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鉄扇のために

「6千ゴールドです」

「えっ??」

「6千ゴールドになります」

「え!? 1本200ゴールドの串焼きですよね?」

「6千ゴールドです」

「あ、はい」


 6千ゴールドを請求欄に入れ支払う。ううっ。痛い出費です。

 何故こんな事態になってるのかと言うと、説明する程の事ではない。単なるクルルのご機嫌取りだ。

 帰り道を歩いていたら、串焼きの香ばしい良い薫りが漂って来たので、ご機嫌取りがてら、奢るよ。と言って、店に入って串焼きを食べ終えたら、なんと会計が6千ゴールドになっていたと言う悲劇。心無しか店員のスマイルが悪魔に見える。いや! 味は確かに美味しかったんだけどね。

 ありがとうございました!! っと言う感謝の言葉をBGMに串焼き屋さんを出る。あ、クルルから鼻歌が聞こえて来てます。

 一応はご機嫌取り成功だけど、出費がああああああ。


「いや~ご馳走になった。ありがとう」

「どういたしまして」


 残り残高。5千910ゴールド。これ鉄扇買えるのか? 最悪道中ドロップしたアイテム売ればなんとかなるか? 忙し過ぎて何ドロップしたか見てないけど。ちょっと値段知りたいな~。幸いまだ店やってるしね。


「クルル。ちょっと武器屋見てっていい? 鉄扇の値段が知りたい」

「うん? いいぞ? そこの武器屋へ入って見るか?」

「そうしよう」


 クルルが指した店に入る。店内には、剣や槍に斧などの武器が、種類別に段差のある商ケースに入れられて飾られていた。


「飾られてるので全部?」

「違うぞ? 大体は、見映えのする物や性能が高い物だな」

「ふ~ん。それにしても結構お客さん居るんだね?」


 店内には老若男女が、夜なのに大勢いて賑わいを見せている。


「大抵は冒険者か冷やかしだな」

「こんな時間に?」

「冒険者は朝から夜まで関係無しにクエストを受けるからな。冷やかしは、酒屋から酒屋に移る途中で寄ったんだろう」

「なるほどね。にしてもクエストなんて受けられるの?」

「な!? トータ!? お前冒険者ギルド知らないのか!? 生産ギルドもあるんだぞ!?」


 初耳です。そうかアイテム売るだけじゃなく、そこでも稼いでたのか! これからそうしよう。


「そうなんだ。今度行って見るよ」

「そうだな。行ってみるといい」


 よし始まりの街に戻ったら行って見よう。


「お? あの店員空いたぞ」

「あ、ほんとだ。すみません! ちょっと良いですか?」


 クルルが丁度、接客の終わった店員を見付けたので声を掛ける。


「はい。どう言ったご用件でしょうか?」

「鉄扇が欲しいのですが、売ってますか?」

「え!? 鉄扇ですか!?」


 なんかメッチャ驚かれてる! えっ!? まさか無いとか無いよね!? 何しにここまで来たか分からなくなるんですが!


「あ、え~と、一応はございます。少々お待ち下さい」


 店員さんは戸惑いながらも、パネルの操作を始める。もしかしたらあれで在庫を確認出来るのかもしれない。


「あ、ありました。こちらと、こちらと、こちらの3点ですね」


 店員さんはそう言うと、ケースの上に鉄扇を呼び出し次々に置いていく。

 最初のは竜の彫りがされていて、至る場所に宝石が散りばめられているきらびやかな鉄扇。次のはなんの変哲のない鉄扇。最後が錆びた鉄扇。

 なるほど。この流れは昔話にある欲を欠くと痛い目に合うあれですね? ならば答えよう。


「他のありますか?」


 いや! 違うんです。鑑定した結果なんです。これを見て下さい!


【儀式用鉄扇喜竜】攻撃力+20 魔法攻撃力+25 奉納 耐久100/100 重量25『備考』薄い鉄で出来た奉納用の鉄扇。


【ただの鉄扇】攻撃力+50 魔法攻撃力+10 耐久200/200 重量45『備考』型に入れられ作られた扇。※取り扱いに注意。


【鉄扇ラナハ】銘 ナナシナ 攻撃力+10 魔法攻撃力+5 耐久20/20 重量35『備考』鉄で出来た扇。そこそこの出来だったが、長年の時を越え錆び付き風化した扇。


 なんです! 真ん中のが一番間ともだけど注意書きがされているんです。ね? 選びたく無くなるでしょう?


「すみません。こちらの鉄扇で全種類です」

「え!? 他にないの!?」

「ありません」


 しょうがない。この中から選ぶか。って、高い! 今更だけど高い! 錆びたヤツでも5万ゴールドする! 普通に2万ゴールドくらいで買えると思ってたのに! そうだ! 今すぐにアイテム売ろう!


「あの━━」

「なんだお主、鉄扇を探してるのか?」


 店員さんにアイテムを買いとって貰おうと思ったら、隣の爺さんが声を掛けてきた。やっぱり鉄扇を探してるのが珍しいのかな?


「そうだよ。やっぱり鉄扇って珍しいのかな?」

「ま、それもあるが、選らばなかった理由に関してじゃ」


 うん? そんなの聞きたい人が居るのかね? 今となっては金が足りない。だが、多分聞きたいのは最初にチェンジしようとした理由だろうな。


「ダメかの?」

「別にいいよ。だけど営業妨害になるかもだよ?」

「構いませんよ? 当店としても理由があるなら教えて欲しいくらいです」


 おや。店員さんからお墨付きを頂いたし、話しちゃおっと。


「まず錆びたヤツは直ぐに穴が開くから論外。派手なヤツも儀式用なので論外。俺が探してるの戦闘用だからね。で、最後のは正面と右端の扇面が脆いのと、左からの3番目の骨が、突き攻撃を防げないのと、一番最悪なのが、扇を束ねる要に、強めの衝撃を入れると、崩壊してしまう事だね」


 あれ? 説明を終えたら店員さんとクルルが無言になっちゃいました。二人共信じられないって顔に出てます。爺さんは頻りに頷いてるけど。


「見事じゃ! 普通の鉄扇に見える欠陥扇の問題を、全て上げるとは思とらんかったのじゃ!」

「あ、うん、そう。ありがとう?」


 爺さん凄い興奮してるな。俺若干引いてますよ。


「お客様。本当にそんな欠陥があるのか、見せてもらっても良いてすか?」


 店員さんがそんな事を言い出した。ま、店としては当然の反応ですね。喧嘩腰じゃないから、多分本当かどうか見極めたいんですね。本当なら店の発展の為に改良し、嘘なら営業妨害で衛兵に突き出す。厄介な店員さんです。


「クルル、俺が扇持つから剣で言った箇所斬ってみて」

「分かった」


 閉じた鉄扇を手首のスナップだけで開き扇を寝かせてクルルへ突き出す。

 店員さんとのやり取りを眺めていた野次馬からどよめきが上がった。


「━━綺麗」

「あんなに美しく開く物なのか!?」

「ほう! 突き出すまでの所作がまるで清流の様じゃな! 見事!」


 すみません。なんか照れるので黙ってて欲しいです。言えんけど。


「クルルお願い」

「ああ」


 クルルが剣を上段から真ん中の扇面に目掛け振り切り、止まる事なく下から右端の扇面を切り上げると、直ぐ様手首を返して扇を垂直に持ち、指の位置を要にズラす。と、俺の意図を察したクルルが突きを行う。

 店内には3度の甲高い金属音が響く。流石はクルル一瞬当てただけで、突きを引っ込めてくれた。少し刺されないかビクビクしてたんだけど杞憂だったな。

 結果は火を見るより明らかだ━━。

 クルルが連撃を行い、最後に突きを直ぐに引っ込めたことから察する様に、剣は綺麗に指摘した箇所を切り裂き骨を貫いていた。


「ふむ。刃こぼれしそうだったら、直ぐに止めようと思っていたが、面白い様に裂けたな」


 ま、クルルの腕だったら問題無しと、確信してたからね。


「申し訳ありませんでした。取引先に報告して質の向上を致しますので、これからもよろしくお願い致します」


 うん。俺この件でなんの得もないよね。間違えたら衛兵行きだし、質の向上は店の為にだから勝手にやってろだし。ま、良いけどね。


「ふむ。此れではお主になんのメリットともないのう。そうじゃ特別にわしが鉄扇を売ってやろう! そのくらい構わんじゃろ?」

「はい! 大丈夫です!」


 爺さんが一睨みすると店員さんは慌てて頷いた。この爺さん一体何者なんだ? この店の会長かなんかかな?


「これとこれとこれじゃ!」


 と、言って爺さんが取り出したのは黒い光沢の美しい鉄扇と、深い深い藍色の鉄扇と、鮮やかな真紅の鉄扇だ。


【鉄扇黒天】銘 シシドウ 攻撃力+95 魔法攻撃力+70 奉納 耐久300/300 重量50『備考』魔鉄で出来ていて様々な素材が使われている最高の鉄扇。


【鉄扇藍姫】銘 シシドウ 攻撃力+75 魔法攻撃力+95 奉納 耐久300/300 重量50『備考』魔鉄で出来ていて様々な素材が使われている最高の鉄扇。


【鉄扇真紅】銘 シシドウ 攻撃力+85 魔法攻撃力+85 奉納 耐久300/300 重量50『備考』魔鉄で出来ていて様々な素材が使われている最高の鉄扇。


 スゴ!! 何この鉄扇! さっきのと全然違う!!


「持ってみても!」

「ええよ!」


 一番自分としっくり来そうな。真紅の鉄扇を手にする。


「凄い! 手に馴染む! あはっ! 扱い易い!! 楽しい!」


 手首のスナップで扇を開き、手首の周りをくるくると、何度も回してから下から投擲をし、戻ってくるのに合わせ体を半回転させ、戻って来た扇に合わせキャッチして振り抜く。うん。満足だ。

 俺は開いた鉄扇を見てニヤける。本当に鮮やかで綺麗な扇だな。えへへ。笑いが止まらない。あ、自覚してますよ。危ない人になってるのは。

 観客から拍手喝采が起こる。今更だが少し派手に遣り過ぎたか?


「良いものを見せて貰ったのう。どれ、好きな物どれでも1つだげ10万で売ってやるのじゃ」

「ごめん。お金がなくて買えない」

「ふむ。そうか? 今だけじゃぞ?」


 う~ん。確かに欲しいけどお金がな。はっ! そうか! クルルがいるじゃん!


「クルルお願いがある」

「なんだ?」

「10万貸して下さい! 必ず返しますので!」

「いいぞ」

「えっ!? いいの!? てっきり断られると思ってたから意外」

「言っただろ? 信頼してるって」


 うっ! なんかジ~ン。っと心に染み渡りました。クルルの信頼が。


「ほれ譲渡」


 トレードが来て了承を押すと、手持ちに10万ゴールド増えた。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 やった~! これで取り敢えず武器が買える! って、インフォ?

 称号【借りる者】を手に入れました。

 またなのか? このゲーム流石に称号出過ぎじゃない? いいや。効果見よう。


【借りる者】効果・住人からの援助を受けやすくなるが、返さないと信頼がなくなる。『備考』こちらの称号は初めて援助を住人から受けた者のみに出るユニーク称号です。


 だって。ユニーク称号が気になるけど、多分1人しか持ってないって事だよね? きっと。そんな事よりも━━扇です。扇。


「真紅下さい!」

「うむ。了解じゃ」


 トレード欄を開いて10万入れる。と向こうも入れてくれたので了承っと。お、トレード成立した。これで鉄扇が我が手に!

 早速右側に装備する。鉄扇が右手に出て来た。えへへ。はっ! いけない! また危ない人になるところだった。


「爺さんありがとう。それからクルルも」

「うむ。喜んで貰えて良かったのじゃ」

「トータの役に立てたんならそれでいい」


 真紅を解除し、ポーチに仕舞う。空間だと死んだら無くなる可能性があるからね。


「ところで爺さん。真紅の銘に刻まれた人知らない?」

「わしじゃが?」


 おお! マジか! 作者が目の前に! これはチャンスだ!


「爺さんに頼みがある!」

「なんじゃ?」

「俺二刀流だからもう1つ鉄扇が必要なんだ!」

「ふむ」

「だから! 鍛冶教えてくれ!」


 あれ爺さんが固まった。なんでだろ?


「ほ、ほぉほっほお。安値で売ってくれじゃなく、まさか鍛冶を教えてくれっとくるとは! 驚いたわい! 良かろう! 主に鍛冶の仕方を教えてやる!」

「本当か!? 爺さん!」

「うむ。だがその前に自分で鉄を集めてくるのじゃ。よいな?」

「分かった。店員さん! ピッケル売ってますか?」

「当店のは、武器と兼用なので、普通のピッケルをお求めでしたら、雑貨屋さんがいいですよ」


 なるほど。なら店変えですね。


「クルル! 雑貨屋行こう!」

「ちょっ! 待てトータ! 落ち着け!」


 クルルが俺を宥めるが、


「そんな場合じゃない! 今日の内になんとしてもピッケルをゲットしなくては! 明日の予定に響く!」


 因みに明日の予定は、学校から帰って来てログインしたら速攻で鉄を探しに行く予定だ。


「これ。フレンド登録してから行くのじゃ! じゃないと連絡が取れん!」


 あ、それもそうだった! 申請して━━お! 登録された。では━━。


「爺さんよろしくお願いします。ほら行くよ! クルル!」

「待てトータ! そもそもお前! 雑貨屋の場所知ってるのか!?」


 爺さんに一礼して、ダッシュで外に出る俺をクルルが慌てて追い掛ける。

 雑貨屋の場所? ま、なんとかなるっしょ!

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