第018話 ネムル法国
「メテ様、ワインの用意ができました」
豪華な部屋に、不釣り合いな90歳ほどの黒いローブを着込んだ老婆が、用意されたワインに口をつける。
横には、20歳前後の超美形な執事が、完璧な着こなしの服に、姿勢も正しく、ワイングラスとワインを持って立っている。
「有難う。ジュセ、いつも感謝している」
老婆がゆっくり喋る。
「いい加減に、人間の血を吸ってください。このままでは、あと数百年も持たないですよ」
「レア・ヘルシングとの、約束だ。あやつ全ての血を出して契約した強固な契約だ。自ら血液を出してくる人間以外からは、もう吸わぬよ」
「あの下賤なリッチですな。目障りこのうえない。人間との共存など夢でしかない」
「まぁ、そう言うな。グールの街を作ったのは彼だ。そのおかげで血液が手に入っているのだから」
眼が覚めると、ナッチが、私の寝顔を見つめていた。
「え??部屋に鍵掛けたけど?」
ネトが、ドアのノブを持っていた。
「リュウジ遅い。ドアを引っ張ったら取れた」
取れたじゃなくて、壊しただな。
旅の準備をして、出発。
「みんな、手を繋いでください」
ナッチが、私を抱擁する。
ネトが、腰を両手で締め付ける。
苦しい!ダメージが...
ゲームでは、国の概念がなかったので、どの街が、どの国かわからない。
「ナッチ、ネムル法国の首都は何処ですか?」
「首都は、知らないけど、一番大きい神殿は、マキア神殿ですね。確かその神殿がある街がパピロの街だと思う」
マキア神殿は、知っているがパピロの街は知らない。
ゲームでは、マキア神殿は、スキルの変更が出来る神殿だったな。
火魔法と風魔法のスキルを合成して炎魔法のスキルにしたり、スキルのレベルが10以上に場合は、上位のスキルレベル1に変更出来たりする神殿であった。
この世界では、神殿の横にゲームに無かった街があるのは、びっくりだな。
神殿で、生活するなら街が必要だから当たり前なのか?
記憶にある神殿へ転移した。
目の前に、巨大な石造の建物が現れる。
ゲームよりデカイな?
背後に大きな街が見える。
ちょうど街から神殿へ行く為の舗装された道の上に出た。
街から、神殿へお祈りに行くのか、多くの人が向かっていた。
紛れて、神殿へ向かってみる。
神殿の広場に、向かっているようだ。
「凄い立派な神殿ね。ネムル法国は、永久中立を宣言していて、戦争がなく、貨幣も製造しているのよ」
博識なところをアピールしたいようで、上機嫌に話してくる。
「リュウジ、腹減った」
ネトにアイテムボックスから、串系の食べ物を渡しながら、人の流れに乗って広場に向かう。
野球場の4倍ぐらいある広場に着くと、30人ぐらいが、十字の木に、張り付けにされていた。
張り付けになっている人には、女、子供も混じっている。
なんかの儀式か?
貴賓席だと思われる場所に、身長2mある筋肉隆々の露出が多い白い服装の男と、全身白い複雑な模様が描かれた布で覆われている神官が5人ほどいるのが見えた。
あの服は、筋肉アピールだろうか?
男が叫んだ。
「私は、聖女様の代理である、シハヤ宰相である!異教徒達を発見したので、聖女様の名においてこれを処分する!」
見せしめなのか?まったく状況がわからんが、もう少し様子見するかな。
槍を持った神官が、ワラワラ現れて、張り付けにされている人を刺して行く。
「ふざけるな!俺は通りかかった冒険者だぞ!ギルドに連絡してくれ!」
「娘だけは助けて!」
「俺は異教徒ではない。助けてくれ」
「お母さん助けて」
「神殿にお祈りに来ただけですぞ。何故異教徒なのだ」
物凄い冤罪臭がする。
「リュウジ、助けないの?」
ナッチが結構、冷めた感じで聞いてくる。
「後で、死体置き場でも行きますか?」
「それでこそリュウジね」
私がいる場合、ナッチの死に対する考えは、状態変化ぐらいにしか感じてないのでは?
まぁ、今まで一緒に行動していれば、そうなるのは当然か?
30人の公開処刑中に、その家族と思われる人が数人、神官の妨害をして、さらに死者を増やしていた。
結局、42人の死体が、広場に出来上がった。
シハヤ宰相が、筋肉をピクピクしながら、不満そうな顔をしている。
「無事に異教徒を打倒した。聖女様も満足してくださるだろう」
「.....嘘ね」
ナッチが左目を押さえている。
問題なく、終わった事に不満があるようだ。
囮の公開処刑だったのかな?
ネトが、串をねだるので、串をアイテムボックスから取り出して、渡すと食べ始める。
公開処刑中に、串を食ってる奴がいたら、どうなるか?
想像できなかった....普通は、超目立つよ。
シハヤ宰相が処刑中に、なんか食ってる目立つネトを見つけてしまった。
「そこで、食べ物を食べている少女!お前は、異教徒だな!神官、連れてこい」
槍を持った神官が、ワラワラやってきた。
「リュウジ、こいつら喰っていいの?」
「駄目です。不味いですよ。大人しくついて行きましょう」
「わかった。リュウジに従う」
「ナッチ、ネトとちょっと行ってくるので、情報収集でもしておいて」
「わかったわよ。リュウジも虐殺とかやめてね。きっと、元凶は、あのシハヤ宰相って奴だけよ」
ナッチを、置いてネトと一緒にシハヤ宰相の所まで、神官に囲まれて連れて行かれる。
「なんだ?その馬鹿みたいな顔の男は?少女だけ呼んだ筈だが?」
神官の一人をシハヤ宰相が殴った。
「この子の保護者です」
とりあえず、関係性を教えた。
「保護者?全然似てないぞ?まぁいい。お前たちには、異教徒であるか聖女様の判定が必要だ。逆らえば異教徒確定で死刑だ。ついてこい」
広場に集まった人々が、少しづつ減って行き、神官によって死体が片付けられて行く。
ナッチも、紛れて街へ向かうのを確認した後に、シハヤ宰相の後に、付いて行く。
神殿の奥に案内されると、段々神々しくなっていき祭壇らしき場所にたどり着く。
奥の部屋から、14歳ほどの金髪で右目が赤い瞳で左目が青い瞳の少女が、神官に四肢を持たれて出てきた。
病的に白い肌で、弱々しく見えるが、そこが神秘的な気配を醸し出していた。
祭壇の椅子に座らせられて、こちらを見る。
「.....シハヤ宰相....目の前にいるのは人間ではない」
「なんだと!貴様ら何者だ?」
呼んでおいて、何者だと来たか!
「通りすがりの旅人です。ミワ王国への通行許可書を手に入れるために、パピロの街に来ましたが、神殿へ人が集まっているので興味があって覗いたら、シハヤ宰相に連れてこられました。この小さい子供は、黒竜です。」
シハヤ宰相が、聖女を見ると、聖女が答える。
「本当の事だ....」
聖女の赤い目に見覚えがあった。真実の義眼か?
ならば、冤罪者は出ないはずだが、なぜあんなに殺されていたのだ?
だが、私の会話を信じてくれるなら、話が早そうだ。
「黒竜だと....まさか、お前がそうなのか?」
シハヤ宰相が、満面の笑みを浮かべる。
「あまりにも、疑問がありすぎて質問に困るのですが、ミワ王国への通行許可書がほしいのですが、発行お願いできますか?」
「だめだな、しかし、私の願いを聞いてくれたら聞いてやってもよい」
「願いとは?」
「聖女を助けてくれ」
「意味が理解できないですが?」
「お前では、ないのか?」
ああ!押し問答みたいだ!何をしてほしいかはっきりしてくれ!
「すまん、街に人を待たせているので、手短に頼む」
シハヤ宰相が、唖然とした顔をした後に、笑い出した。
「絶対に、お前だ!お前がそうだ!槍に囲まれ、たった2人の状況でも、その余裕。今まで連れてきたものは、命乞いや自分の正当性を言うだけの奴だった。だから、お前のような奴を呼ぶための生贄になってもらった」
「話が長い!!早く願いを言ってみろ!!わかりやすくお願いします!!」
もう、ストーレートが一番!
「聖女様は、天使様に体の大部分を取られてしまっている。元に戻すことができないか?」
よく見ると、顔も作り物っぽい...手足も義手義足?目は義眼だしな...凄いな
名前 ネビウ・メロウ
性別 女
種族 人間
状態 正常
レベル10
生命力 254/254
魔力 659/659
攻撃力 0+200
防御力 12+210
スキル
光魔法 レベル8
装備
義手右腕(補正0)
義手左腕(補正0)
義足右足(補正0)
義足左足(補正0)
真実の義眼(ALL補正100)
予測の義眼(ALL補正100)
義顔(補正0)
義耳(補正0)
聖女の服(補正10)
装備が!!顔まで作り物で、そこに義眼を入れれば呪われないのね。
奥が深い....予測の義眼ってなんだ?
「もとの体に戻せますよ。今すぐ!一瞬で!」
「本当の事です...信じられません.....」
聖女が、表情は変えないがビクンって動いた。
「義眼以外の装備を外せますか?」
「なぜ義眼は、残すのだ?義顔でなくなったら呪われてしまうのでは?」
シハヤ宰相、詳しいな!
「大丈夫ですよ、呪いすら解除できるので、その場合は肉眼よりも義眼の方が優秀です」
「ほ...本当の事ですね...ありえません...私は、騙されていたのでしょうか?」
「なんだと!神官ども早く聖女様から義眼以外を外せ!」
シハヤ宰相が、待ちきれずに自分から聖女を抱きかかえて、義眼だけが付いた彼女を突き出した。
顔が原型をとどめておらず、そこに義眼が2個めり込んでる感じで、四肢がない。
これは、ひどいな...
「ライトニング」&「リサステイション」!!
聖女が、一瞬で焦げた!
そのあとに、光に包まれて手足が生えてきて顔が修復される。
名前 ネビウ・メロウ
性別 女
種族 人間
状態 正常
レベル15
生命力 329/329
魔力 771/771
攻撃力 78+200
防御力 58+205
スキル
光魔法 レベル8
雷耐性 レベル3
即死耐性 レベル1
装備
真実の義眼(ALL補正100)
予測の義眼(ALL補正100)
焦げた聖女の服(+5)
やはり、状態が死亡から復活するとレベルが上がるようだ。
今回は、裸じゃない!焦げた聖女の服を着ていた。
用語説明
バグ
コンピュータのプラグラムで、製作者が意図しない出来事が発生するもの
無限ループや、計算間違い、制御の数値ミスも含まれる
修正する事をデバッグと言う
チート
コンピュータゲームにおいて本来とは異なる動作をさせる行為である
チートを直訳すれば「ズル」あるいは「騙す」
チーター
チート行為をしている人物
レジット
チーターを観察する観察者