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第九十三話 真紅の皇女 後編

「貴様の意志はわかった。ならば、“三位一体の偽神”とやらをどう見る? 何か情報はあるのか?」



 うーん……ないとも言い難いけど、殆どが推測なことは確かだ。

 “神器の記録”で見た情報は、誰が誰と戦っているのか良くわからない。

 まずは敵対関係を整理して、導き出される可能性を精査しないことには、誰もが“三位一体の偽神”となり得る。それこそ、味方だと信じたいグランディータまで。


 “三位一体”が鍵かな……。



「正直に言うなら、まだわかりません。推測の域を出ないと言うのが正しいですが、唯一確定しているとすれば……」



 僕はそこまで告げ、今は隣で静観するリシィを見た。

 彼女も言わんとしたことを察したんだろう、僕を見て頷く。



「確定しているとすれば、何だ?」

「確定しているとすれば、偽神は龍血の神器を破壊しようとしています」

「ふむ、話には聞いた。青き斬鉄……ルコ イオクラがその尖兵にされたと」

「はい、彼女は神器を【神魔の禍つ器】と呼んでいました。僕の失態です、決着をつける前にもっと話を聞き出しておくべきでした」


「そう己を責めるな。本来“青き斬鉄の剣”と謳われたあの者は、私が対しても苦戦を強いられる相手だ。幼馴染だからと手心を加え戦闘が長引いてしまっては、今頃貴様は墓石の下であっただろうな」

「そ、そういうものですか……」

「そうだ、貴様は些か背負い過ぎる。サクラ、この男の半分を背負え、偽神にくれてやるわけにはいかん」

「はい、カイトさんは私がこの身に代えてもお守りします」

「それでこそ“焔獣の執行者(ファラウエア)”よ」


「勿論、残りの半分は彼の主として私が背負うわ。貴女と言えども口は挟ませないわよ」

「そのつもりでの“半分”だ。ともに戦場に立つ機会があれば、私も貴様の剣となることをここに誓おう」

「えっ!?」

「不服か?」

「いえ、身に余る光栄で驚きました」



 驚いたと言うか、完全に後には退けない状況に追い込まれた。

 退くつもりも最初からないけど、皇女様の、ルテリア総議官の後ろ盾は大きい。


 この繋がりが偽神に対する牽制となれば良いけど、シュティーラさんがルコと同じ仕込み(・・・)という可能性を僕は捨てていない。疑い始めたら切りがないな……。



「本来なら、貴様にもリシィにも英傑の一人でも護衛につけたいところだが、ここしばらくのラトレイアの異常事態で人手が足りん。すまんな」

「いえ、お気遣いだけで構いません。僕たちにはサクラやベルク師……ガーモッド卿にノウェムまで、頼りになる仲間がいますから」


「そうか、エルトゥナンの姫君には以前叱咤が過ぎた。謝罪に赴きたいところだが、神代よりの血脈が三人もいるのは不審を感じるほどだ。やはり貴様は、此度の異常事態の中心に間違いなくいる。心して至れ、カイト クサカ」


「はい、言われずとも」



 この人をもってしてそう判断するのは、やはり偶然じゃないんだろう。


 僕は日本の一市民に過ぎない。最初こそ偶然だったのかも知れないけど、その後で何らかの筋書きの上に乗せられた必然が確かにある。

 墓守を相手にただの人間がここまで生き延びて来られたのも、背後に人智を超えた存在の干渉があるからか。


 異世界から人を呼び寄せてまでする目的……僕と他の信奉者の差とは……推測をするにもまだ情報が足りない……。



「ひとまずはこんなところか。ホイホイ、何かあるか?」


「では、ワタクシからはお礼を。リシィティアレルナ ルン テレイーズ様、カイト クサカ様、お仲間の皆様にも、拠点防衛と大百足ヘカトンケイル討滅とこのホイホイ大感謝ですゾ! まさにワタクシの魂の友、“タマトモ”ですゾー! 感謝のキッスを貴方様に!」


「要りません」

「月輪を統べし者……」

「リシィ、神器はダメだよ!?」

「はっ!?」


「……もう下がって良いぞ、ホイホイ」

「ですゾー……」



 ヨーさんは背に哀愁を漂わせて退室した。

 親近感はあるけど、何でギルドマスターなんだろう……。



「すまんな。あれで肝だけは座っているんだが、如何せん普段があの調子だ」

「いえ、愉快な人ですから、迷宮の奥では彼のような人材が余計に重宝されるのかも知れません」

「そういうものか?」

「そういうものです」



 話が一段落し、シュティーラさんは体をソファに大きく投げ出した。

 背もたれに寄りかかり、くつろいだ姿の割には表情が険しくなっている。



「貴様らは……これからラトレイアの主城に向かうのだったな」

「はい、しばらくの休息を取ってから進もうと思います。話しましたか?」

「なに、私にも間者の一人や二人はいるからな」



 何それ怖い……そもそも、僕はまだルコのことも話していなかった。

 どこから……いや、身近に忍者がいるじゃないか。ああ、あの人ならやりかねない、しれっとパーティに紛れ込んで誰も気が付かなかったりするんだ。


 シュティーラさんは僕たちを一瞥し、不意に告げた。



「気を付けて行け」

「はい、細心の注意を払って迷宮を進むつもりです」


「そうではない。“廃城ラトレイア”、あそこには今何かがいる(・・・・・)

「え? それは……普段とは違う、墓守ではない何かがいると……?」


「ふむ、貴様の想定は時に予見にまで及ぶと聞く。やはり私の……」

「んっ、んんっ! シュティーラ、余計な話は要らないわ。少しでも情報が欲しいの、その『何か』とは何? 要約して教えて」

「はっはっ、仕事の斡旋だ。別にリシィの元から引き離すつもりはないぞ」

「それでもダメなものはダメよ! 情報の見返りなら別のものにして!」



 この手の食ってかかる対応は、やはり立場上は対等のリシィでないとこなせない役割だ。軽くあしらわれ気味なのは仕方ないとしても。

 とにかく、足りない情報は今までも不測の事態を招いた。その溝を少しでも埋めるには行政府の支援は欠かせない、この後ろ盾は最大限に生かさせてもらう。



「残念だが詳細はない。情報はただひとつ『何かが動いている』のみだ」



 まさかの一瞬で望みが断たれた……。

 今回もまた、現地で臨機応変に対応するしかないのか……。



「そこまでわかっていて、確認は出来なかったの?」


「ホイホイの固有能力が“遠視”でな。“何か”の存在は確認したものの、三度に渡り出した調査隊が今も誰一人として帰還していない。本来ならば、私が直接赴きたいところだが……」


「なるほど、墓守以上の最悪の相手を想定しろと言うことですか」

「そうだ、その何者か次第では、貴様らもまた迷宮に骸を晒すことになる」


「サークロウスさん、前にも申し上げたはずですが物言いが直接的過ぎます」

「ならば名で呼んでくれるか? 私を嗜めることが出来るのは貴様だけだ、サクラ」

「考えさせていただきます」



 この二人の関係も気になるところだけど、傍からだとシュティーラさんがサクラに一方的に想いを寄せているように見える。何でサクラは、彼女に対してこうも厳しいんだろうか……。


 何にしても……。



「その件については理解しました。その何者かが最悪中の最悪……“三位一体の偽神”そのものの可能性まで想定して動きます。警告に感謝します」


「ふむ、それは当然のことだ。それより貴様も堅いな、歳も私とそう変わりないように見える。私的な時間は友として接してくれないか、そのほうが気味が好い」


「はい?」



 あれ、この人……。



「では、今は友として呼び捨てで良いですか? シュティーラ」

「ぐっ!? お、男に呼び捨てにされるのは初めてだ。慣れないが、許そう」



 あの剛胆なシュティーラさんが、頬まで赤くして視線を泳がせた。

 やはり、立場や言動のせいで勘違いされるだけで、執拗に名前で呼ばせようとするあたりは“友人”を望んでいて、見かけによらず根は純真なのかも知れない。


 これなら僕でも馴染み易……。



「カイト……またしても、貴方はそう平然と……」

「本当です……。カイトさんはあまりにも容易く、それも無自覚に踏み込みますよね。ご自身の置かれている立場を自覚して欲しいものです」


「えっ、何!? ごめんなさい!?」



 何故かリシィとサクラにたしなめられた。

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