッ!! ゴゴゴ……ドンッガッゴッドドドドドドドドドドドドッ!!



 陸上母艦を挟んだ向こう側、僕たちとは逆側で大爆発が起こった。

 廃ビルが中階層から圧し折られ、上階が全て倒れるように崩落して来る。

 飛び散った瓦礫が直掩の騎兵を潰し、巨大な塊が陸上母艦の装甲を叩く。


 そして僕たちは、噴き上がった土煙が視界を遮る中に向かって駆け出した。


 これは自殺行為だ、落ちて来る瓦礫は僕たちも容赦なく潰すだろう。

 だけど、だからこそ千載一遇の機会、ここを逃せば侵入すらままならない。



「金光よ盾と成り護れ!」

「やああああああっ!」

「アウーッ!」



 僕たちの頭上に落ちて来る大きな瓦礫をリシィが光盾で防ぎ、それより小さいけど充分致命傷となる欠片はテュルケとアディーテが弾く。

 先行しているサクラとレッテは、更に陸上母艦の陰で難を逃れている騎兵を武器の一振りで破壊していた。『騎兵殺し』の二つ名を持つサクラ、英雄のパーティの女戦士レッテ、その実力は伊達じゃない。



「アシュリン、どうだ!?」



 僕は何も見えない土煙の中を走りながら背中に訪ねた。

 先程から、アシュリンは管制に侵入して扉を開こうとしているらしい。



「むむむ、コードが二重に走ってるのよ……何なのこれ、美しくないのよ……これがこうなってああなって……何でこんなところに迂回路が……ああー! 何なのよー!」



 な、何だ……?



「こうこうでこう! ムキーッ! 無理矢理扉だけなのよーっ!!」



 ――ガギッ! キュイッイィン……ゴンッゴォンッ!!



 何かが開いた音が聞こえ、続いて炎を伴う衝撃が土煙を吹き飛ばした。



「カイトさん! こちらです!」



 陸上母艦の巨体を包み込んだ粉塵が、今度は逆に降り始める。

 視界はより悪くなり、粉塵を吸い込めば肺も役割を果たさなくなる、その前に行く先を違えず出来るだけ迅速にサクラの声の方へと向かう。



「カイトさん!」

「サクラ、扉は!?」

「ここは既に中です! 直ぐに扉を閉めてください!」

「人使いが荒いのよー!」



 ――キュイッイィィ……ゴンッズシュッ



「ゲホッ、ゲホッ……みんな、大丈夫か? ゲホッ、少し吸い込んだな……」

「私は大丈夫よ。服の中にまで砂が入ってしまったくらいね」

「ケホッケホッ、ケホケホッーケホッ……ケホホッ」

「テュルケ、無理はしないで水を飲んで」

「んくんくんく……ぷあーっ、苦しかったですぅ」


「アディーテとレッテは?」

「アウー、口の中ジャリジャリするー」

「ああ面白かった。あんな岩塊で潰れねえとは、今回は大した相手だぜ」



 余裕そうだ……。僕はアシュリンを降ろして周囲を見回す。


 粉塵はどこかに吸い込まれ、急速に明瞭さを取り戻す視界でここが格納庫のような場所なのはわかった。高さ幅ともに十メートルほどで、中型までの墓守なら四機は格納出来そうな奥行きだ。

 そして格納庫の奥では、設備ごと騎兵が胸部を潰され討滅されている。

 状況から考えて先程の衝撃、先に突入したサクラによるものだろう。


 僕たちが入って来た巨大な扉が弧を描いていることから、車輪の後部格納庫で間違いはない。とすると、騎兵と一緒に火花を散らしているのが転移装置か。



「サクラ、ありがとう。大丈夫か?」

「はい、防衛設備がある場所を警戒していますが、出て来る気配はありませんね」

「何故か自動迎撃になってないのよ。管制室に誰かいるのかも知れないのよ」



 ――キュインッゴガンッ!



 警戒していたとはいえ、サクラの反応が早過ぎて驚いた。

 防衛設備のある天井が開いた瞬間に、鉄鎚を投擲して破壊したんだ。


 それよりも、アシュリンの『誰かいる』とはどう言うことだ?



「ほら、やっぱり誰かが操作してるのよ。侵入に対処するまで二分は無能なのよー」

「人がいるなんてことは……まさか、陸上母艦とは別に……変異墓守ヴァンガードか!」



 僕の言葉を聞き、皆が一斉に視線をアシュリンに向けた。

 彼女は、注目されたことで自分の有能さから見られているとでも思ったのか、照れるような仕草をしているがそうではない。



「アシュリンの言う『誰か』とは恐らく忌人イビトのことだ。まずは、僕たちをここに誘い込んだ理由を問い質すべきか?」


「へっ!? ななななっ、知らないのよ! アシュリンは関係ないのよ!」


「カイト、今ここで破壊するべきだわ。こいつが変異墓守かも知れないもの」

「リシィさんに同意します。ここに誘い込むことが目的なら、私たちは敵の術中にかかったことになります」


「そんな殺生な! アシュリンは……そうっ、良いアシュリンなのよ!!」


「言いたいことはそれだけですぅ?」

「へえー、面白そう。アタシがやろうか?」


「カイトさぁん! 死にたくない! 死にたくないのよー!」



 この嫌に人らしい性格設定も、情に訴えかけるものなら僕には効果覿面だ。

 アシュリンがプログラムで動いていることを忘れてはならない。嘘だと自覚せずに嘘を吐く、それは心理で動く人とは違う機械だからなせることでもある。


 信頼か……機械にもそれがあると思うのは夢見がちな理想だ。わかっている。



「隊列の中央は、僕を先頭にアシュリン、アディーテの順だ。アディーテ、アシュリンが変な動きをしたら穴を空けて良い」

「アウー、わかった!」


「アシュリン、君には“生体組織”がない。今はそれを敵でない証明とする。だけど、味方である証明もない。今は破壊しない、そして信頼もしない、良いか?」


「良いのよ! アシュリンは目的を達成しないで死ねないのよ!」

「『目的』とは?」

「もう少し! 後少しでデータサルベージ完了なのよ!」

「わかった……」



 懸念は残るけど、まずはリシィと皆の安全を優先してフラグはへし折る。

 情報と引き換えにされるものが誰かの命なら、僕は迷うことなく命を選ぼう。


 忌人であるアシュリン、それは初めからわかっていたことなんだ。

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