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第百九話 支えなき対変異墓守戦

 ――キンッ! シャゴッ!!



 変異墓守ヴァンガードは私に砲を向け、カイトを傷つけたあの砲弾を発射した。



「金光よ我が意のままに!」



 金光を操って咄嗟に作り出したのは、形の定まらない“帯”。

 私だってこれまでずっと見てきたの。ガーモッド卿を、そしてカイトを……受け止められないのなら、彼らにならって弾くまでよ!


 私は鞭のようにしなる光帯を、砲弾の側面から添えて跳ね上げた。


 覚えているわ、光矢を弾いた砲兵アーティラリーも、カイトが教えてくれた“避弾経始”も。

 装甲を傾けて増した装甲厚は光矢も凌ぎ、傾け続ければ弾丸は表面を滑る。


 カイトみたいに上手くは出来ないけれど、だから私は側面を払う、それだけ。



 ――ドンッ!! ドドドドドドッザアアアアァァァァァァァッ!!



「姫君、ご無事か!?」

「ええ、私は無事よ。庇ってくれてありがとう」

「それは何より……むっ、これは!?」


「“光の防護膜”よ、これもカイトが考えてくれたものなの」



 跳ね上げた砲弾は頭上で連鎖するような爆発を起こし、衝撃が天井を崩落させて岩盤が湖上に降ってきた。


 ガーモッド卿は私を抱え込んで護ってくれたけれど、私は周囲を半円状の“光の防護膜”で覆って衝撃や岩の直撃を防いでいる。

 カイトは攻撃手段だけでなく、あらゆる状況を想定して力の使い方を考えてくれた。私がもっと冷静でいられたら、こうなる前に皆を護れたのに……。



 雨のように降りしきる湖水が冷たい……。

 今の爆発で霧が発生して、直ぐに私たちの足元は真っ白に覆われてしまった。


 そして、変異墓守が砲を翼にして湖上に下りて来る。

 まるで憎たらしい光翼種のようだわ……けれど今は、どうかカイトと一緒にいて……彼を守ってあげて……。


 ここでどれだけ抗い続けても、カイトがいなくなったら私は……。



「覚悟を決めねばならん」

「ガーモッド卿……!?」


「某の代わりはいる。しかし、“龍血の姫”の代わりなぞ、世界中どこを探そうとも姫君しか存在せん! ならば、その真の騎士の代わりに、某がこの鋼の身を盾とし姫君をお護りいたす!」


「ダメよ! それでは貴方が!」

「カカッ! 『死んで花実が咲くものか』、某は信じているのだ。あの御仁は、好いたおなごのためならば、例え死地にいようとも必ずやおなごの元に駆けつけると!」

「んっ!?」


「聞けいっ、変異墓守ヴァンガード! 某、“雷號爵”の位を賜るベルク ディーテイ ガーモッドと申す者! 姫君を討とうとするならば、まずはこの鋼の身を貫いてみせよ!!」



 ガーモッド卿の口上に答えるように、変異墓守は左砲をこちらに向けた。

 短く細い砲身は頼りなさげで、外見からでは右砲ほどの驚異を感じない。


 けれど、きっとあれは……。



 ――キュドッ! キュドッ! キュドッ!



「ぬおっ!? おおおおおおおおっ!!」



 ――ガガンガンッ!!



「何たる珍妙な軌跡を描く弾丸か! 姫君、ご無事か!?」

「大丈夫よ! けれど、今のは……」



 私を狙った弾丸は、間一髪のところで紫電に曲げられて盾で弾かれた。

 ガーモッド卿に庇われ、彼の大きな体の後ろにいた(・・・・・)にも関わらず。



「自ら射線を曲げるとは敵ながら天晴。だがしかし、手は知れた!」



 左砲が撃ち出す弾……その小さな弾丸は、自らを曲げた(・・・・・・)


 私を護るガーモッド卿を避け、その背後を狙えるほどに曲がる弾丸……そんなものは聞いたこともないわ。鉄棺種図鑑にだって載っていなかった……。


 カイト……カイト……教えて、どうすれば良いの……。




 ―――




「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」



 ――ガガガガガガガガガガガガガガッ!!



 ガーモッド卿の間隙のない紫電が湖上を制圧し続ける。

 離れていては危険と、私たちは直ぐに変異墓守に詰め寄っていた。


 私は砲の真下に潜り込んで光剣を振るい、ガーモッド卿は変異墓守の正面で曲がる弾丸を凌ぎながら槍を突いている。

 その子供のように小さい忌人いびとの体と、反するように大きな砲を持つ変異墓守は見るからに近接攻撃手段を持っていない。


 カイトならきっと……自分が打って出てでもこうしたはずだわ……!


 巻き込まれることを避けているのか、あれから右砲は発砲していないけれど、ここまで接近しているのにそれでも左砲の弾丸は回り込んでくる。時にそれは私の真後ろにまでなるから、依然として正体が掴めない。

 ガーモッド卿が紫電を放って辛うじて逸らしてくれているけれど、彼の雷袋にも限界があると聞くわ。


 濡れた体は悲鳴を上げ、鉛のように重くて思うように動かない。



「きゃっ!?」

「姫君!!」



 弾丸が腕を浅く裂いた。紫電に阻まれても時折抜けてしまうの。


 私は光膜を体の表面に纏って致命傷こそないけれど、光盾ほど硬くはないから、角度によってはどうしても傷を負ってしまう。体の動きを妨げてしまうから、光膜はこれ以上に硬くも出来ないわ。



「大丈夫よ、集中して!!」

「おおっ!!」



 私たちの周りを間断なく撃たれる弾丸が回る。


 けれど、サクラほどでないにしても、私だって感覚の敏感な竜種なの。

 ガーモッド卿に頼らなくても、自分から避けてみせるわ。



「ここっ!!」



 大きく回り込むように背後から迫る弾丸を感じ取り、私は光剣で斬りつけながら腰を落として避けた。


 変異墓守はゆらゆらと揺れながら近接攻撃を避けようとするけれど、私の攻撃と合わせて槍を突いたガーモッド卿に阻まれ、光剣の斬撃を受ける。それと同時に私が一歩を踏み込んだことで、脇を抜けた弾丸は変異墓守自らに返った。


 変異墓守は斬撃と砲撃を同じ箇所に受けて左大腿部を欠損する。



「お見事!」

「まだよ!」



 舞踏を思い出すわ、そして剣の稽古も。

 同じものではないけれど、『律動を感じなさい』と言われたもの。

 変異墓守の発砲間隔を一種の旋律として五感で感じ取るの。


 私は“花嫁修業”が嫌だった、龍血を残すだけの自分の存在が許せなかった。

 けれど、今はテレイーズの古びれた因習に感謝をするわ。おかげで、染みついた動きはこの寒さの中でも自然と体を動かすから!



「下手な舞踏ね、それでは相手に相応しくないわ!」

「むぅっ!? 何と美しき舞いか!! 某もこうしてはおれん!!}



 ――ズンッ! バギンッ!!



 ガーモッド卿が踏み込むと、軸足から紫電が湖水を撒き散らして放出された。

 紫電は渦巻くように彼の体を駆け上り、槍にまで達すると輝く紫光の槍となる。



「喰らえよ! 我流一槍【我號穿がごうせん】!!」



 ――ズズンッ!! ドシャアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!!



 ガーモッド卿の再度の踏み込みで湖水は弾け飛び、紫光の槍からは同じ太さの紫電の帯が、変異墓守を貫いて湖上を彼方まで飛んで行った。


 これは、まるで【銀恢の槍皇ジルヴェルドグランツェ】のようだわ……!


 今の一撃で変異墓守は胸部から下を全て欠損し、力なく腕と砲口を下げて浮いたまま動かずに帯電している。



「ガーモッド卿、止めを刺すわ!」

「おおっ、心得た!!」



 油断はしないわ、動き出さないようただの鉄片に変えるまで……。



 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……



「ぬっ!?」

「なにっ!?」



 ――ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ



 何かが来る、変異墓守の下りて来た穴を削って何かが下りて来る……!?



「姫君、潰される前に退避を!!」

「ええっ!!」



 岩肌を削る音が近づいて来る。振動が湖面を揺らし、穴から落ちる多量の土砂が、変異墓守とは比べることも出来ない大きさだと知らせている。


 やがて、着水の衝撃だけでよろめいてしまうような巨体が姿を現した。

 地面は地響きを立てて揺れ、落着で底が割れたのか湖水がどこかに吸い込まれていく。


 怯んではダメ……けれど……。



「そんな……どうしようとも、私を殺そうとするの……」



 墓守“弩級戦車モーターヘッド”……絶望だけが私たちの行く先を阻んでいた。

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