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騎士

 渓谷に沿ってごつごつした岩場を、馬を巧みに操り南下していく。

 途中デカイ蜘蛛や馬などの敵が出て来たが━━。


「私は正面を! ジョンとデリシアは右を! レオナルドは魔法で援護!」

「「「了解!」」」


 一瞬にしてクルルが正面の敵を切り裂き、右から来る敵をジョンとデリシアが一撃を入れて怯ませ、そこにレオナルドが魔法で倒す。にしても、武器からじゃなく突き出した手から魔法を放ってるな。中指から魔力に干渉してるのが見えるから、指輪かな? 媒体になる物を装備してるんだろう。便利そうだな。

 それでも数が多い時は、次のグループが前に出て、安定的に無理なく倒しています。

 てな感じで、クルル達が次々と倒して行って、正直出る幕がありません。因みに倒した相手の鑑定結果がこちら。


 土蜘蛛Lv3 蜘蛛の上位種『備考』土の中から飛び出してくる。

 ホースLv15『備考』山や森等に広く住んでいる。

 蜂蜂Lv4 蜂の上位種『備考』二つの尻から毒針を射す。

 鹿Lv16『備考』山や森に広く住んでいる。


 と、後は最初のマップにも出てくる熊や兎のレベルが高い版で、ちらほら上位種もいるが、余り代わり映えしない敵ばっかりだった。

 俺からしたら騎士団がやっつけてくれて、とても楽です。

 お陰で乗馬に集中出来て、スキル《乗馬》を修得しました。とインフォが入りました。ありがとうございました。

 太陽が傾いて来た。今日中に着くのかな? マップで確認したら、ケルカ渓谷って出ていて、もう少しでマップの端に着くところだ。


「ここから先は敵が強くなる! 気を引き締めろ!」

「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」


 隊員10人の返事と共に、次のマップへ入る。と、直ぐに━━。


 ナックルベアLv8 熊の上位種『備考』二足で立ち硬い拳と可憐なステップで敵を倒す。

 キラーカマキリLv6 カマキリの上位種『備考』いつの間にか身体を切断される。

 荒獅子Lv9 獅子の上位種 『備考』獅子が攻撃的になった個体。誰彼構わず襲い掛かる。

 突撃カラスLv10 カラスの上位種『備考』空高くから突然降って来て獲物を串刺しにする。

 ファイヤーラビットLv8 ラビットの上位種『備考』弱いラビットが抗う為に火魔法を覚えた個体。


 等の上位固体が、次から次へと襲ってくる。


「━━な、なんだこの数は! 異常だぞ!?」

「━━まずい! 突破されます!」

「くッ!」


 勢い良くカマキリが抜け出て来た。


「御下がりくださいリリィーナ様!」


 団員が慌てて、リィーちゃんを守ろうと前に出ようとする。ちょ! 邪魔です! 団長の妹君が危ないからって、慌てて出て来ないで! あんた達気付いてないでしょ? 他からも敵が迫ってる事に━━。


「ここから先には行かせない!」


 殿二人が強引に前に出て剣を構える。

 にしても、敵が多いいのって、これ? 俺の《挑発》の所為かな? でも、このスキルはアーツ使わないと効果無い筈なんだけどな~。


 殿二人が対峙しているカマキリにファイヤーボールを放ちながら考える。

 うん。結論! きっとイベント難易度不確定の所為だな! そうに違いない! 

 それにしても━━でかいカマキリだな。子供くらいはある。

 突然後ろから飛来したファイヤーボールに驚いて、殿二人が飛び離れる。通過した後に飛んでも遅いんだけどな。

 開いた道からカマキリが見える。流石は上位種。ファイヤーボールじゃ倒し切れないようですね。火達磨にはなってるけど元気そうです。ならプレゼントを上げましょう。


「ファイヤーランス」


 扇の先から文字通り火で出来た槍が出現し、7秒してからカマキリ向けて飛ぶ。お! オーバーキルしたな。一瞬にして消し炭だ。ちょっと勿体無かったかな?

 カマキリが光の粒子になるのを観ながら、左から突っ込んでくる、火を身体に宿したファイヤーラビットにウォーターボールを放つと、正面衝突したファイヤーラビットが勢い良く後方へと吹っ飛んでいく。


『上ですわ』


 蒼空が忠告を発した。分かって下ります。カラスですね。


「ファイヤーシールド」


 詠唱してから5秒後に、頭上に火の盾が出現し、カラスを焼きながら押し留める。うん? 今気付いたんだけど、騎士達がアイテム使って、魔法を出す場所を制御してたんだから、もしかしたら流動でモーション無しで放てるんじゃね? 試しにやって見るか~。


「ウォーターランス」


 左から二足歩行で駆けて来るナックルベアに、水で出来た槍が速攻で発射され突き刺さる。

 お! 出来た! モーション無しでも流動で放てるのか。それに、こっちで直接溜められるから、発射まで僅か3秒だ。しかもこれなら移動しながら使えるから、近接戦闘中でも大丈夫だな。発見出来てラッキーです。


「ウォーターシールド、ファイヤーボール」


 今度は水の盾がカラスを止め、ファイヤーボールがナックルベアを光の粒子へと変えた。

 う~ん。それにしてもオーバーキル、なんとか出来ないかな? 魔力が勿体無い。

 遠くから体勢を立て直す兎を観ながら考える。どうしよう? 扇を投擲すれば倒せるけど、あまり見られたくないからなあ。あ、そう言えば石ころ拾ってたっけ? それ投擲しよう。

 投げた石ころが兎にぶつかり光の粒子に変わる。

 うん。なんか、此方を見ているリィーちゃんの視線が痛いです。え?! そんなたおしかたしちゃうんですか!? ちょっとそれはないですよおにぃちゃん。て、引かれてる感じ。

 ま、まぁ、魔力節約出来たしいいかな。さ、次はカラスを倒しちゃいましょ!

 石ころの投擲でカラスを倒す。あ、殿さん二人の視線が痛い。

 俺的にはいいと思うけどな~。ランス系の魔法で弱めて石ころ投擲で倒す。完璧です!

 辺りが鎮まりかえる。緊張が俺と蒼空と白夜以外から漂っている。どうやら敵がまだいないか探ってるようだ。俺と蒼空は感知で分かるし、白夜は俺と蒼空が落ち着いてる事で安心してる。


「団長! 他に敵は居ませんでした!!」 

「よし。ご苦労! ケガ人はいるか!?」


 クルルが労いの声を掛けてから尋ねると、皆沈黙する。


「いないな! 休憩を取りたい所だが! 何があるか分からないから街近くまで駆け抜けるぞ!」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


 クルルの言葉に団員が頷く。

 もう6時近いな。今が夏で良かった。冬なら日が沈んでいて外で一泊する所だった。


「トータ。お前の力を借りたい。私の後ろを頼みたいんだがいいか?」


 クルルが俺の近くに寄って尋ねた。もしかしたら戦ってるのを見て頼ろうと判断したのかもしれない。そうだったら嬉しいな~。


「いいぞ」

「済まない。助かる」


 俺が返事をするとクルルが頭を下げた。別にありがとうだけでいいのに。そっちの方が俺的には嬉しいしね。

 なのでそう伝えると、


「分かった。次からそうする。私も喜ばれた方が嬉しいからな。だからトータ、もし今の私と同じ状況になった時には、お前もありがとうで頼む。私もそっちの方が嬉しい」

「うん。分かった。そうする」


 と、返されたので即答で了承しました。


『マスター満面の笑みですわね』

『はい。とっても嬉しそうです』

『え!? ホント!?』

『『はい。とってもです(わ)』』


 蒼空と白夜に指摘されたので頬に触れてみる。ヤバッ! メッチャにやけてる! キリッと真顔に修正。もうこれで大丈夫。


「決まりだな。では出発するぞ?」

「まって! なら、わたしもまえにいくの!」


 クルルが皆に確認を取ったら、直ぐにリィーちゃんが割り込んできた。


「何を言ってる! リリィーは後ろだ!」

「まえにいくの。おにぃちゃんがまもってくれるからだいじょうぶなの!」

「む、たしかに━━」

「でしょ?」

「うむ。なら許可だな」


 ちょ?! クルルさん!? 簡単に折れないで! 守れなかったらどうするの?? いや、さっきも言ったが、身を呈して守るけども。


「トータ。リリィーも頼むな?」

「分かった」

「ありがとう。トータ」

「ありがとうなの。おにぃちゃん」


 クルルの後ろに続き護衛も任されましたが、ま、なんとかします。はい。


「では、改めて出発だ!」

『おお!(なの)』


 団員プラスリィーちゃんが一斉に声を上げた。なんかこのやり取り多いな。ま、集団だから仕方ないか。

 返事を聞きクルルが馬を走らす。

 では、俺も行きますか。




 岩場を抜けて、少し鋪装された歩き易い道に差し掛かった時に、蒼空が何気無く呟いた。


『まさかとは思ってましたけど、確定ですわね。マスター右の岩場から死臭がします』

「え!? ━━死臭??」

「━━なに?! 死臭だと!!」


 あ、俺が反応して仕舞った事で、クルルが馬を止め慌てて振り替えた。他の団員もざわめき出し、リィーちゃんも不安そうに俺を見上げている。


「どこからだ!?」

「右の岩場」

「分かった。ロザとレナはリリィーの護衛を頼む。行こう。トータ」

「分かった」


 リィーちゃんと護衛二人を置いて岩場へと移動する。そこは草木に覆われていて見え難い場所だった。


「確かに死臭がするな。開けて見るか。よし、開けるぞ?」


 クルルは自分の呼吸を整えると小さく呟き、草木を掻き分けていく。


「どこだ?」


 意外と草木の密集度が高く見付からない。うん。奥の隙間に何かあるな? 恐らく死体だろう。


「クルル。そこの隙間」


 指して隙間を教える。


「ああ。これ、ぽいな。周りの草木を散らして取り出そう」


 そう言うとクルルは剣を抜いて草木をカットして行く。

 数回の剣閃で見事取り出し易いように切り落とした草木を退かし、団員が服を掴んで引き摺り出す。


「ビンゴだな」


 そこには━━首の無い、背中を大きく切り裂かれた男の死体があった。


「これは酷く殺られたな」


 死体を良く見ると、身体中に無数の細かい傷があり、背中の傷は左腹から右肩に掛けて大きく裂かれていて、右肩に行くに連れて深くなっていた。


「トータ。この死体をどうみる?」


 死体をマジマジ観察していた所、クルルから問い掛けが来た。


「背中の傷が深すぎるのと首がないのからして、恐らく二つの傷は同じタイミングで出来た物だろう。そしてそこの茂みに倒れ込んだ衝撃で枝に刺さり、細かい傷が出来たんだろう」

「うん。私も同じ意見だ」

「団長。何故同じタイミングだと?」

「首がないのは言うまでもなくだが、背中の傷も死傷だからな。骨が辛うじて繋がってるだけでこれでは動けない。つまりどっちか片方の傷で事足りるんだ。どっちか片方で事足りるのに、お前が犯人だとしたら、あんな草木が生い茂る中まで入って余計な傷を負わせるか?」

「しないですね」

「そう言うことだ」


 クルルが団員達に指示を出している。どうやら身元確認してから火葬するらしい。グール対策だそうです。

 さて、身元も気になるけど、一番は犯人だな。また起こる可能性がある。


「クルル犯人は? なんだと思う?」

「分からん。心当たりが有りすぎて絞れない」


 おや? 俺的には結構絞れると思ったんだが、もしかして魔法に切断系があるのかもな?


「あるぞ。全属性に切断魔法。職業にもよるが、スキルレベル18から教えて貰えるぞ」


 そのまんま疑問を尋ねたらそんな返答を頂きました。

 にしても、あるのか。切断魔法。あれ? でも、俺覚えてないぞ? 可笑しいな? いや、そう言えば━━教えて貰えるって言ってたっけ。ちょっと聞いてみるか?


「誰から教えて貰えるの?」

「私達の街では、盆栽職人のリッケが水と土と風属性を。焼師のローテンベルトが火と土と水属性を教えてくれるぞ。教えるのにも師範の称号がないと教えられないから注意するように。ま、トータには私が教えてもいいぞ。私はお前を認めてるからな」


 なるほどね。ただレベルを上げてるだけでは覚えられないのか。しかも住人と交流しないと習得出来ないって言う罠。運営は交流して欲しいのかな? でも、干渉しないって言ってるし、よく分かりません。この感じだときっとアーツにもありそうですね。

 それにしても認めてるなんて、嬉しい事を言ってくれるじゃないかクルル。感激です。


「団長調べた結果。身元を判別出来る物はありませんでした」


 身元不明か。ならもし人に殺られたとしても、探りようがないな。


「そうか。火葬の準備は?」

「出来て下ります」


 死体の方を見ると、7人の団員が死体の傍で松明を掲げていた。


「分かった。火を付けろ」


 クルルが指示を出すと、団員達は松明を静かに下げ死体に火を付ける。


「黙祷」


 俺と蒼空と白夜をも含めたこの場にいた全員が祷りを捧げる。

 1分位経って眼を開けると死体は既に火達磨になっていた。


「よし、馬まで戻るか?」

「このままでいいの?」

「ああ。大丈夫だ。このまま去るのがこの世界の習わしなんだ」

「そうなんだ」


 習わし、か。なら俺から言える事はないな。


「もういいの?」


 リィーちゃん達と合流すると、なんだか悲しそうな瞳でリィーちゃんがクルルに尋ねた。


「━━ああ」


 クルルは短く答えると馬に颯爽と跨がる。

 ━━騎士として思う事が有るのかも知れない。

 俺もなぜかやるせない気持ちになった。


 例えゲームの中の無関係な人の死だったとしても━━。


「皆馬に乗ったか?」

「ああ」

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


 馬に跨がりながら返事をする。

 太陽は既に傾き、真っ赤な夕焼けが哀しげに辺りを照している。


「街までもう少しだ。一気に駆け抜ける。いくぞ!」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


 クルルが馬を疾走させ、俺とリィーちゃんが続き、団員達が後を追い掛ける。


 夜の帳が降りる中、火葬の炎だけがいつまでも爛々と燃え続けていた━━。


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