第005話 容易な暗殺
大きな屋敷の中の一室で男が、眉間に皺を寄せて、久々に考え込んだ。
最後に取引した呪印の奴隷売買に関してだった。
ノックが聞こえて、執事が紅茶を持ってくる。
「ヘンゲル様、考え過ぎは体に毒ですぞ。モス家当主ならば、何が起きてもポーカーフェイスですよ」
「爺には、参ったな。表情は変えているつもりは無いのだが?」
「眉間に皺が寄ってますよ。僅かですがね」
「爺しかわからないよ」
笑って答える。
「しかし、何をお悩みで?」
「私には、未来予知的なカンがあるのだが、最後に取引した人物に二度と会えない気がしてな」
「そ、それは、その人物は、既に生きていないかもしれませんね。ヘンゲル様が、同じこと言って、生きてる方を知りませんから」
「100%当たるのが問題で、その人物が...いや、ここだけの話にしよう。爺、紅茶をありがとう」
丁寧に会釈をして、執事が部屋を退出する。
レイモン公爵の屋敷の入り口の門が見える、ケラスの街を出てすぐの丘の頂上に辿り着いた。
「.....ナッチさん....離れすぎな気がします」
屋敷の門がマッチ箱程にしか見えない。
「リュウジ様は、強いが目が悪いようだな。門の模様まで見えるぞ?」
え?それって義眼の能力じゃないか?ナッチを見ると左目の赤い目が僅かに光っている...
まさか、ナッチは天然なのか?普通見えないだろ!
門の前に10騎程の馬に乗っている騎士団が現れて、それに囲まれて、金ピカの馬車が現れた。
「あの馬車ですか?影武者とかの心配は?」
「レイモン公爵は、呪印に絶対の自信があるので影武者などは、いないぞ。さすが修羅の国から来ただけあるな。用心深い。
あ!馬車に乗ってるのは、レイモン公爵と側近だけだ!
側近も非道な奴らなので馬車ごと、やってしまって良いぞ」
魔法発動が何処からわからない魔法を考えると、即死系の魔法と重力系の魔法だ。
炎や水や風などは、どの方向から魔法が飛んで来たか予測されやすい。
即死系の魔法は、一定の確率や魔法防御が高いと即死確率が低いので重力系一択になる。
上級魔法の場合は、範囲が広く呪印で縛られている騎士団の人も巻き込んでしまう。
最適なものは、中級魔法のギガプレスだな。
馬車に向かってギガプレスを連想する。
「な!!馬車が潰れた!!!!」
ナッチが驚く!赤い目がさらに光る。
その光で、向こうから見つかってバレるんじゃないか?!
見ると潰れた馬車を中心にクレーターができていた。
周りの騎士たちが周囲を警戒している。
私の肉眼では、それぐらいしかわからない。
ギガプレスは、対象の重さを最小2倍から最大1000倍にする。
魔力のマイナスバグのせいで調整が効かない為に、最大使用魔力で馬車の重さが1000倍になったはずだ。
馬車の強度が同じで、重さだけ上昇すれば壊れる。
中の人がいくら魔法防御されていても、物理的に馬車の天井部分が50kgだとしても50000kgになり、50トンの天井に潰されたら即死だろう。
ステータスを見ると魔力が一気に減っていた。
魔力 ー101236/ー92
うあぁ消費が10万近いし!中級でも魔法の種類によっては、限界まで使用すると凄い魔力消費量だ。
上級のデスノバアラカルトでも1万ちょいだったので重力系は消費が激しいのかもしれない。
しかし、魔力が激しく増加していく。
なんだ、この回復速度は?
数秒で数千は回復していく。
魔力 ー100075/ー92
なんとなく理由はわかる。
魔力は、周囲から集めて溜まっていくものだが、マイナスステータスの為に、穴が空いた場所に周囲の魔力が流れ込むのだろう。
通常は、集めるのだが.......私の場合は流れ込んでくる感じだ。
「うぁ。凄いなリュウジ様は、どんな魔法かわからないが一瞬か!私が倒されるわけだ。見つかるとまずい。街へ戻ろう」
まぁ、バレなかったと思うがナッチの左目が光っており、復讐の成功に、にやけている姿は、恐ろしさを感じる。
街に戻ると、街の入り口がレイモン騎士団で閉鎖されていた。
ナッチを見ると騎士団の一人が近寄って来た。
「ナッチ騎士団長!大変です。レイモン公爵と側近のメスト様が殺されました。街に犯人がいるので王都からの討伐のための騎士団が来るまで、犯人を逃がさない為に、この街は閉鎖されました」
「入るのは構わないのかな?」
街の門の奥から大柄の筋肉の塊の様な男が現れた。
「おっと!これはナッチ団長殿じゃないですか?貴方でもここは通れませんよ。団長が戻ってくるまで、私がレイモン騎士団をまとめておきますよ」
「へリュークか?いつから私より偉くなったんだ?」
「副団長ですが、団長不在の時は、私がトップですからね。公爵殺しの犯人は私が捕まえるので、団長は街の外でゆっくりしててください。規則だから入れることはできません」
ニヤニヤしながらへリュークが様子をうかがう。
私が会話に参加すると余計に揉めそうなので、ゲームでは、可能であった秘密チャットをナッチに試してみる。
『ナッチ!聞こえますか?』
『な!頭の中にリュウジ様の声が!念話?魔法?』
お!!可能だった!!
『全く疑われてないので、このまま騒ぎが収まるまで他の街に行きませんか?』
『良い考えだが、1番近い街でも数日かかるぞ?食料も装備も馬もいない状態じゃかなりキツイぞ?』
『私に考えがありますから大丈夫ですよ』
『リュウジ様がそう言うなら...って目が痛くないので本当ですね。少し頭にきますが一旦引きます』
「わかった副団長。この件が解決して門の閉鎖が解除されたら戻ってくる。それまでへリュークがレイモン騎士団の団長だ。頼んだぞ」
へリュークが意外な顔をするが、すぐに真顔になって答える。
「団長権限を引き継ぎます。団長は、安心して少し休んでください。王都から来る騎士団には、団長はノームラ討伐で街を離れていると伝えておきます」
「わかった」
ナッチが門に背を向けて街を離れる方向へ行く。
レイモン騎士団に、宿屋の鍵を渡して宿屋へ返す様に伝えて跡を追う。
街から大分離れるとナッチが振り向く。
何故か泣いていた。
「へリュークは、死ぬつもりだな。犯人も見つからないのであれば、責任の落とし所が必要だ。私を守る為の処置だろう」
「死体があれば、生き返らせれるので、そうなったら助けてあげますよ」
「え?リュウジ様は凄いな....一瞬で悩んでた私が馬鹿らしくなったぞ。死者蘇生は、公にしない方が良いな。国が転覆しかねない魔法だぞ?修羅の国では、当たり前なのか?」
修羅の国が、ファシリティのゲームという事なら、当たり前の事である。魔法を使わなくても死んだら最終セーブポイントにお金と多少の経験値をロストして復活する。
だが教える事で、さらに混乱させてしまうだろうと思い話題を変える。
「リュウジ様は、気持ち悪いのでリュウジって呼んでください」
「リュウジ.....何故か恥ずかしい。なんだろうこの気持ちは?」
ナッチの顔が赤くなる。
「王都の名前を教えてもらえますか?」
「そうか、リュウジさ...リュウジは、当たり前の事すら知らないのだな?クルト帝国の王都は、テトモスだ」
テトモスならゲーム中に攻城戦をする所だ。
ゲームであれば、ゲーム内でのギルドが、1時間だけ城の中でデスマッチを実施して、ポイントが高いギルドが城主になるイベントがある。
レアアイテム漁りに没頭していて、興味が無かったので参加したのは数回だったが、あまりに人数が集まりすぎて処理落ちしてコマ落ちが発生、いきなり見えない攻撃で倒されたり、大変な思い出しかない。
大分、暗くなってきた。
夢かもしれないが、あまりにリアルなので、野宿は避けたい所である。
王都に転移は出来るだろうか?
「ナッチ、私に掴まってください」
「え?どういう事だ?暗くなって来たからってそう簡単に身体は許さないぞ!」
「実は、転移魔法が使えるんですが試してみます」
「リュウジ...は、人間か?悪魔とかじゃないか?真実の義眼がなければ、全く信じない所だよ。
たしかに、人間だったな。
転移魔法は、難易度が高い魔法一つだぞ!一般的なダンジョン脱出魔法と違って、間違えて上空に転移したり壁の中に転移して死んだ人の話を聞いたことがある」
「失敗しても大丈夫ですよ」
「ここまで、目が痛くない人も珍しいな」
ナッチは、少し恥ずかしそうに、背後から私につかまった。
過去のゲームでみた攻城戦の城を思い浮かべながら転移を連想する。
目の前風景が一瞬で変化して、昔ゲームで見たことがある、攻城戦用の城が見える道の真ん中に、ナッチと一緒に立っていた。
人物紹介
へリューク・クロウデス
身長195cm 22歳 男性
茶色の髪で茶色い瞳
筋肉を愛するボディービルダーの様な筋肉ダルマ
レイモン騎士団の副団長。
過去は、荒々しい性格だったが、20歳の時にナッチに模擬戦で負けて以来、丸くなる。
冬でもタンクトップのような薄い皮の鎧を愛用する。
曲がった事が大っ嫌いだが、呪印に逆らえずレイモン公爵の命令を実行する。
ナッチの良き理解者