第014話 エルフの里
天使として生を受けてから、退屈であった。
慈愛を感じると何故か高揚するのを感じた。
他の事には、何も熱くなれず正義の執行だけが生きる目的になっていた。
他の天使達も、それぞれの自分と違う正義を執行していた。
人間に、大変な慈愛を持つ者を見つけた。
人間を試したくなった。
冒険者ギルドに到着すると、マギアに奥の部屋に通される。
ナッチとネトと私の3人で入ると、マギアがドアを締めて、鍵をかける。
「サイレンスルーム」
闇魔法である防音の魔法を唱える。
「凄い慎重ですね」
「リュウジ様に対しては、慎重にならざる得ない」
奥の化粧箱から、100ゴールド入っている袋を10個取り出して、机の上に置いた。
「黒竜を追い払う報酬は、金貨100枚では?」
「今回は、私が証人と言うことで、追い払うではなく、黒竜を退治した事にした。討伐成功という事だ。代わりに、私からのお願いがある」
「前に言っていた件ですね。呪い系ですか?」
「話が早いな、私の故郷のエルフの里に、石化したエルフが2名いる。リュウジ様の力で元に戻せないか?」
「何があったか聞いてよいですか?」
30年前に、駆け出し冒険者だったマギアと兄であるエウラ・リュークドと幼馴染のエキット・ワワムで、迷宮探索中に、ゴーゴンに遭遇して、襲われた。逃げ出す事が出来たが、戻ってから、ゴーゴンの顔を見た2人が徐々に石化してしまったと言う内容だった。
ゲームだとゴーゴンは、3姉妹のモンスターで、ステンノー、エウリュアレー、メドゥーサの3種類いたが、どれに遭遇したのだろう?
「石化の回復アイテムは、ないのですか?」
「賢者の石などは、国宝になっていて手が出せない、そのアイテムや手段を知る為に、冒険者を続けていて、情報が一番入ると思われるギルドマスターにまでなった。そして、初めて世界の理りから外れた人物に出会った。リュウジ様の奴隷になってもよいから、どうか助けて欲しい」
奴隷と聞いてナッチが、赤くなって過剰反応している
「ま!まさか夜の営みを狙っている?」
何故?!
「状態回復魔法を行える魔法使いも、いない感じですか?」
「石化を解除する状態回復魔法は、ネムル法国の聖女クラスでないと無理です。聖女に会う事は、一般の人では不可能に近い」
ゲームだと、状態が石化になると、一瞬で石化する為に、動けず、石化させた対象に襲われて、まず助からずに死んでしまうので、回復などを考えたことはなかった。
こちらの世界では、徐々に石化するのか?
ゲームでは、初めは、状態回復魔法を覚えていたが、アイテムの分配などが面倒だった為に、後半は、ソロ(ひとり)でのアイテム稼ぎが、多くて、あまり実用性がなかった状態回復魔法為は、忘れてしまった。
思い出せれば、良いのだが....
面倒だがナッチと同じように、石化状態を壊して死亡にしてしまって、蘇生魔法と言う手段で回復できそうだ。
「その依頼を受けましょう。エルフの里の名前を教えていただけませんか?」
「エデンです」
ゲームでは、エデンの街に、レアアイテムが売っている道具屋があるので、買い出しに行った記憶がある。
今すぐに、転移できそうだ。
「条件があります。奴隷にならなくてもよいので、私の事をなるべく目立たないように裏で、情報操作していただく事と、日本に関しての情報を持っていると思われる、クロディアを紹介してください。これから起きる事は、全て秘密です」
「わかった。情報に関しては言われなくても、そうしている。リュウジ様の存在は、国家レベルの問題だと思っている。クロディアの事ならまず大丈夫です。幼馴染のエキット・ワワムは、クロディア・ワワムの孫にあたる人物です」
「本当の事ね」
ナッチが、真偽の判定をしてくれる。
「リュウジ、腹減った」
ネトが、新しく買ったフリフリが入った服をいじりながら、話に飽きて涎を垂らしている。
金貨を回収して、100枚の一袋をナッチに渡した。
「夜までに戻ります。そのお金でネトに腹一杯ご飯食べさせて、宿屋で待っててください」
「ええぇ、置いていくの?」
ナッチが、切なそうな顔をするが、演技っぽい。
ナッチは、嘘が下手だと感じる。
「ナッチ.......涎が出てますよ」
「あ!!」
左目を押さえて睨む。
嘘が下手だが、騙されはしないのね。
「わかったわよ!100枚使い切ってやる!夜までに戻りないよ!」
「ご飯たべれるの!!嬉しい」
ナッチがネトの手を繋いで鍵を開けて、部屋を出て行った。
「じゃぁ行きますか?」
「え!今ですか??」
「すぐですよ」
「エデンには、凄い結界が何重にもかかっていて、連絡してから、案内してもらわないと無理ですよ」
「大丈夫」
マギアの手握って、エデンへ転移する。
部屋の視界から、夕日で赤く染まった森の中に視界が変わる。
森の木々の上にいくつかの家が建っていた。
エデンの街の建物は、シンボルとなる巨大な神木の周りの木々に、家や店が作られていて、それらが渡り廊下や吊り橋で繋がっている街だ。
ゲームとほぼ同じ風景であった。
突然現れたマギアと私に、数人の住人が気がついて弓を構えていた。
「何ものだ!」
「マギアです。クロディアに会いに来ました」
「結界は、どうした?いや、案内人もなくどうやって入った!!」
騒ぎを聞いた人が、集まりだした。
木の上で、弓を構える人が増えていく。
「それは.....」
マギアが、私を見て困っている。
正直に話しても、誰も信じないだろうな。
強引に来すぎたか?
弓を構えている中で、一番偉そうな服装をしているエルフが私の足元に弓を放った。
目の前で地面に刺さる。
「マギアが答えられない所を見ると、そこの奴に脅されているのか?そんな武装などしても、瞬時に殺せるぞ」
よく考えたら、赤い派手なフルプレートの姿で、腰に高価そうな大剣を装備している姿だった。
「誤解させてすまない。今、武装を解除する」
一瞬で、初心者の服と手には何も持っていない状態になる。
だが、逆に警戒されていく。
「装備をどこにやった!幻覚魔法か!?」
それを聞いた、小心者エルフが私に向かって弓を放った。
サイクロプス戦でレベルが上がっていたので、素手で弓を横から掴む。
危ない...顔面に刺さるところだった。
だが、さらに警戒させてしまう事になった。
「あの、弓を素手で取るなど、あり得ない!マギアも支配されているのか?」
「リュウジ様、ここは、私が話します」
「様だと!エルフが人間ごときに!おかしい!奴を捕まえろ」
弓が大量に飛んできた。
捕まえろじゃなくて、殺せじゃないか!
おいおい....マギアにも当たるだろう!
エルフ達のレベルを見ると、50を超えている奴が10人以上いるぞ!流石にレベル50以下の私とマギアだけで、全て防ぐのは無理だ。
かといって、こちらから襲ったら、未だに魔法攻撃の制御が出来ないので、オーバーキルで絶対に誰か死ぬ...
仕方がない...
マギアに覆い被さり、背中で数百本の弓を受ける。
5分ほど正確に、私に弓が刺さり、ハリネズミの様になっていた。
マギアを見ると泣いていた。
「リュウジ様、申し訳ございません。まさか、こんな事になるとは....」
「構わないよ。そもそも、私が強引に転移したのが、いけないのだからね」
「弓を射るのを止めろ!」
偉そうなエルフが指示して、何人かのエルフが、私に駆け寄ってきた。
私は、何事もなかった様に立ち上がり、背中や腕、足に刺さった弓を抜いていく。
駆け寄ったエルフが、愕然とする。
偉そうなエルフも、口を大きく開けて驚いている。
麻痺と毒の弓矢があったようで、状態が麻痺・毒になっていた。
無理に動くと生命力がゴボッと減るが、麻痺に関しては問題ないな。
持続的に生命力も減っているが、全身マッサージされている気分だ。毒に関しても問題がない。
状態変化で注意すべきは、睡眠と石化だな。
特に石化は、想像したら怖いな。
私を見つめるエルフが、時が止まったように、動きを止める。
まぁ、弓が大量に刺さっても、平然と抜いてるゾンビみたいな人を見たら思考停止になるかもな。
抜きながら、服がボロボロになっている事に気がつく。
そういえば、初めて、この世界で魔法を使った時も、自爆して服がボロボロになった。
だが、ナッチに殴られたり、サイクロプスに襲われた時は、防御力がマイナスの為に装備品が逆に修復されていった。
違いは?
間接攻撃と直接攻撃か!
詳細ステータスの防御力の欄と攻撃力の欄を見ると回答が書いてあった。
攻撃力 ー1023
(直接攻撃力ー1023)
(間接攻撃力103)
防御力ー514
(直接防御力ー514)
(間接防御力79)
間接攻撃の攻撃力と防御力は、別計算でダメージが計算されるようだ。
今後は、弓などを鍛えれば、魔法的な間接攻撃以外でも相手にダメージ与えられるって事だな。
おっと!それどころではない。
「気が済んだか?」
「貴様は、何者だ!魔力も生命力も感じぬ。人間なのか?」
「自信はないが、一応、人間だ」
偉そうなエルフが、冷や汗をかいていた。
人物紹介
ムア・ワワム
162歳 エルフ 男性
エルフの里の長
青髪で青い瞳で髪を短くオカッパにしている
顔は、美男子だが傲慢で偉そう
常に派手な偉そうな服を着ている
クロディア・ワワムの孫にあたる
エキット・ワワムの兄であり、エキットに対して超過保護
マギアの兄のエウラ・リュークドによく虐められていた
エキットが石化してから冒険に連れて行ったマギアを恨む