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第百話 百の墓守が来ようとも 千の技で迎撃す

 僕たちは掃除屋デトネーターを迅速に討滅し、火を避けて更に奥へと進んだ。

 だけど、一度の戦闘音は他の墓守を呼び寄せ、今も隠れた小部屋の外では数体の掃除屋が周辺を哨戒している。



「確実にデータリンクしているな……やはり、一体にも見つかりたくない」

「でーたりんく……ですか? 戦闘に関わることなら教えていただきたいです」



 そうか、この世界にはまだデジタル的な概念がない。

 一度、サクラたちには簡潔にでも説明しておくべきだな。



「一種の“通信”と言えばわかる?」

「はい、離れた場所を繋ぐ伝達手段は、いつの時代も最重要のものです」


「うん、データリンクと言うのはそれをほぼ一瞬で行う。どれだけの速度でかは諸元次第だけど、あれだけのものが自律しているんだ、近隣の墓守が全て同じ情報を共有していると思ったほうが良い」


「はわわっ、で、でしたら、一回見つかったら大変ですですっ!?」

「そうなるね。一体に捕捉されただけでこれとは、集まる墓守が多過ぎる」

「ずっと音だと思っていました」

「勿論それもある。他には相手が機械である以上、熱源や動体検知、壁の向こうまで可視化する手段もあるかも知れない」

「それなら、ここに隠れているのも危険じゃないの?」

「今のところは大丈夫だ」



 現に墓守は通り過ぎ、戦闘が行われた場所に向かっている。

 直ぐに姿を隠したことで、僕たちの最終位置だけが共有されたんだろう。


 そして一番厄介で隠せないもの、それは人の“におい”だ。



 ――カチャカチャカチャ……カチャ



 石床を踏む軽い足音が部屋の前で止まった。

 それは。鼻先を床につけ、何かに気が付いたように頭を上げる。


 “猟犬ハウンド”――文字通り“犬”の形をした小型の哨戒用【鉄棺種】。

 その安直な名付けは、だからこそ存在の意味を明確なものとしている。

 遭遇する順が逆になったけど、ここでは全ての墓守の目と鼻の役割をするこいつが何よりの警戒すべき相手だ。


 人のにおいは隠せない。お香を焚こうとも、香水をつけようとも、別の強烈なにおいが残ってしまうだけだから。


 こいつは、捕捉される前に先制で倒すしかないんだ。



「アウゥ~」



 ――ガシュッ



 予め廊下の天井に潜ませておいたアディーテが、 声量を抑えた『アウー』とともに猟犬を強襲して頭部を穿孔した。


 これを見ると、彼女の能力は暗殺向きなのかも知れないな……。



「ふむ、流石はカイト殿。以前は猟犬を振り切れなかったことで、某のパーティは徐々に瓦解した。然るなら、捕捉される前に討滅に至る。これには某、紫電も漏れぬほど感服仕った」


「見たまま機動力もありますから、なら見つからなければ良い。思考としては単純です。ただ、不意の遭遇は免れないと思います」



 確認されていないだけで、哨戒用ともなると光学迷彩が搭載されている可能性まであるからだ。銃火器の類は装備されていないようだけど、あの鋼鉄の顎に一度噛みつかれたら振り解くのは困難だろう。


 僕ももっと大きい奴に噛み千切られているしな……。



「アディーテ、ご苦労さま」

「アウー、おにくこれっぽっちしかなかった」

「はは、野営地に到着したら干し肉をあげるよ」

「アウッ!? わーいっ、カトーいいやつーっ!」

「そうと決まったら進もうか」

「アウーッ!」



 僕たちは小部屋を出て、再び奥へと進み始めた。


 捕捉される前に討滅し、姿を隠して迅速に移動する。今はこれで良い。

 ベルク師匠は仇討ちと戦いたいだろうけど、それをなすために血と泥に塗れて傷つき、彼を知る誰かに涙を流させるのはダメなんだ。

 その憤り、その無念、この城にいる“何か”のために温存してもらう。



「足音が……!?」

「サクラ、どうした!?」


「挟まれました……。前方も、後方も、左右ともに……墓守が複数こちらに向かっています……!」


「何だって……!?」



 位置を把握して追い込んでいたとは思えない、偶然か……。

 いや恐らくは、侵入者があれば周辺を封鎖するルーチンで動いているんだ。


 潜入を主とするステルスゲームでは、わざと抜け道を作ることがある。

 だけど、現実ではまず完全に封鎖するようプログラムするだろう。


 ならこれは、偶然ではなくそれが結実した結果だ。



「カイトさん、どうしますか!?」

「ここは、そうだな……」



 僕たちは十字路のど真ん中で立ち往生していて、このままでは危険。



「打って出る。正面を撃滅し、窮地は全て絶好の機会に変える。リシィ!」

「ええ、あれ(・・)を使う時ね! 任せなさい!」


「良し、突貫!」


「おおっ!!」

「はああああっ!!」



 サクラは鉄鎚を、ベルク師匠は槍を構えて進路に突撃する。


 その先で姿を見せた掃除屋はニ機。僕たちの接敵に遅れて捕捉したようで、爆炎放射器を内蔵した両腕をのろりと持ち上げた。

 テュルケとアディーテはサクラたちの後に続き、反転重力場でないにも関わらず左右の壁を疾駆する。



「主様、三方からも来ておるぞ!」

「カイト、準備は出来たわ!」

「良し、僕たちも行こう!」



 リシィの仕掛け(・・・)を待ち、残された僕たち三人も遅れて後に続く。

 その時には既に、サクラとベルク師匠が掃除屋に一撃を加えていた。


 サクラの鉄鎚の猛撃は掃除屋の一機を奥の壁まで吹き飛ばし、もう一機はベルク師匠の突きと同時の紫電により動きを封じ込められている。

 誘爆はしない。安全装置か何かが働いているのか、どうやら機外に放出されない限りは紫電でも発火しないようだ。



「やああああああっ!!」

「アウーーーーッ!!」



 そして、テュルケとアディーテが攻撃を仕掛ける瞬間に紫電は止み、その代わりの斬撃と穿孔が掃除屋を襲った。

 まずは一機が沈黙。そのまま走り抜けた二人はサクラと肩を並べ、残りの一機にも攻撃を仕掛けて完膚なきまでに叩き潰した。



「リシィ!」


「陣を形成し金光よ、我が敵を屠る爆光となれ!!」



 墓守が残りの三方から十字路に殺到した瞬間だった。


 予め床に仕掛けておいた光陣が爆ぜ、掃除屋と猟犬の群れを襲った。

 光の爆発、飛び散る光矢、当然その上の墓守は全てが高熱に晒され、ガトリング砲もかくやと言うほどに穴だらけにされてしまう。


 ゲームではお馴染みの設置型トラップスキルだ。

 持続時間こそ短いけど、真下からの突発範囲攻撃は避けようもない。

 爆光は墓守を打ち上げ、落下する間も与えずに屑鉄に変えてしまった。


 リシィの光素具象化は、やはり心象次第でどんな応用でも利く。

 僕自身の心象を上手く言葉にして伝えることが出来たのは、ゲームをプレイして数多くのスキルを実際に目にしたおかげだ。



「リシィ、負担はないか?」

「ええ、カイトのおかげで絶好調よ! 使い方次第ではこうも変わるのね!」

「もっと早く気が付くべきだったけど、ここまで応用が利くとは思わなかったよ」

「何を言っているの、最初に示してくれたのは貴方なのよ。もっと自信を持ちなさい、そうでないと私の一番の黒騎士として張り合いがないわ」


「あ、ありがとう。ところで、前にも聞いた気がするけど……黒騎士?」

「んっ!? それは、私の、私の……んぅ、気にしないでぇっ!」

「えっ!?」



 こんなところで、急に駄々っ子リシィが再臨した。

 彼女はぷんすかと頬を膨らませ、いつもの綺麗な印象とは打って変わって今は可愛らしい少女のよう。


 うん、これはこれで悪くない。



「はいは~いっ! 姫さま、カイトさん、先に進みますですっ!」

「はっ、そうだ、のんびりしている場合じゃない。リシィ、行こう」

「え、ええ、そうね、また墓守が集まる前に進みましょう」



 十字路は墓守の残骸で封鎖することは出来たけど、この城の通路は複雑に絡み合って迷う反面、迂回しようと思えばいくらでも回り込むことは出来る。

 つまり、これで追手を妨げたと思うのは早計だ。迅速に姿を隠し、移動経路を悟られないように先へと進んで行く。



「サクラ、野営地までは後どのくらい?」


「はい、そうですね……野営を出来る広さはありませんが、追撃を逃れるためひとまず安全地帯に退避するのはいかがでしょうか?」


「それは良い、案内を頼む」

「はい!」



 僕たちを追撃する足音は依然と増え続けている。

 ステルスゲームのように、姿を見失ったからと警戒は解かれないだろう。

 思うようには進めないけど、ここで誰かを失うつもりはないんだ。


 そうして、僕たちは墓守を避けて安全地帯に入った。


 そこに先客がいるとは思いもよらずに。

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