表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/440

幕間一 アディーテ

1500文字ほどの息抜き回となります。どうぞごゆるりと。

「アウ? サクラー、こんなところに珍しい」



 僕たちが親方の工房から外に出ると、そこにいた少女に声をかけられた。


 ……だけど、これはいけない。


 目の前の少女は、どう言うわけかパーカーしか着ていないんだ。

 開いた胸元からは、やけに艶々とした薄い褐色の肌が露わになっていて、確認出来る限りでは下着をつけているように見えない。辛うじて下腹部はジッパーで留められ隠れているけど、その下から覗くのは靴も履いていない健康的な素足だ。


 何この娘……サクラさん、まずいんじゃないですか?



「アディーテさん、こんにちは」



 何も! 言わない! どうやら、これが当たり前のようだ……。


 そして、僕に気が付いた『アディーテ』と呼ばれた少女が、無防備に近づいて来てスンスンと鼻を鳴らす。ビジュアル的に色々と見えそうでまずい! 助けてー!



「アウー? こいつなに? ぶっとばしていい?」



 何故ぶっ飛ばす結論に達したのかはわからないけど、保護されているはずの来訪者に、突然の危機が訪れてしまった。



「ア、アディーテさん! その方はカイトさんです! 昨日保護されたばかりの、私がお世話をする来訪者の方ですからっ! ぶっ飛ばさないでっ!」


「アウ? そうか、それはごめんだ。私はアディーテ、仲良くして」



 早速友好的な関係を断たれそうになったけど、サクラの声を裏返すほどの説明で、一瞬で何だか良くわからない誤解が解けた。素直な娘なようで良かった。



「僕はカイト クサカ。カイトでいいよ。よろしく、アディーテ」

「アウー!」



 『アウー』は口癖かな……それだけやけに響く感じがする。


 アディーテは両手を上げてニッカリと笑い、その口内にはサメやワニを思わせる鋭く尖った歯が並んでいた。

 これ、サクラが誤解を解いてくれなかったら、あれで噛みつかれて、洒落にならないスプラッタ状態になっていたんじゃ……。


 身長はリシィとそう変わらないほどで、水色の髪はザンバラに切られ、両脇の髪だけがお下げのように長く垂れている。

 外見で目立つものと言えば、頭の上にゆらゆらと揺れる耳だか角だか何だかわからない、白色透明の触覚のようなものが特徴だろうか。

 全く遠慮のない面持ちでにこやかに笑い、僕を見る瞳は金色。


 良くも悪くも“純真無垢”な印象を受ける女の子だ。



「アディーテさんは、今から湖でサルベージですか? 湖塔の保全領域の調査が始まったと聞きましたが」

「アウ……あの中に美味しいものない、お腹空いた……」

「そうですか。でしたら、今度宿処においでください。またご馳走しますよ」

「アウッ! そうか、なら今度遊び行くーっ!」



 この娘、話しながらも一々動きが大仰なんだ。

 特に腕が忙しなくパタパタと動くので、その度に胸元や臀部が大きく露わになって、僕は目のやり場がなく困ってしまう。


 そして、サクラと話していたアディーテは、今度は僕に向きを変えた。



「じゃなカトー! また遊んでー!」



 『カトー』違う! いつ遊んだっけ!?


 だけど訂正する間もなく、アディーテは『アウー』と言いながら、一瞬で湖岸から湖に飛び込んで消えていった。


 会話の内容から察して、湖塔にでもサルベージに行ったのか。

 彼女はどこからどう見ても、酸素ボンベのようなものは背負っていなかったので、水中でも活動が可能な種族なのかも知れない。


 何にしても、お兄さんとしてはもう少し恥じらいを持って欲しいかな……。


 アディーテが飛び込んで出来た波紋を目で追いながら、僕はそんなことを切実に思わずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ