半鐘
その夜遅く、どこかで半鐘が鳴っていた。
辰之助と深い関係になってから、毎晩のように抱き合っていた。
「どこかで火事があったな」
辰之助は、伊織を貫いた状態で淡々と云った。
辰之助に組み敷かれ、熱い胸板の下で伊織は声を出すまいと、奥の歯を食いしばっていた。
小刻みに震えながら、手を伸ばして辰之助の背にしがみついた。
部屋の中は手折ってきた金木犀が微かに匂っている。
もう何度達したのか夢中になりすぎて、刻が経つのも忘れてしまった。
小さな声で喘ぐと、辰之助が屈んで伊織の額の汗を唇ですくった。
「どこまで我慢できる」
「た、辰之助…」
「ん?」
伊織は耳元で囁いて懇願した。辰之助は口に滴る汗を舐めると、承知した、と答えた。
膝裏を押し上げられさらに深く繋がった。くらくらするようなめまいに襲われる。
伊織の体からふっと力が抜けると、本格的に腰を嬲る動きが始まった。伊織の体は待ち構えていた快楽に愉悦する。
「辰之助っ」
「なんだっ」
伊織は腕を伸ばし、辰之助の首をかき抱いた。さらに結合が深くなり、びくりとして、辰之助が目を合わせた。
「伊織……っ」
深い口づけを与えられる。
唾液まで貪るように、伊織は辰之助の舌を吸い上げた。
腰の動きは激しくなり、口づけすらままならず、加減できなくなった声を消すため辰之助が唇を手のひらで塞いだ。
声にならない叫びが手の中で跳ね上がった。
伊織の目からはらはらと涙がこぼれた。しっかりと互いの指を絡める。
「辰之助が欲しい…」
「云われなくとも…」
かっと怒ったような顔で、辰之助が本気になった。
伊織は心からそう願い、辰之助を求めた。
気がつけば、半鐘の音は止んでいた。




