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NPCは住人です

 澄んだ空。

 サンサンと照らす暑い太陽。

 火照った体を冷ます心地よい風。

 どこか古代ローマな感じのする鮮やかな街並み。

 思わずお腹が空きそうになる、肉や魚を焼く香ばしい薫り。

 至るところから聞こえてくる人々の喧騒。

 そして、目の前に広がる傾いた教会。

 うおおおおおお! 本当に現実と変わらないじゃん! 最後のは凄くアレだけど、ここまでの物だとは正直思ってなかった!

 いいな! 何か食べようかな? あ! あそこの串焼なんて旨そうだ!

 はい。わかって下ります。最後にくそナビが押し付けた称号の事ですね? 実を言いますとインフォが流れていました。称号、【波瀾万丈】を手に入れましたと。聴くだけで嫌な予感しかしません。なので少々現実逃避をしてました。ですが腹を括って見てみましょう。


【波瀾万丈】効果・事件に巻き込まれ易くなる。『備考』誰にもゲームの説明を聞いて貰えなくて意気消沈していた天の声を救った貴方への彼女からのプレゼント。


 うん。やっぱり面倒そうな称号だよ。事件ってなんだよ? 巻き込まれ易くってどんくらいだよ? 要注意ですな。

 辺りをきょろきょろ見渡す。ナンパされてたり、買い食いしたり、数人で集まってどこかに向かう物達で溢れているだけで大丈夫そうだな。あ! イタッい! なんかぶつかった。

 横を向いて確かめてみると、泣いてる4歳くらいの金髪幼女がいた。て! 幼女!? しかも泣いてる!? え!? もう波瀾万丈の効果でたの!?

 どうしよう? これほっとく訳にはいかないしな。


「どうしたの? お母さんとはぐれちゃったかな?」


 屈んで幼女に尋ねると幼女が首を横に振った。


「買い物しに来て困ってるのかな?」


 また首を横に振られた。これも違うか。


「遊んでいる内にお家がわからなくなっちゃったかな?」

「うんうん。ちがうの。おねぇちゃんとはぐれたの」


 おお! 流れる涙を必死に手で拭いながら、舌足らずの言葉で答えてくれた。なら、もう決まりだな!


「そっか~。ならお兄ちゃんと一緒にお姉ちゃん探そっか?」

「うん!」


 頭を撫でながら尋ねたら元気よく頷いてくれた。これで取り敢えずはひと安心です。


「お姉ちゃんどんな人?」

「いつもね。けんをふりまわしてるの!」

「うん? けん? って、何かな?」

「あたったら、しゅっぱ! てきれるの!」


 うん。なんか探す気が無くなりました。私の妹をどこに連れて行く気だ!! とか言われて斬り掛かってくる光景しか浮かばないんだけど。と、でも、元気よくばんざいしながら一緒懸命説明してくれているこの姿をみたらほっとけないし、探しますよ? やだな~。




 30分経ちました。問題が発生しました。

 あれから幼女に名前を聞いてリリィーナと言う名前を聞き出し、リィーちゃんを肩車して探しに出掛けました。

 武器屋も八百屋も薬やも大通りにあるお店を探したけど見つかりませんでした。あ、探すついでに、《鑑定》スキル使う事を思い付いたので使っていたら、鑑定のレベルがちゃっかり4に上がりましたよ。因みに表記は、《鑑定Lev4》でした。

 話を戻します。で、そしたらリィーちゃんのお腹が可愛く小動物のような鳴き声で鳴りだし、おなかすいた。と言われたので3軒連なっている屋台の前で立ち止まり、リィーちゃんを地面に降ろして何か買って上げようとしたところ、お金がありませんでした。

 なら、なんかアイテムは無いかっとウインドウを見てみたら、なんと━━! 何もありませんでした。

 そう! 所持品無しの無一文でほっぽり出されているのです!

 おのれ! 運営! いくらリアルを追求したからって、これはないだろう! 狩れなきゃ終わりじゃん! チュートリアルも無く、いきなり戦闘しろなんて死に戻りが多数出るぞ! 街の近くに出るのがいくら雑魚モンスターとしても。

 それよりも、現在進行形でピンチです。く、リィーちゃんのうるうるした視線がああああああ!


「そこのお前!! 私の妹に何をしている!!」


 見るからに高そうな白銀に輝く鎧を身に纏い。燃えるような赤髪ロングの髪の毛を棚引かせた美少女が、これまた高そうな鋭利な光を放つ剣を抜いて駆けてくる。あ、掛けっぱだった鑑定が発動した。うん。剣も鎧も本人も、鑑定不能だってさ。さて、どうしよう?


「あ、おねぇちゃんうるさいの。いまからあのふわふわのやつたべるの。だからじゃましないでなの」


 な?! なんて破壊力のある一撃!! 赤髪の美少女は俺達の目の前で止まると、高そうな剣を落として固まっている。

 は!? 今チャンスじゃね? 落ちた剣を拾って手渡し、誤解を解かなくては! 

 うえ! 拾おうとしたら静電気のような電流が走り、思わず手を引っ込めてしまった。しかも硬直が解けるおまけ付きで。


「貴様! 私の愛剣を盗むつもりだな!!」


 なんか更なる誤解を生んでる!


「おねぇちゃんうるさいっていったの! わたしをおいてさっさといちゃうひとはだまっててほしいの!」

「はい。ごめんなさい!」


 よわ! お姉ちゃん形無しだな!


「またっくなの! わたしをふあんにさせたくせに、わたしをたすけたおにぃちゃんにもんくをいうなんて、どうかしてるの。そうなの! ばつとして、おねぇちゃんがあのふわふわのかってくるの。いいかんがえなの」

「はい! ただいま!」


 ダッシュで屋台へと迫る赤髪美少女さん。うん。妹の尻にしかれてますな。最初に斬りかかってきた威厳はどこえやら。




「いや、すまなかった。私はてっきり誘拐犯だと思っていた。改めて自己紹介をしよう。クルノア・シナ・レティノーズだ。この王都の統括騎士をしている。よろしく頼む」


 近くの広場に移動し、赤髪の美少女ことクルノアさんが買ってきたふわふわの綿菓子を食べながら、今までの経緯を話したら丁重な謝罪と自己紹介を受けました。

 それにしても最初に食べたのが綿菓子か。ま、いいけどね。

 横を向くと、リィーちゃんが頬に手を添え幸せそうにもくもく食べている。なんかほっこりします。はい。


「俺はトータでこちらの世界では異邦人になるのかな? こちらこそよろしく」

「ふむ。異邦人か。なんか今日から結構な数増えているみたいだな」


 そうですよ。今日からゲーム配信されたので、なんて言えないので心の中で伝えておこう。後気になること言ってたな。王都ってなに?


「王都ってなんだ。確かにこの街は広いが城なんて見えないぞ?」

「ああ。それはな、北門を出た先に、木々が生い茂っていて一見森に見える場所があるんだが━━、そこな、実はな、森に見えてるだけで、奥に、一階建ての住まいが広がっているんだよ。でそこに王族が住んでいるんだ」


 なるほど。そんな場所があるのか。何かあった時のために覚えておくか。


「ふ~ん。何で外なんだ?」

「それは王室の先に危険なモンスターが多いいからだな。いつでも駆け付けられるように備えているんだ」


 うん? そうすると街の平和はどうするんだろう?


「街は新米冒険者や警備兵にまかせている。どうしても対応出来ない事態になったら私達が駆け付けるけどな。ま、滅多に呼び出しはないな。だからより危険な方に軍を割いている」


 だ、そうです。そうか、ここでは北の奥地のモンスターがヤバイのか~。


「他に聞きたい事はあるか?」


 と、言われてもな~。あ、剣の事聞いておこう。


「そうだ。なんで剣を拾えなかったのか聞いていいか?」

「うん? 武器は所有者設定がしてあるからな、許可を出したものしか持てない。それに解除されると持てなくなるから持ち逃げも出来ないぞ」

「へぇー。因みに許可ってどう出すんだ?」

「フレンドリストから出す」

「うん? フレンドリスト?」

「そうだ。フレンド登録した者に、私が譲渡可能にすれば、所有物を渡すことが出来る。他にも遠く離れた人とも連絡出来て便利だぞ」


 なるほどね。プレイヤーだけじゃなく住人にもフレンドリストがあるんだな。


「あ、なら人との接触もリストから決めるの?」

「? 接触の有無なんて決められるわけないだろ? それが出来たなら、リリィーナに肩車なんて出来なかっただろう」

「あれ? 住人との接触は出来るのか?」

「ああ。そう言う事か? 接触の時に起きるのは、だ、抱き付くとか、む、胸を揉むとかの性的行為の時だけだぞ。それに関しては異邦人と一緒だな」


 ああ。そう言えば天の声さんも過激なボディータッチは、って言ってた気がする。

 追伸。顔を赤らめて恥ずかしそうに説明するクルノア、可愛いです。


「わかった。すまない。助かったよ。さて、そろそろ俺はレベル上げに行くわ」

「ああ、ちょっと待て、せっかくだからフレンド登録しよう。何かあったら連絡をくれ」

「わたしともするの!」 


 二人からフレンド申請が届いたので許可した。てか、最初の登録したのが住人ってどうなのよ。

 あ、頭の中にこの地に降りたった時と同じ電子音。

 称号、【輪を産んだ者】を手に入れました。だってさ。効果がこちら。


【輪を産んだ者】効果・最初から住人の好感度が高く、住人と仲良くなり易くなる。『備考』誰よりも早く住人とフレンドになった者に贈られた称号。


 なんだってさ。波瀾万丈よりはましかな? って! もしかしてこの称号、波瀾万丈と組合わさると大変な事態になるんじゃないか? 厄介事の気配しかしない。


「改めてよろしく頼む」

「よろしくなの」

「こちらこそよろしくな。リィーちゃん、クルノアさん」


 握手を交わしながら挨拶をしたらクルノアさんが不満そうな表情を見せる。はて? なにかしましたかな?

「む? クルルでいい。親しい人からはそう呼ばれている」

「クルルおねぇちゃんなの!」


 どうやら愛称で呼んで欲しかったようだ。

 あって数十分の相手に愛称で呼んで欲しいって、これも、【輪を産んだ者】の効果か? 凄すぎませんか? この称号。


「うん。わかった。これからはクルルと呼ばせてもらうよ」

「うむ。是非頼む。と、そうだ狩りに出るなら西側がいいぞ。あそこなら初心者でも狩りやすい敵しか出ない」


 満足そうにクルルは頷くと狩り場のアドバイスをしてくれた。へぇ~。出る方角で敵の強さが変わるのか。ならここはアドバイス通り西へ行こう。


「うん。わかった。色々ありがとう。またね」

「うむ。こちらこそ妹が世話になったな。それではまた会おう」

「ありがとうなの。おねぇちゃんにはこんなことが、もうおきないようにいいきかせとくの。それではおにぃちゃん、バイバイなの」


 リィーちゃんは無邪気に大きく手を振り、別れの挨拶をしてくれた。だが、その横ではクルルが真っ青になっていた。

 な! なんて恐ろしい子なんだリィーちゃんは! なんの躊躇いもなく言葉の刃でクルルの急所を一突き! 心なしか俺にはクルルが吐血したように見える。顔面蒼白だしね。


「ほら。おねぇちゃんかえるの」

「あ、ああ」


 リィーちゃんに促され、よたよたと倒れそうになりながらクルル達が去っていく。大丈夫かな?

 うん。広場を出て行くまで見守ったけど大丈夫そうだし。俺も向かいますか。

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