第003話 生と死
小太りの身長が低い豪華な服を着た男が、右手に熱した鉄の焼印を持っている。
複雑な呪文を唱えながら、ベットで眠っている女の子に近づいていく。
「実の子供に何を!」
女性の叫び声が聞こえてくる。
10歳ほどの女の子の左腕を掴んで、腕に押し付けようとした瞬間に、背後ドアが開き、女性が割って入った。
しかし、男に体当たりしたが、腕から子供の胸の付近に場所が変わっただけで、容赦なく焼印は、女の子を焦がした。
「ぎゃあああァァァ」
女の子がいた痛みで目を覚まして、胸を押さえる。
「ああ、なんて事なの!ナッチ!」
ベットのそばに、あった机の上の果物ナイフを手にとり、男に斬りつけようとした瞬間に、女性が倒れた。
「これだから、信用できない。私が一番だと言っていたではないか?呪印がある状態で私を殺す事など出来るわけがないのだがな。馬鹿な女だ。お前も、こんな感情に流される奴にならぬように励め」
男が部屋から出ていくと、2人の騎士が女性の死体を運び出す。
その様子を胸の痛みを我慢しながら、じっと女の子は見つめていた。
「今、張り出されたばかりの行方不明のレイモン騎士団の依頼と、大分前に張り出されたノームラ討伐の依頼だけを読んでいたように見えたが?偶然か?」
女が、鋭い目でにらんでいる。
「なんのことだか、わからないです。露天商人でして、今日、町についたばかりですよ。冒険者ギルドも初めて見たので、好奇心で覗いてみただけですよ」
「へぇー。露天商人にしては身軽のようだが、手ぶらで何を売るんだい?」
「宿屋に、おいてありますよ」
「なら宿屋を確認させてもらおうかな?」
なぜか、ナッチという女は絡んでくる。
多数の依頼がある中で、この2枚だけをじっくり読んでいたのが、失敗だった。
まだ、詳しく調べていないこの世界での揉め事は避けたい。
なんとか誤魔化そうと考えた。
「私は、リュウジと言います。あなたのお名前を伺ってよろしいでしょうか?」
「私の名前は、ナッチだ。レイモン騎士団の団長だが、朝に任務で3名の部下が街を出たが、支部に置いてあった場所を知らせるアイテムが砕けた。情報を集めるために冒険者ギルドに依頼をして、掲示板に張り出されてすぐに、君が食い入るように見ていたので気になった。何か知っていたら教えて欲しいのだが?」
「状態を知らせるアイテム?」
「魔道具でつがいに石があり、近ずくと石が共振していく物で、相手の位置を教えてくれる物だ。砕ける場合はつがいの石が破壊された時だ」
私がゲームをやっていた時には、聞いた事が無いアイテムだ。
私の知っているファシリティとは、類似していても同じだと考えるのは危険のようだ。
「すみません、本当に何も知らないのです。偶然に2つの依頼を読んでいただけです。何かわかれば、ナッチ様にお伝えいたします」
「そうか...私の感も鈍ったかな?まあ、いいか。時間を取らせて、すまなかった」
ナッチが半笑いで、話を切り上げて冒険者ギルドの奥へ歩いて行った。
冒険者ギルドを急いで出る。
宿屋へ戻ろうと歩いていると
「スリープラリ」
と聞こえたと同時に凄い睡魔が襲ってくる。
ステータス画面を連想して開く。
状態を見ると、睡眠に変化していた。
状態変化無効のアイテムを早めに手に入れないと、と考えながら意識を失った。
.......
..............!
目がさめると木製の椅子に縛られて、座っていた。
石壁の部屋で、拷問器具らしきものが置いてあった。
「やっと目が覚めたかい?リュウジ」
「これは?」
目の前にナッチが、小剣を持って立っていた。
「私は、嘘を見破る眼を持ってるのさ」
そう言って髪で隠れた左半面の顔を見せる。
右半面は美人と言って良い程の顔立ちだが、左半面は真っ赤な眼を中心に爛れてケロイド状になっていた。
「真実の義眼さ。質問の回答に嘘をつかれれば目が痛む。
お前との会話で、かなり痛かったぞ。お礼は、しないとな」
「ここは?」
「ケラスの街のレイモン騎士団支部の拷問部屋だ。お前は何ものだ?義眼の痛みから、お前が偶然にレイモン騎士団とノームラ討伐の依頼を読んだ訳では無いのはわかっている。何も知らない事も嘘だ。何を知っている?」
厄介な義眼である。既に自分が不死なのは確認しているが、状態変化は、盲点だった。
毒系であれば無問題だが、睡眠や混乱などには対応法が必要だと感じた。
完全に巻き込まれた感があるが、どうやってこの場を切り抜けるか考えられない。
「え...と...実は、遠い所から召喚されたみたいで、召喚されたらレイモン騎士団の人に襲われました」
「ん??嘘では無いな??召喚!!??」
「私も困ってまして....どうしましょう?」
現実離れした真実にナッチが驚き、ナッチもどうしてよいのか、わからなくなっている。
「お前!真実の義眼が効かないのか?召喚だと!襲ったレイモン騎士団の奴らはどうなったんだ?」
「蒸発しました....」
「な!嘘じゃ無い....蒸発!?そんな馬鹿な話しがあるか?私の義眼が効かないだと!何か無効になるアイテムでも持っているのか!」
あらあらしく小剣で服を斬られた。
「持ってないです。本当の事だから...」
「そんな話を誰が信じるのだ!レイモン公爵に話したら私が殺される。ノームラの呼び出した悪魔が、お前という事か?」
「人間ですが....」
「本当だ....ますます分からん!」
「ノームラが悪魔を召喚するのを失敗して私を召喚して、レイモン騎士団の方が、その為に犠牲になり、ノームラも召喚で犠牲になった。私は巻き込まれただけです」
「...........そ、そう言う事か?」
「そう言う事です」
真実の義眼は、発言の嘘を見抜くだけのようなので、レイモン騎士団がノームラの召喚の余波のせいで死んだと思わせるように誘導した。
確かに、私が召喚された為に死んだので嘘では無い。
私が魔法で蒸発させたと知ったらまずい事になりそうだ。
「ノームラは、死んだと言う事か?」
「そうなります」
「任務は完了と言う事か....あとは、お前の処理だけだな」
「巻き込まれただけですが、どうにかなりませんか?」
「あまりに哀れなので、ノームラから何も聞いていなければ、助けても良い。何か聞いたか?」
「全く聞いてないです。この事は誰にも話しません」
「......嘘では無いな...だが、この話を上に報告するには、お前の身柄が必要だな」
「どうにかなりませんか?」
「どうにかしてやりたいが、上の命令には逆らえないのでな」
そう言えば、レイモン騎士団の3人も同じ事を言っていたな。
「逆らえない理由でもあるんですか?」
ナッチが、驚いた様な顔で私を見つめる。
「そう言えば遠い所から召喚されたんだったな。この辺では当たり前の事で知らない人は、いないのだが、レイモン騎士団は、全員呪印で縛られている。逆らったら呪印により心臓が破裂して死ぬんだよ」
ナッチが、意外と膨よかな乳房の谷間にある、複雑な紋様の呪印を見せる。
「呪印は消せないのですか?」
「死ねば消えるが、それ以外で消す方法は無いな」
暗い顔でナッチが過去を思い出している様だ。
何故、呪印が刻まれて目に真実の義眼が入ったのか、深い話しがありそうだ。
「呪印がなくなったら助けてくれます?」
「は?一度刻まれた呪印が消えるなんて事は絶対ありえない。なくなったら一生お前の部下になってやっても良いぞ。」
話しているとナッチが、それ程悪い奴には見えなくなってきた。
この世界を知るにも、ナッチを味方に引き込んだ方が良さそうだな。
無詠唱で魔法が唱えられる私にとって、この状態はすぐにでも抜け出せるが、指名手配も困るし、街でナッチと会話しているのも多くの人に見られている。
無駄な殺生も好みでは無い。
穏便にすませるプランを思いつく。
「私なら貴方の呪印を外す事が可能です」
「....真実だと!!もしも可能ならば頼む」
「少し痛いですが、良いですか?」
「嘘だ!凄く痛いのか!?」
ナッチが左目を押さえて叫ぶ。
初級魔法のライトニングをナッチに向かって連想する。
ナッチが稲妻に打たれた様に一瞬光って焦げて倒れる。
名前 ナッチ・クロウデス
性別 女
種族 人間
状態 死亡
レベル26
生命力 0/512
魔力 319/319
攻撃力 151+15
防御力 78+12
スキル
小剣 レベル7
大剣 レベル11
炎魔法 レベル3
雷耐性 レベル3
装備
溶けた大剣(補正15)
焦げた皮の鎧(補正10)
焦げたローブ(補正2)
あっけなくナッチが死んだ。
雷耐性がスキルに増えている。
魔法耐性系はダメージを受けると、つくのかな?
そして、蘇生魔法を唱える。
「リサステイション」
ナッチが息を吹き返す。
「な....何をした!!!」
黒焦げのナッチが激怒して、私を睨む。
人物紹介
ナッチ・クロウデス
身長172cm 19歳 女性
赤い髪で肩より少し下まで髪を伸ばしている。
前髪は、左半分の顔を隠すようにセットされている。
左目に真実の義眼が埋め込まれ左目が赤く、右目は青い
筋肉質で女性だが結構マッチョである。
リュウジに会うまでは、左半面の顔が呪いで爛れていたが、呪いが解けてからは、無くなっている。
レイモン騎士団の団長を務めており、大剣使いの剣士。
初級の炎系魔法が使える。
真実の義眼保有者のため、嘘を聞くと左目が痛む。
レイモン騎士団の中では、最強。
彼女には、出生に大きな秘密がある。
性格は、正義感である。
天然で少し抜けているところがある。
閉鎖的なレイモン公爵領で育った為に、一般常識には疎い。