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第百五話 されど我が君は荒野を歩む

 次の日の朝、僕たちは食後の休憩も程々に野営地を後にした。


 ローはベンガードが背負い、ヨルカは既に立つことも出来なくなっていたため、廃材で作った椅子に座らせてティチリカが背負うことで連れ出した。

 毒の除去が出来たことで、本人は時間を置けば歩けるようになると言うけど、未だに傷口は化膿したまま早めに適切な治療を受けさせたほうが良いだろう。



「次の拠点に進む……で良いんだな?」

「アア、こいつラを抱えて城の外へハ出ラれん。進むほうガマしダ」



 トラブルなく進んだとして行くも二日戻るも二日、僕たちは話し合った結果、このまま第六界層管理拠点まで進むこととなった。

 勿論、何かがいることは伝えたけど、遭遇方向を限定することが出来る城内を進むほうが安全と判断したからだ。


 怪我人、ともすれば足手まとい。酷い言い方だけどそれは偽神による策か、確実にあの手この手を使って神器を破壊しようとしてくる。

 それにしても、自らでそれをなそうとしないのは何故か……一向に姿を現さないのは何故か……僕が魔王だとしたら、勇者生誕の地を自分が出向いても真っ先に攻め滅ぼそうとするのは確かだ。


 つまり、それが出来ない……動けない(・・・・)理由がある。


 “三位一体の偽神”と“【鉄棺種】を遣う者”、未だに敵対関係が見えない。

 偽神は墓守と敵対しているようで、自らが使っているようにも思える。


 これではまるで“ゴルディアスの結び目”だ……複雑に絡み合って決して答えを見せず、正攻法では辿り着くことも出来ない超難問……。



「うーん……」

「カイトさん、眉間に皺が寄っていますよ」

「あっ、ごめんサクラ」

「ふむ、結局のところ、主様は大して休めておらぬではないか」

「そうですね……抜けない性分とは困ったものです」

「は、はは……ごめんなさい……」



 隊列はベルク師匠を先頭に、その後にテュルケとアディーテ、中央にローを背負うベンガード、ヨルカを背負うティチリカ、荷物持ちの僕とノウェムは最後尾でリシィとサクラに護られる形だ。ラッテンには再び先行してもらっている。


 ベンガードはローを背負う他に、長柄の戦斧も持っているから負担は相当だと思うけど、今は悪態も吐かずにただ黙々と歩いている。



「昨晩も、私が気が付くまで考えごとをしていたわよね。それも日が回った遅い時間まで。地上に戻ったら、一度厳しく躾けないとダメそうね」

「えっ、や、優しくしてね?」

「ダメよ。皆はカイトが心配なの。わかるまでは厳しくするわ」

「そうですね、カイトさんには肩の力を抜くことを覚えていただきたいです」

「ふむ、最悪は我らで添い寝をする必要があるな」

「それはノウェムの願望だよね……?」



 そう言われても、肩の力を抜く方法なんてあるんだろうか……。

 休んでいても人は考えるものだ、無我の境地に至れと言うことかな……。



「と、とりあえず、次の野営地までは後どのくらいで着くんだ?」

「はい、墓守との戦闘がなかったとしても丸一日はかかりますね」

「丸一日か……王の間なんだっけ?」


「正確には隣室ですが、中庭と同様に入口が狭くなり強固ですので、墓守に侵入されることはまずありません。辿り着きさえすれば安全です」


「それはありがたいな。みんなの言う通り、今日は早めに休もうと思う」

「良い心がけね。そうでなければ力尽くでも寝かしつけたわ」



 押さえつけでもするつもりだったんだろうか……。まさかノウェムの言う通り、添い寝しながら監視するなんてことは……ないよな?


 それにしても“王の間”か。そう呼ばれているだけで、一般的に思い描くような謁見の場ではないらしく、どうやらそこは“大会議室”の様らしい。


 うーん、これはフラグじゃないのか……?


 この世界では、僕の想定が“予見”と言われるほどに、的を射ていることが今までも少なからずあった。“何か”が何処にいるかもわからない現状では確証も何もないけど、ゲーマーとしての勘がその場所に危険を感じているんだ。



「サクラ、大会議室は避けられないのか? 最悪は強行軍で抜けてしまいたい」



 サクラは僕の言葉を聞いて考え込み、しばらくして言わんとしたことを理解したのか、確信のある表情で答えた。



「カイトさんは、“何か”が王の間にがいるとお考えですか?」

「率直に言うとそうだね。それも……」

「私を狙っている相手……」



 リシィはどこか憂いの含まれる緑と青の瞳色で僕を見た。


 そう言うことになる。それも確実に対“龍血の姫”用の変異墓守……もしくは“三位一体の偽神”そのものか……僕は前者だと思っている。



「カイト、私は思うの」

「うん?」

「それなら、王の間に自ら踏み入りたいわ」

「はっ!? 何を言って……」

「ヨルカを苦しめた猟犬ハウンドの毒も、私を狙ったものよね」

「……」


「そうなのね……」

「それは、推測にしか過ぎない……」

「良いの。何者かが神器を破壊しようとしているのは確かだもの」



 【神魔の禍つ器】……ルコの一言が決定的過ぎて否定も出来ない。


 本当に正しい選択は、リシィを【重積層迷宮都市ラトレイア】から出来るだけ遠ざけることだ。いや、相手は彼女を招き寄せるため執拗に策を弄した、遠ざかったところで状況は変わらないかも知れない。



「だから、このまま私が廃城を通り抜けてしまったら、今度は拠点が襲われてしまうかも知れない。それはカイトも既に気が付いているわよね?」


「そうだ……僕はリシィを少しでも危険から遠ざけようと、拠点を犠牲にしてでも迎撃戦力を増やそうと考えた。酷い人間だ」


「良いの。守ろうとしてくれるのは騎士の責務だもの、私はそんな貴方を許すわ」


「リシィ……君は……」



 やはり、リシィはリシィだ。


 どこまでも高潔で誇り高き“龍血の姫”、僕の主、僕の最愛の人。

 自らをどんな窮地に晒そうと、例えその身を人の屍で切られようとも、きっと最後まで残る人々のために荒野だろうと歩き続けるんだろう。


 なら僕に言うべきことは何もない、後は困難に立ち向かうのみ。

 この銀色の拳は、彼女のために握り続けようじゃないか。



「カイトを案じた手前、直ぐに自身で反するような行動は許したくないけれど……それでも貴方は私に付き従いなさい。私は……王の間に進むわ」


「ああ、我が君の仰せのままに」



 僕は恭しく龍血の姫、いやリシィ(・・・)に頭を垂れた。

 彼女のために、彼女を取り巻く全てのために、僕は尽くす。



「リシィさん、私は貴女の従者ではありませんが、友人ではあります。断られても一緒に行きますからね」

「主様を顎で使うのは感心せぬが、我は元より主様とともにだ。離れはせぬ」


「ええ、二人とも頼りにしているわ。ありがとう」



 行く先は決まったな。



「団結してるのは良いノン~、だけどティは安心安全が一番良いノン~」

「クッソッ! この脚さえ治れば、アタイだって輪舞を踊ってやるのにさ!」



 ティチリカとヨルカにも聞こえていたようで、二人もそれぞれ反応を返してきた。

 呑気に戦闘狂に偏執狂と、ベンガードのパーティは揃いも揃ったもんだ。



「姫さまーっ! もちろんっ、私もどこまでもお供しますですですっ!」

「カカッ、然り! 某もこの心残りはまだ晴れん。友のご子息の盾となること、今ここに本懐としよう! カイト殿、姫君、ともに参ろうぞ!」

「アウー! うまうまーならどこでもー!」



 そして、皆も何の迷いもなく当然だと返してくれた。

 進む先にどんな困難が待ち受けていようとも、いつも通り変わらずに。



「ベンガード、そう言うわけだ。伝えた通り、“何か”は確実に僕たちの進む先にいる。まずは怪我人の安全確保を優先し、後の判断はそちらに任せる」


「ハッ、くダラん。力を貸せのひとつも言えナいナラ、ここで惨めに屍を晒せ」

「力を貸してくれるのか?」

「ローとヨルカの安全を確保しタラ考えてヤる。期待ハするナ、小僧」

「はは、感謝する。ベンガード」

「チッ、期待するナと言っタ」

「ああ」



 接敵は夜。月明かりでさえも冥きに沈む廃城で、僕たちは“何か”を迎え撃つ。

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