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第百十話 届けたいのは貴方にだけ

「此奴は確か、“樹塔の英雄”のパーティが唯一討滅を成した……」



 “弩級戦車モーターヘッド”、カイトがその話を聞いて頭を悩ませていた墓守だわ……。


 高さは従騎士エスクワイアよりも大きいくらいだけれど、圧倒感は比べ物にならない……。見かけは下半身が“戦車クアドリガ”、上半身が“正騎士ロードナイトのようで、頭部に見たこともない形をした砲を搭載した真っ黒な墓守。


 これは、一体何を模したものなの……。



 私たちが警戒していると弩級戦車の胸部が開き、内部の遺骸が露わになる。

 変異墓守ヴァンガードはもう用をなさなくなったのか二つの砲を捨て、上半身だけになった忌人が吸い込まれるようにその中に収まってしまった。



「姫君、あの砲は凌げん! カイト殿の話にあった“電磁加速砲レールガン”、生身では脇を通り抜けただけで木っ端微塵となる! このような地下空間で発砲を許せば!」


「けれど、逃げ場なんて……!」



 弩級戦車が擦れるような音を立てながら動き始めた。

 ギリギリと頭部の砲は私を狙い、砲身が青い雷を纏っている。



「ええい、ままよ!」

「ガーモッド卿!? 離してっ!!」



 ガーモッド卿が私を抱え、射線から逃れるように走り出した。

 弩級戦車の追従してくる砲身は上下に割れ、内側は更に激しく帯電している。



「直撃だけは避けねばならん! 砲から目を逸らさず、機を合わせ某の紫電と姫君の金光で防護陣を張る! 雷光の落ちる間もない一瞬に、いざ参られい!!」


「……っ!!」



 彼は諦めていなかった。

 ただ生き残る方策を考え、全力でそのために尽くす。

 なら私だって、やれることをやってみせる……!


 カイト、お願い……私の心を支えて……!



「略唱! 【神蝕の銀盾ジルヴェルドグランツェ】!!」



 ――バシッ……キュバッ!!



 青い雷光が収束し、弩級戦車の砲から一筋の閃光が迸った。

 間に合うか間に合わないかの一瞬、時計の針が半秒も進まないほどの刹那。

 金光と銀光と紫光が重なり合い、わずかばかり逸れた射線との間に壁を形成する。



「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」



 衝撃が肌を裂き、湿った湖底からは蒸気が立ち上って熱気まで肌を焼く。

 撃ち出された砲弾は剥き出しになった湖底に跡を残しながら、視界に一瞬も捉えることも出来ずに彼方へと消えた。

 

 凌いだけれど……たった一撃で、全力で防護壁を形成したにも関わらず、私を庇ったガーモッド卿の龍鎧の隙間からは、血が噴き出して止まらなくなってしまった。



「カカッ、容易い! ガハッ! これしき……姫君、今こそっ!!」



 カイトが教えてくれた、神唱は儀式に過ぎないと。

 歌わずとも思い描く心象さえ神域に比類すれば、神器さえも力在る言葉のひとつで顕現が出来るのではないかと。


 なら今それを成して、私は生きてカイトの元に戻るの……!!



「略唱! 【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】!!」



 銀槍を形作りながら、私は黒杖を弩級戦車に向けて振るった。

 けれど不完全な形は、まるで夜空を翔ける彗星のように尾を伸ばして進む。


 それはかつて見た蜃気楼のように幻の中に揺れ、いつも心に思い描く夢のように幻想の中で淡く散っていく。


 届かない……これでは足りない……。



 弩級戦車に……ううん、カイトに届かない……。




 彼の元に帰れない……。





 私は……私は……。





 涙が溢れる。それでも、私は彼の元に帰ることを諦めたくない……!





「絶対にっ!! 諦めないんだからっ!!」





 その時、青銀色の炎が私の傍を駆け抜けた。



「リシィ、ごめん。待たせた」



 一言だけを告げて通り過ぎる背中を私は追う。


 青い炎を燃やす銀色の右腕、何度も夢に思い描いた黒い髪、背中は流れ出た血で黒ずみ、それでも力強く駆ける姿は間違いなく私の“黒騎士”。


 来て……くれた……窮地に、駆けつけてくれた……。



 嬉しい……彼がいるなら、私は……。




 ◆◆◆




 全力だ。


 体の軋みなんて知ったことじゃない。

 全力で湖底を踏み締め、僕はリシィが打ち出した銀槍に追いついた。


 ベルク師匠は血に濡れ、リシィもずぶ濡れで全身は血が滲んでしまっている。

 一体どこのどいつが僕の大切な人たちをそうしてくれた。


 決して、許しはしない……!



 握り締めた銀槍は、今にもかき消えそうなほどに形を成していない。

 だけど、リシィが『諦めない』と言ったのならば、これは何者をも穿つ矛となる。



「やってくれたなガラクタ野郎!! 人の痛みを思い知れ!!」



 次弾装填中の砲口を目がけ、僕は走る勢いのままに銀槍をねじ込んだ。

 そしてそのまま胴体を蹴りつけたものの、流石に僕の力では蹴り抜けるはずもなく、余計な軋みが全身に広がるだけだった。



 ――バギンッ! ドンッボゴッ!!



 砲塔は青い雷光を発しながら吹き飛び、僕は蹴った勢いで遠く離れる。



「サクラ、アディーテ、追撃!!」


「はい!!」

「アウーッ!!」



 僕と入れ違いに走り抜けたサクラとアディーテは弩級戦車に肉薄し、【烙く深焔の鉄鎚】と“穿孔”が履帯を狙う。攻撃手段と機動力を奪う、これは常套手段だ。

 だけど、弩級戦車を襲った爆炎と穿孔は、妙な青光の波紋を広げただけで目立つ損傷とはならなかった。


 “弩級”と言うだけあって、正騎士以上の防護フィールドがあるんだ。


 “弩級戦車モーターヘッド”――頭頂高十二メートル全長十五メートル、半人半戦車型の【鉄棺種】。

 戦車に人が乗っているようなその姿こそ、僕には“クアドリガ”に見える。数年前にセオリムさんのパーティが討滅した個体が唯一の目撃記録だけど、その時は頭部が迫撃砲だったため安直に“迫撃砲頭モーターヘッド”と名付けられた。


 電磁加速砲の個体までいるのか……いや、今はもうひとつ(・・・・・)の武装を警戒する。



「カイトさん、傷のひとつもつきません」

「アウゥー、ダメー、穴空かないー」


「この図体だ、防御振りなのは間違いない」



 背後に一瞬視線を向けると、リシィは膝をついてテュルケに支えられていた。

 ベルク師匠はノウェムが見ているけど、今は手当ての出来る状況でもない。


 視線を戻すと、弩級戦車は背に格納していた武装を展開し、メカニカルに稼働しながら右腕に接続していた。いくつものロック音が重厚な音を立て、右腕が凶悪な突貫兵装に変わると同時に高速回転を始める。



 ――ギュイイィィイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!



 僕はこいつが戦線突破用の墓守だと思っている。膠着する戦場に穴を空けるための特攻兵器、それがあの状況が状況でなければ浪漫すら感じてしまう武装だ。


 ドリル……いや、あれはトンネル掘削用のシールドマシンか。


 それが高速で回転している様はまさに“暴虐の鉄塊”、恐らくベルク師匠でもリシィの光盾だろうと受けることは出来ない。


 どうする……僕たちの消耗は激しく、長引けば危険。恐らく防御力は正騎士以上で、瞬間的な攻撃力も今まで対した墓守の比ではない。


 弩級戦車の防御を抜く方法はひとつ、たったひとつだけ……!



「カイトさん、来ます!」

「みんな避けろ!!」



 弩級戦車は車体側面の各部にあるスリットから白煙を噴き出し、右腕のシールドマシンを脇に引いて加速を始めた。

 背面のスラスターを吹かせ、今はもう水のない湖底をゴリゴリと削り、数瞬の内に速度に乗ってその巨体を氷上にいるかのように滑らせる。


 その先にはよろめくリシィと支えるテュルケ、未だ立ち上がれないベルク師匠と傍には小さい体で彼を支えようとするノウェム。

 誰もが仲間を支え、仲間のためにと必死で行動している。


 ならば、邪魔をさせるものか。


 失敗に後悔し、生きていたことに頭を下げ、二度と繰り返すまいと拳を握る。



 偽神悪神荒神禍神如きが惚れた女を前に何するものぞ!



 全ての【鉄棺種】はこの“青槍”をもって穿ち貫く!!

今回は僕の大好きなゲーム『アーマードコア』のオマージュのつもりなのですが、流石にこの外見でオーバードウェポン染みた武装はそのまま過ぎてまずいのではないか……と思っています。

もし、ここは変えたほうが良いなどあれば、ご意見をいただけたらありがたいです。

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