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豪華ディナー

 馬を疾走させたお陰で、日が沈む前になんとか街に着く事が出来た。

 街は断崖に囲まれていて、北側からしか入れない仕組みになっている。

 北側には鉄で出来た大きな門があり、入り口には詰所が設置されている。そこで入る為の審査があるらしい。今クルルが代表して受けています。


「よし。着いたな。中に入ろう」


 クルルが直ぐに戻ってきた。どうやら審査を無事に終えたらしく、馬に跨がり鉄の門に近付いて行く。━━あ! 門通り過ぎた!


「どうぞ。お入り下さい」


 端まで行くと小さな門があり、内側から門番が扉を開いてくれた。はい。分かってましたよ? あの大きな門が開かない事は。━━な! 筈無いだろう! ゲームだからあの大きな門が開くと思うだろう!? 普通!!


「王族が公務で来る時しか開かないぞ」

「え!? そうなの!?」

「ああ。開けると大変だし。敵が来たら直ぐに閉められないからな」

「なるほど。ちゃんと理由があるんだな。ならしょうがないか」


 扉を潜ると、左右正面に穴が空いた断崖が見え、中央に噴水がある。そこから東西南北にメインストリートが広がっていて、その周りでは八百屋やに魚屋等の食料品店が、競い合うように並んでいた。


「基本はこの北通りに宿屋が密集していて、他の通りに武器屋や飲食店等がある」

「方角に寄って建ってる店が決まってるの?」

「いや、中央の食料品と北の宿街以外に決まってるのは、住宅街だな。他は自由に建設されてるよ」


 そうなんだ。なら夕飯食べた後散策してみようかな~。うん? そう言えば住宅街ってどこにあるんだ?


「住宅街ってどこ?」

「あそこなの!」


 元気良くリィーちゃんが指したのは断崖だった。


「え!? あれ!?」

「そうだ。断崖にあるあの穴が実は窓だ。あの断崖の中には住宅街が広がっている」


 なにそれ!? 見てみたい!? だけどまずは鉄扇だな~。そうだ! 宿どうしよう? う~ん。路上でいいかな。


「隊長。宿取れました」


 団員が報告に来た。


「分かった。行くぞトータ」

「うん。またね」


 俺が答えるとクルルが呆れた表情をした。


「おにぃちゃんも、おなじやどにとまるの!」

「そう言う事だ」


 え? そうなの? 初耳です。


「では行くぞ」

「ああ。うん」


 そう言うとクルルは馬を歩かせ、メインストリートから一つ外れた通りに入る。

 道で突立っててもしょうがないので、取り敢えずクルルに付いて行く。

 と、入って直ぐの宿に泊まり馬を降りた。

 宿屋『ルッシェル』って、看板が設置されていた。

 馬を降りながら、見上げる。きらびやかな外見に木製の枠に入れられた落ち着きのある看板が映える、見るからに豪勢な宿。

 ここに泊まるのかぁ~。一泊いくらだろう?

 馬舎に連れて行かれる馬を見ながら考えていると、


「ここの宿は内の騎士団と、年間契約してるから無料だぞ?」


 と、クルルに声を掛けられた。


「え? マジで!? 助かる!! ありがとう!」


 ここは素直にお礼を言っとこ。路上で落ちるつもりだったから正直助かった。


「団長チェックイン出来ました」

「うん? そうか。行こう」


 団員に促されてクルルと一緒中に入る。あれ? 予想と違う。もっと豪勢なロビーを想像していたけど、良くファンタジー小説にあるような食堂が広がっていて、フロントの横から上に行ける階段がある内装だ。


「よし。部屋に行こう」


 クルルがそう言ってフロントの横の階段を上がって行くので、付いて行く。

 3階で階段から廊下に渡り、部屋が等間隔に並んでる廊下を奥まで進む。


「ここが私とリリィーの部屋だ。トータは私達の部屋の前を使ってくれ。食事は自由な時間だから、好きな時に食べるといい」

「いっしょにたべるの!」


 クルルが丁寧に説明してくれて、リィーちゃんからは食事のお誘いを頂きました。勿論即答で許可しました。


「わ~い! なの!」


 おお! 可愛いく万歳して喜んでくれてる。なんだかほっこりします。

 あ、でももう直ぐ夕飯の時間だなんだよな~。━━いや! リィーちゃんを待たせる訳にはいかない! そう事情を伝えたら、


「いいのか? ならこのまま降りてご飯にしよう」

「わ~い! なの!」


 と、返事を頂き、来た階段を下りて食堂に入ると、クルルが、夕食を頼む。とフロントに声を掛けた。

 自由な席にお座り下さい。と言われたので、近場の席に腰を下ろす。


「メニュー表無いけど、どう頼むの?」

「献立が決まっていて、運ばれてくる」


 なら、待ってれば大丈夫ですね。


「味はどう?」

「ああ。雑誌に乗ってるくらい定評のある味だ」

「おいしいの!」


 おお! 凄い! この世界にも雑誌があるのか! 見てみたいな~! 本屋探してみよう。

 おっと、いけない脱線した。ここの料理かなり期待出来るようですよ。楽しみです。


「そうだ。クルル今夜時間ある?」

「あるぞ?」

「なら魔法を教えて欲しいんだけど、カッター系の」

「うん? いいぞ? 別に」

「本当? なら夜にお願いします」

「分かった。時間は任すから部屋のドアをノックしてくれ」

「了解」


 クルルの予定が空いてて良かったよ。これでカッターの魔法が覚えられる。


「ビシバシ鍛えてやるから覚悟しろよ」

「はっはっはあ~。お手柔らかにお願いします」


 ヤバい! 頼む相手間違えたかな。


「善処するよ。お? 料理が運ばれてきたな」


 鼻に食欲を刺激する香りが直撃する。

 テーブルの上にはサーロインステーキやら海鮮パスタ等の豪華な料理が並べられた。

 おっと! あまりの美味しそうな料理に思わず涎が! 危ない危ない。

 抱えていた白夜を床に置き、次に蒼空を地面に置くと、お店の人が山盛りのお肉とサラダを持ってきてくれた。


「では、食べよう」

「なの!」


 クルルが促しリィーちゃんが元気よく返事をした。俺も挨拶を済ませちゃお。


「頂きます」

「うん? それが異邦人が食べる前に言う言葉なのか?」

「そうだよ。言う人言わない人が居るけど、俺は食材に感謝する為に言う事にしてる」

「なるほどな。食材に感謝か」


 俺が説明するとクルルが瞳を閉じて頷く。

 心に感じる物があったみたいだ。


「なら私も。頂きます」

「いただきますなの!」

『『頂きますです(わ)』』


 おやおや。クルルのみならず、リィーちゃんと蒼空達までしたよ。なんか嬉しいな。こう言うの。

 さ、食べ初めますか。

 フォークを持ち迷った結果、やっぱりサーロインステーキから食べる事にした。

 程よい脂にミリアムレアの程よい焼加減。一口食べると口の中で溶け出し、旨味だけを残して消えていく。

 な!? 極上のお肉だ。よく高級ホテルで出されるあの味。たまりません!

 パスタを巻いて口に運ぶ。

 生臭の無い魚介の新鮮な味と、それに負ける事無いパスタの小麦の香りが、互いを引き立て合い旨さを倍増させていく。

 うん。旨い! またスープも絶品だ。直ぐに食べ終わりそう。

 思い返せば、最初食べた綿菓子から始まり、次の何処にでもあるパンから一気に飛躍した豪華ディナー。あれ? 俺食事も波瀾万丈なの!?


「ご馳走さまでした」

「ご馳走様でした」

「ごちそうさまでしたなの!」

『『ご馳走さまでしたです(わ)』』


 俺が食後の挨拶をすると、皆も真似て挨拶をする。どうやら気に入ったらしい。

 さて、部屋に戻りログアウトしますか。

 階段を上り3階の廊下を奥まで行き、クルルとリィーちゃんにまたねっと、声を掛けて部屋に入り、蒼空と白夜を撫でてからログアウトする。




「ふぅ。疲れた。ご飯を食べよう」


 自宅の階段を降りて廊下を進み、リビングのドアを開けると夕食だけが置いてあった。


「今日は鉄火丼にお吸い物か。うん。ゲームの中とのギャップはあるけど、これはこれで美味しいな」


 食べ終わり。自分の食器を洗ってリビングで寛ぐ。何か面白いテレビは無いかとチャンネルを回して見るも、残念ながら面白い番組が無かったので、テレビを消してボーとする事にした。


「あれ? おにぃだ!」


 声がしたので入り口を見ると、ネコの絵が書かれているパジャマ姿の美紀がリビングに入って来るところだった。

 髪が濡れてるからお風呂上がりみたいだ。

 美紀はテレビの横からドライヤーを持ってくると、コンセントに差し込んで、俺を上目遣いで見る。

 次の行動に移らない美紀を不思議に思い尋ねる。


「どした?」

「髪乾かしてほしいな~!」

「別にいいよ」

「えへへ~。やったー!」


 美紀は嬉しそうに笑うと、俺の膝に座ってきた。

 ぷにゅっとした柔らかなお尻の感触。ちょ!? 美紀さんや! なんで乗ってくるの!? ソファーに座ってるんだから俺の前に座ってくれればいいのに!


「ダメ?」


 そんな捨てられた子犬のような瞳で見詰めないで! 断れないから!


「あ~! もう! 分かった。舞依には言うなよ。面倒だから」

「うん! ありがとうおにぃ! 大好き!」


 やめて! そんなにストレートに愛情表現しないで! マジで照れるから!


「髪乾かしちゃうぞ」

「うん! お願い! 後ろからよろしく」

「はいはい」


 言われた通りに後ろ髪から乾かす。勿論。優しく丁寧に扱うのを忘れない。


「乾いたから前を乾かすぞ?」

「あ! ちょっと待って。はいよろしく」

「おい美紀!? ちょっと待て?!」

「うん? な~にぃ??」

「な~にぃ? じゃない! 寄っ掛かるなよ! そのままでいろ!」

「うん。分かった。このままでいるね?」

「じゃなくて! もういいや。乾かしちゃうぞ」

「えへへ~。は~い」


 胸に体重を掛けるように倒れて来た美紀を、どうにか説得しようとしたが、乾かしちゃった方が早いと思い諦めた。

 たく! なついてくれるのは嬉しいけどさ。少し心配になります。お兄ちゃんは。って! 寝てるし! ほっぺたつねってやろうかな?


「ほれ終わったぞ」


 ほっぺたを押しながら起こす。お、程よい弾力のモチサラ肌だ。ヤバい。このまま触ってたい。

 起きるのに邪魔にならないように指を離す。


「ねぇおにぃ。ゲーム楽しい?」


 美紀は起き上がり隣に座ると、真剣な眼差しで尋ねた。


「どうした急に?」

「うん。無理矢理ゲーム渡したから、無理に合わせてくれてるのかなって、それに高いソフトだから無理してプレイしてるんじゃないかって、心配になったの」


 なるほどね。そんな気にする必要ないけどな。つまらなかったら深夜までプレイなんかしないし。


「大丈夫だよ。なんなら明日学校休んでプレイしたいくらいだ」


 俺の答えを聞いた美紀がひまわりの様な笑顔をつくり、


「もう! そんな事したらお母さんに叱られるよ?」


 と、嬉しそうに答えた。

 ちゃんと伝わったな、俺の気持ち。


「そうだな。だから学校終わったら早く帰ってこよう。明日も11時くらいには終わるしな」

「うん。あたしも早くログインするんだ!」

「なんの話ですか?」


 扉が開く音がして視線を向けると、舞依がバスタオルで髪を拭きながら、子犬の絵がプリントされたパジャマ姿で不思議そうに入って来た。


「ああ。ゲームが詰まらなくないかって話し。メッチャ楽しんでるから舞依も気にするなよ」

「あ~なるほど、分かりました。楽しんでもらえて幸いです」


 今の会話だけで、俺と美紀の間にされた会話を理解した舞依が、納得の表現で言った。


「美紀。ドライヤーってあら? お兄様が何故持ってるのですか?」


 髪を乾かす為に、美紀からドライヤーを貰おうとした舞依がその手に持ってないのに気付き、次に俺の手元に視線が固定される。

 おおっと! この流れはよろしくない!


「俺お風呂に入ってくるね。はい舞依ドライヤー。って何で腕を掴むの? はは~。ドライヤーと間違えるなんておっちょこちょいだな、舞依は~」

「お兄様ぁ~。わたくしに疚しい事がありますよっね?」

「ヤだな━━」

「━━ありますね!」

「はぁい」


 我が姉妹は何でこんなに鋭いのでしょうか? 謎です━━。

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