真実
ここで命が尽きるかどうかは、自分の言葉によって左右される。
今はもう小園との約束を守ることよりも、孫四郎の気持ちとそして、辰之助を守りたい一心だった。
「孫四郎殿、私の話を聞いてください。私は小園を裏切ってなどいない。私と小園は秘密を共有していた。ただの同志だったのです」
「何?」
孫四郎の動きが止まった。
伊織は必死で云った。
「小園殿が私を選んだのは、私が……他の人間を愛していることを知っていたからです」
恥ずかしいなど、もうどうでもよかった。
伊織は続けた。
「私はずっと、辰之助のことを見ていました。幼少の頃からずっとです。それを小園は知っていました。お互い結ばれない相手を想っている事で、秘密を共有することにしたのです。小園が選んだのはそういう理由だったのです」
孫四郎は何も云わず、身動き一つしなかった。
本当は云ってはならぬと思っていた。
だが、彼女が生きているうちに告げるべきだったのかもしれない。
「小園が心から愛していたのは、孫四郎殿、あなたです。小園はいつもあなたの話題ばかりしていた」
そう告げた時、孫四郎の目が大きく見開かれた。絞り出すような声がした。
「……嘘だ」
「いいえ、真実です」
「嘘を申すな…」
泣いているのだろうか。暗くてよく分からないが、相手は刀を手から落とした。
「孫四郎殿…」
呼びかけた時には、彼の姿は消えていた。
「伊織…」
辰之助がそっと近寄って来た。
「孫四郎殿は?」
「さあな、気配はない」
どこへ行ってしまったのか。
伊織は、地面に落とされた刀を拾った。懐紙を取り出して血を拭う。
刃こぼれしており、人を斬ったことが一目瞭然であった。
「どうするのだ…?」
伊織には答えられなかった。その時、倒れている町人が呻く声がした。駆け寄って、手に触れるとまだ温かい。
「まだ、生きている。すぐに医者へ連れて行こう」
伊織が云うなり、辰之助は町人を肩に担いだ。
これからどうなるだろう…。
伊織は不安に駆られながらも、辰之助の後を追った。




