第002話 この世界は、どんな世界?
女騎士が、割れた石を見つめている。
騎士といっても皮の鎧のラフな格好をしているので、腰に装備している紋章が入った大剣が無ければ、冒険者に見えるだろう。
見つめている割れた石は、つがいの石であり、対応する石と石が接近すると振動が高くなっていく、つがいの石を持っている相手の場所を探索する魔道具である。
「ナッチ団長!この石が割れるって初めて見ましたが?」
石を急いで持ってきた騎士が、女騎士に聞く。
「過去に、割れたことがあったが、つがいの石が割られた時だった。だが、例え送り出した騎士が倒されても、持っている石まで破壊するとは、あまり考えられない。何か、特殊な事が起きたかもしれない。レイモン公爵の対応している騎士以外全員を、連絡がない3人の探索に回せ、人手が足りないので、冒険者ギルドに情報を求めてくる」
「わかりました!」
急いで報告した騎士が指示に向かう。
「また、厄介ごとか?ノームラには、頑張って欲しかったのだがな」
誰もいない部屋で女騎士が、ぼやく。
真っ裸の為、寒い。
ゲーム内では、アイテムボックスが存在していて、レベルに応じた量が持てた筈である。
アイテムボックスを頭の中で連想して見たが、なにも変化がなかった。
口に出せば可能だろうか?
「アイテムボックス....だっけかな?」
なにも変化がなかった。
ゲーム中でステータス画面は、音声入力で開いていたが、アイテムボックスを開く際は、いつもステータス画面から選択して開いていたため、音声入力の言葉を忘れてしまった。
「ステータス」
目の前に半透明のステータス画面が表示される。
指で触れるのか?
表示の右下のアイテムボックスのアイコンを指で叩いてみるが、指が突き抜ける。
目に投影されているだけで、そこの空間になにかある訳ではなく自分しか見えないようだ。
アイコンが、あるということは、必ず開けると考える。
装備の際にも、アイテム画面が開く事を思いだす。
地面に落ちている石を拾ってみると、装備画面が表示されて手に石が装備された。
装備欄の横にアイテム欄が表示される。
手に持ってる装備を外す連想をすると手から石が消えてアイテム欄に石が増えた。
「おお!」
石を装備すると連想すると手に石が現れた。
だいぶゲームと違うが、ある程度考えるだけで操作可能な様だ。
ステータス画面も口にしなくても、考えるだけで表示と非表示が可能であった。
まさか、魔法もなのか?
頭の中で初級魔法のファイヤーボールを連想する。
目の前に、巨大な火の玉が現れて飛んでいく。
「おお!」
無詠唱でも、連想だけで発動出来る様だ。
だが、威力の調整が出来ない。
魔力最大使用で発動する様だ。
ステータスがマイナスの魔力の為に、魔法発動時に、魔力をどれぐらい使うなどの調節ができる気がしない。
攻撃魔法は、最大魔力の威力で発動すると考えて、行動するしかないな。
装備画面を表示させてアイテムボックスを見ると、ゲームを始めた際に装備している、初心者の服と杖が入っていたので、装備する。
下着もなくノーパンで服を装備したので、何か違和感があるが、ステータスが上昇?
真っ裸からは、無事回避できた。
アイテム欄にゴールド、シルバー、ブロンズの表示があり、ゴールドに100ゴールド入っていた。
1枚取り出すイメージをすると、手のひらに1枚の金貨が現れる。
アイテム欄のゴールドは99に変化する。
戻すイメージをすると100に戻って手元の金貨が消えた。
「なるほど」
ゴールドが金貨でシルバー銀貨だとして、ブロンズは銅貨だろう。
ゲームでは、ゴールドしかなかった筈なので、多少仕様が異なる様だ。
服と金がある事を確認したが、完全にファシリティのゲーム開始時の初期状態と同じ事に驚くが、やはり夢の可能性も捨てられない。
交通事故で奇跡的に一命をとりとめて、リアルの病院で延命処置中に、都合が良い夢でも見ているのかもしれないなぁ。
何しろ、斬られた際に感じたのは、痛みではなく肩をマッサージされた様な心地よさであった。
ダメージを受ける程に、基本ステータスがマイナスの為か体調が良くなるって究極のマゾの様な身体になってしまったな。
ステータスが自然に回復していくが、上限がマイナスなのでマイナスで止まるだろうな。
試しに最上級魔法のエキストラヒールを連想する。
「ぐあああああぁぁ」
激しい痛みが全身を包み込む。
ダメージで気持ち良くなり、体調が良くなる気がするという事は、回復では逆の様だ。
ステータスを見ると、上限のマイナス値までダメージが回復していた。
魔力は、時間で回復していくだろう。
回復しても最大魔力がマイナスだがな......
名前 リュウジ・トリデ
性別 男
種族 人間
状態 正常
レベル13
生命力 ー673/ー673
魔力 ー15213/ー92
攻撃力 ー231+5
防御力ー156+10
スキル
なし
装備
杖(補正+5)
初心者の服(補正+10)
夢だとしても、ゲームは好きだ。
楽しんでみようと考える。
ファシリティの目的は、人それぞれでダンジョン攻略やスローライフに、戦争など自由度が高いゲームである。
まずは、拠点を作ろう。
1番近い街へ転移する魔法を唱える。
「リターンファースト」
目の前に見覚えがある、ケラスの街の門が現れる。
マップも街もゲームと同じなのか?
ゲームではいなかった門番が、門の前で出入りする人を監視していた。
身分証明など無いので、透明になる魔法で切り抜ける事にした。
透明化の魔法を詠唱する。
「ディスアピア」
身体が消えていく。
一時的に透明人間になって門をくぐる。
やりたい放題だなぁ。
1番簡易に身分証明を作成してくれる、露天ギルドへ足を運ぶ。
街の中も、見覚えがあるファシリティのゲームとほぼ一緒で、迷わずギルドへ到着する。
金貨1枚で10日間の名前入りの露天許可書を、発行してもらった。
次に宿屋だが、ゲームには、宿屋は存在していなかった。
その為、場所がわからない。
回復は、自然回復かアイテムを使うので必要ないからだ。
街を彷徨って、宿屋らしき看板の建物に入ってみる。
「すみません、長期滞在したいんですが」
「1日銀貨1枚だよ」
無愛想にカウンターの中年の男が言う。
「10日でお願いします」
「金貨1枚だね。長期でも割引は、ないよ」
金貨を渡すと部屋の鍵を渡された。
銀貨10枚で金貨1枚の相場のようだな。
銅貨10枚で銀貨1枚だと予測する。
「2階の1番奥の部屋だ」
そう言うと次のお客の対応に行ってしまった。
右手に持った部屋の鍵に対して、装備を外すイメージをすると鍵が消えてアイテムボックスに入った。
アイテムの出し入れをマスターした。
まだ、外が明るいので街を探索する。
ぶらついていると、冒険者ギルドと書かれた看板を見つける。
ゲームだとユーザー全てが冒険者なので、そんなギルドは存在していなかった。
ファシリティのゲームに、システムは似ているが、全く同じわけではないんだな。
良く街の看板を見れば、ゲームで存在していない生活に関与する店が増えていた。
食事する店もあれば、風俗っぽい店もあった。
クリーニング屋すら存在していた。
興味が湧いたので冒険者ギルドに入ってみる。
中に入ると、テーブルが乱雑に並んで、それに腰をかけて色々な人が酒を飲んで雑談していた。
どう見ても酒場にしか見えない。
カウンターでグラスを拭いている親父に、話しかけてみる。
「冒険者ギルドって、ここですか?」
「ん?ここは冒険者ギルドであってるぞ?初めて来たのかい?依頼は、そこの掲示板に貼ってあるやつだ」
指示された場所の掲示板を見ると、依頼内容と報酬が書かれた紙が10枚ほど貼ってあった。
依頼内容に、気になる物があった。
行方不明のレイモン騎士団3名の情報求む
報酬 銀貨1枚
犯罪者ノームラの討伐
報酬 金貨10枚
ノームラの討伐依頼の詳細を見ると、レイモン公爵家のお金を横領して血族全てが死刑になったが、脱獄したと書かれている。
なんか、冤罪っぽい雰囲気がするなぁ
定番の先輩冒険者が絡んでくるイベントなどは......発生した。
「ノームラ討伐の依頼に興味があるのか?見慣れない顔だな?なんか情報を持ってるんじゃないか?」
身長が私と同じぐらいの筋肉質なロングな赤い髪で、顔が半分隠れている冒険者風の女が話しかけてきた。
髪で隠れているが、どうやら顔の半分は潰れて爛れた様な酷い状態になっている感じだ。
ステータスを見る連想をしたら女のステータスが表示された。
無意識に鑑定魔法を無詠唱した様だ。
名前 ナッチ・クロウデス
性別 女
種族 人間
状態 正常
レベル26
生命力 512/512
魔力 319/319
攻撃力 151+93
防御力 78+26
スキル
小剣 レベル7
大剣 レベル11
炎魔法 レベル3
装備
古い大剣(補正93)
なめした皮の鎧(補正19)
薄汚れたローブ(補正7)
来たばかりなので彼女が強いか弱いかはわからない。
ゲーム中では、レアアイテム集めように作った私のキャラクターは、レベル320であったが、この世界の標準はどうなのだろうか?
用語説明
レイモン騎士団
レイモン・クロウデス公爵の親衛隊騎士団
100人規模の騎士団で、団長のナッチと副団長のへリュークが取りまとめている。
レイモン公爵が内向的な為、レイモン公爵領から全く出ない騎士団で有名。
レイモン公爵領の治安維持が主な仕事である。