幕間一 アディーテ
1500文字ほどの息抜き回となります。どうぞごゆるりと。
「アウ? サクラー、こんなところに珍しい」
僕たちが親方の工房から外に出ると、そこにいた少女に声をかけられた。
……だけど、これはいけない。
目の前の少女は、どう言うわけかパーカーしか着ていないんだ。
開いた胸元からは、やけに艶々とした薄い褐色の肌が露わになっていて、確認出来る限りでは下着をつけているように見えない。辛うじて下腹部はジッパーで留められ隠れているけど、その下から覗くのは靴も履いていない健康的な素足だ。
何この娘……サクラさん、まずいんじゃないですか?
「アディーテさん、こんにちは」
何も! 言わない! どうやら、これが当たり前のようだ……。
そして、僕に気が付いた『アディーテ』と呼ばれた少女が、無防備に近づいて来てスンスンと鼻を鳴らす。ビジュアル的に色々と見えそうでまずい! 助けてー!
「アウー? こいつなに? ぶっとばしていい?」
何故ぶっ飛ばす結論に達したのかはわからないけど、保護されているはずの来訪者に、突然の危機が訪れてしまった。
「ア、アディーテさん! その方はカイトさんです! 昨日保護されたばかりの、私がお世話をする来訪者の方ですからっ! ぶっ飛ばさないでっ!」
「アウ? そうか、それはごめんだ。私はアディーテ、仲良くして」
早速友好的な関係を断たれそうになったけど、サクラの声を裏返すほどの説明で、一瞬で何だか良くわからない誤解が解けた。素直な娘なようで良かった。
「僕はカイト クサカ。カイトでいいよ。よろしく、アディーテ」
「アウー!」
『アウー』は口癖かな……それだけやけに響く感じがする。
アディーテは両手を上げてニッカリと笑い、その口内にはサメやワニを思わせる鋭く尖った歯が並んでいた。
これ、サクラが誤解を解いてくれなかったら、あれで噛みつかれて、洒落にならないスプラッタ状態になっていたんじゃ……。
身長はリシィとそう変わらないほどで、水色の髪はザンバラに切られ、両脇の髪だけがお下げのように長く垂れている。
外見で目立つものと言えば、頭の上にゆらゆらと揺れる耳だか角だか何だかわからない、白色透明の触覚のようなものが特徴だろうか。
全く遠慮のない面持ちでにこやかに笑い、僕を見る瞳は金色。
良くも悪くも“純真無垢”な印象を受ける女の子だ。
「アディーテさんは、今から湖でサルベージですか? 湖塔の保全領域の調査が始まったと聞きましたが」
「アウ……あの中に美味しいものない、お腹空いた……」
「そうですか。でしたら、今度宿処においでください。またご馳走しますよ」
「アウッ! そうか、なら今度遊び行くーっ!」
この娘、話しながらも一々動きが大仰なんだ。
特に腕が忙しなくパタパタと動くので、その度に胸元や臀部が大きく露わになって、僕は目のやり場がなく困ってしまう。
そして、サクラと話していたアディーテは、今度は僕に向きを変えた。
「じゃなカトー! また遊んでー!」
『カトー』違う! いつ遊んだっけ!?
だけど訂正する間もなく、アディーテは『アウー』と言いながら、一瞬で湖岸から湖に飛び込んで消えていった。
会話の内容から察して、湖塔にでもサルベージに行ったのか。
彼女はどこからどう見ても、酸素ボンベのようなものは背負っていなかったので、水中でも活動が可能な種族なのかも知れない。
何にしても、お兄さんとしてはもう少し恥じらいを持って欲しいかな……。
アディーテが飛び込んで出来た波紋を目で追いながら、僕はそんなことを切実に思わずにはいられなかった。