対戦
《信愛》の説明書き足しました。
木の根が蔓延る足場の悪い中を、地面に注意しながら進み、北の平原まで後少しって所で暗雲が立ち込めた。
う~ん。なんか見られてるな? どこだろう?
辺りを見回すも木や草が一面に生い茂っていて、どうにも見通せない。
さて、どうしたものか? よし。突っ切ろう!
木の根を避けながら走る。
「やば!」
左から魔力を感知して慌てて後方へ跳ぶと、一瞬遅れて何かが通過した。
くそ! 後少しで平原だったのに!
目を反らさずに体ごと襲って来た何かに向けながら扇を抜く。
狼か。蒼い毛並みで黄色の瞳の美しい狼だな。うわ。あのふさふさの毛触りたい。
「ガア!」
短く狼が吼えた。
と、そんな事考えてる場合じゃなかったな。鑑定しないと。
鑑定を掛けると殆んど??? で見えなかったが、レベルだけはっきり見えた。
レベル10か。ふむ。あまり高くはないが、油断出来ない物を感じる━━。
「ガッ」
「くっ!」
狼が爪を伸ばして飛び込んで来たのを、閉じたままの扇で受け止める。
な!? 重い!! 予想以上だ!! このままじゃ押し切られる!!
体を右にずらしながら後方へと跳び攻撃を往なす。
やはり油断出来ない相手だったか! さて、仕切り直しだ。
両手の扇を一気に開く。
狼が警戒したのか、後方に下がり距離を取った。
やはり、侮れないな。━━本気でやるか。
腰を落とし、左手の掌を垂直に構えて扇を天へ向け、右手の扇を右下の後方へと流す。攻防一体の型。
目を細めて狼と睨み合う。
一拍の間。
狼が飛び掛かって来る。
俺は牙を剥いている狼の顔の横に扇を添えて往なし、右の扇で下から振り上げる。
狼は身を捻って躱しながら、切り裂くように爪を斜めに振り下ろし、俺は左の扇で狼の力に逆らわないように受け流し、そのまま狼の横腹に蹴りを入れる。
「ぎゃん!」
狼は鳴き声を上げながら吹っ飛ぶと、空中で体制を整えて前足から着地し、身を翻して氷の礫を10個求めて放った。
「やるな!」
狼の息も吐かぬ攻撃に思わず感嘆の声を上げてしまう。きっと狼に取ってこの氷の礫は、俺の行動を制御する布石で、次の攻撃がメインだろう。
なら━━予想を覆す。
まず魔力感知で込められた魔力を計る。次に左手の扇を纏いを使って魔力で覆うと、後ろに下がりながら力に逆らわずに氷の礫を往なして行き、右手の扇に魔力変動を掛けて、扇をベースに相手が使っている魔力以上の魔力を使い盾を作ると、残りの数個をまとめて防御し、空いた左の扇を下からブーメランを投げるように投擲する。
サイドに躱すと予想して駆け出していた狼が慌て真上に跳ぶ。
「予想通り!」
俺は投擲直後に駆け出し、狼が真上に跳ぶと予想して予め跳んでいた。
「もらった!」
ドンピシャのタイミングで跳んだ狼の額に目掛け閉じた扇に纏いを掛けて振り下ろした。
狼の毛が逆立つ。
激しいスパーク音が辺り一面に木霊する。
まるで静電気を発生させる機械のように、雷光が狼から迸った。
「━━な?! しまった!」
体が感電する。痺れて動けない。
狼が縦回転をし尻尾に氷を纏い俺の頭上へと叩き付ける。
「くっ! そが!」
扇と共に魔力を纏っていて、辛うじて無事だった右手を動かすと、尻尾に当て往なして脳天への直撃だけは避けたものの、左肩に命中してしまった。
凄い勢いで落下する。フリーフォールの降下のようだ。
「ふ、ゆうッ!」
体が地面スレスレで止まり、直ぐに浮遊を解除して着地し、再び狼に向けて跳躍する。
「お返しだ! ウォーターシールド!」
落ちてくる狼の真下にウォーターシールドを張り狼を帯電させる。
きっと効かないだろうけどな━━!
「ガウ?」
狼が不思議そうにしている。やっぱり効かないか! でも狙いはこっちだ!
「ファイヤー」
火を閉じた扇に纏わす。狼はシールドに気を取られている。
━━狙い通りに。
「おらぁあああああああ!!」
気合いを乗せ、気を取られている狼の背中に閉じた扇を叩き付ける。
「ギャンンン!」
悲鳴を上げて狼が落ちていく。
「シャ!」
扇を開き魔力を纏わせ横投げで投げる。
「キャン!」
見事に扇が叩き付けた場所に当たり、狼は堪らずに甲高い声を上げた。
「まだまだ!」
縦回転をし、左足、右足の順番で背中の扇が当たった場所へと踵落としを入れ、先に地に着いた左足を軸足にして周り、そのまま蹴りを放つ。
「ガウウウウウウウウ!」
苦痛な叫びを上げながら狼は地面を数メートル滑って行く。
扇を拾ってっと。さてどうかな? 終わったかな? 魔力もう殆んどないから立たないで欲しいけど━━、ダメだろうな。
「ぐぅるるるるる!」
ふむ。立ち上がったか。でも口から血を流してるし、足も少しよぼついてるからノーダメージではないな。今の内にもう一つの扇も回収っと。
「ガッ!」
狼は短く吼えると、背中の毛が逆立ち氷始めた。
雷と氷を身に纏ったか。爪と牙は氷って、足元はスパークしてる。これは恐ろしいスピードで飛び込んで来るぞ。ならこっちも最大の技で向かい討つ。
「ファイヤー。ウォーター」
女神の封印を解いた時と同じように水と火を其々に纏う。
狼と睨み合う。
やがて一陣の穏やかな風が吹いた。
━━刹那。
「ハッ!」
俺は裂帛の気合いと共に狼に向けて駆け出した!
が、それまでだった。
狼は目を閉じると倒れた。
あ、インフォ。《流し》を修得しましただって。正直今はどうでもいい。そんな事より狼だ。
「おかしいな? 戦った感じ、これくらいで倒れる奴じゃないんだけどな? 鑑定して見るか」
相変わらず殆んどが見えなかったが、新たに状態異常が見えた。
「うん? 出血多量? 俺が喰らわせた分じゃこんな以上でないぞ? それに他には状態異常出て無いしな。内臓損傷系では無いぞ。しょうがない近づいてみるか」
狼にゆっくり近付き口元に手を当てる。完全に意識は無いが呼吸はしてるな。って消えて無いんだから当たり前か。
「じゃあ見てみよう。頭は━━うわ! 凄いふかふかでスベスベの毛並み! ちょっと撫でよう」
いやぁ。癒されますな。高級な肌触りがするって! 撫でてる場合じゃなかった探さなきゃ!
順々に見て行くと、後ろ足の付け根から夥しい量の血が流れていた。
「もしかしたら、俺と会う前に重症を負って、俺が空中から叩き付けてからのコンボで、完全に開いちゃったのか。怪我を負って無かったら負けてたな」
アイテムボックスから回復ポーションを取り出し、狼の顔を膝に乗せ飲ませる。
ん。なんかこのまま死なせるのは、惜しい気がした。それにどうせなら万全の状態で戦いたいしね。ま、今起き上がって攻撃されたら死に戻るけど、そんくらい安い物です。そうだ。起きるまで撫でてよう。序でに流しを見るか。
《流し》効果・相手の攻撃を受け流す事が出来る。
うん。今更だな。特に気にする必要もなかったな。狼を愛でる作業に戻ります。
静な森に穏やかな風が吹く。
倒れていた狼が目を覚ます。
体に違和感を感じた狼が、自分の身体に視線を向けて思わず身を震わす。
そこには、さっきまで死闘を演じた相手が自分に抱き着いて寝ていたのだ。
緊張で身を固め立ち上がろうとしたが、その寝顔があまりにも幸せに満ちた穏やかな表情だったので、身体の力を抜き再び目を閉じた。
うわ! ふかふかで気持ち良すぎて眠っちゃった。まだ狼寝てるかな? うお! 目があった! や、やばい!
思わず飛び起きて距離を取る。
狼はゆっくりと立ち上がると、お座りをして俺を見詰めている。うお。尻尾が猛スピードで左右に降られている! 残像が見えます。今の状況を例えるなら仲間になりたそうに、うんちゃらだな。頭撫でて見よう。
「アウン」
おお! 瞳を閉じて嬉しそうな声で吠えた。何この狼! 凄い可愛いんだけど! テイムスキル! テイムスキルはどこだああああああ!? あ、あった! 取得取得と!
《テイム》を取得しました。このスキルは称号 【慈愛の神ルミリシアに愛された者】の効果により、スキル 《テイム》を取得したポイント込みで、合計10ポイントを消費する事でスキル 《信愛》へと変異します。
インフォ五月蝿い。取るから黙って! て! 10?! 全部じゃん!? あ、了承押しちゃった! ああポイントがああああああ。ああ。もう! いいや! 信愛っと!
〈雹雷狼〉との間に《信愛》 が紡がれました。テイムモンスターとの絆の上限が解放されました。最大値は300です。テイムモンスターに名前を付けて下さい。
う~ん。名前か。どうするかな? よし。ポチでいいか。あ! 痛い! 噛まないで! 名前考え直すから! ふぅ。離してくれたぁ。痛かったぁ。
雹雷狼を眺める。
「決めた。そら。蒼い空で蒼空だ」
「ガウ!」
どうやら蒼空を気に入ってくれたようだ。頷きながら真の込もった声で吠えてくれた。これでひと安心です。はい。
本当に良かった~。噛まれないで。
さて、蒼空のステータス見てみるか。
[蒼空]種族 雹雷狼。炎風狼の特質種。(ユニーク個体) 性別 雌。身長170。Lv10。絆95/300
ステータス 総体力17540 総魔力37110
スキル《雹雷》《氷》《雷》《体力上昇+》《体力自然回復上昇+》《魔力上昇++》《魔力自然回復上昇++》《力上昇+》《速度上昇+》《器用上昇+》《精神上昇+》《切り裂く》《噛み砕く》《叩く》《気配遮断》《隠密》《奇襲》《気配感知》《嗅覚感知》《聴力感知》《視力感知》《視界上昇》《看破》《隠蔽》《俊敏》《跳躍》《麻痺・感電無効》《寒さ・凍傷無効》《耐熱》《耐毒》《耐魅了》《耐怯み》《小型化》《威圧》《遠吠え》《魔力流動》《回避》《見切り》《予想》《信愛》
なんじゃこりゃ! 体力と魔力は異常だし! スキルは多い! なぜか絆が高い! 他のステータスとスキルレベルが見えないのは俺の鑑定レベルが低い所為です。因みに総体力と総魔力はフレンドやパーティーを組んだ時に表示されるのと同じです。
そりゃあ、強い訳だ。初めの内に出たらいけないレベルだ。でもこれがクルル達騎士が守っている理由なんだろうな~。流石は騎士だ。
そうだ! あまりの衝撃で忘れるとこだった! 信愛見ないと。
《信愛》変異スキル。慈愛の神から貰った称号により《テイム》が変異した物。これによりペットはより親しい存在になる。効果・お互いが切れぬ絆で繋がる。信愛で仲間にしたモンスターにはテレパシーで話せるようになります。
なんだってさ。ちょっと試して見よう。
『蒼空。聞こえる?』
『ええ。聞こえるわよ。ご主人』
初めて聞いた蒼空の声は透明なソプラノボイスだった。んだけど、大至急呼び方を変えさせないと!
『うん。色々言いたいが、まずご主人呼びを変えて欲しい』
『て、言われてもね。妥協してマスターまでよ?』
『分かった。それでいい』
『うん』
変えてくれて助かりました。なんかご主人は辛いです。━━色んな意味で。
『ではマスター。移動しましょう? ここで襲って来る敵はいないでしょうけど、もう大分日が傾き始めましたし、暗くなる前にここを出ましょう』
『そうだな。暗くなったら歩き難そうだし。今の内に移動しよう』
『はい。マスターお供します。ではわたしが先導しますわ』
蒼空はそう言うと俺の前に立つ。
『分かった。助かる』
『いえ。当然です』
俺が頷くと、一言答え蒼空が歩き出す。
主思いのいい狼を仲間に出来たな。これから楽しそうな旅が出来るぞ!
俺は心を弾ませながら足場の良い道を選んで先導する蒼空の後を追いかけた。




